ハイスクール・フリート~北の海より愛をこめて~ 作:葉桜照月
──大和 会議室 2016/4/16/0700
こんちゃーっス!
覚えてるっスか?神宮寺っス!
今日は臨時の会議があるらしいんスが、艦長さんが軟禁中のいま、この会議はどうなるんスかね?
我々イツメンこと重役(笑)会議の面々もまた、対応に困っていて。我々は『周りが帰り始めたので帰るか』みたいなノリでみんな途中退出してしまったもんで、その後の軟禁?の流れも知らないんスよね。気付いたらトップが変わってた、みたいな。軽いノリと思われるかも知れないっスけど、『まあなんとかなるだろ』みたいな雰囲気なんスよ。だって、まだ一晩しか開けていないんスから。そして、その『なんとかなるだろ』精神を育んだのは、他ならぬ艦長さんっスし。
でもイツメンは全員が全員、『いやこれまずいだろ』っていう認識を抱えてはいるんス。でもどう動いたら良いかは分からずって感じっスかね。特に高遠測量長なんかは、直属の部下が当事者っスから、日頃から寝るのが日課の測量長も胃痛で寝られてないようで。それに艦長さんに対する考え方も、反乱に至るほど過激では無いけれどたしかに立場の違いがあるんス。例えばミス朝田や那須野操帆長なんかは成績優秀なので艦長さんに現状総得点で勝ててるからか別にどうでもいい見たいっスが、柿崎機関長は艦長の地理が普通レベルだったら勝ててるので「私も機関で大学いってれば良かった~」と皮肉混じりに言ってたっス。ここから先は点数低い人のヒガミなので触れないっスが、この神宮寺はどうかというと、…まあ成績のことは別にいいじゃないっスか。ね?不肖神宮寺抄、普段から料理しかしていないっス。料理に三角関数や漢文の智識が要るとでも?…まあ、正直なところどうでもいいっス。艦長がどうだろうと私の人生の体勢に悪い変化が起こるたぁ思えないっスからね。
まあでも、事実として、やっぱり艦長さんでないと弊害は起きるっス。そもそも高柳さんの指示には、もうすでに「コイツ駄目だ」感が漂っているんスよね。自分で指示しないで、全部個人個人に任せきりなんスよ。悪くはないんスが、やっぱり指示があった方が良いっス。…いや違うっスね、艦長も割と放任だったっスから…。でもその代わり艦長さんはよく話をしてくれるんスよね。艦橋に居ても操帆科や機関科に積極的に声かけてるみたいっス。非番の時は調理室にも顔をだしてくれるっスよ。つまみ食いして帰ってくっスけど…まあ要するに、副長は艦長にある何かを持ってないんスよね…
まあそんなわけで、会議はいつも通りごちゃごちゃしてるっス。まだ開会もしてないのに。
そのときっス。
「…みな…さん」
誰かがそういって、
「「「「「え??」」」」」
普段この程度じゃあ静まらない我々が、一気に静かになったっス。
そりゃあ、全員が発言者を二度見するっスよね。
「…ひっ(ビクッ)」
滅多に喋らないお方だったんスから。
「国東さん…」
国東詩歌書記。
静かで物を話さないことで知られている、無口なお方っス。仕事はするんスが、声を聞かない。実は地理に関して艦長についで出来る御仁で、艦長が事情持ちだと分かって以降最も怒って良いハズの船員のひとりなんスが、自分から何かすることはなかったっス。
けど今、アクションを起こしたっス!
キョトンとする会議室中の目線を一身に受けて、なおも国東書記はこう言ったっス!!
