『条件・重桜の戦艦を出撃させ、累計経験値を200万貯める』
作者「(´・ω・*・,°*・*:.」
作者「……いや、やってやる。やってやるさ!」
作者 は 胸 に 決意 を 抱いた
橙色の生物
「……カービィ?」
「カービィ!」
「それが指揮官の名前なの?」
「うぃ? ……カービィ!」
「えっと、あってるの……かな?」
桃色の生物───カービィは頭を縦にブンブンと振る。
怪生物、カービィに向け、ジャベリンはそっと手を伸ばす。
そして、ぷにっ、と頬のあたりを触ってみる。
もっちり、すべすべ。そんな感触。到底この世のものとは思えないような極上の触り心地。
とにかく触ってて飽きない。
カービィが不思議そうな顔をして嫌がらないことをいいことにしばらくぷにぷにと突っついていたが、やがて何処からかくぅー、と可愛らしい音が鳴る
発生源はジャベリンのお腹。
無理もない。ジャベリンは“生まれたて”なのだから。
慌てて手を引っ込め、目を逸らし、顔を赤らめながら言い訳をする。
「あー……ジャベリン、お腹が空いたなー、なんて……」
生まれたてとはいえ年頃の女の子として生まれたのだ。当然の反応だ。
それに対するカービィの反応は。
くるるるぅ。
口の代わりに、ちょっと騒がしいくらいの腹時計が答えた。
ぽかんと呆気に取られているジャベリンをよそに、カービィは持ってきた風呂敷を開け放つ。
そして取り出したのは大きなサンドイッチ。レタスやハムやトマトやスクランブルエッグが挟まった、オーソドックスな一品。
それを丁寧に半分にちぎり、片方をジャベリンに突き出した。
「えっと、くれるの?」
「うぃ!」
「あっ、ありがとう!」
半分にされたサンドイッチを受け取り、カービィの横に腰を下ろし、食欲のまま齧り付く。
美味しい。塩胡椒だけで味付けされているのだろうが、それが丁度いいバランスを取っている。素材の味もよく、特にトマトの甘いこと。
夢中でかぶりつき、その手からサンドイッチが消え、ほぅと溜息をつく。
「ありがとう指揮か……カービィ」
「ぽよ!」
見ればカービィはもうすでにサンドイッチを完食しており、積まれたリンゴに手を伸ばし齧っている最中であった。
そしてそのうちの一個をジャベリンに渡す。
「これもくれるの!」
「うい!」
「わぁあ! ありがとう!」
流石に大きなサンドイッチ半分では腹を満たすことはできない。立派なリンゴにも齧り付く。不思議と力も満ちてきた気がする。
だが、そのリンゴに噛り付いているうちに、ジャベリンの胸中に不安が立ち込める。
「ここって一体、何処なんだろう……」
ドッグはなく、港もなく、あるのはのどかな大自然。側にいるのは指揮官らしい謎の生物。
てっきり“生まれて”すぐに戦うと思っていたのだが、これはちょっと予想外すぎた。
「私、どうすればいいんだろう……」
そんなジャベリンの悩みとは裏腹に、のどかな時間が過ぎて行く。
大量に積まれたリンゴはいつのまにかカラになっており、籠のそばでカービィはうつらうつらと船を漕ぎだす。
ジャベリンもつられて、膝を抱えて船を漕ぎ始めた。
目を瞑れば、耳に届くのはさわさわと木の葉が揺れる音と潮騒の音。
これはこれで、いいのかも。
そんな事を思い出した最中。
ガサリ、ガサリ、と何かが草木を掻き分ける音がジャベリンの耳に届いた。それも複数、四方八方から。
元はと言えばジャベリンは戦う為に“生まれた”もの。敵の気配を感知する能力は常人のそれではない。
体は強張り、思わず魚雷に手をかけるが、陸上では意味のない事を悟りさらに体は強張る。
ジャベリンは駆逐艦。その強さは回避能力の高さと速度、そして魚雷だ。砲撃能力は決して高くない。その中でもジャベリンは回避能力には自信があるが砲撃能力には駆逐艦の中でも自信がない。そして唯一の武器である魚雷は封じられている状態。
完全になすすべがない中、遂に草むらからそれは現れた。
カービィと同じサイズの橙色の生物が。
ただし口は無く、顔は肌色でなんとなく猿を想起させる。
「……」
そして無言のまま、じっとこちらを見ている。
「あ、あの〜」
「……」
なんとなく危険はないような気がして、焦れったくなったジャベリンは声をかけてみる。
すると橙色の生物は一目散に出てきた草むらへと戻っていった。
ひとりぽつねんと残されたジャベリンは、「自分の顔って怖いのだろうか」などと顔を意味なく揉んだりしていた。
が、そうやって油断していた瞬間。
『……』
「うひゃあっ!」
わらわらと、周囲の草むらという草むらから全く同じ顔をした橙色の生物が、ジャベリンと眠るカービィを取り囲むように現れた。
どれもこれも同じ顔でさっぱり見分けがつかない。それに全くの無表情なのが余計に不気味。
恐怖のあまり、ジャベリンは眠るカービィを抱き上げ強く抱きしめた。なんでもいいから頼るものが欲しい。そういった心理が働いたのだろう。
そしてその抱きしめた力で「ぐゅ!」という変な声がカービィの口から漏れ、目を覚ました。
「あ、あわわわ! じゃ、ジャベリンは食べても美味しくないですよ!」
当のジャベリンは酷く混乱し、口の見当たらない橙色の生物に対して見当違いな事を口走る。
カービィは何か言いたげな様子を様子をしているが、ジャベリンによってきつく締め上げられてる為声も出せない。
