ヴォルデモートは自分の体を丹念に調べた後、杖を取り出し、不気味に笑うと口を開いた。
「ハリー・ポッター、おまえは、俺様の父の遺骸の上におるのだ」
ハリーの周りをいったり来たりしながら話し続ける。墓から墓へと目を走らせ、自分の歴史を語った。
やがて、墓と墓の間から次から次へと死喰い人達が現れた。
「ご主人様…ご主人様…」
ヴォルデモートとハリーの周りに全員が輪になって立つ。
「よう来た。死喰い人たちよ。十三年、最後に我々が会ってから十三年だ」
ハリーはなすすべもなく、縛られながらヴォルデモートの言葉を聞き続け、誰かが助けに来るのを願った。しかし、誰も来ない。死喰い人以外には。
「ハリー・ポッターが、俺様の蘇りのパーティーにわざわざご参加くださった。俺様の賓客と言いきってもよかろう」
ヴォルデモートはハリーの方へ赤い目を向け、低い声でこれまでの事を話し始めた。ハリーはひたすら額の傷の痛みに耐える。死喰い人達はギラギラした視線をヴォルデモートとハリーにそそぎ、じっと動かなかった。
ヴォルデモートは話が一段落するとハリーの方へゆっくり進み出た。
「クルーシオ!」
これまで経験したことのない凄まじい痛みがハリーを襲った。気を失ってしまいたい。死んだ方がましだ。
するとそれは過ぎ去った。死喰い人の笑い声が墓場に響き渡った。
「いま、ここで、おまえたち全員の前でこやつを殺すことで、俺様の力を示そう」
視界は霧がかかったようにぼんやりしている。ヴォルデモートの声がハリーの耳に微かに届いた。
「さあ、縄目を解け。こやつの杖を返してやれ」
誰かがハリーを縛っていた縄をほどいた。ハリーはふらつきながらも、なんとかその場に立つ。死喰い人の一人がハリーの手に乱暴に杖を押し付けた。
「ハリー・ポッター。決闘のやり方は学んでいるな?」
ハリーは二年前の決闘クラブの事を思い出したが、そこで学んだことはほとんどない。それに、ヴォルデモートから杖を奪い取っても多勢に無勢だ。
「ハリー、互いにお辞儀をするのだ」
ヴォルデモートは軽く腰を折った。死喰い人達は笑いながら周りで見物している。ヴォルデモートが杖を上げると、見えない手がハリーの頭を無理やり下げた。
「さあ――――決闘だ」
ヴォルデモートが杖を振るう。「磔の呪い」がハリーを襲った。全身が切り刻まれたかのように痛くて、絶叫した。その痛みが止まると、ハリーはヨロヨロと立ち上がったが、どうしようもなく体が震えていた。
僕は死ぬんだ…パパとママのように…何もできずに。しかし、弄ばせはしない。ヴォルデモートの言いなりになんかなってたまるか…命乞いなどしない…。
「インぺリオ!」
ヴォルデモートが何かを言って、突如ハリーの思考が停止した。次の瞬間、感じたのはどこかで味わったこともある、感覚だ。なんという至福、頭がフワフワする。まるで夢を見ているみたいだ。いや、本当に夢なのかもしれない…。
『いやだ、と答えればいいのだ。いやだ、と言え。』
「僕は、言わないぞ」
どこかで強い声がした。
『いやだ、と言えばいいのだ』
「僕は言わないぞ!」
強い言葉がハリー自身の口から飛び出す。突然夢心地が消え去った。
「『いやだ』と言わないのか?ハリー、従順さは徳だと、死ぬ前に教える必要があるな」
ヴォルデモートが再び杖を上げ、ハリーは横へ飛び、伏せた。墓石の裏に逃げると、墓石の割れる音が響いた。
ハリーは覚悟を決め、杖を握りしめる。そして、ヴォルデモートと向き合うようにして立った。
「アバダ ケダブラ!」
「エクスペリアームス!」
緑の閃光と赤の閃光が走ったのは同時だった。二つの呪文が空中でぶつかる。その瞬間、ハリーが予想もしないことが起きた。
金色の糸のような光が二つの杖を結んだ。その光は裂け始め、ハリーとヴォルデモートの上に弧を描く。やがて二人を金色のドームがすっぽり覆った。
ハリーの杖が振動する。この糸を切ってはいけない事が本能的に分かっていた。
やがて、濃い煙のような影がヴォルデモートの杖の先から出てきた。年老いた男が驚いたようにハリーとヴォルデモートを見ている。ハリーはどこかでその老人を見たことがあるような気がした。
「やっつけろ、坊や」
やがて、今度は女性が現れた。バーサ・ジョーキンズの影がハリーに声をかける。
「離すんじゃないよ。絶対!あいつにやられるんじゃないよ、ハリー!」
ヴォルデモートに殺された犠牲者達が二人の周りを囁きながら回る。ハリーは絶対に離さないようにしっかりと杖を握りしめた。
その時、杖の先から髪の長い女性が現れた。ハリーが心のどこかで待ちわびていた人物だ。ハリーは本能的に彼女が来るのが分かっていた。
「お父さんが来ますよ…大丈夫…頑張って」
