歩けば世を馴らすモモンガさん   作:Seidou

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カルネ村へ

 モモンガはラナー王女と夜の密会をすることになり、ロ・レンテ城の城壁のある一箇所で一人静かに待っていた。

 正確に言うと城壁のすぐ傍に渡っている堀、その堀の上に小さな石橋がかかっており、そのすぐ下に居た。壁に背を預けながら主賓の到着を待つ。

 

(お姫様と会うことになっちゃったけど、どういう態度で話しをすればいいんだろう…?)

 

 あの時追い返したい一心でラキュースに適当な返事をしてしまったのが後悔の始まりだ。

 既に心身の憔悴が見られるモモンガは「兎に角早く帰りたいよ、ツアー」という気持ちだけしかなかった。日も沈みきり、暗闇の中でただ深々と相手の到着を待ち続ける。

 …と、そこで壁であるはずの背後から気配と声がした。

 

「お待たせいたしました、モモン様でよろしいですよね?」

「うぉ!?―――と、そこから来るんですか」

 

 表から登場するのかと思っていたモモンガ、まさか壁の中に隠し通路があって、その覗き窓のような部分から話しかけられるとは思っても居なかった。

 ラナーが居るその通路は王城の中でも王族と極わずかな護衛のものしか知らない城下町へ脱出するための地下通路であった。

 

「あら?驚かれましたか?歴戦の猛者の方だと伺っていたので、この程度では動揺なさらないかと思いましたが…」

「…別に戦うと想定していなければ、心構えもしませんので。王女様相手に警戒するのもどうかと思うので」

 

 何故だかからかわれている気分になりながらそう返す。一言交わしただけだが、苦手なタイプだとモモンガはそう思った。そして更に早く帰りたいと思った。

 

「して?私に会って話がしてみたいとは聞いておりましたが?」

「えぇ、突然ご無理を言って申し訳ありません。どうしても早くにお話がしたいと思いまして」

「私に出来る話なんて、十三英雄時代のことぐらいですよ?」

 

 本当のことである。モモンガはリーダーの死後、百年以上じっと墓守をしていたのでリーダーが生きていた時代までしか語れることはないのだ。

 どうしてそんなにがっついて自分と話がしてみたいと思ったのかは分からないが、疲れていたモモンガはさっさと話せることを話して帰りたいと思うばかりだった。

 

「実は…悩みがあるんです」

「はぁ?」

 

 お姫様の悩み?あるいは少女特有の…そう、恋の悩みとかとでも言うのだろうか?

 王城の中でばかり暮らしている王女様が持ちそうな悩みとはそのぐらいのものしか浮かばない。もしそうならそれこそラキュースと話してくれとモモンガは考えていた。

 

「ある方を助けて頂きたくて…そしてそれは私、いいえ―――この国の民をも救うことに繋がります」

 

 

 

 

 

 

(苦手なタイプだったが、あの王女さんは中々民への思いやりのある子だったなぁ)

 

 モモンガはふと彼女との会話を思い返し、そう彼女の人柄を思いやる。一国の王女様の言葉に従って行動するのに躊躇する部分はあったが、彼女の話を聞いている内にあることを思い出していた。

 

(懐かしいなぁ、リーダーとの約束)

 

 それは何時だったか、もう正確な時間も思い浮かばないほど昔のことだ。

 

「モモンガさん、一つ頼みごといいですか?」

「ん?どうしたんですかリーダー?」

 

 そこはアーグランド評議国にある小さな酒場だった。

 活気ある酒場の中、荒くれ者が集まる姿が似合うと言っていいような作りの居酒屋だ。そこでリーダーはお酒を頂き、その頬を赤らめながらモモンガに向かってその内容を話す。

 

「人間を、お願いしてもいいですか?」

「―――それは、どういう」

 

 モモンガが疑問の言葉を投げかけるのも尤もだろう。何故この場でそんな台詞を?

