BanG Dream! 〜アオハルエクスペリエンス!!〜   作:翡翠織音

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 お久しぶりです、元・葵川健太だった碧坂翠です。
ついに、ようやく!

新作、完成いたしました!!

ロック大好きな私が作り上げたバンドリ物語、ぜひぜひごゆるりとお楽しみいただければ幸いです。

それではどうぞ!



アオハルエクスペリエンス!!

 僕、小山晴架(こやまはるか)の朝は遠くに聴こえるシャワーの音と、スマホから鳴り響いた音楽で幕を開ける。

 

「ん……んん〜……」

 

 

 今日の朝に選んだのは、1日のスタートを切るのにふさわしい「Invisible Sensation」だ。

伸び上がるようなハイトーンボイスがシャキッと僕を目覚めさせてくれる。時計を見ると、もう7時を5分回っていた。

 

 

「もう起きなくっちゃ……学校に遅れちゃうよ」

 

 

 本当は布団の中から出たくない。でも速くしないと、彼が来ちゃう。

顔を洗うために重い足取りで洗面所に向かう。引き戸をガララっと引くと……

 

 

 

「……よう」

「おはよ、氷雅」

 

 

 朝から割れた腹筋を見せつけてくる彼は小山氷雅(こやまひょうが)

クールでしっかり者な、僕の兄だ。

 

 

「ランニング帰りで朝からシャワー? 余裕だね」

「こんな時間まで寝てるお前に言われたくねーわ」

「いやいや、普通だから。 氷雅が早すぎるだけだから」

「うるせーな、これが俺のサイクルなんだよ」

「はいはい……」

 

 

 氷雅の趣味は、朝早く起きてのランニング。さらに暇さえあれば筋トレに励んでいるというアスリート系の生活を送っている。

どうせ見る相手もいないんだから、そんな事しなくたって……とか言いたいけど、多分怒るだろうし黙っておこう。

 

「ご飯行こ? もうすぐ出るよ」

「おっけ」

 

 

 まだ体を拭き続ける兄に背を向けて、僕は洗顔を済ませて出て行く。僕にはそんな元気はないな……朝からすごいなぁ。

 

 

〜※〜

 

 

「行ってきまーす」

「……行ってくる」

 

 

 学校へは2人一緒に登校している。特に意味は無いんだけど、これが普通なんだろうな。

 

 

「…………」

 

 

 移動手段は歩きと電車。まずは駅へと歩いていく。

朝の訪れを告げるかのように、ちゅんちゅんとスズメの鳴き声が上から聴こえてくる。

車のエンジン音や、僕らと同じ高校生たちの喋り声。

 

……そして、隣からはチューチューと吸い込む音が。

 

 

「……あのさ、氷雅」

「なんだ?」

 

 

 彼の口元にはウィダーがセットされている。

ランニング終わりの10秒チャージなんだろうか。隣で吸われるのを聴いてるのって、意外と大きい音するんだけど。

 

 

「登校途中にそれ飲むのやめない? もっと他にもあると思うんだけど」

「一番効率のいい栄養補給なんだよ。 エネルギーねーと一日乗り切れねーぞ?」

 

 

 朝から走るのやめたらエネルギー消費をせずに済むと思うんだけど。一体何のために走ってるのか分かんないよ?

横目で彼を眺めながら時計を見ると、電車の時間が迫っていた。これを流せば遅刻確定、逃す訳にはいかない。

 

 

「ちょっと急がないと、電車間に合わないかも」

「よし、走るか」

「は?」

 

 

 駅まではもう直線を残すのみ。そんな距離しかないのに、氷雅は走りだした。さ、さっき走ってきたばっかりだよね!?