やがて、ハリーと同じクシャクシャの髪を持つ影が現れる。ハリーに静かに話しかけてきた。
「繋がりが切れると私たちはほんの少しの間しか留まっていられない…それでもおまえのために時間を稼いであげよう…移動キーのところまで行きなさい。それがおまえをホグワーツに連れ帰ってくれる…ハリー、分かったね?」
「はい」
ハリーは喘ぎながら答えた。
「行くぞ!」
ハリーは渾身の力で杖を上にねじ上げた。金色の糸が切れる。ハリーはそれに構わずひたすら走った。途中で死喰い人をはね飛ばす。ジグザグに走っていると、やがて優勝杯が視界に飛び込んできた。
「アクシオ!」
優勝杯がすぐさま飛んできた。ハリーはその取っ手を掴む。すぐに臍の裏側が引っ張られのを感じた。
シャーロットはその様子を最初から最後までイチイの木の上で見ていた。もしも、話が原作通りに進まず、ハリーが殺されかけたら真っ先に止めるつもりだった。何度かハリーの前に飛び出しそうになったが、必死の思いでこらえる。ハリーとヴォルデモートの杖が金色の光で繋がったときは心の底から安堵した。
今、目の前ではヴォルデモートが怒りの叫び声を上げている。
「くそっ!あの小僧が!」
きっと、ヴォルデモートにとっても杖がぶつかり合うのは予想外だっただろう。死喰い人達はそんなヴォルデモートの周りでオロオロと揺れていた。シャーロットはその様子がおかしくてクスクスと笑った。
ヴォルデモートは怒りで震えた。またしてもあの小僧を逃がしてしまった。今夜こそはこの手で殺すつもりだったのに……。
その時、不思議な声が聞こえた。クスクスという鈴のような少女の声。この場にはそぐわない可愛らしい声だ。
死喰い人達がその声を目線で追う。ヴォルデモートもその視線をたどった。
そこにいたのは、イチイの木の下に立つ一人の少女だった。赤毛に緑の瞳。ホグワーツの制服を来ている。ヴォルデモートは心の中で首をかしげた。どこかで見たことのある顔だ。
「…貴様、何者だ?」
少女はヴォルデモートの方を見てニッコリ笑った。まるで太陽のように明るい笑顔だ。
「初めまして、ヴォルデモート。あなたに挨拶をしたかったの」
「我が君、この者は、ダンブルドアの…」
ルシウス・マルフォイがおずおずとヴォルデモートに声をかけるが、ヴォルデモートは少女から目を離さなかった。
「俺様に挨拶とは度胸があるな。お前の名は?」
ヴォルデモートは鋭い瞳でシャーロットを見据えるが、シャーロットは恐怖を全く感じなかった。この世にはもっと恐いものなんていくらでもある。
「私、ハリーの友達なの。あなたに一目会いたかったし、ハリーが心配でここまでついてきてしまったのだけれど…そろそろ帰らなきゃいけないわ。明日も試験だもの」
ヴォルデモートが杖を向けてきた。
「簡単に帰れると思うか?この状況で?」
他の死喰い人達もシャーロットの周りに集まる。それに構わず、シャーロットは再び笑った。
「やっぱりあなたと私はちがう。今日初めて会って、分かったわ。私には大切な人達がいるもの。あなたと違って。愛を信じず、蔑ろにするあなたは、私には理解できない。私は、あなたにはならない。」
ヴォルデモートが眉を潜めた。
「私の名前を覚えておいて、ヴォルデモート。そして心に刻んで。私の名前はシャーロット・ダンブルドア」
シャーロットがその場で足をトントンと動かした。
「あなたと敵対し、いつか、あなたを越える者よ」
シャーロットがそう言った瞬間、ヴォルデモートは杖を動かし、呪文を口にしようとしたが、できなかった。
突然、地面が爆発した。黒い煙が立ち上る。泥のようなものが辺りにびちゃびちゃと飛び散った。開きかけた口の中にもびちゃびちゃと何かが入ってきた。ヴォルデモートの視界が煙とドロドロした物で閉ざされる。突然のことに、ヴォルデモートも死喰い人達も何も対処ができない。死喰い人達は慌ててヴォルデモートの方へ駆け寄る。ヴォルデモートが黒い煙の中、少女のいた方向へ目を凝らすと、少女はその場から消えていた。
再びヴォルデモートの怒りの叫び声が響き渡った。
ヴォルデモートと死喰い人がその時、上の方を見ていたら、もしかしたら
仕掛けがうまくいったな、とシャーロットは赤い翼を羽ばたかせながら、そう思った。夏休みに仕掛けた糞爆弾がシャーロットの合図で一気に爆発したことで、目眩ましになった。糞だらけのヴォルデモートと死喰い人が怒りで揺れる姿がチラリと見えただけで満足だった。
改良型糞爆弾を作ってくれたフレッドとジョージには、あとでこっそりお菓子か何かをたくさんプレゼントしよう。
シャーロットは誰かに見つかる前にさっさと隠していた移動キーの元へ飛んでいった。再び、ホグワーツに戻るために。