ハイスクール・フリート~北の海より愛をこめて~ 作:葉桜照月
──千島列島 幌莚島沖 2016/4/9/0530
「では定例会を始めるぞ」
こんちゃーっす!
自分、大和炊事長、神宮寺抄っス!今日は週に一度の、大和の重役の会議の日なんスよ!いっつもグダグダに終わるんスが、今日はどうっスかね…。なんか横須賀の方で事件があったらしいんで、それのことについて追加情報が出るんじゃないっスかね。
改めて参加者を見渡してみると、
七島艦長兼海図室長・常陸航海長・国東書記の艦橋組──副長は艦橋で仕事をしてるだけで決してハブられてる訳じゃないっスよ──高遠測量長、神若砲雷長、柿崎機関長、萩原主計長、朝田衛生長、那須野操帆長、そしてこの神宮寺。計10人っス。なかなかのボリューミィな感じなんスよ。
…お、司会の艦長さんが何か言い出し始めそうっスね…
「さあ、いつものごとく早朝に集まっていただき感謝する。
まずは早速、昨日全員に伝えた例の反乱事件についてだ」
この一言で、雰囲気が一気にシンとしたっス。やっぱりみんなが気になる話ではあるっスから、新しい情報を得たくて仕方がないんスよ。後で自分の持ち場の人に話したいっていうのもあるだろうっスけどね。
「昨日の朝報告した段階まででは、晴風が反乱を起こして失踪、しかし他にも失踪船がいるらしい、という話だった。それから一日経って、新しい情報も入ってきた。ここで伝えておく。なかなかに刺激的な知らせだから心して聞いてくれ」
あつ、柿崎機関長がメモと取り始めたっス。まあ機関科は噂話大好きっスからね…仕方ないっスね…
「失踪船の数が判明した。いくつだと思う?」
うん、早速グダグダになりそうな気がするっスね…。あ、ここからは台本形式にするっスね。
七島「どう思う、神宮寺」
神宮寺「5000兆隻欲しいっス!大量失踪で圧倒的成長!」
朝田(衛生長)「神宮寺黙って。常識でものを考えて。そして圧倒的失墜の方が正しい」
萩原(主計長)「現実的には3隻くらいじゃないではないすか」
神若(砲雷長)「でも艦長の口ぶりからするともっと多そうですよ」
神宮寺「じゃあ現実的な数値に直すっスか…。810隻くらいとかどうっスか?」
那須野(操帆長)「神宮寺さん、汚いですよ…」
神宮寺「801隻でもいいっスよ?むしろウェルカムっス」
柿崎(機関長)「それもダメじゃないかな…」
七島「7隻だ」
艦橋組以外の全員「うわー…」
神宮寺「少ないっスね…」
朝田「黙れ神宮寺…」
那須野「コレ多いの?神若さん」
神若「そこそこ多いですよ」
萩原「いやそこそことかじゃなく多いのですからね!?とんでもないのですよ!?」
常陸(航海長)「もしもの話、もっと増えるっぽくてー」
柿崎「私達は失踪しなくて良かったよ…」
神宮寺「不思議な言い方っスね」
七島「それで、だ。我々にも帰還命令が出ていたらしいが、舞鶴直々の指揮で任務継続となったのは伝えた通りなんだが───」
神宮寺「ちょっとミス朝田!今神宮寺けっこうまともなこと言ったっスよ!?いちいち突っかかって来るなっス!」
朝田「だから黙れって…お前の声だけで頭痛が起こるんだって」
神宮寺「だったら頭痛薬でも飲めばいいっス!あんた衛生長でしょーが!」
朝田「黙れ、貴重な薬をこんなことに使いたくないんだって」
