ハイスクール・フリート~北の海より愛をこめて~ 作:葉桜照月
隔週!と言いましたが、一週間で投稿できました。
めでたいです。
脳内では骨格が完成したどころか、それの肉付け―つまり執筆―を後回しにして第二部、第三部まで計画が進んでいます。いや、とっとと一部の執筆をしろって?はぁい。
【四話 電話して電話して長電話】
――千島列島 計吐夷島北東沖 2016/4/8/1100
朝が終わった。
反乱の話は、にわかには信じられない。
非現実的すぎる、といえばそれまでだが、まるで小説を、いや映画を見ているような気分になる。
あのあと、艦長はおおよその事実を余すことなくクラスの全員に伝えた。
反応は多様だったが、そこまで大きな混乱も起きず、私達は無事だから良いや、といった雰囲気のまま朝は終わった。
私も艦橋でのシフトは昼からで、特にあてもなく艦内を歩いていた。室内に戻っても大したことはないから、誰か他のヒマしてる人とおしゃべりでも洒落込もうかと思ったのだ。
そんなとき、電信・電測室の前を通りかかった。ここは、平山茉莉と平山杏奈という双子の姉妹が担当している。ちなみに、二卵性なのであんまり似てない。
ドアが空いていたので覗いてみると、電信員である平山さん(双子のうち、妹の杏奈のほうだ)が私に気付いて、
「あ、ふくちょ~。電話で~す」
「誰から?舞鶴?」
「いえ、『野付』ですよ~」
「ああ…。分かったわ。艦長に渡しとくわ。受話器は?」
「艦橋にキャッチ回しときま~す」
ありがとう、と言って去った。
艦橋に行くと艦長がいた。ものぐさな艦長だが、シフトは割とちゃんとやる。感心だが、その気力をどうして他に回してくれないんだろうか…。
「やあ副長。まだシフトは先だろう?代わってくれるのか?」
「違います。艦長、電話です」
「誰から」
「…」
「言ってみろ、また舞鶴か?」
「…いや…」
「察した。貸せ」
艦長は電話を取ると、艦長が艦橋に持ちこんでいた小型テレビをいじりだした。するとすぐにテレビに、電話主の姿が映された。
『やあやあ、お珠洲。元気でしたかしら?』
「お前だと思ったよ、籠原」
『お元気そうで何よりって感じね、お珠洲』
籠原双葉。
呉所属の同期にして測量艦「野付」の艦長だ。
同期なのにも関わらず籠原さん達が呉、私達が舞鶴所属なのは、元々呉にあった2隻の測量艦のうち1隻(旧型の筑紫型筑紫)が事故で失われたからなのだが、詳しいところは聞かされていない。ただ、正しいかは分からないが、筑紫と野付の艦長にそれぞれ内定していた七島珠洲と籠原双葉は、詳しい事情を聞かされて、筑紫の乗員であった我々が舞鶴のオンボロ時代遅れ帆船に乗ることになった、というのがウワサ好き大和乗員sの定説だ。
実際私もこれくらいしか選択肢がないし多分そうだろうと思っているのだが、それにしても不思議なことがある。籠原さんは、何かあるとすぐ電話をかけてくるのだ。それも艦長指定で、けっこうな頻度で、である。元々知り合いだったわけではないらしいし、そもそも性格が違いすぎる。見た目、というか容姿に関する理由でも恐らくないだろう。ベクトルこそ違えど、どちらも顔面醜悪とは言い難いからだ。艦長は150cmないからかやや童顔気味なのに対して、籠原さんは大人びた整った顔立ちをしている。
もしかしたら地理だけは勝てないから、籠原さんが艦長に嫉妬しているのかもしれない。籠原さんは成績優秀のオールラウンダーであるのに対し、艦長は地理しか脳がない。しかしこの地理が恐ろしく優秀で、この前の1月に行われたテストでも、籠原双葉の全科目1位という偉業をただ1科目阻んだのが、発展地理で史上初の満点を叩き出した七島珠洲だったのである。例年なら930点を取れれば学年首位は固いと言われるが、史上最高点987点の更新を期待されて望んだ二人は、一人は1000点満点の大記録を、もう一人は歴代5位となる965点となり、私達からすればハイレベルな、しかして二人にしてみれば一方の圧勝に終わったのだった。
それが籠原さんに影を落としているのか、籠原さんは艦長に対してよくちょっかいをかけて来るのだ、と私は予想している。まあ、テストの前も電話してきていたが…
「で?わざわざ電話してきたってことは何かあるんだろう?」
