歩けば世を馴らすモモンガさん   作:Seidou

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14話を改めて書き直して投稿しております。
後半だけが変わっていますのでそこから見てもらえれば問題ありません。
色々とご迷惑をおかけしております。
ラキュースさんのイベントとかは後々に廻すことになりました。
他、イビルアイが天使なのは変わりなしです。
コメント稼ぎになってはいけないので同時投稿になります。


王都最後の夜(下)

 ―――最初に出会った時の感想は異常者であり凡人。それがあのモモンという存在に感じたことだ。

 だが利用は出来る。ガゼフを救い、可能な限り王国が崩壊するまでの時間を伸ばす。それだけのはずだった。協力を申し出て来たときは意外だった。アレは人間に思い入れはあっても肩入れはしない、そういう存在だ。

 アレがいる以上蒼の薔薇は使えない。吸血鬼が怪我をすれば飛び火する可能性があるから。そうして劇薬を打つ事になった。一度打ってしまった以上、消しきらなければ再発する。病とはそういうものだ。少々無理矢理ではあるが王国の膿を吐き出させてもらおう。そういう計画だった

 だが誰があのデイバーノックが原因で吸血鬼が捕らえられると思うだろうか?計算しようの無い部分によって自分の計画はあっさり破綻した。

 ―――終わりだ。間違いなくあのモモンは王都を…いや、王国すら滅ぼすだろう。アインズ・ウール・ゴウン。ガゼフから聞いた名前、恐らくそちらが()()なのだろう。恐ろしい力を宿した化け物だ。

 出来ることといえば精々が自分の目の前で癇癪を起こされないよう()()()調()()するぐらいだろうか。そう計算し、上の兄を生け贄にし、レエブン候には時間稼ぎの道具となって貰う。彼が王城に侵入した後、別れたフリをして来た道―――秘密の地下通路に舞い戻る。

 あの男はあの吸血鬼があれほどの状態に陥った状態ならば間違いなく騒ぎを起こす。それも一方的な力で以って。

 王城に未だイビルアイが居ると思わせて、そしてそのうちに王都を出る。策などそのくらいしかなかった。

 

 今、ラナーは王都の壁の外。隠された通路を使って都外に出ていた。

 

 

 

 

「ラナー様!!良かった、ご無事でしたか!!!」

「クライム!あなたこそ良かった!!」

 

 クライムだけは死なせたく無いと、理由をつけて王都外へ出し、馬車の手配をさせていた。夜と言えどお忍びの多い貴族の密集地、夜の業者も当然いる。どうやら準備は出来ているようだ。

 

「煙が上がり始めたのでどうするべきかと悩んでいましたが…あぁ、お待ちしていてよかった」

 

 心の底から心配と安堵の声を上げるクライム。後ろを見れば既に王都は防壁越しに煙が上がり、事が起こっていることを理解させる。最早一刻の猶予もないだろう。

 

「さぁ、ここに残っていても危険なだけ、行きましょう」

「ど、どちらへ行かれるのですか?」

 

 クライムの疑問ももっともだろう。王都外に目立たないよう馬車を用意しておいて欲しいと言われ、お忍びでもするのかと手配を済ませたら壁の向こうからモクモクと煙が上がっているのだ。それも何十個も。

 何かあったのかと舞い戻る直前になってラナー王女は姿を現した。ホッと溜息を吐いたのは当然のことだろう。

 

「とりあえず、エ・ランテルに行くべきでしょうか?帝国と法国、どちらにもアクセスできる位置がいいわね」

「あ、あのラナー様?王都で一体何があったのでしょうか?」

「大丈夫よ、クライム。ちょっと()()があっただけみたいだから」

 

 「えぇ?」と困惑の表情を見せた後、ラナーを見つめるでもなく空を何かボウッと見つめ、やがて視線がラナーに戻る。―――あぁ、やっぱりこの視線は堪らない。クゥ堪らない!!

 そんな素っ頓狂な思考に一瞬でも気が散ってしまい。後ろに接近する気配に気づくのが遅れてしまったのは言うまでも無い。

 

「ラ、ラナー様!!!!」

 

 クライムがそう叫びながら彼女を守ろうとする。ガバッ!と覆いかぶさろうとしてくるクライムにキュンと心を打たれる王女、この瞬間だけはバカそのものだった。

 

 

 

 

「―――ふぅ、とりあえず王都は出れたな。大丈夫か?キーノ」

「…うん、大丈夫。もうだいぶ良くなった。」

 

 モモンガの腕に抱きしめられながら<飛翔(フライ)>でここまで移動してきていたイビルアイ。傷は未だ深く、足の先はまだ半ばほどしか生えてない、そして何故か顔は真っ赤だった。

 

「顔が赤いけど、平気か?」

「うん、平気だ」

 

 素直だ。最近のツンケンしたイビルアイではなく、キーノの頃の素直さを見せている。

 自分の顔をジッと真っ直ぐ見つめてくるイビルアイの姿に疑問を浮かべつつ、すぐ先にいる存在に気づいた。どうやら御付きの青年らしき者が身体で庇いながらも此方に剣を向けている。