萩原「ま、まあまあ。お互いにここは納めたほうがいいのですよ?会議中なのですから…」
神宮寺「黙るっス!これは二人の問題っス!」
朝田「黙れ萩原、これは二人の問題なんだってば」
萩原「酷いのです!」
常陸「ここまでいつもの流れすぎて笑える」
柿崎「全員が全員学習しないからね…」
神若「いつもこうなりますよね…」
七島「緊急時はバッチリみんなやってくれるんだがな…」
神宮寺「ちょっと!なにまとめにかかってるっスか!?」
七島「後でやれ。今日は解散だ。もう柏原が近いぞ。全員測量だ。高遠、頼む」
高遠(測量長)「…」
七島「高遠?」
高遠「…zzz」
七島「寝てるよこいつ」
柿崎「まあいつものことだよね…」
神若「これだけうるさいのによく寝られますよね」
七島「よし、高遠を起こして準備させろ。到着したら連絡を入れろと舞鶴に口酸っぱく言われているから時間はあるが…。…では、全員解散!」
──幌莚島 柏原 2016/4/9/0700
「…もしもし、秋峰先生ですか?七島です。ただいま柏原に到着しました。…はい、異状ありません。…他にですか?ええと…野付から電話が掛かってきましたが、あちらも異状無いようでした。」
艦長が舞鶴に電話をしている。艦長は珍しく丁寧語だ。まあ担任の先生と会話をしているのだから当たり前と言えば当たり前だか、普段のものぐさで突っ慳貪な態度からすれば私達にもその丁寧さを分けてくれと言いたくもなる。人によって態度を変えてはいけないと、学校で教わりはしなかったのだろうか。
そのあとしばらくして電話が切られたので皮肉混じりにそんなことを言うと、
「人によって態度を変えてはいけないのは小学校で習った。だがそれはあくまでその人達が対等な関係にある場合だろ。お前と秋峰先生とでは私から見た立場が違う。態度が変わるのは当然だろう」
と返された。至って正論だったが、ふと思い立って、こんな切り返しをしてみた。
「この前の鎌ヶ谷教授?とやらは、艦長から見たら?」
「ああ、鎌ヶ谷教授は…そうだな…」
さあ艦長、先生だとかボロを出しちゃって大卒説を証明させてくださ──
「私の志す学問の第一人者なんだ。尊敬しているよ」
チクショウ!だがまだだ…
「どうやって知り合ったんですか?」
さあ大学とかボロを出しちゃって大卒説を証明させて──
「友人の紹介だよ」
チクショウ!い、いや…
「友人というと、その方も教授なんですか?」
「ああ、教授ではないが大学で研究をしているよ」
かかった!
「その方とはどこで?」
大学で研究をしてるんだから大学で知り合ったに決まって──
「研究論文大賞の授賞式…だったかな」
チクショウ!
…諦めよう、武器が足りない。
「そうなんですか…」
「ああ。…思えばあの賞は人生の転換点だったな」
うわ!自分から釣られに来たぞ!神様ありがとうございます!
「どんなことがあったんですか?」
極めて慎重に、努めて冷静に…
「あの賞を受賞した直後にな」
大学に入ったんですか──とは言わずに喉で押さえておく。
「中学校に行かなくなったんだよなあ、今思えば中学校でもっと学習しておくべきだった」
ええ…重い雰囲気出してくるなよ…
待てよ…コレ大卒じゃなくて単純に不登校にでもなってしまっただけではないか…?
…ええい、聞くなら今だ!
