ハイスクール・フリート~北の海より愛をこめて~   作:葉桜照月

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十話 砲火は飛べど、飛び交わぬ

以下、砲雷長・神若冠の日記より。

 

4月16日

今日は色々ありました。

まず重役会議に欠席したこと。これは、艦長の代理として副長が重役会議に参加するため、私が代理の代理として艦橋に立っていたからです。なお、私が務めたのは艦長の代行である副長の代行であり、航海長の代理は普段通り今井月視・第三マスト見張が務めました。それで重役会議のメンバーを穴埋めに使うのもどうかとは思いましたが、別にいつもの重役会議ならば参加しなければならない必要性は薄いだろうという判断に基づいてのものでした。

 

しかし、本日において特筆すべきはそこではないでしょう。

夜に入って間もない時間帯。松輪島東の沖、154゚18"00'E,48゚25"00'N付近だったと記憶しています。

船籍不明の船隊二隻が、西の方角から、つまり南西に向かっている船からすると二時の方角より接近。詳細を確認していたところ、該船が突如発砲。これにより、該船が武装していることが判明し、艦内が混乱に巻き込まれました。

後で聞いたところによると、特に混乱が起こったのは甲板で操帆をしていた操帆科の人たちだったそうです。砲撃の第一波そのものは船のかなり手前に着水したのですが、それよりも急襲を受けたという事態に衝撃を受けた船員は少なくなかったと思います。

私は、砲雷長、つまりこの船において砲撃を司る者として、自らの安全のために邀撃行動に出ることを辞さない考えでした。私と同じく射撃指揮所にいるはるちゃん──駒ヶ岳はるこもそう考えていました。

しかし、これはあくまで私達の判断でした。それに対して、艦橋側は、1発だけでは誤射かもしれない、と言わんばかりで、将来的に反撃が必要になるかもしれないが、それは今ではない。売り言葉に買い言葉ですぐ反撃に転じる前に、相手との交信を望む、と主張し、私達はそれに従い、射撃準備は行いませんでした。

また、艦橋側──具体的には副長──は、凡百の手段を講じて相手側と交信を図ったそうでした。国際信号旗や、発行信号、手旗信号などを用い、自らの船の子細を伝え、相手に応答を求めたそうです。しかし、その苦労も空しく、相手はこちらの通信の一切に応じず、無言を貫くのみでした。

ここで大和は進路を転換し、距離を詰める不明船に対して距離を取ろうとしました。

 

しかし、ここで第二波が襲撃します。

突如一隻が発砲。これを以て、不明船は味方ではないことが明らかになりました。第一波からは約七分の後でした。この第二波は船の後方に着水し、第一波とあわせると夾叉された形になりました。

第三波が来る前に、艦橋の様子は緊張感を増したというよりも、若干にピリついたようでした。副長が回避を宣言すると、航海長がどこに逃げればよいか尋ねます。それに対して副長が夾叉範囲外から逃れる為に速度を上げ距離を開けろと命令したのでした。航海長はこう返したのでありました。

 

「ちょっと、逃げたら相手にケツ見せることになんだよ!?被害が増えると思うんですケド。多少反撃した方がアタシはいいと思うわ」

 

これに対して副長は夾叉範囲外に出れば一切の問題は霧消するとやはり離脱を主張します。どちらの意見も一長一短であるため私は、取りあえず「もし撃つならば用意しておきますね」としか言えなかったけれど、それも副長は必要ないといいます。そんなこんなで議論が平行線のまま、第三波がやって来ました。

第三波発砲。この報には艦橋は対応できず、一切の指示も出せませんでした。

そしてこの一撃はとうとう大和に命中。第二マスト上端部に直撃し、第二マストのてっぺんが吹き飛びました。また、帆に一部損傷が発生し、速度微減も確認されました。

これには第一・第三マストの両名が抗議。第二マストに仮に人がいれば、死んでいたことはほぼ間違いなく、また自分達も今その危険な状況下にあることを考えれば、抗議は当然です。これに対して、副長は迅速な離脱を行わなかった航海長の責任だとしてこれを非難。一方航海長は、仮に回避に出ていたら、第三マストに直撃していた可能性もありうるとして反論。

第四波。これはとうとう船体に命中。遠距離のため一次被害こそ無かったものの、これによって愈々艦内は混乱に包まれました。私は、反撃も可能であると何度も伝えましたが、副長は反撃によって相手側に被害が出ることを避けたいとしてやはり反撃を認めませんでした。続く第五波も船体に直撃し、調理室で皿が割れる被害に遭ったそうでした。

この五度にわたる攻撃に、艦内は沈没への恐怖で指揮系統を完全に喪失しました。艦橋は射撃指揮所、マストを除く全ての場所への伝声管の蓋を閉じ、艦橋を閉じた空間としました。これは仕方ない判断としてある程度は擁護すべきと思うのですが、逆効果だったとも思います。

艦橋では、初めは副長と航海長との間に侃諤とした議論が行われていましたが、このときには既にマストも混じっての喧喧囂囂としたカオスになっていました。

安全を求めるマスト。

安全な離脱を主張する副長。

離脱は安全でないと反論する航海長。

この議論とも言えない喧嘩の渦中で、射撃指揮所の私とはるちゃん、そして影の薄い国東さんだけが平静を保っていました。

いつ第六波が来るかもわからないのに。こいつら何をしているんだろう、このままだと死ぬのが分からないのかとも思いつつあるなかで、はるちゃんも今にも泣きそうでした。

そんなときに、とうとう国東さんが口を開いたのです。

 

「…副長。…七島珠洲の艦橋入りを…要望します」

 




短くてすいません。
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