 

「いやいや、そんな真剣な話じゃないですよ?ただ単にこの世界の人間ってほら、弱者じゃないですか」

「あぁー、うん、そうですよね…」

 

 そう、この世界の人間は決して強くない。それどころか弱者そのものなのだ。

 モモンガ達が暮らしていた世界だって人間は限りある土地でしか生きてはいけなかったが、この世界とは理由が全然違う。圧倒的な力を持つその他の種族―――亜人や異形種の国家―――の方が圧倒的に力を持っていたのだ。

 ユグドラシルの外、彼らの”リアル”の世界では人間しか生きていけなかったと言っても過言ではなかったのだから、この世界とは理由が違うだろう。

 種族的に弱者であることは決して覆せない。どうしようと人間の未来は細々としたものなのだ。だがそれを許して良いものなのか?リーダーである彼は悩んだのだろう、そしてモモンガに託したのであろう。

 

「別に死亡フラグとかじゃないですよ?単に寿命がある種と無い種の約束ってだけですよ」

「…リーダー」

「ははっ!あの非公式ラスボスと恐れられたモモンガさんもそんな表情するんですね!」

 

 ケラケラと笑うリーダー。その顔は本当に楽しそうで、酒で火照った頬が赤くなりながら彼らしい優しい笑みをこぼす。

 

「…骨なんだから、表情分からないでしょ!リーダーも冗談好きですね」

「分かりますよ?モモンガさんって結構正直な人なんだなぁって思います」

「なっ!?」

 

 「ひぁぁ!?」とか言いながら頬を押さえる骨。傍から見てれば滑稽な風景だが、彼ら十三英雄の中でそれを馬鹿にするものはいない。そうして彼らは友情を築いていったのだ。

 そんな彼らの未来も、リーダーの死によって変わってしまったのだけれども。

 ともあれ、モモンガは過去の事を思い出し、懐かしい気分に浸りながらリーダーとの約束を叶えてあげよう。そう思ったのだ。

 

「あぁ、リーダー…寂しいよ。また会いたいなぁ…」

 

 誰よりも仲良くなった彼の事を思い出し、そして失われた今に悲しみの感情を灯す。

 夜の王都を歩く漆黒の剣士、屈強な戦士に見える彼。けれどもその本当の中身は悲しく、優しい心を持った骸。そんな彼はただ一人、暗い路地を歩く。

 

 

 

 

 ラナーから聞かされた話はこの国の未来に関することであった。

 それは少女が語る夢物語なんて甘いものではなく、普通に国家国民の一大事であった。先のリーダーとの約束を思い出したのもあり、彼は少しばかり手伝うことを決めた。

 それに思うところもあった。国の崩壊、そして国民の生活の破綻は人を愛することを止められない優しい吸血姫が悲しむことは想像に難くは無かった。

 強く生きようとする者を救おうとする持論を持つイビルアイであるが、だからと言って無用に弱者を傷つけたいわけでもない。そんなイビルアイが仲間と共に王国の国民の為に動き続けるのは想像に難しいものではない。

 そして崩壊に向かいつつあるこの国と共に果ててしまう可能性をラナーは語ったのだ。

 割と強いイビルアイでも、弱点はある。まずもって仲間の情に弱いのだ、ラキュースがこの国と共に果てると言えば一緒に付き合うだろう。

 モモンガにとってイビルアイは、この世界で最初に出会った貴重な存在であり、自分の事をパパと呼んでくれたこともある少女なのだ。そう、きっとそうなのだ。それ以外に意味なんて無い、きっと無いのだ。

 そしてこの世界でも唯一彼女しか吸血姫(ヴァンパイアプリンセス)は存在しない、レア物である。コレクターとしても失いたくは無かったのだ。きっとそうに違いない。

 そんなイビルアイがモモンガの元へ帰る様、協力するとラナーは約束したのだ。協力者(スポンサー)が付くというのは悪くない、そう判断した。

 

 勿論、これはラナーの嘘である。国が滅びるというのは事実だが、イビルアイは元よりラキュースも国の為に動いているわけではない。

 国民の為に戦うことはあるかもしれないが国と共に果てる気は毛頭無いのだが、付き合いの短い彼女のことをそこまで理解も出来なかった。

 嘘をつくにはまず少しの真実を混ぜることから始まる。ラナーの嘘は捉え方を変えれば全然嘘ではないのであるからして、いやらしかった。

 

 というわけで目下、ラナーの話を聞き入れモモンガはトブの大森林へと向かっていた。そう、何故か蒼の薔薇も一緒に。

 

 

 

 

 

「まさかラナーの依頼が森の中にある秘薬の探索だとはね」

 

 ラキュースが愚痴のように呟く。

 

「秘薬があるのは裏が取れてる。激レア」

「でもこのタイミングで王都を離れる依頼は変、裏がある」

「そうよね、そう思うわよね…」

 

