ププープレーン 〜遍く照らす星の航路〜   作:糖分99%

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東方桃玉魔を読んでいただいた方はお久しぶり、それ以外の方は初めまして。糖分99%です。一応簡単にカービィとアズレンの紹介をしておきましょう。

「星のカービィシリーズ」
1992年より初代星のカービィが発売され、今年も新作が発売された任天堂の一大シリーズ。ピンク色で丸い、一度見たら忘れられない可愛らしいデザイン、とにかく食い意地の張ったキャラ、そして飲み込んだ相手の特徴をコピーするというアクションのバリエーションの多さが人気の理由だろう。
最近、制作元のHAL研究所は歴代シリーズのアイテムやキャラを最新作に登場させ、昔カービィで遊んでいた大人達を呼び戻す快感を覚えた。

「アズールレーン」
2017年秋に日本版がリリースされたスマホゲーム。歴代の艦船の擬人化ゲームという艦これのオマージュを行った中国製のゲームであるため、リリース当初は物議を醸したが、そもそもゲームシステムが別物であること(艦これはシュミレーション、アズレンはシューティングRPG)、ゲームハードが違うこと(艦これはPCメイン、アズレンはスマホメイン)、艦これとは違い海外艦も充実していること、運営がいろんな意味でユーザーの心を掴んだこと(公式ツイッターやキャラクターのパロディセリフは必見)により、今では愛されているゲームである

「作者・糖分99%」体は糖分でできている。甘いものをあげておけば喜ぶ。あと1パーセントは何でできているのだろうか? きっとゲーム愛でできている。


プロローグ

 人は何故争うのか。

 

 争いとは無意味なものではなかろうか。

 

 金の為に争い。

 

 名誉の為に争い。

 

 領土の為に争い。

 

 愛の為に争い。

 

 憎悪の為に争い。

 

 憤怒の為に争い。

 

 争いは人を勝者と敗者に分ける。

 

 勝者は奪い、敗者は奪われる。

 

 それは絶対の真理であり、虚しさだけが募るもの。

 

 桃色の英雄もまた争い続ける。

 

 彼が望むのは美味しい食べ物と穏やかな昼寝の時間。

 

 だが、桃色の英雄は知っていた。

 

 美味しい食べ物も、穏やかな昼寝の時間も、自分一人では虚しいだけだと。

 

 人の笑顔こそが食べ物をより美味しくし、昼寝をより穏やかにするのだと。

 

 人の笑顔こそ、人を何より満たしてくれるのだと。

 

 だから桃色の英雄は今日も闘う。

 

 皆の笑顔の為に。

 

 

⚓︎☆⚓︎☆⚓︎

 

 

 ───4/5 13:07 W●●5° N●8°────

 

 突如として未確認島が浮上。浮上に際し地震、津波等は確認されず。

 推定面積は●●,000㎢。付近を通過する船は航路の変更を通達されたし。

 

 

 ───同日 13:15 同地点────

 

 ロイヤルの艦船が至近距離での画像の撮影に成功。

 砂浜海岸、海岸段丘、リアス海岸広葉樹林帯、平野が確認された。自然環境は温帯〜亜熱帯に酷似。

 また、推定海抜100mの山頂に四つの尖塔とドームを合わせた巨大建造物が確認された。

 

 

 ───同日 13:21 同地点────

 

 ユニオンの空母により未確認島の上空からの空撮に成功。

 森林と平野が広がっており、円柱状の岩石が疎らに突出する特異な地形となっていることを確認。

 以前確認された巨大建造物以外にもいくつかの建造物を確認。

 原生生物数種類を確認。なお画像は不鮮明であり、種類の特定は不可能。

 

 

 ───同日 13:46 ユニオン某所 アズールレーン本部────

 

 セイレーンの関与を否定しきれないとし、アズールレーンによる強行偵察案をユニオンにて可決。

 ロイヤルは未だ採決中。

 

 

 ───同日 14:13 同地点────

 