通学用で使っているスニーカーでも、彼はあっという間にスピードに乗って駆け出す。

 

「ま、待って! 氷雅が間に合っても、僕が間に合わないとダメなんだよー!」

 

 

 人混みのなかに紛れていく兄の最中を必死で追いかけて、改札口まで辿り着いた時には体はすっかり火照っていた……。

 

 

 

〜※〜

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

「おいおい、体力ねーな」

「いつもいつも走ってる貴方とは差があるんですー」

 

 

 と、僕らの目の前に。

バッグを漁って、何かを探している女の子が現れた。

 

 

「あれー、定期がない?」

 

 

 ふわふわした口調と眠たそうな瞳。

そんな雰囲気を醸し出す女の子を、僕は知っている。

 

 

「モカちゃん……何してるの?」

 

 

 彼女の名前は青葉(あおば)モカ。

なんで僕がこの子を知っているのかについては、また後ほど。

 

 

 

「あー、はるくーん。 定期がないんだよー」

「そうなんだ……で、手に持っているそれは何?」

 

 

 定期を探している(らしい)モカちゃんの左手には何故か紙切れが。聞かれた彼女はやれやれとでも言いたそうな感じでこう続けた。

 

 

「探してたら……なんか、去年のプリントが出てきた」

「モカちゃんって高1だよね……?」

 

 

 高1で去年なら、それ中学校時代のプリントになるんだけど……そのバッグの中身どうなってるの?

 

 

「……あ」

 

 

 その様子を後ろからずっと眺めていた氷雅が、モカを見て何かに気づいたのか小さく声をあげた。

 

 

「んー? どしたの、氷雅くん?」

「そのポケットに入ってるそれ。 定期じゃねーの?」

 

 

 彼が指をさしたのは、制服のポケット。

グレーのブレザーから、ひょこっと顔を覗かせていたのは––––––

 

間違いない、彼女の定期だ。

 

 

 

 

「あー、あったー。 ありがとねー」

「いいから早く行くぞ、電車に乗り遅れる」

「おっけー、行くよー」

 

 

 やっと見つかった定期を大事そうに抱えたモカちゃんと頭をかきながら進む氷雅の後に続いて、僕も改札に定期をかざした––––––

 

 

 

〜※〜

 

 

 ガタンガタンと揺れる電車独特の音と、ぎゅーぎゅーに詰め込まれた人の波。

東京の電車は、今日も大渋滞です。そんなすし詰め状態の電車で僕はいつもしているルーティーンみたいな物がある。

 

なんとか右手でYouTubeを開くと、ピアノの前に座った高校生が笑顔と透き通った声で挨拶をした。

 

 

 

「皆さんこんにちは、上原怜(うえはられい)です!」

 

 

 今、ピアノを使ったコメディ動画でじわじわと注目を浴びている彼の動画を見る事がこの電車での楽しみなんだ。

 

 

 

「おいおい、いつも見てんのにわざわざ電車でまで見ることなくね?」

「本当に大好きだねー」

 

 

 

 吊り輪に掴まりながら僕のスマホを覗き込んで、氷雅とモカちゃんがそう言う。

確かに電車の中で見る物かと言われれば、そうではないかもしれない。

 

 

「でも面白いし。 この間、チャンネル登録者が1万行ったって嬉しそうにしてたよ」

「おぉ、なかなかに人気なんですなー」

 

 

 ちなみに今日の動画は「僕が本気出せば、ハンバーガー100個余裕ですよ?」だった。 ピアノ使おうよ?

なお、当然無理だったよ。

 

 

 

〜※〜

 

 

 

「それじゃー、またねー」

 

 

 そんな動画を見ている間に、僕らの高校がある駅に到着。

女子高に通うモカちゃんと別れ、再び氷雅と歩き出した。

 

 

「全く、アイツのガサツさはなんとかなんねーのか?」

「あはは……それがモカちゃんらしいとこなんだけどね」

 

 

 そんな他愛もない話をしていると、今度は背後からチリンチリンとベルの音を鳴らした自転車が突っ込んできた。

首にヘッドホンをぶら下げた彼から、「しゅわりん☆どり〜みん」が響いてくる。

 

 

「おっす、お前ら」

 

 

 

 岡澤唯斗(おかざわゆいと)。僕らの先輩で、アイドルが大好きな頼り甲斐のある人だ。

 

 

「おはようございます、唯斗さん」

「ははっ、晴架も氷雅も元気そうだな」

「……先輩だからって、フレンドリー過ぎだろ」

 

 