 忍者二人の発言にもラキュースはうんうんと頷いていた。

 確かにそうだろう。八本指との抗争を控えている現状、王都を出ればこれ幸いとばかりに色々工作されてしまう危険もあるのだ。それを態々外に出すような依頼を仕向けるということは何か裏があるのである。

 ただそれをラキュースは追及しなかった。要はその”口に出せない”部分が本命であり、それを隠すための薬草探しなのだろう。というのが目下のところの推察だ。

 我が友人ながら若干腹立たしい部分があるが、モモンガ曰く「人助けの部類」だそうなので、黙って一緒に行くことにしたのだ。

 

 形式上は蒼の薔薇がモモンガに雇われたことにしてある。あくまでも冒険者として依頼人に言われて秘薬を探し出すことを目的として行動するのだ。

 現地に行ったときに何が待っているかは知らないが、そこに何かあればそれはラナーが予測したものなのだろう。彼女達は受けると決めた以上、行動に移す以外に他は無かった。

 

 ラキュースはチロリ、と横を見る。

 

 

 

 

 

 ―――どうも皆さん、死の支配者(オーバーロード)ですが、馬車の中の空気が最悪です。

 

「ちょっと、キ…イ、イビルアイさん?」

「フンッ。黙れ、私は怒っているんだぞ?」

 

 カルネ村という開拓地へ向かう為、移送用の荷馬車を買い付けた一行。その荷馬車の幌の中、モモンガの隣に座るイビルアイは機嫌が悪かった。先日の出来事もあり、モモンガに向ける意識は苛立ちのみだ。

 腕を組み、ふんぞり返りながら隣のモモンガの脛に蹴りを繰り出す。上位物理無効化Ⅲのスキルを持つモモンガにとって痛くはない攻撃。けれどイビルアイに脛を延々蹴られるというのはわりかし精神的なダメージを喰らっていた。

 

「ちょ、ちょっと?痛いですよイビルアイさん…」

「お前が悪い」

「えぇ!?」

 

 そんなご無体な!と言わんばかりの反応を返すモモンガ。そして蹴りながらもグイグイと身体を押し付けて離れようとしないイビルアイ。そんな彼女にたじろぎどんどんと横にずれるモモンガ。イビルアイの逆側に座っていたラキュースが押し出される。彼女の体は既に幌に半分以上埋まっていた。

 

「あ、あの?かなり狭いのですが」

「あぁ!すみません!!すみません!!」

 

 先日の勘違い事件もあり、モモンガは女性に対する恐怖症を発症しつつあった。常識人と思っているラキュースにまで鋭い視線で睨まれ、覚えのない罪を着せられそうになったのだ。彼女達に対する態度は「どうかいじめないでください」といった感じか。とにかく、押しに弱くなっていた。

 

「奴隷幼女の反乱」

「誰が奴隷幼女だ!私は奴隷でも幼女でもないぞ!」

 

 忍者の軽口にそういいながらもゲシ!ゲシ!と蹴りは続く、そして然も当然という形で行っているので、モモンガが困り果てているのには気付いていない。

 

(お願いだから!!!!!身体密着してるんです!!!!ラキュースさんにも密着してますから!!!)

 

 さっきから自分の腰や膝に柔らかい身体を押し付けまくっているイビルアイにツッコミの念を抱く。念は届いてないが。そう、体の小さいイビルアイでは密着しなければ蹴りすら届かないのだ。ちっこい。

 

 そんな彼女達と一緒に行動しているのは、ラナーがそう依頼したからなのと土地勘が無いからである。そうでもなければ一人で行っていただろう。

 だが面白いものはいじり倒せが基本の蒼の薔薇。一行は目的地に着くまでの数日間、ずっとこんな調子で過ごしていたのだった。

 

「見えてきたみたいよ?」

「やっとか…やっとか…!」

 

 憔悴しきったモモンガが解放される喜びのあまり小さくガッツポーズを決める。最早一瞬たりとも馬車の中には居たくなかったので早く着いてくれることを祈るのみである。

 「ヘッ!モテモテだな兄さんよ」とか御者のオジサンに言われたがそう見えるのだろうか?モモンガにとっては苦痛でしかない時間だった。

 

 

「さて、ここが例のトブの大森林近くの―――」

「カルネ村って所らしいぜ?あんまりここいらに出入りすること無かったからこんな村があったなんて知らなかったぜ」

 

 ガガーランが言うとおり、ラキュースたち蒼の薔薇は余りこの辺に来た事はない。カッツェ平野でアンデッド討伐などの任務はしたことがあるがこの辺では少なくとも依頼は無かったはずであり、彼女達も実質土地勘は無かった。

 

(あれ?土地勘当てにしたのは間違いだったのか?)