 

「キ…イビルアイ。目を閉じていろ」

「分かった」

 

 本当に素直だ。子供らしかったあの当時を思い出す。だが今は目の前のことだ。なんと王女様がまん前にいるのだ。偶然降り立った先にいたラナーの存在に驚きを覚えずにはいられない。

 

「…モモン様、で間違いないでしょうか?」

「え!?モモン様でいらっしゃるのですか?剣士と伺っていたのですが?」

「あぁ、えーと…」

 

 何と言うことだ。自分は今魔法詠唱者の格好だ。勿論嫉妬マスクも被っている、この姿ではラナーとは面識が無いはずなのである。そこを頭の良いラナー王女に一発で見破られてしまった。―――実際には最初からバレているのだが、彼が知る由も無い。

 だがこの格好をモモンと喧伝されては困る。だからこそ分かっていても嘘をつき続ける。

 

「モ、モモンとは誰のことかな?私はアインズ・ウール・ゴウンというのだが?」

「…私を消しに来たのですか?」

「王女様にそんな事をするつもりは無い」

「ではどうしてここに?」

「あぁ、まぁ私の()()であるイビルアイを回収してきただけだ。ここには偶々着地した、というわけだ」

「モノ…」

 

 何故かモノと言う単語に強く反応する。何か彼女の興味を引くものがあったのだろうか?

 だが何を思ったか。ラナーは懐からあるものを取り出す。

 

「…どうぞ、これでお見逃しください」

「何だ?―――ファッ!?」

 

 鎖が繋げられた首輪。手足の枷。明らか奴隷用の道具だ。何で王女様の懐から出てくるのか?疑問しか浮かばない。

 

「コレを…どうしろと?」

「ご心配は要りません。これは予備の方なので」

「予備!?」

 

 なんだ、この王女様は。何か見てはいけないものを見てしまった気がする。だが次に起こる出来事もモモンガの想定の上を行く。

 

 ―――カシャン―――

 

「ちょ!?キ…イビルアイなにをしている!?」

「その、ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします」

「何がだ!?」

 

 奴隷装備を身につける少女の姿がそこにはあった。モモンガがローブを被せてあげたとはいえ、未だその下は全裸だ。はっきり言って犯罪臭以外のなにものも感じられない。―――というか目をつぶりながらも受け取って装着していくのは器用だな。純粋に感心してしまう。

 

「その、私はサ…アインズ様の奴隷なんだろう?必要なんじゃないか?」

 

 そういいながら横を向き、耳を真っ赤にさせる。まぁ、設定的には必要かもしれないが…。

 

「その、オモチャなんだろう?欲求を満たすんだろう?…好きにしてくれていいからな」

「…あれはその場を凌ぐ為の嘘であってだな」

「嘘なのか…」

「ウッ」

 

 ションボリとした様子を見せるイビルアイ。間違ったことは言ってないはずなのにこちらが悪いことをした気分になる。

 

「その、大切なのは嘘じゃないから…今は、それで、勘弁してくれ」

「…分かった」

「ラナー王女」

「…はい」

 

 何故か緊張した面持ちの王女に声をかける。絶望のオーラも不死のオーラも切っているのに何故だろうか?顔も隠しているからモモンとばれていても怖いと思うことは無いはずだ。

 

「急ぎでないならばそこの馬車の中でこの子を休ませては貰えないだろうか?まだ自由には歩けないのでな」

 

 足の指先もまだ生えきってはいない。死者(アンデッド)だから時間が経てば自然に治るとはいえ地べたに寝そべらせるのも気が引ける。夜とはいえ周りに見える状態で休息をとるのは危険だろう。目下大量殺人の実行犯なのだから。ネガティブタッチで彼女を癒すためにも、ゆっくりとくつろげる空間を求めて要求をする。

 

「…わかりました、どうぞお使いください」

「あぁ、感謝する」

 

荷台に乗り込み、幌の中で二人きりになる。どうやら気を使ってくれたのか、御者の人も席を外してくれた。丁度いい―――魔法で遮音をし、堂々と会話することにした。

 

「ほら、休め…あと、コレを渡しておく」

「ん?これは…昔使ったことあるな。入れ替えのマジックアイテムか」

 

木製の変な顔が描かれた人形を手渡す。ただの外れ課金アイテムだが、これでイビルアイの危機が救われるなら何よりもの価値がある。

 

「あぁ、今回みたいにすれ違いが続いて窮地に立たされては不味いからな。それとこれも」

 

 手のひらサイズのハンドベル。マジックアイテムのそれは同じものを持つもの同士、鳴らせば相手が何処に居ようと用事があることを伝えてくれる代物だ。落ち着いた状況でなければ使えない伝言よりも便利だろう。

 

「何かあったらそれを鳴らすんだ。そうすれば俺が入れ替わって問題ごとを解決してやるから。いいな?」

「うん、ありがとう…」

 