 この3人で学校へと歩を進めるのがいつもの日常。

アイドルの話だったり、高校生活の話だったり話は尽きない。

 

「……はー、やっと着いた」

 

 

 駅から歩き出して15分くらい。

ここは「下北沢総合高等学校(しもきたざわそうごうこうとうがっこう)」。

「下総」の愛称で呼ばれている、日本のロックの聖地・下北沢にある総合学科の高校だ。

 

 

 

〜※〜

 

 

 総合学科、と言っても普通の高校と特に何も変わったことはない。

普通の授業を普通に受けて、友達と喋ったりしながらごく自然と高校生活を謳歌していく。

でも、この高校最大の特徴は音楽に特化したコースがあること。その名も「芸術・音楽コース」。

 

たくさんのライブハウスを抱え、ロックシーンの最前線をひた走るこの街。

そこで暮らす高校生たちは、音楽に触れて育ってきた。

 

 それは、僕と氷雅も例には漏れず。

僕はギターで、兄がベース。2人揃って軽音楽部に所属している、ロック兄弟なんだ。

 

さて、それじゃあここで。

 

 

 僕、小山晴架とその兄・小山氷雅の音楽に触れ楽器を手に取るまでのお話をしようかな––––––

 

 

 

〜※〜

 

 

 

 僕が音楽に目覚めたのは、アニソンからだった。

たまたま眠れない夜につけたテレビから流れてきたのは夜景と共のドラムソロ。

 

高音ボーカルと独特の世界観から紡がれる楽曲。

特に音楽に興味がなかった当時の僕にとって、初めて触れた音楽はそれだった。

 

 

「……カッコいい」

 

 

 これを見た僕は、「ギターをしたい」と思うようになってその週の日曜日にギターを買いに行ったんだ。

ギターを買った理由はそのバンドのギターがカッコよかったから。

 

そして、もう一つの理由が兄の氷雅がすでにベースをやっていたからだ。

 

 ちなみに僕が初めてみたバンドのベーシストは、とにかく荒ぶる事で有名な人だったのでそれを踏まえて氷雅のベースを見た時に思わず……。

 

 

「もっと飛び跳ねたりしないの?」

「あれは特殊だ」

 

 

 などと言う会話をしたのが懐かしい。

中学生時代はスタジオに入って練習をしたり、ただただギターを弾き鳴らしていた。この話もまたいずれ機会を設けてゆっくりと話をしようかな。

 

 

 そして氷雅がベースを始めた理由は、どうやら海外のバンドに感化された事がキッカケらしい。

フェスとかでヘッドライナーを務めるバンドのようになりたい、と始めた当初は言っていたんだけど、どうやら最近は普通に大学に進学して普通に就職すると言い出している。

どうやら、バンドで生きていくという考えはないようだ。

 

 ただ、他のメンバーが完全にそうは思っていないようで最近は必然的なツッコミ担当と化してしまっている。

 

 

〜※〜

 

 

 高校生活はあっという間に過ぎていって、気づけばもう下校時間。

教室の前で氷雅と唯斗さんの3人でダラダラと話していた。

 

 

 

「今日は唯斗と練習するけど。お前も来るだろ?」

「ごめん、今日はバイトがあるんだ」

「またバイトかよ……お前はスーパーワーカーか」

「唯斗さん、その例えよく分かんないです」

「まぁとにかく。バイトならいいけど、自主練ぐらいはしとけよ?」

「分かった」

 

 

 高校生活を始めるにあたってアルバイトを始めた。

社会勉強のためって事もあるけど、やっぱりお金は貯めておきたいんだよね……新しいギターも欲しいし。

そして、僕にはアルバイトを頑張れる理由があって。

 

 

 

「やっほー、はるくーん」

 

 

 朝いつも通っている駅前で待っていたのはモカちゃんだ。

僕らは同じコンビニでアルバイトをしている。こうしていつも同じ方向に向かうから一緒に歩いている。

 

 

「今日も練習休んでバイト? そんなにモカちゃんに会いたいのかなー?」

「そ、そう言う訳じゃないんだけど……」

 

 

 嘘です。初めて会った時から僕は気になって気になってしょうがないです。

でも、もし告白してこの関係が壊れてしまうと思うと怖くてなかなかその一歩が踏み出せない。

 

で、でもでも仮に、もし、もしも上手くいってモカちゃんと付き合える事になったとしたら……!