 

 モモンガが今になって気付いたが今更である。

 

 

 

 

 そうして彼らはカルネ村に身を置くことになる。翌日に起こる事件を前に、彼らはカルネ村での一日を過ごすのだ。

 

 

 

 

「ふむ、ではこの森の探索の為に数日間滞在なさると?」

「えぇそうです。この村に宿があるのでしたらそこで泊まらせて頂ければと」

 

 ラキュースが村長と名乗り出た人物を相手に会話を続ける。宿はこの村には無いそうだが、客人をもてなす用の小さな空き家なら用意されているらしい。その家を数日間の間拠点として借り受けることになった。

 

 雇っていた馬車は引き返していき、移動手段は自分の足のみとなった。帰るときは徒歩だが、歩きで一日かければエ・ランテルという城塞都市があるのでそうそう困るものでもなかった。

 村はさほど大きくはなく、楽しげに子供達が走り回っている長閑な田舎の村落、という以外の印象を得るものではなかった。せいぜい柵の一つも無く害獣やモンスターの被害はないのだろうか?と思うくらいだろうか。

 モモンガ達一行はさっさと荷物を借り受けた家に移し、休息を取る。

 

「はぁ~、流石に数日間移動だけだと疲れるぜー」

「道中特に何も起こらなかったのは良いことだ、普段なら賊かモンスターの襲撃はあるからな」

 

 死者(アンデッド)であるイビルアイは平然としていたが、他のメンバーは流石に辛そうだった。慣れているとはいえ一日中馬車の中は疲れるものなのだろう。

 既に昼を過ぎて長いので森の中の調査は明日にし、今日は森の入り口近辺の様子を見るだけにしようとなった。村長から村の案内役として宛がわれていたエンリという少女に森の話を聞きながら色々な情報を教えてもらう。

 

「この森には森の賢王と呼ばれるモンスターがいまして、非常に強力なモンスターなんです」

「そんなモンスターが居てここは大丈夫なのか?」

 

 当然の疑問。だが少女はニッコリと笑みを返し、「大丈夫ですよ」と返事をし、解説し―――ようとしたところ。

 

「あぁ!!うちの息子が!!冒険者に攫われたぞ!!」

「アァ!!ティナなのね!!モモンガさん!そっちはお願いします!!!」

「わ、わかりました!!」

 

 遠くから聞こえる叫び声に慣れた対応をするラキュース。というか犯人分かってます状態だ。そう身内だ。

 異論も無くショタを抑えるべく走り出すモモンガ。この村の少年少女を守らねば!そういう気持ちで走り出す。

 にこやかに対応するエンリを見る。あぁ純粋さが眩しい、モモンガにとっては蒼の薔薇に囲まれて色々苦悶してる最中なのでこの少女に好感を覚えずには居られなかった。何せ横を見れば今にもこのエンリという少女を食べようと獣の目をしたレズがいるのだから。そしてそれを止めようと常識人(?)二人は必死である。

 せめてこの眩しいほど一般人な少女には一般人のままで居てもらいたい。血濡れのなんたらとかにはなって欲しくないのである。

 こうしてモモンガがショタコンを止めるべく立ち去り、この森に居る賢王なる存在の重要性は、聞き逃されてしまった。

 

「その賢王がこの村の近くにいるから―――」

「えぇ…そう、なるほどそうなんですね!教えてくれてありがとうございます!今日はもう大丈夫なので自由にしててください!」

「え?あ、はい」 

 

 解説をしていた少女が何故焦っているのかと疑問の顔を浮かべるが、分かりましたと短く答え、エンリは立ち去っていった。

 

「チッ、逃したか」

「チッ、じゃない。ちょっとは節操を持て変態」

 

 イビルアイが的確なツッコミを入れてくれる。だがさっきまで馬車で身体を押し付けまくっていた痴女がいえた言葉だろうか?