 そういいながら、イビルアイがすぐ傍に近寄ってくる。

 

「―――サトル、ちょっとしゃがんで欲しいんだが」

「ん?どうした?」

 

 言われ、素直にしゃがみ込む。ニコリと微笑み、モモンガの仮面に手をつけ剥がす。

 

「キ、キーノ?どうし―――」

 

 

 

 

 口を塞がれた。少女の柔らかな唇の感触が自身の口に伝わる。匂いの無いはずの死者(アンデッド)なのに、ふわりと良い香りが鼻腔をくすぐる。その柔らかい少女の唇とサラサラとした髪の毛のくすぐったい感触に思考は停止し、ただされるがままに動きを止めていた。

 

 

 

 

 そうして長いファーストキスが終わった時。離れる彼女の顔は真っ赤だった。少しだけ視線を外して恥ずかしそうに微笑む。その笑顔はとても美しく思えた。

 

「その、すまない…今の私には返せるものがコレしかなくて…」

「…いや、その」

「―――一緒に居させてくれないか?どうせもうラキュース達とは一緒に居られない。少なくとも王国にはな…勝手な女だと笑ってくれても良い。ただ、傍に居させてほしい」

 

 それは少女の純真な思い。もう一度会えば恋がとまらなくなると言っていたその想いが形になったのだ。

 そんな彼女に対し、モモンガは―――

 

「その、こっちこそ。すまなかった。…あと、勝手なんかじゃない。傍に…居てくれると、嬉しい」

 

 彼にしては珍しく、言い切った。ラキュースに励まされた経験がこの一言を生み出したのかもしれない。頬を手で抱え込んでる辺りが様になっていないが。

 

「ありがとう!サトル!…それで、これからどうしようか?」

「そうだな…帰るか?」

「それは不味いんじゃないか?」

「ん?なんでだ?」

「だって、連れ去られた私がそのままぬくぬくとあっちに居ちゃ、評議国が協力したみたいじゃないか?」

「あ、あぁー…そういえばそうだな」

 

 ヤバイ、ツアーに殺されるところだった。一回はもう確定してるけど。二回とか嫌だ。レベル戻すのにどれだけ苦労することか。

 

「それに―――サトル、もう一つ()()があるんじゃないのか?」

「…何を言って―――」

「いいんだよ、私はその()()()でも。処刑されそうな時にサトルの事考えててさ、気づいたんだ…()()()()()は動かなかったのかどうか知らないけれど」

「………」

 

 また黙り込むモモンガの登場だ。「仕方ないなぁ」と笑うイビルアイ。その顔はどこか、慈母のようなものをモモンガに感じさせた。

 

「サトル、…いいんだよ。また()()()()()なら、()()()()。私は傍にいるだけで幸せだから」

「―――!!…あ、ありがとう」

 

 

 ただ、一言。それだけで精一杯だった。

 

「それに、待つのは止めにする。これからはこっちからベタついてやるから、覚悟しててくれ」

「う…、お、お手柔らかにお願いします…。」

 

 ニヘラ、と可愛らしい笑みを浮かべながらイビルアイはこちらを見つめてくる。だがすぐに真剣な表情へと変わる。

 

「―――ラキュース達を助けてやってくれないか?」

「ラキュースさん達を?なんでだ?」

「あのデスナイト達を倒そうと今頃必死だろうからな。分かるんだ。」

「…あれ時間経過で消えるぞ?」

 

 死体を使ってないのだ。放っておけば消滅し、そのまま事なきを得るだろう。それに蒼の薔薇は攻撃される理由が無い。邪魔すればちょっといたぶられるかもしれないが、それだけだ。

 

「そういう問題じゃないさ。傷つくのが嫌なんだ。サトルが私を…その、守ろうとしてくれたように」

 

 顔を真っ赤にしながら言ってくる。どうにもこっちも照れくさくなってくる。

 

「貴族はいい気味さ、レエブン侯は若干哀れだったがな…サトル、頼む」

「…わかった」

「ありがとう!」

 

 目を大きく開き、赤い目が馬車の中の暗い空間でも光煌く。そのまま見つめあい、イビルアイはそっと近づいてきて―――

 

「あ!い、行って来る!!ラキュースさん達を助けてくるからな!!」

 

 慌てて出て行くモモンガ。彼はやっぱりヘタレだった。

 

「…全く。もう一回くらいいいじゃないか。こんなに幸せな気分になれるのに」

 

 そう愚痴りながらも、イビルアイの表情は幸せそのものだった。今、彼女は救われていた。それはモモンガがなしたことに違いない。そうして走り出したモモンガはやがて空を飛び、王都へと再び再臨するのであった。

 

「ラ、ラナー様?一体どうすれば?」

「…とりあえず、待機しましょう」

 

 クライムの動揺の声。何が起こっているのか彼はさっぱり分かっていない。ラナーは考える。

 

(警戒の対象は王都へ戻っていった。粛清の続きか…この置き土産は()()()()()という意味かしらね。少なくとも勝手に動いたり、放置して立ち去るわけにはいかないわ…何故これほどまでにタイミングよく?何故?あの男の考えは読みきれない…)

