翌日から早速授業が始まった。いつも通り、積極的に手をあげ、授業の内容を頭に叩き込んでいく。それでも「魔法生物飼育学」の尻尾爆発スクリュートには流石に顔をしかめた。想像よりも遥かに上をいくとんでもない生物だ。
そんな中、ハーマイオニーが図書館で何かをしているのに気付き、声をかけようかと思ったがあまりにも熱心な顔をしているためやめておいた。
夕食前、ちょっとした事件が起こった。ムーディによるマルフォイの白ケナガイタチ事件だ。
「ドラコ・マルフォイ。驚異に弾むケナガイタチ…」
ロンの言葉に思わず吹き出した。
それから二日後、とうとうムーディによる「闇の魔術に対する防衛術」の授業が始まった。もちろん、シャーロットが知っている通り許されざる呪文の授業だ。ムーディによって呪文をかけられたクモを見て、シャーロットは顔をしかめた。ほとんどの生徒はまるで素晴らしいショーを見たかのように興奮している。授業のあと、シャーロットは三人に構わず教室を飛び出した。
「シャーロット、どこにいくの!?」
ハリーの言葉を無視し、脇道の廊下へ向かった。そこにはネビルが恐怖に満ちた目を見開いて石壁を見つめていた。
「ネビル、大丈夫?」
後ろからやって来る三人に構わずネビルに声をかける。
「やあ。おもしろい授業だったよね?夕食の出し物はなにかな」
ネビルは不自然な甲高い声で喋り始めた。
「ネビル、いったい――?」
「医務室へ行きましょう、ネビル。さあ」
あまりにもネビルが不憫でシャーロットは手を引こうとしたがその前にムーディがやって来て、結局おびえるネビルを連れていってしまった。そんな二人の後ろ姿をシャーロットは見つめることしかできなかった。
夜、ハリーとロンは「占い学」の宿題に取りかかり、シャーロットは宿題がないため、本を片手にイライザにおやつを与えていた。イライザは楽しそうにシャーロットにすり寄ったり、クルックシャンクスにちょっかいを出していた。クルックシャンクスは時々不満そうにシャーロットを見てきたが、シャーロットはそんな様子に構わず、悲劇的に書かれるハリーとロンのでっち上げ運勢をニヤニヤしながら聞いていた。
やがて、ハーマイオニーが片手に羊皮紙、もう一方に箱を抱えて寮へ戻ってきた。
「ついにできたわ!」
ハーマイオニーはロンの軽口に構わず箱の蓋を開ける。色とりどりのバッチが何十個も入っていた。
「スピュー?何に使うの?」
「スピューじゃないわ。エス―ピー―イー―ダブリュー。」
ハーマイオニーがもどかしそうにしもべ妖精福祉振興協会を立ち上げた事を話し始め、シャーロットは少し考え込んだ。
「まず、メンバー集めから始めるの」
ハーマイオニーがニッコリ微笑みながら協会の概要を説明する。ロンは呆気にとられ、ハリーは呆れたような表情でじっとしていた。
「シャーロット、あなたにも、さあ、バッジよ。」
「…ハーマイオニー。それ、いい考えだとは思うけど、私は遠慮しておく」
シャーロットがそう言うとハーマイオニーは眉をつり上げた。
「どうして!?シャーロットならきっと協力してくれるって思っていたのに!」
「いや、うちにも屋敷しもべ妖精がいるし…」
「あなたの家にも!?」
「うん。雇い主はお爺様だけど」
ハーマイオニーが顔をしかめた。
「言っておくけどハーマイオニーが言うように不当な扱いとかいじめとかはしてないから」
「そりゃあ、あなただもの。それでも…」
「マルフォイのとこやクラウチさんのウィンキーはひどい例だけど、他の屋敷しもべ妖精は真っ当に扱われてるわよ。ホグワーツの屋敷しもべ妖精は少なくとも虐待なんかされてないわ」
シャーロットは興奮しているハーマイオニーを諭すように静かに話を続けた。
「ハーマイオニーのその考えは素晴らしい事よ。魔法生物にひどい差別をする人は今でもいるしね。ルーピン先生とかもそれで苦労してるし」
ルーピンの名前をだすと、ハリーとロンもハッとした表情をした。
「それでもね、ハーマイオニー。私達は学生よ」
「?それが何?」
「さっきハーマイオニーが言ったじゃない。小人妖精の奴隷制度は何世紀も前からある。そんなに古い制度を学生の勉強片手間の運動でねじ曲げられるとは考えられないわ。忘れてるかもしれないけど、私達、来年はOWL試験よ。」
ハーマイオニーがグッと唇を噛んだ。
「まあ、小さいことからコツコツすれば少しは変化するかもしれないけど。それでも屋敷しもべ妖精がそれを望んでるとは限らないわ。望んでいないことをするために勉強を犠牲にするの?」
ハーマイオニーが完全に無言になった。
その時、ヘドウィグがシリウスからの手紙を持ってきたため、話は中断した。どうやら傷痕が痛んだハリーを心配してホグワーツに舞い戻ってくるようだ。ハリーは少しだけ表情が明るくなった。
部屋へ戻り、ベッドに潜り込む。ハーマイオニーが箱の中のバッジを悲しそうに見つめていたため、シャーロットが小さな声で呼び掛けた。
「ハーマイオニー」
「何?」
「ハーマイオニーは卒業したら何になるか決めてる?」
「何よ、いきなり。」
「いいから、答えて」
「まだ考えてないけど…」
「それじゃあ、魔法大臣になればいいわ」
ハーマイオニーが目を見開いて、ベッドの上からシャーロットへ視線を向けた。
「はあ?何言ってるの?」
「魔法省に入るの。それで安定した地位に上り詰めてから、屋敷しもべ妖精の権利について訴えを起こすの。魔法大臣でなくとも、魔法生物規制管理部とか就職すれば少なくとも学生よりはずっと訴えを通しやすいし、行動もしやすいと思う。先の長い計画だけど、きっとスピューよりは確実よ」
ハーマイオニーは不思議な生き物を見る目でシャーロットを見てきた。
「ね?いい考えでしょ?」
「それ、本気で言ってる?」
「モチのロンよ。少なくともファッジよりはハーマイオニーの方が魔法大臣としての資質はあるわ。ねえ、イライザ?」
そばにいたイライザが賛同するようにピーと一声鳴いた。シャーロットはニッコリ笑った。
「じゃあ、おやすみ。また明日ね」
シャーロットはハーマイオニーから目を離し、目をつぶった。ハーマイオニーはシャーロットから箱の中のバッジへ視線を移し、じっと考え始めた。