第二の課題の後は、つまらない噂が行き交った。ハリーとシャーロットが付き合っているというデタラメだ。シャーロットはハリーがボーイフレンドではないという事を何度も説明することになり、それが地味にストレスとなった。そのストレスはガラス瓶のコガネムシをいじめる事で発散した。シャーロットが様々な食虫植物やネビルのトレバーを借りて瓶に近づけると、コガネムシはブンブンとガラスにぶつかりまくった。そんな姿をハーマイオニーは不思議そうに見ていたが、ハーマイオニーはハーマイオニーでクラムの事をからかわれピリピリしていた。
数日後、シャーロットはリータ・スキーターをようやく解放した。もちろん条件付きでだ。ホグワーツに足を踏み入れないこと、今後一年はペンを持たないこと、ハリーやその周囲の人物に近づいたら直ちに「魔法不適切使用取締局」に通報すると伝えた。コガネムシは恨みがましそうにシャーロットを見た後、諦めたようにブンブンと飛んで行った。シャーロットはその姿を見つめる。シャーロットだって本当はスキーターの事を悪くは言えない。自分だって無登録の動物もどきなのだ。スキーターのようにヘマをしてバレないようにしなければと改めてそう思った。
ハリーが第三の課題の説明を受けた後で、クラムが襲われ、クラウチ氏の失踪事件が起こった。ハリーから話を聞きながら、シャーロットが物語が着々と前に進んでいることを感じた。ハリーはすぐにシリウスに事件のことや疑問点を手紙に書いて送っていた。すぐに返事が返ってきて、お叱りやら推測が書かれていたが、全て的はずれだった。
シャーロットは一人で競技場へ向かった。いつもはクィディッチの試合が行われる場所が様変わりしており、見事な迷路ができている。第三の課題では優勝杯の代わりに移動キーが置かれるだろう。シャーロットは迷路の外からグルリと回りながら考えた。その時、誰かがシャーロットの前に姿を現した。ダンブルドアだ。
「シャーロット。こうして二人だけで会うのは久しぶりじゃのう」
「そうですね。私も忙しかったので」
「ハリーの手伝いでかの?」
シャーロットが特に驚きもせず、ダンブルドアを冷静に見返した。どうせ自分がハリーの手助けをしているのはバレているだろうと分かっていた。
「さて、何のことやら」
「シャーロット。聞きたいことがあるのじゃ」
「なんですか」
「ここではなく、わしの部屋に来てくれんかの?美味しい紅茶を入れよう」
ダンブルドアがそう言って背を向けた。シャーロットも仕方なくそれに付いていった。
ダンブルドアの部屋では、歴代の校長たちが額の中でスヤスヤ眠っており、不死鳥のフォークスがパチクリとシャーロットを見つめてきた。シャーロットはゆっくりと椅子に座った。
「シャーロット、勉強はどうかね」
「別に、いつも通りです」
「来年は大切な試験があるからの。辛いとは思うが乗り越えねばならん」
「わざわざそれを言うためにここに連れてきたんですか?」
シャーロットが紅茶を飲みながら、チラリとダンブルドアを見ると、ダンブルドアは困った顔をした。
「去年、君が言ったことの意味を確認したいのじゃ」
「去年?」
「ヴォルデモートの復活じゃよ」
ダンブルドアはサラリと言ったが、その瞳の奥は冷たく光っていた。シャーロットは呆れたように首を振った。
「お爺様、やつは死んでいないんでしょう?死んでない限りは復活します。それは今日かもしれないし、明日かもしれない。一週間後かもしれないし、十年後かもしれない。いつかは分かりませんが、必ず、復活する。お爺様だってその事は知っているはずです」
「いいや、わしが知りたいのはお主がまるでそれを分かっているように言ったことじゃ。あの時のお主はまるでヴォルデモートが復活することを確定事項のように言っておった。どこでそれを知ったのじゃ?」
シャーロットはダンブルドアを鋭い目で見返した。
「さあ、どこでしょうね?」
「――シャーロット」
ダンブルドアが珍しく声を荒げた。
「やつが復活するのを止めるんですか?それならお断りします。ヴォルデモートには復活してもらわなければ」
「やつが復活すれば、魔法界は破滅じゃ。」
「いつかは来る話でしょう。それが近づいたというだけの話です。何をそんなに焦ってるんです?」
シャーロットは冷たく笑った。ダンブルドアが珍しく怒っていることは分かっていたが、なぜか恐くなかった。
「断言しましょう。ヴォルデモートは復活します。魔法界は再び闇に包まれる。戦争が起こりますよ」
シャーロットはダンブルドアに顔を近づけ、唇を歪めながら囁いた。