 ロイヤルにて強行偵察案が可決された。

 これよりアズールレーンは未確認島、コード『P3』の強行偵察を行う。

 人類に栄光あれ。

 

 

⚓︎☆⚓︎☆⚓︎

 

 

 ───同日 13:17 ???────

 

 穏やかな風が吹く。

 その風には微かに潮の香りが含まれており、その匂いにくすぐられ、それは目を覚ました。

 桃色のまん丸ボディ。丸く短い手。赤く短い足。紅の頬。パッチリとした、とぼけたような目。食べ物を自然と求める口。

 数十センチほどの桃色のボール状をした怪生物は目をこすり立ち上がった。

 

 ふと、空を見上げた。

 そして首を───あるのかどうかわからないが────傾げた。

 

 空に浮かぶのは雲。綿菓子みたいな雲。

 

 はて、プププランドの雲はあんな形だっただろうか。

 もっと渦を巻いていた気がする。

 でもある時は今みたいな綿菓子の形だった気もするし、もっと前は星型の雲が流れていた気がする。

 プププランドの雲は気まぐれだ。雲の『普通』の形は時々変わる。

 

 もともと能天気な性分の桃色の生物は、先ほどまで浮かべた疑問をすっかり忘れて隣に置いてあった風呂敷を開ける。

 風呂敷から現れたのは、大きな大きなサンドイッチと溢れんばかりに積み上げられたリンゴ。

 とてもこの小さな生き物が食べきれる量とは思えないが、この桃色の生物は兎角食い意地が張っているのだ。

 

 待ちに待った昼食の時間。

 パッチリとした目はより輝きを増し、一人歓声を上げてサンドイッチを手に取る。

 

 その瞬間、溢れんばかりに積み上げられたリンゴのうち一つがついに溢れ落ちた。

 そしてころころ、ころころと坂を下ってゆく。

 それを見た桃色の生物は大慌てで風呂敷を包み直し、背負って転がるリンゴを追いかけた。

 

 リンゴはまだまだたくさんあるし、周りを見ればリンゴなんてどこにでも生えている。

 でも、他のリンゴを食べたからって、溢れたリンゴは食べられない。

 他のリンゴでは溢れたリンゴの代わりにはならない。

 

 桃色の生物独自の食の美学故に───もしくは底知れぬ食い意地故に────転がるリンゴを追う足を止めない。

 

 やがてリンゴは海岸近くでコツンと何かに当たり、ピタリと止まる。

 桃色の生物はそれに飛びつき、安心したように溜息をつく。

 

 そこでふと、気がついた。

 転がるリンゴを止めてくれたモノを。

 それは桃色の生物よりも少し小さな立方体だった。

 青く透き通り、内部で柔らかな光が灯る、不思議な物体。

 桃色の生物はそれを手にとってみた。

 太陽に透かして見ても、何も見えない。揺すってみても何も鳴らない。舐めてみたけど美味しくない。

 

 誰かに聞いたらわかるのだろうか。

 

 そんなことを考えているうちに、もう一つ変なものを見つけた。

 それは桃色の生物にも何であるか分かった。

 青い立方体と同じくらいの大きさの、円錐状のドリルだった。

 だが、ドリルを回すスイッチらしきものはない。一体どうやって使うのかさっぱりわからないもの。

 

 桃色の生物は迷いに迷い、そして考えるのを諦めて空を見上げ────漸く自らのすぐそばにそそり立つ巨大な物に気がついた。

 高さは2メートル以上。横幅も2メートルほどある鋼鉄の円筒。それが二つくっついている。

 

 何かの機械なのだろうか。

 

 この地が機械化された事件を思い出しながら、桃色の生物はまじまじと鋼鉄の双円筒を眺める。

 

 と、ここで気がついた。

 二つの円筒の間に四角い穴がぽっかり空いていることに。

 そしてその穴、ちょうど拾った立方体がぴったり入りそうではないか。

 

