真・恋姫†夢想 革命~新たな外史を駆けるもの~   作:黒石大河

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運命の歯車が噛み合い始める。そしてまた新しい外史が生まれる。せめてこの外史に生きる全ての英雄たちに天の加護があらんことを。


序章
序章 天の遣いたちと地の覇王1


「......流れ星?」

 

「...様!出立の準備が整いました!」

 

「...様、どうかなさいましたか?」

 

「ええ。今、流れ星が見えたのよ。」

 

「流れ星ですか?こんな昼間に?」

 

「あまり吉兆とは思えませんね。ただでさえ怪しげなものを追っている最中だというのに...出立を延期いたしますか?」

 

「吉か凶かを取るのは己次第よ。それにこんな理由で滞在を延期してしまっては、栄華に小言を言われてしまうわ。」

 

「はっ。ならば、予定通りに。...姉者。」

 

「おう!総員騎乗!騎乗ッ!」

 

「無知な悪党どもに奪われた貴重な遺産、何としても奪い返すわよ!出撃ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...いったぁ..」

 

暗闇の中、全身を襲う痛みに思わず声が漏れた。

 

確か、一刀と一緒に男子寮を飛び出してそのまま目の前が真っ白になって、気が付いたらこうなってて....

 

「...そうだ、一刀!」

 

全身の痛みに耐えながらガバッ!と起き上がる。さっきまで倒れていた場所はどうやら少しゴツゴツした石の上だったようで、制服には汚れはついていない。そして少し離れたところに同じ制服を着た自分の親友が、小さな女の子の上に乗ったまま気を失っているのがみえた。

 

「......。」

 

あまりの衝撃に言葉が出なかった。とりあえず

 

「...通報するか。」

 

中学からの親友がこんな幼女にこんなことをしているのだ。たとえお天道様が寛大な処置をしたとしても、この俺だけは厳しい罰を与えなければならない。

 

許せ、親友(ゴミクズペド野郎)

 

「俺はなんもやってねぇから!冤罪だ!」

 

俺がポケットから携帯を取り出した瞬間、鬼のような勢いでガバッ!と起き上がった一刀(親友)は俺に向かって声を上げた。

 

「...いや、お前の今の状況考えろよ。」

 

「.......本当に何もしてないんです。信じてください。」

 

「....はぁ。とりあえずその子の上から退くのが優先だ。」

 

そういわれて急いで女の子のうえから退いた一刀。

 

とりあえずこの子、生きてるよな?

 

携帯をしまいながら、恐る恐る近づいて口元に耳を寄せると

 

「...スゥ...スゥ...」

 

一定のリズムで呼吸が聞こえた。どうやら気を失っているだけらしい。

 

「よかったな一刀。とりあえず気を失ってるだけみたいだ。」

 

「ほ、ほんとか...よかった。」

 

とりあえず女の子の様子を確認する。

 

髪は視界の邪魔にならないよう無造作にまとめられ、寝顔は年相応の可愛らしさがある。

 

服はなんというか、とてもだらしない感じだが、服の端等がひらひらしていないのを見ると、活発な子なのだと思う。

 

....隣に転がっている女の子と同じくらい大きい斧は見なかったことにするのがいいだろう。...さすがに本物とかいうパターンじゃないよな。

 

「とりあえず、今の俺たちの状況を確認しよう....」

 

名前は高河夏輝。聖フランチェスカ学園の2年に6月に編入した。両親は健在。朝、一刀と一緒に登校しようと男子寮を急いで飛び出したらいきなり白い光に包まれて、今こんな状況。訳が分からん。まるでアニメか漫画の設定のような状況だ。

 

「.....夏輝こんなとこ学園にあったっけ?」

 

一刀の声を聞いて周りを見てみる。

 

果てまで抜ける青い空に、真っ白な雲が浮かんでいる。その空から視線を下げれば、天を貫くようにそびえる無数の岩山。その下は赤茶けた荒野が見えている。

 

あまりの衝撃的な光景に、目をごしごし、とこすってよく見るのだが、見慣れた手入れの行き届いた庭や芝生、レンガの道なんてものはとても見えない。

 

「.......」

 

地平線は若干黄色くなっており、吹き抜ける風は日本特有の湿潤な風ではなく、とても乾燥した風が吹いている。黄砂の時期なのか、風の中に少し砂のようなものが含まれているのがわかる。

 

どう見ても学園の敷地には見えないし、そもそも日本かどうかも怪しい。

 

「...あ、そうだ携帯!」

 