「…みなさんに、お…お話が」
──15分後
高柳「はい、では臨時重役会議を始めます、司会は私、副長高柳が…」
神宮寺「フウウウゥゥゥゥゥゥ!!!!!」
高柳「!?」
朝田「神宮寺黙れいい加減にしろ」
神宮寺「おおっとミス朝田!こればっかりは口を出されたく無いっスね!保健室に帰っておねんねしてろっス!」
朝田「黙れ…今薬を持ってくる」
神宮寺「何の薬っスか?神宮寺に使うのはもったいないんじゃなかったんスか?」
朝田「劇薬だ」
那須野「それはダメじゃないですか…」
萩原「会議中なのですよ!静かに──」
神宮寺&朝田「黙(るっス・ってくれ)!」
萩原「またなのですかぁ!?」
高柳「!?!??」
常陸「どうしたの副長」
高柳「いやどうしたもこうしたもなにこのカオス!」
常陸「副長、これくらいいつもの事だしこの程度で狼狽えてたらマジこの先もたないよ」
高柳「ええ…」
柿崎「ごめんね、副長さん…」
高柳「いやそう思うなら止めようよ!」
柿崎「あれは無理かな、あはは…」
高柳「ええ…」
高遠「黙れっ、てめーら!」
高柳「おおっ、高遠測量長流石で──」
高柳国東高遠以外「高遠が起きてる!!??」
高柳「は?」
朝田「なん…だと…」
柿崎「珍しいね…」
萩原「いつもと違うのです…」
那須野「普段は寝ていますし…」
神宮寺「明日は大雪っスー!」
柿崎「ここ千島だから大雪は普通に降るよ…」
高柳「いやちょっと失礼すぎやしませんかねぇ!」
高遠「実にそう。失礼」
高柳「そうですよね!ほら言ってやって下さい、いつも寝てる訳ではないと──」
高遠「うるさいと眠れないんだよ!」
高柳「そこかよ!」
高柳国東高遠以外「サーセンw」
高柳「軽いわ!」
神宮寺「すマートン!ごメンチ!」
朝田「お、jか?ゴニョゴニョー」
高柳「は?」
神宮寺「副長このネタ知ってるんスか!?」
高柳「は?」
神宮寺「は?」
高柳「…」
神宮寺「…」
高柳「…」
神宮寺「…すまんな」
朝田・柿崎「ええんやで」
神宮寺「はいカブッた、アウトっス!」
朝田「くっ…」
柿崎「焦りすぎたね…」
高柳「…」
常陸「副長?どーしたし?」
高柳「…いや…会議やりましょうよ…」
常陸「いやそれ言わないと始まらないし」
高柳「いやそうなんだけど、そうなんだけど…」
常陸「みんな根は真面目だしちゃんと話せば会議始まるって。コレはマジでいつもどーりだから」
高柳「本当に?」
萩原「本当なのですよ。真面目な会議を真面目にやるぶん、始まる前と後ははっちゃけてよい、という艦長のお達しなのです」
高柳「そうなんだ…」
萩原「まあ例外はあるのですが」
高柳「あるんだ!?」
萩原「そこまでの例外ではないのです。単に、真面目じゃない議題…つまるところどうでもいい議題だったらみんな無視してはっちゃけるのです」
高柳「へえ…今回の議題は真面目だから大丈夫かな」
萩原「それを決めるのは議題の提出者ではないのです。ぶっちゃけ神宮寺なのです」
高柳「ええ…」
萩原「まあものは始めないと分かりません。声かけてください」
高柳「いや萩原さんがやってよ…」
萩原「私にはもう無理なのですね」
高柳「ええ…じゃあ…」
高柳「みなさん、会議始めますので!一旦静かに!」
全員「………………………………」
高柳「うわ本当だった!」
全員「………………………………」
高柳「では会議を始めますね」
全員「………………………………」
高柳「…よろしいですか?」
全員「………………………………」
高柳「…そんなに固くならないでいいですよ?」
全員「イェェェェェェェェェェイ!!!」
高柳「そうじゃないよ!黙れよ!」
全員「………………………………」
高柳「黙ってんじゃねぇよ!」
全員「………………………………」
高柳「あれ……?」
全員「………………………………」
高柳「どう転んでもアウェーだったぁぁ!!」
一部メンバー「始めるんだよあくしろよ」
高柳「誰のせいですか、誰のっ!」
(気を取り直して)
高柳「ええー、では会議を始めますね。今回の議題は、真面目です。艦長を軟禁して事実上の反乱を行っている現状、我々には団結が必要です。そこで、各部門の長たるみなさんに、是非ご協力頂きたいのです」
全員「………………………………」
高柳「…続けますね。そこで、具体的には──」
全員「フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウ!!!!!」
高柳「!?」
全員「イェェェェェェェェェェイ!!!」
高柳「あの…」
(騒ぎは収まらない。高柳が困っているところに、萩原が声をかける。)
萩原「副長…」
高柳「な、なんでしょう…」
萩原「申し上げづらいのですが…これでは多分議論続行は無理だと思うのです。副長が悪い訳ではないので、後日臨時会議を開いてはどうでしょう?」
高柳「…変わりますか?それで」
萩原「誓って、変わるのです。」
高柳「でも…これはつまり『この議題はどうでもいい』と思っている訳でしょう?」
萩原「そうではない、と思うのです。少なくとも私はそうではないのです。このメンバーの中にも艦長に複雑な感情を抱いている人はたくさんいるのです。ただ、定例会はこうなるのが常みたいなもので。臨時会ならば、確実にまともな会議になるのです。」
高柳「本当ですか…?」