 

 圧倒的知能を持ってしても、偶然着地したところに居合わせただけなのを即時に読みきることは出来なかった。

 そしてそんな状況下で、更に現れる存在があった。ティアだ。ニュルン―――とイビルアイの影から躍り出る。

 

「うわっ!?いたのか、ティア」

「さっきからずっと…お楽しみでしたね」

「ウギッ!?み、見られていたか…」

「ごちそうさまでした」

「う、その…あんまり言いふらすなよ?」

「了解した…あれが本当のモモンの姿?」

 

問いかけてくるティア、それはつまり彼女はモモンがアインズであることを気づいているという事だ。

 

「あぁ…。内緒だぞ?」

「勿論。イビルアイを助けてくれた恩人。格好良かった」

「そうか、そういってくれて…ん?格好良かった?」

 

何か妙なニュアンスを感じ、疑問系の返答をしてしまう。イビルアイがどういう意味なのか聞こうとする前にティアが言葉を放つ。

 

「あと、服。それと装備も取ってきておいた」

「あぁ、すまないな?気を使わせた―――ん?あれ?何で仮面が綺麗な状態であるんだ?」

 

パックリと二つに割れたはず、何故ここに綺麗な状態であるのか疑問が沸くのは当然だ。

 

「それが本物、今日被っていたのは偽物」

「何!?一体いつの間に…!」

「ラキュースにおめかしされてる最中にこっそりと」

「ティア…お前な」

「ラキュースも協力してた」

「…ラキュース、アイツめぇ」

「色惚けてるのが悪い」

「惚けとらんわ!!」

 

 そうして軽口をいいながらイビルアイの姿をじっと嘗め回すように見つめるティア。不審さを感じて問いをかけるのは当然だ。

 

「な、何だ?何か私にあるのか?」

「服…」

「あぁ、脱がされたからな。今はモモンがくれたローブを着てるだけだ」

「つまり―――下は裸!」

 

 バッ!と身を屈め―――屈めるなんてレベルじゃない。床に這いつくばって下から覗きあげようとしてくる。

 

「ちょ!!見るな!!!何考えてるんだこのバカは!!!」

 

 顔を蹴飛ばそうにも見られるのが嫌で内股になり、ローブで必死に隠すしかなかった。

 

「見るなー!!!!」

 

 そんな可愛らしい少女の叫びが、王都の近郊の夜に響いていた。

 

 

 

 

 

 

 「―――」

 

 (サトル、良いんだよ。また出会いたいなら、出会えば―――)

 

 そういってくれた少女の事を思い出す。

 その感情がどういったものか自分には分からない。ただ、そう言ってくれた少女の言葉よりも何よりも、笑顔が眩しいと感じてしまった。

 

「アァ―――」

 

 何故だろう、沈静化が起きても良いはずの感情なのに、それが起きる気配はない。分からない謎の感情にただ心が震え上がる。

 

「アァァ―――!!」

 

 ただ一人、この言い様の無い感情の波に、無いはずの心臓がトクンと音を奏でた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソがっ!!クソがぁぁぁ!!!!」

 

 万が一のときの為に人質にする予定だった女を蹴り飛ばす。「ヒギッ!」という声が出た後、女―――ツアレニーニャ・ベイロンは静かになった。死んではいない、単に男―――ゼロの一撃を受けて気絶したのだ。

 

「なぜだ!!なんで処刑が失敗に終わったぁ!!!」

 

 彼はここで漆黒の剣士を待ち構えていたのだ。あの男は必ずイビルアイを助けに現れるだろう。そう見込んで待ち構えていたのだ。強者とみられる相手の情報を知り、人質―――もしくは囮として使い奴を殺してやろうと待ち構えていたのだ。

 

「それに何だあいつ等は!!何故あんな化け物連中が出てきた!!?」

 

 今広場で行われてる大虐殺に慄きながら怒りを顕にする。そう、今中央広場では八本指の処刑が執行されていた。今も広がり続ける肉塊にいずれ自身もそうなるのではと恐怖の色を宿しながらゼロは隠れ潜む。

 アジトにおらず、表で行動し続けたことが彼を救っていた。巨体を持つ死の騎士(デスナイト)では細かな部屋へは入れない。そうして広場のまん前の家屋に潜んでいたのだ。

 

「無力な女性への暴力とは、関心しませんな―――」

「あぁ!?誰だ!!!」

「なぁに、少しばかりそこの女性を探すよう頼まれた者ですよ」

 

 ニグン・グリッド・ルーインがそこにいた。モモンガとの約束を果たすべく、彼は行動していたのだ。アジトらしき建物を探して裏路地を探索していたが、広場の騒ぎに気がつき、こっそりと建物から様子見をしようとしていたのだ。そして偶然にも目標と出会うことが出来た。僥倖だ、まさしく神の計らいという奴だろう。そう思いながら臨戦態勢を整える。装備品は没収されていたが、この状況はある意味で味方だ、どうすべきか考えつつ目の前のハゲと対峙する。