一刀はポケットにしまっていた携帯を取り出し操作し始める。

 

どうやらMAPのアプリで現在地の確認をするようだ。

 

俺はその間に荷物の確認を始める。

 

ポケットの中には、携帯に小銭入れ(中には769円という大変微妙な金額)ハンカチが入っている。背負っていたリュックの中にはペンケース、ルーズリーフそれにバインダーが一つ。ソーラーバッテリーに充電コード。お腹が減った時に食べようと思って入れていた栄養機能食品である、カラリーメイツが一箱。それとカッターにコンパスといった文房具類。それと最近読んでいる実用書が数点。カッターとコンパスは出番があるかもしれないので、制服のポケットに入れておく。

 

とりあえず俺の方は寮を出たときと一緒だ。

 

「...一刀、個々の場所わかっ」

 

ツーツーツー.....

 

「...このゴミカス野郎!」

 

「んなっ!?いうに事欠いてなんてこと言いやがる!」

 

そりゃ言いたくなるだろ!結果を聞こうと思った瞬間、一刀の携帯の電池が尽きたのだ。ちゃんと充電しとけよ。

 

「お前な、一刀、スマートフォンでも電池なくて使えなかったらただの板だからな。」

 

「お前だって携帯使えないだろどうせ!圏外だろうし。」

 

「はぁ、ただ電池切れる直前だったから電波拾えなかっただけじゃ。」

 

俺は、はぁと息を吐きながら俺も携帯を出す。そしてディスプレイの電源を入れるとそこに移っていたのは

 

「...なんでやねん」

 

思わず関西弁が出ても仕方ないだろう。そこに移っていたのは、圏外という非常な文字。そして一刀はかなりのやったり顔。

 

ため息をつきながら電源を切ってポケットにしまう。ひょっとしたらどこかで電波を拾えるかもしれない。

 

「夏輝、とりあえずどこかに移動しようぜ。女の子もこのままにしておくわけにはいかないし。」

 

「そうだな。とりあえず方角でも調べてみるか。」

 

そういって女の子の横の斧を持ち上げて影を作る。

 

「うわ、これ金属でできてやがる、結構重いな。」

 

持ち上げて分かったがこれは本物だ。刃も研がれているし何よりもこんなに重いものをコスプレ道具とかにはしないだろう。...一刀にこいつやべぇ。みたいな顔でみられているが気にしない。

 

「影は真下かぁ...」

 

どうやら時間はちょうどお昼ごろのようだ。

 

一刀と顔を見合わせてお互いため息をつく。今日はため息しか出ていない気がする。

 

「...ムニャ」

 

とりあえずこの子が起きるのを待つしかないのか。

 

とりあえず斧を地面に置き、気持ちよく眠っている少女の横に座る。そしてリュックを彼女の枕にしてあげたその時

 

「おう、兄ちゃんたち。珍しいモン持ってんじゃねぇか。」

 

この荒野で初めて俺と一刀以外の声がした。

 

「アニキ、女の子もいますぜ!」

 

俺たちに声をかけてきたのは三人組の男だった。黄色のバンダナに質の悪そうな金属の鎧。腰には鉄製の直刀のような物をつけている。

明らかに日本でしてはいけない格好だ。秋葉ですらこんな格好のアホっぽい奴らはいないだろう。...いないといいな。

 

「あ、映画の撮影か何かですか?」

 

「いや、一刀、その線は限りなくなさそうだぞ。」

 

だってこいつら明らかに現代人の出さない臭いを出している。

 

「あ?何こいつら訳の分かんねぇこと言ってんだ?まぁいいか。とりあえずよう兄ちゃん達...」

 

そういいながら一刀に近寄っていくヒゲ面のアニキと呼ばれていた男。

 

「とりあえず着てるモンやら金やらおいてってもらおうか。」

 

そういって男は腰の剣を抜き一刀の頬に押し当てた。

 

まずい!

 

 

「...は?」

 

状況についていけてない一刀。

 

俺は、ポケットからコンパスとカッターを取り出し手の中に隠す。あの剣はどうやら本物の真剣のようだ。

 

「言葉通じてんだよなぁ?だからてめぇと、そこの同じ格好した兄ちゃんの持ってる金、それとそのキラキラした服と女、全部おいてきな。」

 

男は一刀の頬に剣を当てながら当たり前のように言い放った。わずかながら殺気も感じる。本当に俺たちを殺して奪い取る気なのだろう。この行為で俺はもう東京、ひいては現代ではないのだとある程度察してしまった。

 

とりあえず二人を守ることを最優先に動かなければ...