ダンブルドアがそれを聞くと、突然立ち上がり杖を取り出した。それをまっすぐにシャーロットに向ける。
「…お爺様」
「シャーロット。もしやヴォルデモートと繋がっておるのか。お主は闇に染まってしまったのかの。」
ダンブルドアは鋭い瞳を向けた、シャーロットもその視線を受け止めて、ゆっくりと立ち上がり袖から杖を取り出した。
「闇に染まったとは失礼な。私はいつでも光を望んでいますよ。ヴォルデモートにだって実際に会ったことはないですね。ただ、彼の復活は妨げないと言っているだけです」
「お主がすでに闇に惹かれているならば、わしはお主を……始末せねばならん」
突然ダンブルドアにハッキリと脅され、シャーロットは目を見開いた。鋭くダンブルドアを睨み、杖を勢いよくダンブルドアの方へ投げ捨てた。
「…シャーロット」
「では、どうぞ。殺してください。あなたにそれが出来るのならばね」
シャーロットが吐き捨てるようにそう言って、ダンブルドアを見つめる。
長い沈黙が生まれた。ダンブルドアは杖を構えたままじっと考えるようにシャーロットを見つめる。シャーロットはダンブルドアにバレないように生唾を飲み込み、じっと動かずにそこに立っていた。
やがてダンブルドアが杖を下ろした。シャーロットは心の中でホッと胸を撫で下ろした。
「……殺さないんですか」
「…わしとて本当はお主がヴォルデモートと繋がっていないのは分かっておる。10年近く、お主を見てきたんじゃ。ハリーや他の友達を心から大切に思っていることもよく知っておるよ」
ダンブルドアはガクリとうなだれるように再び椅子に座った。シャーロットは立ったままダンブルドアをじっと見つめていた。
「お主が闇に染まってしまったのならば、わしは…自分の手で責任を取らねばならん。しかし…、」
ダンブルドアはシャーロットを殺せない。シャーロットにはそれがはっきり分かった。元々は悲劇的な形で血の繋がった家族を失った人だ。自分の家族を自分の手で殺めることは耐え難いだろう。
「……お爺様」
「……」
「…聞かせてください。何を恐れているのです」
シャーロットの言葉にダンブルドアが静かに見つめ返してきた。
「私はヴォルデモートと、何が関係があるんです。なぜ、私が闇に関わることをそんなに気にするんです。そろそろ真実を教えて下さい。私は、恐れませんよ」
ダンブルドアはしばらく何かを耐えるように目を閉じていたが、やがてゆっくり口を開いた。
『世界を憎む魔女が生まれる。
その子は英雄となる子と同じ日に生まれるであろう。
西の彼方に生まれた赤き魂の魔女は大きな力を秘めているが、全てを嫌い、厭う。
その子が光に焦がれたとき、英雄とともに闇の帝王を打ち砕くであろう。
しかし、その子が闇に惹かれたとき、その子は第二の闇の帝王となるだろう』
ダンブルドアのその言葉をシャーロットは冷静に受け止めた。自分でも驚いていないことに驚く。
「今のは?」
「…トレローニー教授がした予言じゃよ。お主が生まれる前にわしだけが聞いた予言じゃ。あまりにも衝撃的であったから、魔法省には伝えなかった」
ダンブルドアは暗い瞳をシャーロットに向けた。
「それが、私だというのですか」
「この予言を聞き、わしは単独で予言の該当者を調べた。そして、お主を見つけたんじゃ。お主はハリーと同じ誕生日じゃ。それに信じられないほどの強い魔力を秘めておる。お主しかいないんじゃよ」
「馬鹿馬鹿しい!私が、その魔女!?」
シャーロットは怒りのあまり、ダンブルドアに向かって怒鳴った。
「トレローニーはインチキだ!そんな馬鹿馬鹿しい予言を信じたのですか!」
「インチキではない!いや、いつもはインチキだが、あの者は時に真実の予言をするのじゃ。だからこそわしはトレローニー教授を雇っておる。」
シャーロットはグッと言葉に詰まった。トレローニーがハリーの予言をしたことは承知している。しかし、それでも自分の予言をしたことが信じられなかった。
「ああ、だからだったんですね」
シャーロットはダンブルドアを睨んだ。
「だからこそ、あなたは私を引き取ったんだ!私を家族だなんて白々しい。あなたは私を見張って、闇の力に染まらないよう、飼い慣らしていただけなんだ!」
ダンブルドアは黙っていた。シャーロットは心の中で自分の言葉を否定してほしいと願っていたが、その思いさえ打ち砕かれた。
「私は闇になんて染まらない!闇に惹かれたりもしないし、ヴォルデモートも嫌いだ」
シャーロットはスッと息を吸い込み言い放った。
「でも、あなたのことはもっと大嫌いだ!」
そしてその場から逃げ出した。
ダンブルドアは追いかけてこなかった。