あの子はこの世界が嫌い   作:春川レイ

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夢のようなダンス

シャーロットはガブリエルをエスコートしテーブルに向かった。

「シャルロット、ダンスはまだでーすか?」

「うん。食事が先だよ」

ガブリエルはシャーロットをフランス語風に『シャルロット』と呼んでいた。ダンスが始まるのを今か今かと待ち焦がれているらしく、目がキラキラしている。ガブリエルに笑いかけながら教職員席の方へ目を向けると、スネイプと目があった。スネイプは目をカッと見開き、シャーロットの方を凝視していた。その様子に苦笑いし、シャーロットはテーブルの上に現れたシチューを口にいれた。

「シャーロット、一体全体、その姿はなんだい?」

ロンが理解できないというふうにまた尋ねてきたため、シャーロットは肩をすくめた。

「どこか変かい?」

「変じゃない。いや、ものすごく変だけど、なんというか…」

「素敵だわ、ダンブルドア。本当に、かっこいい」

パドマがまだぼうっとした表情でシャーロットへ話しかけてきたので、シャーロットもパドマにニッコリ笑いかけた。

「ありがとう、ミス・パチル。君もとてもそのドレス、とても似合っているよ。まるで月の精霊のようだね」

シャーロットがそう言うと、パドマは真っ赤になって固まってしまった。隣のガブリエルが少しすねたように口を尖らせた。

食事が終わると、いよいよダンスだ。ダンブルドアの魔法でテーブルが退けられる。「妖女シスターズ」が熱狂的な拍手に迎えられてステージに上がってきた。代表選手が立ち上がる。ガブリエルがソワソワとしはじめた。

光輝くダンスフロアで選手達が踊る。ハリーは緊張した面持ちでパーバティの手を握り、ターンしていた。ハーマイオニーもクラムと楽しそうにステップを踏んでいる。徐々に観客達もダンスフロアに出てきた。シャーロットもガブリエルに向き直り、片膝を付いてガブリエルの手を握り、そこに軽くキスをした。

「美しいお嬢さん。私と踊っていただけますか?」

シャーロットは少しキザすぎたかな、と思ったが、ガブリエルは今日一番の笑顔を見せて頷いてくれた。

ガブリエルの手を引いて、ダンスフロアに足を踏み入れる。音楽に合わせてステップを繰り返し、ゆっくりターンをした。さすがに何度もガブリエルと練習したため、タイミングはバッチリだ。ガブリエルも楽しそうにシャーロットをまっすぐ見つめてきた。

「シャーロット、驚いたわ」

「やあ、ハーマイオニー」

ダンスしながらすれ違ったハーマイオニーと軽く言葉を交わし合う。そのまま優雅に躍り続け、最初の一曲が終わった。

「ガブリエル、どうだった?」

「最高でーした!」

ガブリエルは少し息が荒かったが、本当に楽しそうだった。シャーロットもそんな姿が微笑ましく、ニッコリ笑う。ガブリエルの後ろから少し離れた場所で、フラーが何か言いたげにシャーロットを見てきたので、シャーロットはそちらに向かって頷いた。

「私も今日は楽しかったよ。残念だけどそろそろ時間だ」

ガブリエルは名残惜しそうにしながらも素直に頷いた。

「あれ?シャーロット、帰るの?」

会場から出ていこうとするシャーロットを見かけて、ロンが声をかけてきた。

「いや、パートナーを馬車まで送り届けるだけさ。またあとから参加するよ」

ロンにそう言いながら、ガブリエルとともに会場から出ていった。近くにいた女の子達が名残惜しそうにシャーロットを見つめていた。

 

 

 

 