 

「ハッ、見れば囚人服じゃねぇか。そんな丸腰の装備でこのゼロ様に勝てると思ってるのか?」

「フン、相手の力量も確かめないままに奢る…まさしく愚か者だな。…ちょっと前の私を見ているようだ」

「アァ!!?」

「まぁいいさ。モモン殿との約束だけは果たす。怨みはないが覚悟しろ」

「上等だ!この俺に貴様一人で勝てると思ってるなら―――」

「一人ではない」

 

 彼の後ろから既に発動されていた召喚魔法<第三位階天使召喚(サモン・エンジェル・3rd)>で呼び出された炎の上位天使(アークフレイムエンジェル)が二体。更には監視の堕天使(プリンシバリティ・オブザベイション)がニグンの後ろに居た。

 

「私は集団戦を得意としているものでね…失礼だが、数の暴力と行かせて貰おう」

「ハッ!!この狭い空間でそんな空中型モンスターは唯の―――」

「なら、部屋を広げればいいだけさ。アークフレイムエンジェル!!」

 

 二体の天使が壁を叩き、隣の部屋が見える。そうして部屋を広げ、外へと繋げてしまえばいい。デスナイトがそれに気づけばゼロは瞬く間に捕まってしまうだろう。

 

「八本指とやらは悪魔に怨まれたらしい、全員殺されていってるぞ?あぁ、君も直にそうなる」

「キサマァアアアアアアア!!!」

「やれやれ、焦りは油断を生むぞ?」

 

 そうして彼等の戦いは始まった。壁を壊し尽くせば良いだけのニグンと三体の天使とニグンを殺しきらなければならないゼロ。決着はすぐにつくことは違いない―――。

 

 

 

 

 

 

 

 王都のど真ん中には次々と八本指の関係者が集められていく。その姿はほとんどの者が手足をへし折られ。抵抗も出来ない状態になっていた。

 

「イヤダァァア!!助けてえぇぇ!!!?」「ギャアアアアアア!!!脚があああああ!!!!?」「し、死にたくなグビュッ!!?」

 

 そう叫んでももう遅い。上位死霊(ハイレイス)が心を死に追いやり。血肉の大男(ブラッドミート・ハルク)が両手を握り合わせ、力のままに叩き潰し、魂喰らい(ソウルイーター)がその魂を奪う。そうして王都のど真ん中の広場では目下死屍累々の地獄絵図が開かれていた。

 

「ウッワァ、結構凄いなコレ」

 

 空から状況を眺めるモモンガ。結構凄いなとか言ってるがやったのは彼だ。他人事すぎる。

 

「まさか川が真っ赤になるほどの数居るだなんて…モモンじゃ潰しきれないぞこれ」

 

 目の前の八本指と思しき連中は軽く見積もっても3000人以上はいるだろうか?既に死んでるのも含めれば4000人はくだらないだろう。それだけの連中が次々と死の騎士(デス・ナイト)によりポイポーイと放り込まれ、続々と死んでいく。まさに地獄絵図だ。

 そんな中でもアインズで潰せる機会があってよかった等と呟く彼はやはり異形だった。

 

「ん?あれは―――キーノの言うとおりか」

 

 見ればラキュースは次々と処刑を実行していく三体のモンスターに迫ろうとデスナイトと戦っている。流石にデスナイトに勝てはしないのか、近づいては吹き飛ばされるの繰り返しだ。何故敵だった八本指の為に戦うのか?

 見れば彼女に続きガガーランとティナが戦いを挑んでいる。それ以外にも王都中の冒険者達が近づいては吹き飛ばされを繰り返していた。

 

「うおぉぉ!!武技!<超級連続攻撃>!!!!!」

 

 ガガーランのいくつもの武技を重ね合わせた怒涛の15連撃がデスナイトを襲う。袈裟切り、突き、なぎ払い、いくつもの武技が放たれる。だがその攻撃の全てはデスナイトの持つタワーシールドに吸い込まれていく。40レベルにもなるその防御力を彼女では突破できないのだ。

 

「プハッ!!!なんて野郎だこいつら!俺じゃ押すこともできないぜ!?」

「ガガーラン!諦めちゃだめよ、こいつらを倒さないと!!次は私達がやられるかもしれないわ!!」

「わかってらそんなことよぉ!!!」

「まずは盾をどうにかすべき、何とかして手放させるしかない!!」

 

 そういい、またデスナイトに立ち向かっていく。彼女達はイビルアイが居なくても英雄だった。戦力的にかなり落ちるとはいえまさしく英雄的行動をしていたのだ。イビルアイは間違いなく彼女たちのことを理解していた。それが嬉しくもあり、そして少し寂しくもある。そんな自身の心にフッと笑いながら彼は魔法を唱える。

 

「<完璧なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)

 

 

 

 

 

