あの子はこの世界が嫌い   作:春川レイ

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辛い日々と準備

それからハリーにとって辛い日々が始まった。ハッフルパフとの関係はギクシャクしはじめた。マルフォイもニヤニヤ笑いながらからかう。シャーロットはできるだけハリーのそばを離れなかった。ハリーは黙って耐えていたが、ロンが味方じゃないという事実はハリーにとってなによりも悲しく苦しい事のようだ。

「どうすればいいのかしら?ねえ、シャーロット。どうやってロンとハリーを仲直りさせればいいと思う?」

ある日の夜、ハーマイオニーが寝室でそう切り出してきたが、シャーロットは軽くため息をついて肩をすくめた。

「放っときなさいな。今はあの二人は距離を置いた方がいいのよ」

「でも…」

「ロンの事なら大丈夫。きっと悩んだ分、もっと大きくなるわ。私達が知ってるロン・ウィーズリーはそういう男の子でしょう?」

シャーロットが笑ってそう言っても、ハーマイオニーはまだ心配そうだった。

 

 

 

ハリーにとって最も嫌な授業が始まった。二限続きの「魔法薬学」だ。スネイプの教室へ行くと、スリザリンの生徒たちが大きなバッジをつけていた。

『セドリック・ディゴリーを応援しよう――ホグワーツの真のチャンピオンを!』

『汚いぞ、ポッター』

シャーロットはハリーの顔が怒りで真っ赤になるのを見た。ロンはグリフィンドールの他の生徒と一緒に黙ってこちらを見ていた。

「ほんとにお洒落だわ」

ハーマイオニーが皮肉たっぷりに言うとマルフォイがニヤニヤ笑いながら言った。

「一つあげようか?グレンジャー?たくさんあるんだ。だけど、僕の手にいま触らないでくれ。手を洗ったばかりなんだ。『穢れた血』でベットリにされたくないんだよ」

ハリーがサッと杖を構えた。周りの生徒たちがその場を離れる。

「ファーナンキュラス!」

「デンソージオ!」

ハリーとマルフォイ、二人の呪文が空中でぶつかり跳ね返った。ゴイルとハーマイオニーに命中する。ゴイルは醜い腫物が鼻に生えてきた。ハーマイオニーは前歯がどんどん成長しビーバーのようになったため、オロオロ声を出している。シャーロットはとっさに自分のローブを脱いでハーマイオニーを覆い隠した。

「ハーマイオニー!」

ロンが声をあげたとき、スネイプがやって来た。

「その騒ぎは何事だ?」

暗く冷たい声が響く。

「説明したまえ」

ハリーとマルフォイが何かをスネイプに言って、ゴイルを医務室へ連れていくよう指示するのを見て、シャーロットも前に進み出た。

「スネイプ先生。ハーマイオニーがとても可哀想なことになりました。歯呪いです。どうか医務室へ行かせてください。私が付き添います。」

スネイプはジロリとシャーロットに目を向けた。シャーロットはわざとスネイプの目をじっと見つめ、目を潤ませた。卑怯だが、こんな時に女の武器を使っておこう。

「…医務室へ」

シャーロットの作戦は見事成功した。ローブで体を隠されたハーマイオニーを支え教室から出ていった。

「まったくあの子達ときたら」

「……」

ハーマイオニーは黙っていた。多分歯のせいでうまくしゃべれないのだろう。

 

 

 

医務室にハーマイオニーを送ったあと、シャーロットは教室へ戻った。教室は授業が続いていたが、ハリーはいなかった。多分取材と杖調べに呼ばれたのだろう。リータ・スキーターとの初対面だ。やがて世にでる記事を想像し、シャーロットは解毒剤の材料をにらみながら考えに没頭した。

授業のあと、シャーロットはマクゴナガルの部屋へ寄った。そして、マルフォイの作ったバッジやハーマイオニーへの『穢れた血』発言を包み隠さず報告する。マクゴナガルは顔をしかめていたため、きっとマルフォイにも罰が下るだろう。

寮へ戻ると、シリウスとルーピンからの手紙が来ていた。ハリーへの心配がズラズラと綴られている。シリウスは代表選手に選ばれたことを知り、すぐにでも飛んでこようとしたが、ルーピンに止められたらしかった。ルーピンからも十分に気をつけるようにと書かれていた。

 

 

 

 