 

俺はゆっくり立ち上がり右手に隠しているコンパスを投げられるように構えを取る。

 

「おっと、変な動きすんじゃねぇぞ。俺も兄ちゃんたちも赤い花咲かせたくはねぇだろ?」

 

どうやら俺の方は、男の横にいたチビとデブの二人が対処するらしい。

 

おそらく2人の方がヒゲの男よりも力はないらしい。

 

「あの、それはちょっと...お金と服は置いてくんで、それは勘弁してもらうっ..ぐぅっ!」

 

「一刀!」

 

一刀に近寄って行っていたチビが一刀を思いっきり蹴り飛ばした。蹴られた一刀は吹っ飛んで、地面の上を二転、三転して俺の近くに転がってきた。もう間違いない。こいつらは敵だ!

 

「おいおい、服蹴るんじゃねぇよ馬鹿野郎。やるんなら...顔にしときな。」

 

「こりゃしまった。すいやせんアニキ。」

 

男たちは軽い調子でやり取りをしている。だいぶ手馴れているのだろう。そいつらを警戒しながら一刀に注意を向ける。

 

「大丈夫か?かず...と...」

 

一刀はなぜか四つん這いで地面を見ている。その先には割れてしまったスマートフォンが。なるほど。残念だったな一刀....機種変したばっかだったのに。

 

とりあえず、足元の女の子を何とかしないと!女の子を抱えようとしてしゃがんだその時

 

「...んーっ?」

 

「ええっと...」

 

「おはよ?」

 

「ああ、おはよう」

 

寝起きでまだぼんやりしているのだろう。周囲の状況もよくわかっていないのか周りを見渡している。

 

「あたまいたい...」

 

「え、大丈夫?」

 

スマホショックから立ち直ったらしい一刀が近寄ってきた。どうやらまとまることができたらしい。

 

「あー。落ちてきた人だ。」

 

女の子は一刀を見てそう言った。ん?一刀が落ちてきたということは俺もそうなのか?

 

「落ちてきた?...俺が?」

 

「うん。お空に流れ星が見えて、見に行ったら...シャンの頭の上に、落ちてきたの。おーって思ったら避けるの忘れちゃって。」

 

なるほど、それで一刀と一緒に気絶してたのか。

 

「シャンちゃん、ごめんね。俺の友達のせいで痛い思いして。大丈夫?」

 

「......っ!」

 

シャンちゃんは俺の言葉にビクッと一瞬身を小さく震えさせて自分の全身をぺたぺたと触って見せる。体の無事を確認しているのだろう。

 

「ううん。へーき。...うん。だいじょーぶ。...まぁそういうこともあるよね。」

 

なんかお察しみたいな顔されたんだけど!?

 

「って、さっきの連中!」

 

一刀が思い立ったようにシャンちゃんから顔を上げた。

 

…俺もシャンちゃんのペースにすっかり乗せられていた。恐るべし幼女…

 

「おう。忘れられたんじゃねぇかと思ったぜ。ちょうどいい抱えていく手間が省けたぜ。...お前ら!」

 

髭の男の声でゆっくりとした歩調ではあるが詰め寄ってくるデブとチビの男。

 

このままじゃ一刀とシャンちゃんが危ない。そう思って身構えた瞬間

 

「ねー、おにーちゃん。」

 

「え?お兄ちゃん?」

 

「いや、駄目じゃないけど。」

 

すごいマイペースだなこの子。一刀もえぇって顔してこっち見てる。

 

「ならお兄ちゃんも、シャンでいい。」

 

「あぁわかった...」

 

「それでお兄ちゃん。こいつら悪い奴?」

 

「たぶんな。俺らに金おいてけ―とか言って一刀のこと蹴ったしな。」

 

「...それ、たぶんじゃなくて...確定。」

 

シャンはそうつぶやいた瞬間、体に氣をまとって近づいていたデブに一瞬で近づいた。そのままの勢いで繰り出される肘うちが轟音を立てた瞬間

 

「が...はっ。」

 

デブが力尽きた。

 

「ひとりめ。」

 

この子、ぽけーっとしてるが、相当の手練れだ!