 誰もがデスナイトを打ち倒すことを諦め始めた頃、空から一つの存在が舞い降りる。

 ドスン!という音と共に地面の血が跳ね、その漆黒の鎧を染め上げる。赤いマントは血を吸い、どす黒く染まる。血の付いたその黒い鎧は月夜に映え、まるで一つの絵画のような美しさと共に敵を睨んでいた。―――漆黒の剣士がそこに舞い降りていた。

 

「モモンさん!?今までどこに行ってたんですか!?」

 

 ラキュースが叫ぶ、彼女の無垢なる白雪(ヴァージン・スノー)は完全にドス黒い赤に染まっており、美しいはずの髪には八本指だったものの臓物の一部がこびり付いている。酷い状態だ。

 

 

「あぁ、えーと。その、道に迷ってまして」

「えぇーっ…」

 

 この状況で迷子かよ!という微妙な空気が流れる。だが仕方ない。まさかさっきまで魔王やってましただなんていえないのだから。周りからはドヨドヨと囁き声があがる。彼は冒険者でもないのだ、突然空から現れては周りの冒険者達が困惑するのも当然だろう。

 

「とにかく、アレを倒さないといけません。モモンさんも協力してください」

「あれは八本指を攻撃してるだけに見えます。止める必要も無いのでは?」

「…ここは人間の国です。滅びるも生きるも人間が決めていくべきことです。アンデッドに裁かれるのではなく、人が人を裁くべきです!!」

 

 そう言い放ち、モモンガを真っ直ぐに見つめ返す。その瞳は強い芯を持ち、キッと結んだ唇はそれでいて尚美しい。太陽だ。まさしく彼女は太陽なのだ。彼女の言う人間が決めていくべきこと、というのは何かストンと理解できるものがあった。滅びるなら滅びるで人間が自分で行った行為の上で滅びるべき。モモンガのような異形の力で滅びたくは無いということなのだろう。亜人や異形だってそれぞれの理由で生き、滅びているのだから。

 

「―――分かりました、では仕方ないですね。…そこのモンスター共、そこまでだ」

 

 ちょっとした指示を出すつもりで周りにバレないように声をかける。

 

「グオオォォォ!!!」

「キエェェェェ!!!」

「ヌオオォォォ!!!」

「―――!!!!!」

 

 ヤバイ、素直すぎる。姿が変わっても問題なく召喚主の返事に応答するアンデッド達。見た目が違うから敵対しましたなんてことは絶対無い。それでは召喚なんておちおちできないのだから。バレないかなこれ?と思うのは当然だ。だが他人の振りをしながら指示をだす。

 

「八本指を駆除してくれてる中、悪いが倒すことにした。―――まぁ、かかってくるならかかってこい!!」

「グオォォォオ!!!」

「キエェェェエエ!!!」

「ヌォオオオオオオ!!」

「―――!!!!」

 

 さっきより良い反応が返ってくる。(最高です主よ!!斬って下さい斬って下さい!!)そう叫ぶアンデッドチームに少しばかりの罪悪感を感じるが、ともあれ舞台は整った。

 

「では悪いがやらせてもらおう!!!いくぞ!!!!」

 

 大仰に台詞を吐き、目の前のデスナイトに攻撃を仕掛ける。大きくフランベルジュを縦に振りぬき、攻撃を繰り出すデスナイト。だがレベル100相当の戦士になる<完璧なる戦士>状態のモモンガにとって敵ではない。二振りの大剣を振り回し、フランベルジュを跳ね除けそのまま斬り進む。五秒で一体のデスナイトは滅びた。

 そのまま立て続けに剣を振り回し、隣に居たデスナイトを連撃で切り崩し。もう一体が反撃に繰り出したフランベルジュを掻い潜り、タワーシールドは力で持って跳ね返す。剣で足を切り裂き、横倒れになったデスナイトは隣の同胞に崩れかかる。

 

「オオオアォアアアアア!!!!!」

「―――フッ!!」

 

 同胞に押しつぶされたデスナイトが咆哮をあげる、それにとどめの首狩りの一撃を浴びせかけ、そのまま飛躍―――前転を繰り返しながらもう一体に斬りかかる。盾を構えた腕ごと切り裂き、胴体を上下に分ける一撃を放つ。フランベルジュを突き刺してこようとしたデスナイトを少しの体の捻りで避け、フランベルジュを大剣で叩き潰し、そのまま顔面に蹴りを入れる。吹き飛んだデスナイトに休む暇も与えず剣を突き立て、絶命させた。

 ―――あっという間に六体のデスナイトは屠られた。

 次はソウルイーター達の番だ。魂を大量に吸い、通常よりも濃い黄色のオーラを纏った醜い腐った肉が所々こびり付いた骨の獣が突進してくる。だがその動きを飛躍してかわしながらも縦に真っ二つに切り裂く。アストラル体のハイレイスは遠距離攻撃を仕掛けようとする。だが、持っていた大剣の内一本を投擲し、予め魔法で作っておいた大剣に付与させた属性魔法の効果によって刺し貫かれ消滅する。

 ブラッドミート・ハルクは低い知性そのままに両手を持ち上げ攻撃を打ち下ろす。その腕を瞬間的に切り落とし、最後に縦に切り裂き絶命させる―――この一連の流れは僅か二分と経たずに繰り広げられた。

 

 「す、凄い…!」と、思わず呟きながらラキュースは考える。

 

(これなら、これなら勝てる!!!アインズ・ウール・ゴウンからイビルアイを取り返せるわ!!)