「とても、とても素敵でーした。この事は一生忘れませーん。ありがとうございまーした」

「そうなふうに言われたら頑張った甲斐があるな」

シャーロットは笑いながら馬車の方へ向かう。

「あ、」

「?」

「切れたわ」

馬車にもうすぐ到着するところで、性転換薬の効果が完全に切れた。元の女性らしいほっそりした体型へ戻り、声も元のように高くなる。

「残念でーす」

「あはは。でもちょうどよかったよ。着替えを馬車に持ってきてて正解だった」

シャーロットとガブリエルは馬車の中へ入る。シャーロットは手早く栗色のローブを脱いだ。

「シャルロット。また戻りまーすか?」

「うん。ごめんね。ちょっと行ってくる」

「私の事は気にせず、戻って楽しんでくださーい」

ガブリエルには悪いが、まだパーティーは続く。せっかくだからきちんとパーティーに参加したい。シャーロットは持ってきたドレスを手早く身につけると、軽く化粧を施した。髪も編み込み、簡単にセットする。

「シャルロット。今日は本当にありがとうございまーした。これは私とお姉さまからでーす」

「えっ?」

ガブリエルが小さな箱を差し出してきた。

「私に?」

「ええ。今日のお礼とクリスマスプレゼントでーす」

「わあ、ありがとう!開けてもいい?」

ガブリエルが照れたように頷く。箱を開けると、花の形を型どった透き通っているような可愛らしい髪飾りが入っていた。

「素敵な髪飾りね…」

「きっとそのドレスにも合いまーす。着けてあげまーす」

ガブリエルが髪飾りを耳より少し上につけてくれた。

「やっぱり似合いまーす!」

「ありがとう、ガブリエル」

「こちらこそありがとうでーす」

ガブリエルが明るく笑い、シャーロットもガブリエルの頭を撫でた。

「それじゃあ、行ってくるね」

「シャルロットにとっても楽しい夜になるよーうに、祈っていまーす」

「ありがとう、ガブリエル。おやすみ」

「おやすみなさーい」

こうしてシャーロットは馬車から足早に出ていった。

 

 

 

「あの人をビッキーなんて呼ばないで!」

パーティー会場ではロンとハーマイオニーがクラムの事で喧嘩して、ハーマイオニーは最後にはそう叫び憤然と立ち去ってしまった。

「私とダンスする気があるの?」

「ない」

とうとう放置状態だったパドマもロンに見切りをつけ、離れていった。

「バカね、ロン。少しは女心を勉強しなさいな」

よく知っている声がして、ハリーとロンは振り向いた。振り向いた場所にいた人物を見て、ハリーは一体今夜は何度驚かせられるのだろうかと逆に冷静になった。ロンはポカンと本日何度もした表情をしている。

そこにいたのはさっきとは全く違う服装のシャーロットだった。きめ細やかな刺繍とレースの上品な白いドレスを着ている。昨年シリウスからプレゼントされたものだ。綺麗な赤毛は後ろで編み込まれ、化粧は薄いが清楚な雰囲気を醸し出していた。

「シャーロット、今度はドレス?」

「性転換薬が切れたのよ」

「性転換薬を使っていたのか!?どこで手にいれたんだい?」

「ちょっとね」

ロンの質問を簡単に誤魔化し、シャーロットは取ってきたバタービールを口に含んだ。

上品なドレスを着てやって来たシャーロットに、今度は男性の視線が向けられる。何人かの生徒がシャーロットにダンスを申し込んできたが、シャーロットは流れるようにそれを断り続け、ダンスフロアをぼんやりと見つめた。

「踊らないのか?」

「うーん。そうだね。踊ろうかな」

スネイプがダンスフロアから抜け出そうとしているのに気づき、シャーロットは驚くハリーとロンに構わず近づいていった。

「こんばんは、スネイプ先生」

「……ダンブルドア」

ドレスを来たシャーロットが目の前に立つと、スネイプは顔をしかめた。そんなスネイプにシャーロットは笑いかけた。

「もしかして、パートナーがいらっしゃらないんですか」

「……そこをどけ」

「もしよければ私と踊っていただけません?」

その言葉を聞いた瞬間、スネイプは大鍋いっぱいの苦い薬を飲まされたときのような表情になった。

「我輩と?なぜ?」

「ええ。先生にパートナーがいないなんて、あまりに気の毒で心を打たれまして…」

「グリフィンドール10点減点!」

「まあ、踊りたくなかったですか。残念ですが、またの機会に…」

「誰も踊らんとは言っとらん!」

踊るんかい、と近くにいた生徒達はみんな同じ事を思った。シャーロットが笑って手を差し出す。スネイプはしかめっ面のままその手を取った。スネイプの手は冷たかったが、シャーロットの手を強く握り返してくれた。