「艦長!」
「なんだい」
「その…学生論文大賞を受賞したあと、艦長に何があったんですか?」
「そうだ、そう言えば言ってなかったか?」
「聞いてません」
「そうか…そうだな…」
艦長は少し俯いて言った。
「出来れば言いたくないな…」
「そう…なんですか」
「ああ。どうせいつかは皆知ることになるとは思うが…でも、今は言いたくないし、知って欲しいとも思わないんだ…」
そうか…
そうなのか…
駄目だ、こう言われてしまってはこれ以上の詮索は出来ない。
「艦長以外でその事を知っている人はいるんですか?」
「この船では、詩歌が部分的に知っているだけだ。それと籠原も知っている」
「国東さんが…どうしてですか?」
「ここに来る前に何度か会ったことがあるんだ」
「そうなんですか…。…あれ?それだけってことは、国東さんもホンの少ししか?」
「ああ、そうだ。…でも副長、君が知りたいであろう情報はそれで十分だと思うよ。…そうだ副長、私からも聞いてみたいことがあるんだが」
「…へ?何でしょうか?」
「君がさっきから質問してくるように、どうやら艦内で私の入学前についての噂が広がっているらしいな」
「はい、艦長地理のことなら何でも知ってますし…」
「知っていることしか知らないね。そして7割は小学校時代に身に付けた知識さ。それで質問なんだが…」
「はい」
「あんまり聞いていいか、こういうことに慣れていないが分からないが…」
「??」
「それらの説のなかで一番突拍子もないのと一番それっぽいの、教えてくれ」
「…なんだ、そんなことですか」
「いいだろ?頼む、聞いてみたい」
「いいですよ。私か聞いた限りですと…」
「一番突拍子もないのは、『飛べる』です」
「…ははっ。なんじゃそりゃ。鳥かね私は」
「流石にあり得ませんよね。すぐにテレポート派が優勢になりました」
「うん、テレポートも出来ないからな」
「逆に一番それっぽいのは…何でしょうね、天才だから、ですかね」
「合ってる」
「自分で言いますかそれ」
「当たり前だろう。私は天才だからな」
「そうなんですか…」
「そうだ。私の噂をするのは構わないが、どうか超能力者のセンは消しておいてくれよ」
「ふふ。分かりました。では、行きますか」
「ああ、行こう。
測量は時間が掛かる。ひょっとしたら終わる頃には全部が解決しているかもしれない」
そうだといいですね、と言って私たち以外にはもう誰もいなくなった艦橋を出た。
「…あ、そうだ。艦長室に寄らせてくれ」
「ああ、いいですよ。待ってます」
と言って、艦長室に艦長は行った。
──艦長室は、この狭い大和のなかで唯一の個人スペースである。もっとも海図室を兼ねているので個人スペースかどうかは微妙だが、個室を持っているのはこの船では艦長だけだ。艦長室は艦橋のほぼ真下にあり、有事の際にも艦長が真っ先に駆けつけられるようになっている。
艦長室には艦長の私物が全て置いてある。中を見たことは数度、それもホンの少しだけだったため、中がどうなっているかは分からない。それと、この船の艦橋の設置自体がかなり新しいからか、艦長室にはトイレとユニットバスが設置されている。艦長は地味にお風呂が好きらしく、非番の夜はよく入っているのが、伝声管からたまに鼻歌が漏れたりすることからもわかる。鼻歌というとすごく艦長らしくないが、その鼻歌も演歌だったり軍歌だったりチョイスが微妙なことが多いのでやはり艦長である。
それよりも気になるのは、艦長の噂である。艦長室にはきっと、艦長の出自に関する秘密が隠されているに違いない、とはずっと思っているが、誰も調べようとするものはいない。どうせ簡単には理解できない書類しか入っていないからだ。先程の会話で、艦長に探りをいれることは叶わなくなったが、だからといって真実がわかった訳でもないし、既存の噂を収束させることが出来る訳でもなかった。
「…艦長室か…」
と呟くと、噂をすればなんとやら、その艦長室から艦長が地図を持って出てきた。
「待たせたな。幌莚海峡周辺の海図だ。本当は幌莚島南部だったはずなのだが、この前の事件によってちょっと変わることになったんだ」
「そうだったんですか…」
「柏原から見える位置にしたいんだと。まあ同じ海の上だからな、突然目の前に晴風が現れてもなんらおかしくはない。そんなことになったら面倒だからな」
「撃ち合い…ですか」
「まさか。あっちはモトが戦闘艦だ。一方的に虐殺されるのがオチだろうさ」
「それもそうですね…」
艦長が歩き出すと、私はもうドアの閉まった艦長室にそっと目をやり、すぐにまた目線を戻して艦長の隣に並んだ。
私たちは艦長室に背を向け、タラップの方へ向かう。これから陸に上がるのだ。たった2日ぶりだが、異様に長く感じた。
出てくる人の数が増えてきましたね。
アニメでもないので、やはり口調で差分するしかなくて、でも全員が全員奇天烈な口調を持つと今度は不自然になる。難しいです。
群像劇というか、そういう系を好むので、結局書かれるのはそのなりそこない形式なんです。
次回「不法侵入と学歴開示祭り」
まだ執筆が完了していないのですが、6000字くらい行きそうです。