『トーゼンでしょ。横須賀の船が行方不明になったって聞いたから、あなた達も行方不明になってないかって心配してあげたのよ』
「心配?乾杯と聞き間違えたかな、私は?」
『フンっ。まああなたがそう思うならそうなんじゃない?』
「…それより、私も連絡をしようとしてたところだったんだ。お陰で手間が省けたよ」
『感謝なさい』
「籠原たちは無事だったんだな」
あ、艦長スルーした。でも籠原さんも特に気にしてないまあいつものことなので仕方無いのだが。
『勿論よ。今アタシ達がどこにいると思ってるの?』
「草葉の陰か?」
『勝手に殺さないでよ!ポルトベロよ、ポルトベロ』
(ポルトベロってどこだ…)
割と聞いてて面白いので仕事が手につかない。そして後で調べなきゃいけないことができてしまった。
「そうかい。地球の反対側まで行ってどうするんだ?ああアレか、マグロ漁船に乗せられたんだな」
『アタシはなにもしてないわよ!野付艦長よ!』
「野付、とうとうマグロ漁船になってしまったのか…」
『なってないわよ!仮にも世界の名門呉女子の最新艦船よ、あんたのロートル帆船とは違うのよ。舞鶴と違って、呉は最新技術のデパートなのよ』
「私だって呉に入学予定だったんだが…」
『あんたが選んだんでしょ』
「ぐ…」
『そもそもあなたは地理しか脳がないじゃない。野付艦長には私みたいに、なんでも出来る秀才が必要なのよ』
「地理だけは勝てないからって僻みに来たのかい?それに野付艦長が秀才なのは《結果》だろう」
『ッ!!黙りなさいよ!悔しかったらアタシに地理以外で勝ってみなさいよ』
「悔しいと思って欲しければ地理で私に勝つこったな」
(──────!!!!!)
今…何か重要なことを聞いた気が…
聞いた気がしたのだが、直ぐに重要な話題に移ってしまった。
「ところで──」
『…何よ、まだ話続いてたじゃない』
「今回のこれ、どう思う?」
『……』
一瞬で籠原さんが黙った。今回の、この大事件には、彼女もやはり思うところがあるのだろう。
『……情弱なあなたたちは知らないだろうけど、6日の晩に、鳥島沖で砲撃を受けてる輸送船があるわ。詳しくは分からないけど、それも事件のひとつとして見るべきでしょうね』
「……砲撃?雷撃ではなくて、か?」
『ええ、砲撃よ。それも、とびきりでかいやつらしいわ』
「おいおい、晴風にはせいぜい高角か14cmしかないはずだぞ」
『そうなのよ。多分これ、私達が第一報で抱く印象よりも深そうよ』
「そうだな。そもそも複数隻の失踪って言うこと自体がおかしい」
『そうね。一隻失踪ならまだ分かるし、反乱だって言うのも納得が行くけど、複数隻って…』
「複数隻がどれくらいなのかにもよるがな。そして反乱っていうこと自体も十分おかしい」
『どうして?』
どうしてだろう?変ではないが…
「入学式は6日だぞ」
『あっ…』
???
「出航が昼だとして、そして反乱があったのが7日の朝だ。籠原の情報も組み合わせれば晩には反乱が始まっていたことになる。ちょっと早すぎやしないか?」
『……』
確かにそうだ。不自然ではある。
「そして、早すぎるというよりも、ほとんどの人間は入学式で会ったばかりのはずだ。それを、たった半日と少しで統制して反乱に導くことが出来るのか?だとしたら、首謀者──艦長だと思うが──は相当の統率力とカリスマを持ってることになるぞ」
『そうね…でも…』
「ああ。早かろう遅かろうに関わりなく、晴風は教員艦を砲撃した」
『艦長が反乱を命令して船員に強いたとかは…ないわね。』
「ああ。少し無理がある」
…ダメだ。話についていけない。おとなしく割り込もう。
「あの、すみません…。
えっと…副長の高柳です。乱入してしまって申し訳ないのですが、どうして無理があるんですか?艦長が命令して…というのなら、反乱が艦長個人の私的な考えだったなら、やけに反乱が早かったのも説明がつきます」
『ああ、高柳…うしおさん、でしたね。ええと…、』
突然の割り込みにも、籠原さんは正しく反応してくれた。なんとなく、学年一位(測量科だけでの話だけど)の風格を感じる。
『ええ。その考えは間違ってないわよ。だけど…』
と、籠原さんは艦長を見遣った。艦長に、質問をした人物の上司に、説明をさせようとしたのだと思う。
しかし艦長は顎で籠原さんに説明を促した。これを確認すると籠原さんはため息を少しついて、私に説明をしてくれた。