 

 

 

〜※〜

 

 

 

 僕の右手とモカちゃんの左手。

俗に言う「恋人繋ぎ」でバイト帰りの道を歩く。

 

初めて出会ってから、ずっとずっと心に閉じ込めていた想いを。

あの日、積もりに積もった感情を全部ぶつけたんだ。

 

 

 

「ぼ、僕は……モカちゃんが好きだっ! だ、だからもしよければ、よ、よければでいいんだけど……」

「モカちゃんと付き合いたいんでしょ?」

「う、うん……嫌、かな?」

「ふっふっふ、はるくんは幸せ者だねぇ」

「え……?」

 

 

 ニヤニヤとした目つきの彼女はテンパってる僕の反応を楽しんでいるかのよう。

そして、僕に一気に近づいて……

 

 

 

 ちゅっ、と少女漫画でありがちなフレンチキス。

この時分かったのは、モカちゃんは目を開けてキスをする派なんだなって事だ。

一気に顔が赤くなってしまう僕に、彼女は笑いながらさらに一言。

 

 

 

「こんなに可愛い可愛い、ぜっせーの美少女・モカちゃんと付き合えるんだから……幸せにしてよね?」

「は、はい……!」

 

 

 ヘタレ感満載ではあったけど、とにもかくにも付き合える事になってバイト先のコンビニまではこうやって手を繋いで歩く事にしている。

たったこれだけでも、彼女の横顔を眺めているだけでも、僕は幸せなんだ。それはきっとモカちゃんもそう。

 

 

 

「あ、あぶなーい」

「えっ……?」

 

 

 その瞬間。

眼中に、いきなり電柱があらわれた。

 

 

ゴンっ!

 

 

 

「痛ぁっ!?」

「だ、大丈夫?」

 

 

 妄想に夢中になりすぎて、避けることが出来なかった。

漫画でしか見たことのない、絶対に現実では狙わなきゃできないようなことをやってのけてしまった……妄想しながら歩くのは本当に危険みたいです。

 

心配そうなモカちゃんに連れられて、なんとかコンビニまで辿り着いた……。

 

 

〜※〜

 

 

「こんにちはー……」

「やっほー」

 

 

 コンビニの裏、スタッフルームにやって来るとスマホ片手に僕らを待ち受けていたのはギャルっぽい出で立ちをした女の子。

 

 

「晴架、モカ! 待ってたよ」

 

 

 僕らと同じコンビニ、同じ時間帯に働く彼女。

今井(いまい)リサ。こんな感じの容姿とは想像もつかないけど、すごく家庭的で頼り甲斐があるお姉さん的存在だ。

 

「ごめんなさい、遅くなりました」

「うん……ん? 晴架、おでこどしたの?」

 

 

 やっぱり気付かれてしまいました。

どうしよう、あまりにも恥ずかしいから言いたくないんだけどな……。

 

 

 

「あー、それはるくんが電柱にぶつかったんだよー」

「モカちゃーん!?」

 

 

 あっさりとネタばらしをされてしまった。

ほんとに恥ずかしいから、なかった事にしたかったのに! まぁ、上手い言い訳が思いついた訳じゃなかったけどね!?

 

 

 

「そうなんだ……どれどれ?」

 

 

 そう言いながら立ち上がったリサさんは、少しだけ赤くなったおでこにぴとっと手を置いた。

あまりにも大胆な彼女の行動に、つられて顔も赤くなってしまう。

 

 

「あー、はるくん照れてるー」

 

 

 僕の様子に気づいたのか、モカちゃんがからかいだした。

そして、その様子を見たリサさんも。

 

 

「あ、ホントだー。 なに、アタシにこんな事されて嬉しいんだ?」

「うぅ……」

 

 

 この時間帯はなぜか僕ら高校生組3人が場を任されている。

もちろん店長さんもいるしサポートをしてくれるんだけど、だいたいは僕らに任せているようで、あまり声はかけてくれない。

誰か、味方はいないのか!?