数日後、スキーターの記事が遂に出た。予想通り、三校対抗試合の記事ではなく、ハリーの人生の脚色記事だ。ハリーはそれを見て唖然としていた。シャーロットも苦々しげに記事を読む。なんと記事にはシャーロットの事も書かれていた。

『ハリーはホグワーツで遂に愛を見つけた。親友のコリン・クリービーによるとハリーはシャーロット・ダンブルドアとハーマイオニー・グレンジャーなる人物と離れていることは滅多にないという。この二人はとびきりかわいい生徒でハリーの愛を獲得するために愛の火花を散らしているらしい――』

シャーロットは黙って記事を丸めゴミ箱に捨てた。まっすぐに談話室にいたコリンの元へ向かう。

「あれ?シャーロット、どうし……うわぁっ!ごめん、ごめんなさい!許して!!」

コリンの悲鳴が談話室に響いた。

それからはみんなの好奇の視線をハーマイオニーとともに受けることになった。シャーロットはそれでもハリーと離れなかったが、ピリピリしていた。ハーマイオニーはからかいに怯まず堂々としている。

このところ三人で図書館にこもることが多くなった。ハーマイオニーと一緒に宿題をし、ハリーはうまくいかない「呼び寄せ呪文」を理論から学んでいる。そんな中、ビクトール・クラムもしょっちゅう図書館に入り浸っているようだった。ファンの女の子たちが忍び笑いをしながらクラムの様子を窺っている。ハーマイオニーはそれで大いに気が散っているようだ。

「あの人、ハンサムでもなんでもないじゃない!」

ハーマイオニーがプリプリしながら呟いた。

「うーん。彼の事はよく知らないけど、でも、女を見る目はあるみたい」

「え?」

ハリーとハーマイオニーが訝しげにシャーロットを見てくるが、シャーロットは少し笑って何も言わなかった。もうずいぶん前からクラムがチラチラとハーマイオニーを見ているのに気がついていた。

 

 

 

ホグズミード村へ行ったことはハリーにとって気晴らしになったようだ。その次の日、ハリーが絶望した声でシャーロットに言ってきた。

「ドラゴンだ」

どうやらハグリッドによって第一の課題のカンニングを無事にしたらしい。

「とにかく、あなたが火曜日の夜も生きているようにしましょう」

ハーマイオニーがそう言った。

「シャーロット、どうすればいいと思う?どうやってドラゴンを倒せばいいんだろう?」

「多分倒すのは無理よ。だって何人もの魔法使いが同時に立ち向かっても失神させるのがやっとだもの」

「あ、そういえばチャーリーも出し抜くだけって言ってた」

ハリーが思い出したように言った。

「でしょ?倒すのが課題じゃない。ドラゴンを出し抜いて何かをしなければならないんだわ」

「でも、出し抜くってどうすれば…」

「私なら結膜炎の呪いを使うわね。ほら、二年生の時バジリスクに私がかけたやつ」

バジリスクの事を持ち出すと、ハリーとハーマイオニーが顔をしかめた。

「今から練習したら間に合うけど、ドラゴンなら…、ちょっと危ないかも」

「なんでよ?」

「呪いを受けて暴れて火を吹いたら最悪じゃない」

ハリーが天を仰いだ。シャーロットは安心させるようにハリーに話しかけた。

「大丈夫よ。ハリー。私にいい作戦があるわ」

「作戦?」

「ええ。あなたが最も得意なことをするの」

シャーロットが笑うと、ハリーとハーマイオニーが不思議そうな顔をした。

 

 

 

「アクシオ!アクシオ!」

「ハリー、集中して!とにかく集中するの!」

「分かってる!頭では分かってるんだ!アクシオ!」

その日からシャーロットとハーマイオニーによる「呼び寄せ呪文」の猛特訓が始まった。早めに練習していて正解だった。この何日かその呪文の強化だけに全神経を集中させたため、ハリーはメキメキと上達した。試合の前日にはかなり遠くのものも呼び寄せられるようになった。セドリックにドラゴンの事を知らせにいった帰り、ムーディに引き留められヒントを与えてもらったが、やはり同じ箒の事を持ち出したらしい。ハリーはもう箒の呼び寄せを練習していることを話したそうだ。シャーロットはその時のムーディの顔を想像し、一人でこっそり笑った。

 

 

 

 

 

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