 

「てめぇ!なにしやがるっ!」

 

仲間をやられた チビが叫ぶ。

 

「シャン!」

 

俺はとっさに足元にあった斧をシャンに向かって投げる。これがシャンの近くにあったということは間違いない。

 

「ありがとー。おにーちゃん。...それはこっちの台詞。今のは、けーこく。次は...本気。」

 

そう呟いてでかい斧を構えるシャンから沸き立つこの空気。これは間違いない。この世界は現実じゃないと確信した。

 

「お、おい!お前生きてるな!」

 

「だ、大丈夫なんだな。」

 

今の肘うちで沈まないとは恐ろしきデブだなこいつ。

 

「し、所詮、女一人だ!俺たちが束になりゃ何とかなる!それに向こうには足手まといが二人もいやがる!」

 

「ぐっ…」

 

男たちはそう言ってじりじりと詰め寄ってくる。それをみて一刀は悔しそうに顔をゆがめる。

 

「大丈夫だ一刀。手練れがもう一人いるようだ。」

 

「へ?」

 

シャンに気を取られていたが、どうやら近くに猛者が一人いたらしい。というかいつの間にか近くに来ていた。

 

「ほほう。女一人倒すのに、人質とは。なかなかに見下げ果てた奴らだ。」

 

俺たちの追い込まれている岩山の、脇にある一段高くなった山から声が響いた。

 

「だ、誰だ!」

 

「フッ…。外道の貴様らに名乗るな名などあるものか!」

 

女の声にヒゲの男が反応した瞬間、どこかの正義のヒーローのようなセリフを決めてきた。

 

色んな意味で猛者だな。

 

「あー、星ー。」

 

一瞬でシャンが台無しにしてしまった。

 

「....香風、お前も名乗りの美学や、段取りというものをだなぁ。」

 

「あーあー。きーこーえーなーいー。」

 

星と呼ばれた女の子は、シャンの知り合いらしい。シャンの名前は香風っていうのか。

 

「てめぇら、たかが一人増えただけだ。やってやるぜ!」

 

「「おう!」」

 

うわ、あいつら開き直って突進してきやがった!

 

「フッ!」

 

「え?」

 

一刀が驚いて声が漏れる。

 

一瞬で岩山からシャンの隣までジャンプした。どうやら一刀は目で追えなかったらしい。

 

そしてシャンの横に並んだ女の子は槍を構えた。

 

「さて、これ以上来るならこのままわが槍が貴様たちに天誅を下すことになろうな。」

 

不敵に笑って男たちに槍を突き付ける女の子。

 

どうやらシャンよりも一枚上手らしい。

 

「あ、アニキこりゃもう。」

 

「な、なんだな。」

 

その子を見てたじろぐチビとデブ。

 

「ぐぅ!...てめぇらずらかるぞ!」

 

そうヒゲの男が叫んだ瞬間、合わせて逃げていく2人。

 

「おぬしらを警備に突き出せば報奨の金がもらえるのだ!逃がすか、貴重な路銀!」

 

あーあー。最後のセリフですべてが台無しに。

 

「えええ、なんかそれ悪役っぽいぞ。」

 

一刀、言ってやるな。

 

「...行っちゃった。」

 

「シャンはいかなくてよかったの?」

 

「...あー。」

 

なるほど、行きそびれたのね。

 

「大丈夫ですかー?」

 

次に俺たちにかけられたのはとても間延びした女の子声だった。

 

「探しましたよ、香風。...そちらの方たちも大した怪我ではないようで何よりです。」

 

「え、ええありがとうございます。」

 

「って一刀、頭切ってんじゃねぇか。」

 

「あ、ほんとだ!まぁでもこのくらいなら大丈夫だ。」

 

そう言ってハンカチを出す一刀。まぁでも命の危機だった事を考えれば安いもんだな。

 

しかし、すごい特徴的な格好してるなこの子たち。日本というか中国風な感じだ。こういうコスプレした人たちで本気の戦いとかしてるのか?

 

「やれやれ。すまん、貴重な懸賞金に逃げられてしまった。」

 

「お帰りなさーい。星ちゃんが逃げられるなんて、あの人たち馬でも使ったんですかー?」

 

「然り。同じ二本足ならば負けはせぬが、倍の脚で挑まれてはさすがに敵わんよ。」

 

「まぁでも香風も見つかりましたし。問題内でしょう。しかし、あなた達も災難でしたね。この辺りは比較的盗賊の少ない地域なのですが...。」

 

...比較的盗賊の少ない。...ねぇ。

 

「あの...風、さん?」

 

「...ひへっ!?」

 

「貴様っ!」

 

まずい!