 

 

〜※〜

 

 

 

「ありがとうございましたー」

「しゃーしたー」

 

 リサさんはパンの補充に出て行ったため、今はモカちゃんと2人でレジを担当している。

あまりやる気がなさそうに見える彼女だけど、実際はしっかりと仕事をこなしている。その様子を横で見てると、なんだかギャップみたいなものを感じちゃうなぁ……。

 

と、また彼女の横顔を見て悶々としていると……。

 

 

 

 ピロリピロリと入店を知らせる音が鳴り響く。

自動ドアに目を向けると、そこには仲の良さそうな姉弟がやって来ていた。と言っても、ただの姉弟ではない。

 

 

「やっほー、ひーちゃん」

「いらっしゃい、怜」

 

 

 まず弟は、朝スマホ越しに眺めていたYouTuber・上原怜。

そして、お姉ちゃんはモカちゃんと同じバンド・「Afterglow」のベーシスト。

上原ひまり。 ピンク色の髪を特徴的な留め方でまとめた女の子だ。

 

バンドマンとYouTuberという、高校生らしからぬ2人は……。

 

 

「姉ちゃん、何買おっか?」

「も、もー! 外でその呼び方はやめてよっ!」

「あ、ごめん……じゃ、じゃあひーちゃん?」

「オッケーだよ、れーくん!」

 

 

 高校生の姉弟であるとは、到底思えない仲の良さをしている。

高校生で「ひーちゃん」と「れーくん」っていう呼び方をするなんて、多分この2人くらいだと思う。

今時の高校生ってこんな感じだったっけ……?

 

 

「「お願いしまーす!」」

 

 

 悩んだ末に、沢山のスイーツをカゴに入れてやって来た2人。

2人揃って甘いものが大好きで、とにかく似ている。性格とかも同じような所もあるし。この姉弟の違う所は一体どこに……?

 

 

 

「しゃーせー……こちら148カロリーが1点……」

 

 

 出ました。モカちゃん必殺・カロリー計算式レジ打ち。

女子力の高いひまりちゃん限定で効果を発揮する、悪魔の囁き的サディスティックな攻撃方法。

 

 

「いじめないでっ!」

「ひーちゃんに何してるの!?」

 

 

 本当に怜はひまりちゃんが大好きすぎだよ!? まぁ、自分から「お姉ちゃん大好き」って言ってるようなシスコンだから仕方ないかもしれないけど!

ちなみに、ひまりちゃんもひまりちゃんで「れーくん大好き」って公言するブラコンなんだけどね! どうしようもないよ、この2人!

 

 

「帰ったら一緒に食べようね!」

「うん! 姉ちゃんのも頂戴ね?」

「だから、外でやめてよぅ!」

 

 

「あ、ありがとうございましたー……」

「しゃーしたー……」

 

 

 あまりにもノロケっぷりが酷すぎた姉弟が去っていく。

僕とモカちゃんも、あまりの仲睦まじさに若干引いてます。仕方ないかもしれないけど。

 

 

「本当に仲良いよね……」

「多分、どっちかいなくなったらもう片方は生きていけないよねー……」

 

 

 多分運命共同体なのかな、あの2人。僕もモカちゃんと……。

 

 

 

「どしたの、はるくん?」

「えっ!? な、なんでもないよ?」

 

 

 うぅ、またやってしまった……。なんで言えないんだろう。

怜とひまりちゃんみたいに……とまでは行かなくても、もっと仲良くなりたいのに……。

 

 

 

〜※〜

 

 

「お疲れ様でしたー」

「したー」

 

「またねー!」

 

 

 バイトを終えた僕はまたモカちゃんと歩き出した。

これからバイト帰りに絶対に寄るところへと向かうんだ。

 

 

 

「着いたー」

 

 

 

 鼻を香ばしい匂いがくすぐる。

目の前の看板には「やまぶきベーカリー」。 モカちゃんが大好きなパン屋さんだ。

 

 