萩原「はい。重役会議メンバーの一人として、今ここで重要な会議を出来ないこと、そして暴れる皆を止められず静観するしかないこと。申し訳ないのです。」
高柳「あっ、いやいや、萩原さんは悪くないですよ!?」
萩原「いや…申し訳ないばかり…」
高柳「…私にとっても、起こしたくて起こした反乱じゃないんです。祭り上げられて。でも艦長の仕事ってこんなに大変なんですね。」
萩原「副長…」
高柳「…なんでもないです。臨時会では良い議論になることを望みます。…私は一旦部屋に戻ります。」
(高柳、部屋を出る。部屋のざわめきは次第に小さくなる。)
萩原「副長…本当に申し訳ないのです。本当に…」
──会議解散後、艦橋
朝の、まだ顔を出したばかりの日の光が波打つ海を照らし、波の照り返しが少し眩しい。
会議のあとで、私は、少し罪悪感を感じ、ただ、艦橋から見える限りの海を、網膜に投影するのみだった。
「…書記ちゃん。ここにいたんだ」
「…(クルッ)」
声がして、振り向いた。声は何度も聞いたことのある声で、すぐに主は分かった。元気に溢れていて、少し苦手なタイプ。けれど、物怖じせず何でも言えるその『普通』が、少し羨ましい。
「書記ちゃん、隣いい?」
「…(スッ)」
何となく、横に動くと、空いたところに彼女は来た。
航海長、常陸樋芽子。
操舵を一手に引き受ける、この船の要。
少しの間、無言が続いて、私も言い出せなくて、困っていたけれど、航海長はそれを察してくれた。嬉しい。
「書記ちゃんさ、さっきの会議…マジであれでよかったん?」
「…」
「アタシ驚いた。まさか書記ちゃんが『会議をわざと妨害してほしい』なんて頼むなんてさ」
「…副長には…申し訳ないことを…した」
「アタシもそう思う。止めなかったのは、あれがマジで面白かったからってことだけだし。でも罪悪感っつーの?なんか悪いことしたなーみたいな。それ感じちゃってさ」
「…でも…艦長を復権させるため…」
「ま、それも分かるケド。けどさ…」
「…ん?」
「副長をさ。このまま追い詰めるばっかで良いのかな」
「…それは…」
「追い詰めるべき人なんていないと思うの、アタシ。居たとしても、副長じゃないワケ。このままだと、副長、病むよ」
「…でも、これしか…ない。艦長の復権は…どうしても、指揮する人は…艦長が一番だと言うことを…、みんなが理解するしか…ない」
「その理屈は分かる。でももっとスマートな方法があんじゃね?ってコト。艦長が一番だって皆が思うってことは、副長は無能だって証明させるようなモンでしょ?マジで続けるの?」
しばらく私は黙った。
「…航海長」
「なに?」
「…それでも、今の状態は…よくない。私は…もとに戻りたい。それだけ。でも…そのためなら、私は出来ることをやる」
「…」
「…確かに、副長は何も…悪くない。担ぎ出された、それだけ。でも…反乱を抑え込むには…反乱が無益だ…と思わせるのが一番…だと思う」
「そ。書記ちゃんがそう思うならいいよ」
「…」
「アタシも乗るわ。トランプの革命返し、ってやつ?あれマジ爽快感パナイし。あれをリアルでやるんでしょ?いーじゃん」
「航海長…」
「…ま、それだけ。アタシも仲間だから。ヨロシクね」
航海長は、そういって戻って行った。
もっと言いたいことが有ったんだと思う。
けど、言わなかった。
きっとそれは、私に配慮してのこと。
私は人と話すのが苦手。
航海長はどんな人とでも仲良くなれる、真逆の関係。
航海長にとってはもしかしたら、私みたいなのは一番気を遣わなければいけない人種かもしれない。
だからこそ、気を遣ってくれたことが、少し嬉しかった。
実際、ちょっと申し訳ない。
いつまで副長を追い詰めればいいのか。
いつまで副長を追い詰めなければいけないのか。
でも、その時は、以外と早く訪れた。
──松輪島東沖 2016/4/16/1945
夕暮れ。
艦橋には、私と、航海長と、副長がいる。
艦長は、いない。
私達は、今いる所から更に南西の、紗那の船との合流地点に向かっている。
これから、夜になる。安全な航海を心がけたい。
そのときだった。
「緊急!緊急!こちら第一マスト島村。西の方角、丁度松輪島の方向に船舶二隻確認!」
島村さんが、連絡を入れてきた。
副長が、少し慌てて、「詳細、分かりますか?と聞いた。」
「見えません。いかんせん暗くて…。今井ちゃん、見える?」
「第三マスト今井。同じく見えない。…って言うか、まっすぐこちらに向かってきてる」
「第一マスト島村。双眼鏡で確認したところ、どうやら識別信号が…ついていないようです」
「第三マスト今井。同じく確認。識別信号の表示なしっぽい模様。少なくとも合流する船ではなさそう。船影が改インディペンデンス級ではない」
「どういうこと…」
副長は狼狽えていた。
それもそうだ。どこの誰かも分からない船二隻が、こちらにまっすぐ向かっているのだ。
「…と、とりあえず連絡取れませんか!?」
「第一マスト島村。やってみます」
「…ちょっと待って島村!あいつら、砲をこっちに向けてる!」
「ウソ!?…ホントだ!…あれ、ちょっと待って…これまずくない?」
島村さんと今井さんの声が強張る。
艦橋も緊張感に包まれる。
そして、その時は来てしまった。
「…不明船、発砲!こちらに向けて撃ってきた!」
次話、タイトル未定。