 早速桃色の生物は拾った立方体を掲げ、飛び上がり、立方体を穴にはめ込んだ。

 そして見事はまり込み、立方体はどこかへ消えてゆく。

 

 途端、鋼鉄の双円筒は唸りを上げる。

 僅かに振動しながら、中で何か動かしながら。

 桃色の生物には、まるでそれが孵化しつつある卵のようにも見えた。

 

 が、しばらく待っていたが何も起こらない。ただゴウンゴウンと唸りを上げるだけ。

 だが、実は立方体を入れた瞬間、片方の円筒の上に『0:27:00』というカウントが現れ、減っていっているのだが、桃色の生物にとっては高すぎて気付かずにいた。

 

 カウントに気がつかない桃色の生物は、まだ何か足りないのだろうと思い立ち、鋼鉄の双円筒を眺める。

 すると今度は、円錐状の窪みを見つけた。それも螺旋状の溝がある窪み。

 そう、ちょうど拾ったドリルが差込めそうな窪みが。

 

 迷わず桃色の生物はドリルをその窪みに差し込んだ。

 途端、スイッチのなかったはずのドリルはギュルギュルと回り始め、そして回転を止め、役目を果たし終えたかのようにぽとりと力なく落ちる。

 瞬間、桃色の生物が気がつかぬまま、カウントは『0:00:00』になり、双円筒は高く唸る。

 

 何か、生まれる。

 

 そう予感させるには十分な演出。

 やがて双円筒のうち片方から蒸気が吹き出し、扉のように開いた。

 

 そしてその中には少女がいた。

 

 白く丈の短いワンピースを纏い、青い小さなマントのようなものを羽織っている。髪は紫色で後ろで一つにまとめ、ふんわり柔らかなウェーブがかかっている。瞳は青く、その顔は人懐っこく見える。

 しかし、腰には───桃色の生物は知らないだろうが────小さな魚雷菅とそれに見合った大きさの魚雷が装填されており、さらに手には投槍が握られている。人懐っこい少女には無縁であるはずの戦闘の道具が生まれた時からすでに取り付けられていたのだ。

 

 少女は印象を裏切らない、人懐っこい満面の笑みとともに張り切って誰へというわけでもなく、決まり切った事であるかのように挨拶をし始めた。

 

「初めまして指揮官! 私はJ級駆逐艦のジャベリン! よろしく……ね……?」

 

 そこでようやく、ジャベリンと名乗る少女は異常に気がつく。

 想定ではどこか建物の中で、軍服を着た誰かに迎えられるつもりだったのだろう。

 だが現実は緑豊かな屋外で、潮風を浴びているのだ。

 そして目の前にいるのは軍服を着た誰かではなく、それどころか人間ですらない生物だった。

 

「ぽよ!」

 

 桃色の生物は律儀に挨拶に答えた。

 本人は満面の笑みで、いつも通り最大の好意を乗せて答えたつもりなのだろう。

 しかしジャベリンという少女にとっては、予想外の場所で未確認生物に声をかけられたという事実以外、何物でもなかった。

 

「うひゃああっ!!? なっ、なにこれっ!」

 

 ずざざっとオーバーリアクションで後ずさる少女。しかし後ろにあるのは開きっぱなしの円筒。つまりは行き止まり。見る間に少女の顔は青くなる。

 だが、それはこの円筒から生まれた者の本能というべきなのだろうか。不思議と目の前の桃色の生物への不信感は霧散していった。

 そして、ある一つの言葉が自然と少女の口から零れ落ちる。

 

「えっと……もしかして、あなたが私の指揮官?」

 

 桃色の生物は首を傾げた。

 『シキカン』とはなんなのか、さっぱり見当も付かないからに他ならない。多分自分のことなのだろうが、自分は『シキカン』という名前ではない。

 だから、ちゃんと名乗ることにした。

 

「はぁい! カービィ、カービィ!」




初期艦はジャベリンでした。
ウザい。だがそれがいい。

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