「いらっしゃいませ!」

「あー、またお金落としに来たか」

「もう、お客さんだよ。お兄ちゃん」

 

 

 この2人は兄妹で、怜とひまりちゃんとは逆の関係だ。

まず、いい笑顔で黒い台詞を吐くのが兄・山吹翔也(やまぶきしょうや)。「夢は武道館!」と言い切る向上心の塊を持ったギタリストだ。

 

そして、妹の山吹沙綾(やまぶきさあや)。「PoPPin’ Party」のドラムを担当しているポニーテールがよく似合う女の子だ。

 

 

 

「うーんと……これとー、あれとー……あ、フランスパンとチョココロネは外せないねー」

 

 

 言いながら、モカちゃんが持つトレーはどんどんパンで溢れていく。こんな可愛い顔して、実はとんでもない胃袋の持ち主でこれぐらいならペロッと平らげてしまう……らしい。

そして、抱えきれないほどになった所で翔也と沙綾ちゃんが待つレジへ。さらに、彼女の趣味をここで全解放する時がきた。

 

 

 

「支払いは……これで」

 

 

 

 彼女の左手には、沢山のポイントカード。

ポイントカード集めが趣味の彼女、下手したらこのパンの代金全てを賄えるんじゃないかと思う。

 

 

「え、えっと……」

「お前、まさかそのポイントカードだけで払おうとか思ってないよな……?」

 

「え、そうだけど?」

 

 

 

 って言うか、そのつもりだったみたい。

こんなお客さんやだなぁ……利益出ないもん。 翔也も沙綾ちゃんも戸惑ってるし。

 

 

 

「ダメかなぁ?」

「う、うーん……」

「……仕方ないな。持ってけ、いつも世話になってるから」

 

「ありがとー」

 

 

 

 結局折れたのは、パン屋の方。

袋からもはみ出るほどのパンを持った僕が……そう、モカちゃんがじゃない。()だ。

 

こんな重いものを持たせて、モカちゃんに何かあったら大変。

だからこうやって、彼女と別れるまでの間だけでも僕が持つようにしている。

 

 

……とか言うと、カッコいいんだろうけど実際にはモカちゃんに持たされているんだ。いつも「はるくん、お願いねー?」って言われて断れないのだ。可愛いって大罪だよね。

 

 

 

「ありがとうございましたー!」

「晴架、気をつけろよー?」

 

 

 やまぶきベーカリーを後にして、またまたモカちゃんと歩く。

すっかり陽は落ちかけて、電灯がつき始めてる。こう思うと、僕はモカちゃんとどれだけ一緒にいるんだろう。

 

 

「あ、じゃああたしはこっちだから」

「そっか。じゃ、また明日だね」

 

 

 モカちゃんにパン屋の袋を渡す。また思うんだけど、この量を本当に1人で食べるなんて信じられないな……。

 

 

「ねー、はるくんは何が欲しい?」

 

 

 別れ際、そう聞きながらモカちゃんが袋をガサゴソと漁り始める。

こうやっていつも、僕にパンを1個分けてくれるんだ。

 

 

 

「……欲しい」

「んー? よく聞こえないなー。ほら、もう一度、ワンモアプリーズ?」

 

 

「モカちゃんが欲しい!」

「えっ……?」

 

 

 驚いたような表情を浮かべるモカちゃん。当たり前だ、そんな経験をした事がないはずだし。

今、僕が欲しいのはパンなんかじゃない。いや、パンも好きだけどね?

 

ましてや、お金とかバンドとしての成功でもない。そんなものはこれからの頑張り次第でいくらでもなんとかなるから。

これだけは、これからなんとかなるなんて保証がないから。

そして、伝える勇気なんて次いつ出来るかなんて分からない。

 

 

「…………」

 

 

 

 すっかり黙ってしまったモカちゃん。

これはダメなやつなのかな。正直、悲しいけどそれが答えなら僕は尊重しなくちゃならないよね。

 

 

 

「ごめん、モカちゃ……」

「ふふっ、はるくんも言うようになったねぇ」

「え……?」

 

 

 

 顔を上げた彼女は、目に涙を浮かべつつも笑ってた。

信じられないと言いたげな表情と嬉しそうな笑顔をして、それからモカちゃんも口を開いた。

 

 

「あたし、青葉モカもはるくんが大好きだよ」

「モカちゃん……!」

 

 

 

 ……と、こんな感じかな。

よし、シミュレーションは完璧だよ! 後は僕が言うだけ……!