 

 ラキュースだけでなく、ガガーランも、ティナも生気を取り戻していく。彼女達だけではない、その場の全ての存在が驚きと生への希望へと彩られていく!!「凄いぞ!!」「生き残れるんだ、俺達!!」どんどんと希望の言葉が沸き立ち、冒険者達は活気を取り戻す。

 

「グォオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」

 

 ドスドスと足音を鳴らしながら近づいてくる最後のデスナイト。回収中だったらしくポイポイと足や腕を折られた八本指の構成員が崩れ落ちる。哀れという感情は湧かない。今日をもって壊滅してもらう予定なのだ。もっとやられろという気持ちしか湧かない。

 

「さて、最後だ。いく―――」

 

 その時、ガシャアン!!という音と共に壁が崩れる音が鳴り響く。

 目を向ければ家屋の壁が壊れ、八本指のゼロの姿が映し出されていた。

 

「クソガァアアアアアアア!!!」

「ふん、勝負ありのようだな?」

 

 壁に穴を開ける要員を用意さえすれば後は防御に徹するだけ。監視の権天使を使い守りを固め、アークフレイムエンジェルで壁を叩く、そこに位階魔法と自身の鍛えた身体を駆使して時間を繋ぐ。ニグンは決して弱者ではないのだ。彼の持つ生まれながらの異能(タレント)、召喚獣を強化する能力が更に優位性を保ったのだ。

 

 

 

 

「あいつだ!!モモンの旦那!!!あいつがイビルアイをメチャクチャにしやがったんだ!!」

 

 ガガーランが叫ぶ。彼女はイビルアイがボロボロになる瞬間をみていたのだ。目の前のゼロを倒したいという気持ちが湧いているのか睨みを効かせている。

 

「―――ほう…私がやってもいいかな?」

「あぁ!勿論だ!!!イビルアイの仇、とってくれや!!!」

 

 仇っていうと死んだみたいで困るのだが―――ともあれ、やることは決まった。ハゲ頭に向けて剣を掲げる。

 

「なら、私が討たせてもらおう。ゼロ―――貴様の墓場はここだ」

「クソガァァ!!どいつもこいつも舐めやがって!!!」

「一つ言っておく」

「アァン!!?」

「私は決して―――本気を出さない」

 

 こんなクソハゲにイビルアイが痛めつけられたのかと思うと怒りが湧く。だからこそ、このモンクと思わしき男には最高の屈辱を与えてやるべきだ。

 

「来い、恥辱に塗れた死を与えてやる!」

「なめるなぁああああああああ!!!」

 

 最早疲弊し、冷静な判断すらできないのか一直線に向かってくるゼロ。それでも彼は歴戦のモンクだ。シャーマニックアデプトの力を最大まで引き出し、全力で持って目の前の圧倒的強者を破るべく一撃を打ち出す。

 ―――だが、その拳は彼の鎧にコンッという音をたてさせるだけだった。

 

「はっ?…あぁ?」

 

 呆然としたゼロの表情、モモンガが固まっているゼロの顔に拳を持っていき―――ピンとデコピンする。

 ベチュン!!という音と共にとんでもない速度で飛んでいき、壁に激突してゼロは絶命した。

 

「…他愛ないな」

 

 その決め台詞と共に振り返る―――デスナイトが待っていた。それもジッと。何をするでもなく。斬って貰おうとジッとしていたのだ。剣とか盾とか地面に置いている。ヤバイだろう、これバレないか?明らかに不自然だろう。そう思い、急ぎモモンガは構える。

 

「と、とにかく最後だ!!!行くぞ!!!」

「グォアアアアアアアアアアアアアアアァアア!!!!!」

 

 特段大きく声を上げ、最後の別れを告げるデスナイト。彼を袈裟切りにして別れを交わす―――そうして王都に蔓延る悪鬼は消滅していった。

 

 

 

 

 

 

 

「や、やったぞ…やったんだ!!!」

 

 誰かが声を上げる。

 

「生きてる!!!生きてるぞ!!!!」

 

 周りから希望に溢れる声が上がり始める。

 

「あの剣士のおかげだ!!!誰だあれは!!?」

 

 言うまでも無いほどに英雄と言うべき者の名を尋ねる声が上がり始める。

 

「冒険者じゃないのか!?」「どこからきたんだ!?」「すっげぇかったぜ旦那ぁ!!!」

 

 次々と上がる声にモモンガも気をついついよくしてしまう―――立ち去ればよかったのだ。そのまま。立ち去らないから次の一言でとんでもないことになる。

 

「俺知ってるぞ!!!あの人は漆黒のペドって呼ばれてるんだ!!!!」

 

