その日、青年は家に帰るための道を歩いていた。早く帰らなければ、過保護な母親は心配するだろう。夏休みくらいは好きなだけ遊びたいが…。青年は心配する両親の顔を思い浮かべながら足早に家へ向かった。
青年の自宅が見えてきた。青年が玄関へ向かおうとすると、家のそばで小さな人影を見た。
「おい、なんだ、お前?」
声をかけると、その人物が振り向いた。青年は思わずたじろぎ、顔が赤くなるのを感じた。可愛らしい少女だった。たっぷりの赤毛に、整った顔立ち。上品な水色のワンピースを見にまとっている。しかし、なぜだか初めて会うのにそんな気がしない。どこかで会ったことがある気がして、青年は顔を赤くしながらも眉を潜めた。
「あれは、あなたのおうち?」
少女が青年の自宅を見ながら聞いてきた。
「あ?ああ、そうだけど…」
「とても素敵なおうちだなって思って見ていたの。きっと、仲のいい家族がすんでるんだろうなーと思って」
「まあ…、仲は悪くないな」
青年はそう言いながら、首をかしげ、今度は自分から問いかけた。
「お前、この辺では見ないやつだな?引っ越してきたのか?」
「ううん。友達がこの近くに住んでて、ちょっと様子を見に来たの」
それを聞いて、青年は思わずがっかりした。
「でも、ここはいいところね。穏やかだし、とても平和そう。私も家族と一緒にこんな立派な家で暮らしてみたかったわ」
少女の言葉に青年は首をかしげた。
「暮らしてみたかった…?」
「ああ、私、家族がいないの。だから、少し羨ましかったのよ」
「…家族がいないのか」
「うーん、正確にはいるんだけどね、いないようなもの」
少女は青年の家を見ながらぼんやりと言葉を紡いだ。
「私は家族って思ってた。きっと向こうもそう思ってるって、勘違いしてたの。私は結局相手の言葉に踊らされていた。今でも、家族になりたいって心のどこかで思ってる。希望を捨てきれない。そんな自分が悲しくて嫌になる」
少女が突然青年の方へ顔を向け、ニッコリ笑ってきたので、思わず目を瞬かせた。
「家族って深いようで浅くて、そして薄いわよね。きっと、いい家族って言うのは血の繋がりじゃなくて、心の繋がりだと思わない?」
「あ、ああ…」
「あなたも、もしも危険な目にあったときや苦しいときは、迷わず家族に助けを求めた方がいいわ。きっと、その時は無理でも、今後のやり方次第で繋がることは可能だもの。愛情も絆も、心の在り方次第だと思うの。私も、そうできればいいんだけど……」
「……?」
青年が首をかしげると、少女はその様子がおかしかったのか、再度笑った。
「それじゃあこれで失礼するわ。あなたの家をジロジロ見てごめんね」
「あ、ああ、いや、別に…」
「またね、ダドリー・ダーズリー君」
少女は青年にそう言うと、スーツケースを持ちどこかへ歩いて去っていった。青年はぼんやりしていたが、ハッとすると少女が向かった方向へ顔を向けた。
「おい、なんで、俺の名前……」
しかし、そこには少女はもういなかった。青年は辺りを見渡し、首をかしげると、家族が待つ我が家へ入っていった。