無言で見つめる橙色の生物達。震えるジャベリン。もがくカービィ。そんなカオスな状態がしばし続く中、遂にこの状況を打破せしめる存在が現れた。
「あれー、カービィ、誰それ?」
現れたのはまた同じ顔をした橙色の生物。しかし頭には青いバンダナを被っており、しかも口がないのにもかかわらず流暢に人語を喋る。
そんな輪をかけて摩訶不思議な生物の登場にさらにジャベリンの混乱は大きくなる。
「うひゃあ! 喋ったぁ!?」
「ワドルディの中ではボクだけが喋られるんだよ。ところで君は誰? ここらじゃ見かけないけど? 新入り?」
「え、えっと……J級駆逐艦のジャベリン……です……」
「くちくかん? よくわからないけどよろしく新入りさん。そしてようこそ、しょっちゅう危機に陥るけど基本的には呆れるほど平和なプププランドへ。ボクらはワドルディ。ボクもこの子もあの子も皆んなワドルディ。皆んな個性はあるけど、皆んな同じくワドルディ」
バンダナを被るワドルディと名乗った橙色の生物が自己紹介すると、他の橙色の生物も一斉にうんうんと頷く。
皆んな同じ名前で区別つくのかとか、個性もあるのに同じ名前でいいのかとか、色んな疑問がジャベリンの中で渦巻くが、ひとまず橙色の生物はひっくるめて『ワドルディ』だと理解する他ないだろう。
どうやら自分は思っていた以上におかしな所に来てしまったらしい。
そう思い至り、遠い目になる中、やっとジャベリンの腕の拘束から逃れることの出来たカービィが何事かをワドルディに話し出す。
うんうんとしばらく頷いていたワドルディ達は、あるとき合点がいったように声なき歓声を上げた。
「なるほど、ジャベリンはあの箱と筒から生まれたんだね」
「ぽよ!」
「……え? あ、えっと、もしかしてメンタルキューブの事?」
しばらく現実逃避していたジャベリンは、自分の名前が呼ばれた事でようやく意識を現実に戻した。
対して、聞き慣れない単語を聞いたバンダナのワドルディはなんとなくその正体に勘付く。
「メンタルキューブって、このヘンな箱の事?」
その言葉に合わせ、トコトコと二体のワドルディがやってくる。
その頭上に二つの青く透き通った立方体を掲げて。
「そう! それ! それをこの『建造ドック』にいれると私たち『艦船』が生まれるの!」
「うぃ! ぽよ!」
「へー、それでカービィは偶然拾ったメンタルキューブを『建造ドック』に放り込んで、ジャベリンが生まれた、と」
納得するワドルディ達。一斉に頷く様は慣れてくると可愛らしくも見えてくる。
だが、カービィはまだ言い足りないらしい。
「ぽぉよ!」
「ん? キューブだけじゃなくてドリルも要る?」
「ぽよ!」
「あ、それは高速建造材だよ。別に無くてもしばらく待てば私たちは生まれるよ?」
「なるほど。じゃあキューブがあればジャベリン達は増えるわけだね?」
「そういう事!」
「でも……不思議だなぁ」
バンダナを被ったワドルディはあるのかわからない首を傾げる。
「立方体から機械の力を使って生まれる生き物なんて聞いた事ないよ。ジャベリン達『艦船』って、一体何者なの?」
「……私たちは兵器だよ」
ワドルディの質問にジャベリンは答える。
カービィと接していた時の無邪気さはどこかへと鳴りを潜め、静かな表情で、淡々と。
「『セイレーン』っていう海の怪物から人類を守る為に作られた、どこかの世界の何かの船の記憶を持った、人型の兵器なんです」
だが、次の瞬間には元の無邪気な笑顔に戻る。
まるでそうあるべきだと何かに命じられるように。
「そして! ジャベリンはカービィによって生まれました! だからカービィが指揮官なんです!」
「ぽよ?」
「だからよろしくね、指揮官!」
ギュム、という擬音が相応しいような様子で再びジャベリンはカービィに抱きつく。
その様子をしばらく見ていたワドルディ達だったが、やがてワドルディ達は一箇所に集まりだし、わにゃわにゃと何か彼らにしかわからない言語で喋り出す。
一通り喋り終えた後、一斉に納得したように頷き、ジャベリンに向き直った。
「……ジャベリン。君達は『セイレーン』っていう怪物に対する兵器なんだよね?」
「はい」
「でもボクらは海の怪物に襲われるなんてことはないし、そもそもそんな海の怪物知らない。君もこのプププランドのことは知らないみたいだ。だから考えられるのは……君達『艦船』を生み出す機械とキューブだけがプププランドにきた可能性。一つはプププランドがその『セイレーン』がいる世界と繋がってしまった可能性。もう一つはプププランドそのものが『セイレーン』のいる世界に来てしまった可能性」
「は、はぁ……」
「うぃ……?」
突然の難しい話にジャベリンもカービィもぽかんとした顔をする。
だが、ワドルディの話は止まらない。
「最初の可能性なら別に何かする必要はない。でも二つ目、三つ目の可能性が当たった場合は、その『セイレーン』がプププランドにやってくるかもしれない。ジャベリンの話だとその『セイレーン』ってのは相当凶暴そうだからね。でもボクらは『セイレーン』がどんなものか知らない。対処法も知らない。だから────」
そこで、キューブを抱えた二体のワドルディが前に出る。
「『セイレーン』について知っている君達『艦船』を増やそう、ってことにボクらの間で決まったよ」