『人間っていうのは、そう簡単に誰かの言う通りにはならないわ。自分が嫌なことであれば、その人ができるだけ抵抗を試みるものよ。だから、艦長が命令して無理強いさせるっていうのは難しいのよ。
なぜなら、教員艦に攻撃して逃走するには、観測・セーフティーロックの開錠・操船・速度調整・照準・砲塔旋回その他が必要だから』
「あっ…」
『もう分かった?そう。そしてこれらは担当者が違う。誰か一人でも抵抗したら反乱は成立しないの。
反乱が嫌ならば、見張りや電測員が距離の虚偽申告をすればいい。
そうでなくても、操船手や機関がボイコットすれば船は動かない。
そうでなくても、砲雷長や水雷長が命令しなければ弾は撃たれない。
そうでなくても、照準や砲塔旋回担当が抵抗すれば当たらない。
そうでなくても、副長の同意がなければそもそも開錠すらできない。
…そして反乱は、そのすべてが必要なのよ。更に、学校に反乱を起こすこと自体がかなりリスキー。失敗すれば、その後の生涯に大きな汚点を残すことになる。ブルマーへの道は当然絶たれるでしょうし、それ以外の仕事に就こうとしたってケチがついてまわるわ。そんな一大事を、たかが直近24時間以内に会ったばかりの同年齢の艦長に命令されて仕方なくやった…というのでは、合理的ではないわ。晴風に至っては入試でギリギリだった人たちの集まりのはずだから、艦長に特別ほかの乗員を圧倒する才能があったとは考えづらいわ。お珠洲の地理ならともかく。つまり、艦長の命令で強制的に…ではない可能性が高いのよ』
「じゃあ…」
そのあとは艦長がついだ。
「そういうことだ。艦長以下、船員ほぼ全員の意思による可能性が高い。輸送船への砲撃を考えれば反乱船は複数。そしてその全てで、おそらく事情は同じだ」
「で…ですが艦長、それは…」
「そうだ。明らかにおかしい」
『少なくとも2クラスの60名、多ければもっと。それだけの集団が、同じこと、それもとんでもなく無謀なことを考える。そんなの明らかに合理的ではないわね。けれど…』
「今ある情報だけでは、それしか考えられないんだ」
「そんな…」
『つまり、情報が錯綜しているか、足りないか。お珠洲、あなたどっちだと思う?』
「どっちもだろうな。私は後者のほうが割合が多いと思うが」
『私もよ。相当足りてないわね、これは』
「具体的には?意見を聞こう」
『従わざるを得ない命令だった、とか』
「どこかに学生だけの独立国家を樹立する、とか」
『全ては横須賀の大芝居、とかもアリね』
「あるいは…」
『なに?』
「洗脳」
『…』
「なんだい、適当なことを言ったつもりはないが」
『バカバカしいわ』
「この状況では全てがバカバカしいがな」
『それもそうね。まあ、私はとりあえず任務を継続し、大西洋中央海嶺に行くわ。大和は、どこにいるか知らないけど、どうせ帰還命令じゃない?』
「任務継続だよ。北千島の調査だ」
『あら、千島の調査。慣れてるんじゃない?』
「そうだな。…今の、皮肉としては三流だぞ」
『あなたに判断されても困るわ。ま、無事を祈るわ』
「そうか。カリブを北上するのであれば、せいぜいバミューダ・トライアングルには気を付けろよ」
『言われなくても。じゃ。UW』
「UW」
そこまでで電話は切れた。UWとは「御安航を祈る」という意味である。
艦長は、そういえば私は休憩時間か、高柳任せた、と言って部屋に戻っていった。
――千島列島 松輪島北沖 2016/4/8/1200
その後私は艦橋で、艦長の代わりにいくつか指示を出しながら、私はさっきまで繰り広げられていた会話を思いだして、引っ掛かったことについて考えていた。
──「私だって呉に入学予定だったんだが…」──
──『あんたが選んだんでしょ』──
ここの会話が、ずっと心に残っている。
「舞鶴行きは七島が選んだ」という趣旨。
筑紫乗員となる予定だった我々は強制的に大和に載せられたのだという噂だったが、「選んだ」という表現は、少し変だ。
まだ変なところはあったような気もするが、思い出せない。どちらにせよ、噂ではなく、真実を知るためには、どうやら情報が錯綜している以上に、足りなさすぎるようだった。
次回「6話 会議してぐだりにぐだって柏原」
川柳ですね。いいですね。
ではまたお会いしましょう。今月中にお会いできればいいのですが・・・