シリウス・ブラックはかなり数奇な人生を歩んできた。魔法界の名門、ブラック家の長男として生まれ、純血主義を毛嫌いしたため、家族には恵まれなかったが、信頼できる友人が多くいた。
いや、その信頼できる友人の一人に裏切られたのだから、あまり恵まれたとは言えないかもしれない。シリウスは悔しさに歯を食いしばる。あの時、ピーターを推薦するんじゃなかった。そうすればこんなことにはならなかったのに。
アズカバンに投獄されたシリウス・ブラックは十二年ぶりに外の世界へと飛び出した。目的はただ一つ、かつての友人にして裏切り者、ピーター・ペティグリューの抹殺のためだ。幸運なことに、ちょっとしたきっかけで居場所が分かった。犬の姿になり、吸魂鬼から逃れ、ここまでたどり着いたのだ。目の前には小さな少年がいる。シリウスにとって、この世で一番愛しい存在だ。少年は怯えたように立ち上がろうとした。しまった。怖がらせたようだ。逃げなければ―――、
「こんばんは。ハリー、やっと見つけた」
「うわぁっ!え?シャーロット!」
突然、目の前に現れた少女に、シリウスは驚いた。誰なのだろう。この子は。目の前の少年、ハリーが親しげに名前を呼んだことから察するに、知り合いには違いない。シリウスが何よりも注目したのはその容姿だ。その少女はかつての同級生で、親友の妻にそっくりだった。ハリーと並んでいるのを見ると、まるで学生時代に戻ってきたかのような不思議な感覚となった。本当に似ている。この子は何者なのだろう?
「私の夜食だけど、もしよければどうぞ。全部食べてもいいわよ」
少女は痩せ細ったシリウスを哀れに思ったのかチキンを差し出してきた。少し迷ったが、空腹には勝てなかった。久しぶりのまともな食事だ。夢中でチキンにがっついているうちに、ハリーと少女は立ち去っていった。少女が残した言葉から察するに、彼女はホグワーツの生徒らしい。シリウスと同じグリフィンドール生。やはりリリーなのではないかとシリウスは残りのチキンにかぶりつきながらぼんやり考えた。
その少女、シャーロットのおかげでシリウスはかつての友人、リーマス・ルーピンと接触するのに成功し、しかもペティグリューを捕獲するのにも手を貸してくれた。感謝してもしきれない。おまけにシャーロットが手はずを整えてくれたおかげでハリーにも再会できた。あまりの幸運に気絶しそうだ。
「……シリウス、それ、買うのかい?」
「当然だ!彼女にも最高のものを贈りたい!」
「ハリーにも最高の箒を買ってやったんだろう?すこし無駄遣いしすぎじゃないかい?」
「心配するな。金ならある!」
「…僕は真面目に働くのが少し嫌になってきたよ。それよりもサイズは本当にこれでいいのかい?」
「ああ、間違いない。俺は女性の体の事なら少し眺めればサイズくらい分かる。」
「…それ、あまり外では言わないでね」
ルーピンは若い頃、シリウスが女性をとっかえひっかえしていたことを思い出し、ため息をついた。クリスマスが近づき、シリウスはハリーへ箒を、シャーロットには美しいドレスを贈った。二人の輝くような笑顔を見て、シリウスは大満足だった。
それから、少し経ち、ようやく冤罪を晴らせる機会に恵まれた。ダンブルドアの証拠のお陰だ。この問題が片付いたら、ハリーに一緒に住むことを提案しようと考えていた。ハリーにはマグルの家族がすでにいるが、なんとかして一緒にすめないだろうか。いや、一緒に住むのが無理でも、例えば夏休みに少し共に過ごせるだけでもいい。とにかく、提案してみるのだ。しかし―――、
「すまなかったのう、シリウス」
「…いえ、先生のせいではありませんから」
突然あの忌まわしい生き物、吸魂鬼に襲われ、難は逃れたが、シリウスは一気に体調を崩してしまった。ダンブルドアが目の前でシリウスを心配そうに見つめている。情けない。早く新しい杖を手にいれなければ……。
「シリウス、しばらく病院で検査した方がよい。お主の体はガタがきておるようじゃ」
「先生!俺は大丈夫です!」
「いいや、シリウス。長年のアズカバンでの暮らしがたたったのじゃろう。一度ゆっくり休むべきじゃ」
シリウスは何度も吠えたが、ほとんど強制的に入院が決まってしまった。
シリウスは悔しかった。もうちょっとでハリーと一緒に暮らせるはずだったのに。仕方ない。とにかく、体を治すことが最優先だ。ハリーやシャーロットとは手紙でやり取りしている。二人の手紙がシリウスにとって数少ない楽しみだった。そんな時だ。シャーロットから奇妙な手紙が届いた。
『シリウスへ
元気?こちらは上々です。もうすぐクィディッチのワールドカップが始まるから、ホグズミード村もソワソワしているわ。体は治ったかしら?病院を抜け出しちゃダメよ。あなたの体が最優先なのだから。
ところでお願いがあるの。私に動物もどきになる方法を教えてくれない?もちろん、誰にも言わずにこっそりと。手紙でやり方を教えてくれるだけでもいいの。どうかお願いします。
シャーロットより』
シリウスは首をかしげた。一体あの子は何を考えているのだろう。動物もどきになる方法を知って、何をするつもりだ?シリウスは疑問に思いながらもその方法を手紙に記載し、ふくろう便を飛ばした。まあ、いい。教えたところで出来るわけはない。動物もどきになるにはシリウスだって何年もかかったのだ。かなり複雑で高度な魔法の一種だ。簡単には出来るわけはない。その方法くらいは教えてもいいだろう。
シリウスは気楽な気持ちでふくろうを送り出した。
翌日、ホグズミード村にて。一人の無登録の動物もどきが誕生した。
次回予告 『炎のゴブレットの失策』いいタイトルが思い浮かばない…。