 

 

 

「……チョココロネください」

「りょーかーい」

 

 

 

 無理でした。恥ずかしいし、嫌われちゃったらどうしよう……とか考えると言える訳ないよ。

僕の右手にチョココロネを握らせて、モカちゃんはたったと去ってしまった……。

 

 

〜※〜

 

 

「ただいまー……」

 

 

 帰ってくる頃にはとっくに日も暮れていて、辺りは闇に包まれていた。

これから宿題とかもしなくちゃいけないし大変だけど……やりがいはあるんだよね。

 

 

「ふん……くっ……」

 

 

 

 自分の部屋に戻るためには居間を通らなくちゃならない。

そんな居間では、真っ白なタンクトップを身に纏った氷雅が腹筋に励んでいた。

なんでこんなに似合ってんの。僕が着たら貧弱だし、似合わないからなぁ。って言うか、着てる人そんなに見かけないし。

僕はそんなに着たくないし。別に似合わなくたって構わないし。

 

 

「どれだけ自分に厳しいの?」

「うっせーわ。バンドマンが貧弱な体してたら情けないだろ」

「外面がオシャレだったら気にすることないんだけど」

「ほらほら、あと背筋にスクワット、腕立てするからさっさとあっち行けや」

「はーい……」

 

 

 テーブルの上にはアクエリアスが置かれて、本気の運動に勤しむ氷雅を横目に自分の部屋に戻る。

 

 

 

僕の部屋には、今まで行ったライブのTシャツやタオルなんかが飾られている。CDもバンドのが所狭しと置かれている。ちなみにカレンダーも好きなバンドで揃えちゃいました。

 

 

「わからずやには見えない魔法を、もう一度」とそれに込められたメッセージ。僕の憧れで、目標だ。

 

将来はロックで生きていきたら、なんて思ってるけどそれもまだ大声で口に出せるようなものじゃない。

 

ただ、奏でたいんだ。

モノクロでは説明できない、完全無欠のロックンロールを。

 

 

そして、そのカレンダー。ちょうど来週かな。

 

 

【ライブハウス・CiRCLE 初ライブ!】

 

 

「ちょっとだけ、ギター練習しよっかな」

 

 

 チョココロネを咥えながら、そのバンドが使用しているギターとタブ譜を引っ張り出す。

そのタブ譜の曲名は「フルカラープログラム」。 そのライブで最後に演奏しようと考えているんだ。

 

まだまだオリジナルのレパートリーは少ないし、僕が歌うのも恐れ多いんだけど、でも。

 

不恰好で、不器用でも構わない。それもいいでしょう?

 

 

 

 ギターを構えて、練習を始めようとしたその時。

今度はポロンと、スマホから通知音が。

 

 

怜が新しい動画を投稿したらしく、その通知を知らせるものだった。

 

 

「やっぱりちょっと見てからにしよう」

 

 

 ベッドに寝転がってそのスマホを開いて、また彼の透き通った声を聴き始めた。

 

 

 

さてさて、これは。

 

 

青春と音楽、それから絆とか恋だとか。

 

色んなものを詰め込んだ青春物語(アオハルストーリー)––––––

 

 

 

『BanG Dream! 〜アオハルエクスペリエンス!!〜』

 




本日の脳内エンディング
「フルカラープログラム」♪UNISON SQUARE GARDEN

 と言うわけでいかがでしたか?
久しぶりに書くので大丈夫かなぁなんて思ってましたが、気がつくと1万字手前にまで及んでました(笑)

とは言え、投稿ペースはあまり速くならないかなと思っています。
よくて週1、悪けりゃ1ヶ月(笑)

まぁ、適当に頑張るので応援して下さいな。

それではっ!

ちなみに、この名前でガルパもやってるんで協力ライブの際はよろしくお願いしますね?
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