そのままゆっくりとダンスフロアに足を踏み入れる。ゆったりとしたワルツを二人で踊った。視界の端で、ハリーとロンが同じようなポカンとした表情でこちらを見つめている。ハリーとロンだけではなく、ホグワーツの生徒達や教師たちはまるで雷に打たれたような顔をして二人を見ていた。シャーロットは何も言わずに柔和な表情でスネイプをまっすぐに見つめる。スネイプは表情を変えずに同じく黙ってシャーロットを見つめながらダンスをした。その表情が少しだけ柔らかくなったのをシャーロットは見逃さなかった。笑ってスネイプに言葉をかける。

「先生、ダンスお上手ですね」

「…ふん」

二人が言葉を交わしたのはこれだけだった。曲が終わるとシャーロットは軽く挨拶をしてその場から離れた。

元の席へ戻ると、ハリーとロンはいなかった。代わりにパーシーがいて、誰かを探すようにキョロキョロしていた。

「パーシー?どうかしたの?」

「ああ、シャーロット。何でもないよ。パーティーなのに制服の生徒がいたんだ。注意しようと声をかけたら逃げられてね…。多分、上級生に誘ってもらえなかった下級生がこっそり覗きに来たんだろう」

卒業したのに監督生らしいパーシーにシャーロットはクスクス笑った。

 

 

 

 

少し離れたところで、ハリーとロンがコソコソ話しているのを見つけた。

「ハリー、ロン、どうしたの?」

「あ…、シャーロット…」

ハリーとロンは何かを言いたそうにシャーロットを見てきて、シャーロットはピンときた。多分、ハグリッドの秘密を盗み聞きしてしまったのだろう。しかし、この場ではその話をしたくなかった。シャーロットは少し笑うと、ハリーに手を差し出した。

「ハリー、お願いがあるの」

「え?なに?」

「私と踊ってくれない?」

「ええっ!?」

「一曲だけ。ね?」

シャーロットがじっと見つめながら頼むと、ハリーは戸惑ったようにしていたが、やがてオズオズと頷いた。少し驚いているロンに手を振り、ダンスフロアへ向かう。ハリーとシャーロットは手を取り合うと、ステップを踏み出す。

ハリーはダンスをしながらシャーロットを見つめた。まるで夢を見ているみたいに頭がフワフワしている。さっきのハグリッドの事は頭の隅に追いやられた。シャーロットの肌はこんなに白かっただろうか。そして、その緑の瞳、ハリーと同じ瞳はこんなにもキラキラと輝いていただろうか。シャーロットもハリーを見つめ返し、ニッコリ笑った。ハリーはその笑顔から目を離せなかった。

気がつけばダンスフロアでは踊っているのはハリーとシャーロットだけになっていた。それに構わずハリーがターンをする。シャーロットの白いドレスがそれに合わせて揺れた。そのまま二人は曲が終わるまでずっと何も言わずにダンスを続けた。

「ありがとう、ハリー」

「あ、ああ。」

「とても楽しかったわ」

「ぼ、僕も」

ダンスが終わってもハリーはぼんやりとしていた。シャーロットはハーマイオニーを見つけたため、ハリーに断りそちらに向かう。ハリーはフラフラしながら玄関ホールへ向かった。そんなハリーにセドリックが声をかけてくる。ハリーはぼんやりしたままそれを聞いて、適当に頷くと、追いかけてきたロンとともに寮へと戻っていった。

 

 

 

 

 

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