その夜の晩餐会ではいつもより品数は多かったが、ハリーはほとんど食欲がなかった。ふと、シャーロットがいないことに気づき、訝しげに周囲を見渡す。
「ロン、ハーマイオニー。シャーロットは?一緒じゃないの?」
「それが、試験の後でどこかに行っちゃったのよ」
ハーマイオニーも不思議そうに首を捻っていた。ロンも心配そうにしている。探す時間もないため、その場で待っていたが、結局シャーロットは第三の課題の開幕が告げられても戻ってこなかった。
シャーロットは試験が終わると晩餐会に出席せず、迷路へ向かった。直前にハリーに直接声援を贈りたかったが、仕方ない。クィディッチ競技場へ続く道で、目くらましの術を自分にかける。念のため、誰もいないことを確認すると、スルリと静かに迷路へ忍び込んだ。中の通路は暗く、薄気味悪い。シャーロットは杖を片手に、静かに時が流れるのを待った。
「では…ホイッスルが鳴ったら、ハリーとセドリック!」
バグマンの声が響く。
「いち――に――さん――」
ピッと笛が鳴り、ハリーとセドリックが迷路に入った。
シャーロットは迷路のすみっこで羊皮紙を手にじっとそれを見ていた。羊皮紙はシャーロットが作成したこの迷路の簡易的な「忍びの地図」だ。ハリーの持つ「忍びの地図」ほど本格的ではない。地図の中では名前の代わりに小さな点が動いている。これが選手を表しているのだ。シャーロットは黒、ハリーは赤、セドリックは黄色、クラムは緑、フラーは青だ。また、教師が用意した障害物は星のマークで表した。バグマンのホイッスルが鳴った後、赤と黄色の点が迷路に入るのを確認した。シャーロットもハリーとセドリックに会わないように静かに動き出す。決して代表選手や巡回の教師に見つかるわけにはいかない。また、障害物を避ける必要もある。やがて、緑と青の点も迷路に入ったことを確認すると、シャーロットは一人の人物に近づくため、素早く
セドリック・ディゴリーは迷路内の異常な空気を感じていた。先ほど、クラムがセドリックに襲いかかってきたのだ。間一髪のところでハリーに助けられたが、あまりの出来事に、まだ心臓は大きく脈打っている。それでも、暗い迷路を進んだ。優勝杯はまだだろうか。そろそろ現れてもおかしくないのだが…。セドリックは迷路の中を進むのに夢中で何かが近づいているのに気づかなかった。時々袋小路にぶつかりながらも、足を速める。やがて、セドリックはそれに気づいた。
ブンブン、と何か変な音がする。ガサリと生け垣が揺れて、セドリックは杖を構えながらそちらを向いた。また、何かの障害物だろうか。また尻尾爆発スクリュートだったら最悪だ――。再びブンブンと音がする。何が襲ってくるのか予想しながら、周辺を見渡した時だった。
「――――――」
誰かの小さな声が聞こえた。どこかで聞いたことのある声だ。それが誰の声なのか考える前に、赤い光が目の前に迫る。そして、セドリックの意識は暗闇の中へと落ちていった。
ハリーは懸命に走っていた。スフィンクスの問題にスンナリ答えられるとは、今日は冴えている。杖の方位もあっているはずだ。セドリックは大丈夫だろうか。そう考えたとき、火花の大きな音が聞こえ、耳を疑った。脱落した。セドリックが?まさか――。何かの障害物に襲われたのだろうか。一瞬だけ火花の方へ行こうと考えたが、無理やりそれを振り切り足を進める。そして、ようやく台座の上に輝く優勝杯をその目に捉えた。考えるよりも前に、手を伸ばす。取っ手を掴んだ瞬間、両足が地面を離れ、グイッと引っ張られる感じがした。
シャーロットはハリーが優勝杯に触れ、消え去ったのをすぐそばで気づかれないように見ていた。時間は計算通りだ。ようやく安心する。セドリックはここから少し離れたところで失神している。おそらく、何らかの怪物に襲われたのだと思ってくれるだろう。これで少なくともセドリックの死は回避できた。あとは、ハリーが無事に戻ってくれれば、ようやく全てが終わる。
シャーロットはポケットから懐中時計を出した。そろそろ時間だ。台座のすぐ下の芝生を掘り起こす。事前に隠していた物がそこにあった。シャーロットが以前、ダンブルドアから贈られた金のスニッチの髪飾りだ。スニッチは土の中から姿を現すと、ぴるぴると小さな翼をはためかせ、少しだけ空中に浮いた。シャーロットはもう一度時計を確認し、スニッチをギュッと握りしめた。そしてカウントダウンする。
「3――2――1」
その途端、まるで磁石に引っ張られるように地面から足が離れた。臍の裏側が前方に引っ張られる嫌な感覚だ。その一瞬後、シャーロットの姿はその場から消え去った。
ハリーは混乱していた。優勝杯が移動キーだなんて聞いてない。気がついたら暗い墓場に立っていた。どこからともなく現れたフード付きの男達に墓に縛り付けられる。ハリーは何も抵抗できず、それどころか全く動けなかった。ハリーの前に石の大鍋が現れる。地上に置かれた包みが
「急げ!」
と恐ろしい声をだした。その包みから現れたものを見て、ハリーは絶叫したが、口に詰め物をされていたためそれは押し殺された。
それは縮こまった人間の子供のようだった。髪の毛はなく、赤剥けのどす黒いものだ。フードの男の一人がそれを大鍋に入れた。
「父親の骨、知らぬ間に与えられん。父親は息子を蘇らせん!
しもべの肉、喜んで差し出されん。しもべはご主人様を蘇らせん」
誰かの恐ろしい声が聞こえる。ハリーはギュッと目を閉じた。悪夢のようだ。でも、これは夢じゃない。
「敵の血、力ずくで奪われん。汝は敵を蘇らせん!」
ハリーにはどうすることもできない。あまりにもきつく縛り付けられているのだ。男がハリーの右腕の内側をナイフで貫き、滴る血を大鍋に入れた。
鍋の中の液体が白く光った。グツグツと煮え立ち、閃光を放っている。やがて白い蒸気がうねりながら立ち昇った。大鍋の中から骸骨のように痩せ細った男が立ち上がるのをハリーは見た。痩せた男がローブを被せられながら、ハリーを見返した。その顔はハリーを悪夢で悩ませ続けた顔だった。
ヴォルデモート卿は復活した。