 モモンガが過ごしていた宿に居る男がドヤ顔で叫び始める。

 

「…ハ、ファ、えぇっ!?!?」

 

 モモンガの素っ頓狂な声が上がる、それも仕方ないことだろう。まさか漆黒のペドとか言われてるだなんて彼は思いもしていなかったのだから。

 

「ありがとう漆黒のペドーーーー!!!」

「ありがとうペドー!!!」

「ほら皆一緒に!!!」

 

 

 

 

「「「「「漆黒の、ペド!!漆黒の、ペド!!!!!ペーード!!ペーーード!!!ペーーード!!!!!」」」」

 

 周りに居る冒険者達が口々に叫ぶ、しかも何故かペドの方を。歓声は止まらない。

 

「ありがとうペド様ーーー!!!」

 

 人名になった。誰かが名前と勘違いしたらしい。

 

「ペド様ーーー!!!」「漆黒のペドーーーー!!!」「ペド様素敵ーーーーーー!!!!!」

 

 彼の生まれながらの異能(タレント)である主役は色恋多し(クリエイト・オブ・ザ・ハーレム)に当てられたと思しき女性達が叫ぶ。

 

「アァ…なんで?何でこうなったの!?」

 

 モモンガが叫ぶが時既に遅しだ。最早皆がペドペド叫んでいる。処刑台のまん前に居た貴族達だけは呆然としていたが、彼等以外の全て―――そう、ガガーランとティナも叫んでいた。

 

「ペドの旦那ーーー!!」「ペド野郎ーーー!!」

 

 酷すぎるだろう、仮にも仲間として共闘してたのに!

 

「ウチじゃゲス・ザ・ダークウォリアーって呼ばれてるぞ!!」「じゃあゲスさんか!?」「どっちなんだよ!!!?」「じゃあペド・ゲスだ!!!」

 

 じゃあってなんだじゃあって、絶対分かってやってるだろう。大体漆黒は何処へ行った。モモンガは突っ込みたかったが精神の沈静化が激しすぎて心が追いつかない。

 

「「「「「ペド・ゲス!!ペド・ゲス!!!ペド・ゲス―――!!!」」」」」

「「「「「ペード!!!ペード!!!ペード―――!!!!」」」」」

「「「「「ゲース!!!ゲース!!!ゲース―――!!!!」」」」」

 

 

 

 

 

「アァ―――ウアアァアアアアアアアアアアア!!!!アアアアア!!!!!!イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!?!?!?!?!」

 

 

 

―――夜が明け、光が漆黒の鎧を照らす中、そうしてモモンガの精神は壊れていったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――借りは返しましたぞ、モモン殿」

 

 民衆に称えられてる彼の姿を家屋の裏から眺めながらも女性―――ツアレを抱きかかえ、彼は一人呟く。

 あのアインズ・ウール・ゴウンが投入してきたアンデッドは凶悪だった。法国ですら戦えるのはごく一部のものだろう。勿論自分も戦えるはずも無い相手だった。

 だが彼はどうだろう?一人であれほどまでの相手を瞬く間に倒してしまったのだ。そんな彼の存在をなんとしても法国へ持ち帰らなければ。―――王都の神殿に行き、この女性を保護させ、そして我が母国へ報告をするべきだろう。そう思い、彼は称えられるモモンガに微笑みながら去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてこの一夜は終わり、王都は数千人以上の死傷者を出し、川は真っ赤に染まりあがり。腐敗臭のする遺体があちらこちらに点在する状況へと陥る。それは英雄が現れたとて決して平穏を取り戻せるものではない。彼等が立ち直るのはきっと彼等自身の力が必要だ。――だが王国に、そんなものはないのだ。

 貴族達は憔悴し、ほとんどの者は自領へと引き返し、そのまま戻ってはこなかった。―――レエブン侯もその一人だ。彼等貴族が全滅といっていいほど政治に関わらなくなったせいで国政は止まる。動かなくなる国政と大惨事をもたらしたこの事件。その爪あとは大きく。残酷な光景を目にした民衆は次々と王都を脱出し、政治を動かすのは最早第二王子のザナックのみと言っていい状態へと陥る。それはこの国が最早数年と持たないことを意味していた。バハルス帝国に勝てる未来は見えない。黄金と呼ばれた王女は未だ行方不明のままだった―――。

 

 

 この日、アインズ・ウール・ゴウンは世に爆誕し、王都は()()()()()()()()()()となる。そして同時に英雄ペド・ゲス――――もといモモンが誕生する。この二人はやがて世界を巻き込む動乱へと導かれていくのだが、まだ先の話だ。




王都は残念ながら崩壊ルートにしました。
といってもこのままではってパターンですが。
そしてセルフゲヘナみたいなイベントになりました。
ちょっと緩いですが。
モモンガさんはマッチポンプが標準なので当然のイベントですよね。
あと、幼女とキスシーンで爆ぜろと思われるかたが居ると思うので爆ぜてもらいました。
社会的に爆ぜすぎたかな・・・?

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