 

「ちょ!なんですか何故引っ張るんですか!?」

「おめぇ童貞だろ?大丈夫、天井のシミ数えてる間に終わっからよ」

「あぁ!すみません!うちのバカ達が!!!」

 

 コイツもか、このメンバーにはまともなヤツはいないのだろうか?平時の行動が自由奔放すぎる仲間達に振り回される。そうして夜まで、モモンガとラキュースは休むことなく対応し続けていた。もう何か連帯感まで出てきちゃうほどに。

 

 

 

 

 

「…よし、これで明日も大丈夫だろう」

「…サトル?何してるんだ?」

 

 カルネ村で過ごす夜の中、二人は眠ることも出来ない身体なので外に出ていた。もっというとカルネ村の近くにあるトブの大森林の中だ。

 

「キ…イビルアイか」

「…ここなら盗み聞きするヤツも居ないだろう、本名でもいいんだぞ?」

「あぁ、いや念には念をね?」

 

 「マジメだな」そう返す一言だけで会話は途切れた。目の前に出現した存在に視線が移り、言葉を発するのをとめてしまったのだ。

 

「…死の騎士(デスナイト)か、懐かしいな」

「あぁ、久々に作ったよ。モンスターの死骸を使ったから消えることは無い、これで夜も見張りは必要ないぞ」

 

 ラナーから聞かされている話では襲撃は必ずある、という話だ。唯一詳細を聞かされているモモンガはいつでも襲撃に対応できるよう、守りにピッタリのデスナイトを召喚した。

 

「グオォォ!」

 

 召喚された喜びに(御身の前に!)と意識を飛ばして跪くデスナイト。

 

「コラコラ、あんまり声だしちゃダメだぞ」

「グォッ…」

 

 (申し訳ありません、主よ!)と言う心の感情がデスナイトから伝わってくる。召喚されたモンスターは召喚主の命令に絶対だ。そして知性があるモンスターなら意思の疎通も可能である。グォ!グォ!となるべく小さく呟きながらモモンガの命令に頷いている。

 

「そういえば、ペコは元気にしているのか?」

「あぁ、今は評議国の首都の門番をやっているよ」

 

 ”ペコ”と名づけられたデスナイトは今アーグランドで生活をしている。

 かつてリーダーのレベリングを一緒に行っていたとき召喚したモンスターだ。まだまだ弱っちい頃のリーダーの盾役としては適任だったので、よく付けさせていたのだ。

 何ヶ月も一緒に行動しているうちに愛着が湧いたリーダーから「消さないでくれます?」の一言で今も生きている。名前はリーダーが飼っていたという猫から取られた。

 勿論、イビルアイも一緒に行動していたことがある。モモンガ達プレイヤーの言う”れべりんぐ”なる自己強化儀式に参加したり、一緒に”やきう”なる運動をしたこともあるのだ。

 バッターデスナイト、ピッチャーモモンガ。キャッチャーは居ない、この連中の投げる球を受け止められる奴なんていないのだ。そして球も凶悪である。デスナイトには小さすぎるということで普通のボールではなく顔ほどもある岩を削りだして丸めた球を使っているのだ。

 そうして作り出した球でモモンガ渾身の一投を放ち、主に応えるべくデスナイトもフランベルジュで豪快に打ち出す。

 

「グォォォォ!」

 

 バコオォォォン!という鈍い音と共に球がベキベキと崩れながら飛んでいく。近くで空中散歩を楽しんでいた白金(プラチナム)の鎧にぶち当たり、「ンアァァァァ…!」とかいう声と共に墜落していく白金。鎧が砕け、ツアーの正体がばれてしまったのもそれはそれ。その後散々叱られた。

 

「ちょっとは反省してる?ねぇ撃っちゃうよ?始原の魔法(ワイルドマジック)撃っちゃうよ?」

 

 ポンポンと剣を肩に叩きつけながら左手で指差し、始原の魔法(ワイルドマジック)の準備を始める白金。完全にこちらが悪いので平身低頭するしかなかった。皆で揃って土下座する。死の支配者(オーバーロード)が聞いて呆れる光景であった。

 

 

 

 

 

「ほんと、懐かしいな」

「あぁ、そうだね。まさかホントに始原の魔法(ワイルドマジック)撃たれるとは思わなかったけれど」

「サトル限定でだったけどな…寿命が縮んだぞ、アレは」

 

 寿命なんて無いけれど、というツッコミも程ほどに、二人は過去の話に話題を寄せ。そうしてこの夜は過ぎていった。少し距離は感じるけれど、二人の時間を楽しんでいる姿を見たデスナイトが「グォッ!」と短く唸り声を上げていた。




リーダーとの思い出振り返り回。
ペコは今日もアーグランドの首都で、「グォッ!」と皆に挨拶を交わしています。

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