 

俺は一刀に向けられた殺気を感じ、カッターの刃を出し女の子に詰め寄る。さすがにカッターでは受けきれないので、槍の柄を片手でつかんで、そのままカッターを首筋に...

 

「ッ!?」

 

狙いがうまいこと決まり、槍を持った女の子を制圧する。その子はとても驚いた顔でこちらを見ている。しかし、この子かわいいな。目も今まで見たことがないくらい真っすぐで、きれいな目をしてる。

 

「すまんな。俺もさすがに友人が殺されそうになるのを見過ごせない。友人の非礼は詫びる。だが殺そうとするのは納得できんな。事情を説明してもらいたい。」

 

「えーっと、もう一人のお兄ちゃん。名前読んだの、...ごめんなさいって、てーせーして。」

 

「え、えーっと。」

 

「訂正なさい!」

 

シャンが一刀に助言する。どうやらこの世界は名前を呼ぶときに独特な風習があるんだろう。

 

たじろいでいる一刀に眼鏡をかけた女の子が強い口調で訂正を求める。風と呼ばれていた女の子は涙目になっている。

 

「一刀。」

 

「わかった、わかったから!訂正する!だからお願い、槍を引いて。」

 

「...結構。」

 

「ふぅ。」

 

どうやら引いてくれたらしい。

 

「はふぅ...いきなり真名で呼ぶだなんて、びっくりしちゃいましたよー。」

 

真名ねぇ...。ん?

 

「シャンは最初から呼んでも何も言わなかったよな?」

 

「うん。真名だけど呼ばれても何ともなかったら、まぁいいかなぁって。」

 

テキトーここに極まれりって感じだな。

 

「えぇっと、その真名ってのは呼んじゃいけないのはわかった。だったら俺や夏輝は何て呼んばいいの?」

 

一刀がちょっと不安そうに先ほどの真名を呼んだ少女に尋ねる。

 

しかし、真名ってのを呼んじゃいけない風習か。今まで幾人の初見勢が散ってきたのか。

 

「はい。程立と呼んでくださいー。」

 

ん?

 

「今は戯志才と名乗っております。」

 

んん?

 

「私は、趙雲という。」

 

んんん?

 

程立、戯志才、趙雲ねぇ…。

 

「一刀、どう思う?」

 

「どうって言われてもなぁ...。なんか三国志に出てくる名前だし、コスプレイベントとも思えないし。」

 

「だよなぁ。」

 

これは本格的に訳の分からんことになってきたぞ。現代でもなく東京でもない上、タイムスリップなんてことになるとかシャレにならん。

 

「しかし、こちらに名乗らせていおいて、そちらは名乗らぬとは、いささか礼儀にかけるのではないか?」

 

趙雲さんが訝しげにこちらを見ながら聞いてくる。

 

「確かにそうだな。失礼した。俺は高河夏輝。んで、こっちは連れの北郷一刀だ。遅れたが、先ほどは助けていただき本当に感謝している。」

 

ペコリと俺と一刀は頭を下げる。

 

「なに。たいしたことではござらんよ。お詫びにそちらの高河殿と一槍お願いしたいところではあるが、そちらは得物も持ち合わせず、時間もないようだ。この貸しはいずれ返していただくことにしよう。」

 

「そうですねぇー。」

 

趙雲さんと程立さんの見ている方向を見ると、砂煙が地平線の向こうから近づいてくるのがわかる。

 

あーこれはめんどくさいことになるパターンですね。わかります。

 

「さて。では、我らは行くとするか。」

 

「え、俺たちも連れて行ってくれないのか?」

 

「我々のような流れ者が貴族のご子息を2名も連れていると、大概の者はよからぬ想像をしてしまうのですよ。」

 

「それに、先ほどのような面倒事は楽しいが、官が絡むと途端に面白みというものがなくなってしまうのだ。これにてご免仕る。」

 

まぁ確かに、周りから見たら俺や一刀の制服はちょっと目立つしなぁ。

 

「ほら、香風行きますよ。」

 

「あ....」

 

「ではではー。」

 

取り残された俺と一刀。一刀は若干、顔が引きつってる。

 

まぁおいてかれても仕方ないか。

 

そして、そんな取り残された俺たちを待っていたのは鎧をまとった、中国の時代劇よろしくな格好の騎馬兵だった。しかもご丁寧に立った二人を圧倒的人数で囲んでくれてる。

 

はぁ。やっぱり面倒ごとなんだなぁ。

 

こんな状況ではあるものの、俺は心の中でため息をつくことしかできなった。


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