真・恋姫†夢想 革命~新たな外史を駆けるもの~ 作:黒石大河
こんな出会いも一期一会。
第1話 曹一門
「なんでこんなことになってんのかなぁ...。」
あの日、曹操に俺たちが拾われて数日が経過した。その数日、俺は一刀とは別行動になっていた。
一刀は曹操が拠点にしている町で、秋蘭とシャンと一緒に世界の基本的な知識の学習と文字の練習。まぁ一刀は文字も読めないし空気も読めないし…。空気の件はさておき、ついてきてもあまり役に立たないのだ。華琳はあきれていたが。
それに対して、俺はなぜか文章の読み書きができてしまっていた。古典なんて学校でもまともにしたことはないのに…。とにかくその部分はラッキーだ。
とりあえず、そのおかげで俺は現在進行形で華琳と一緒に情報偵察という名の町の視察に連れ出されていた。
「あら?誰のおかげでこうして縄にもつかず外を出歩けてると思ってるのかしら?」
「そりゃ華琳の裁量のおかげだとは思ってるが。」
「よろしい。じゃ、次に行くわよ。夏輝ついてきなさい。」
「了解。」
視察とはいったが、さっきから町の服屋や本屋、鍛冶屋を片っ端から覗いているだけだ。鍛冶屋はまぁ視察といっていいが、それでも明らかによその方が多い。
まぁ華琳も女の子ということなのだろう。先ほどから俺が持つ荷物の量が増えているのは気のせいじゃない、と信じたい。気のせいだろう。
「しかし、華琳も大丈夫なのか?俺だけ共にしてこんなとこぶらついて」
「あまりよくはないわね。でもあなたは私に対して何かしよう、と思っているわけではないでしょう。こう見えて私は人を見る目はあるつもりだけれど。」
「そりゃ一宿一飯、という恩があるしな。恩を仇で返さないってのは俺の祖父からの教えだ。」
「それは良い心掛けね。ではそろそろ戻りましょうか。あなたの人となりも見ることもできたしね。」
やっぱりそれがこの視察のメインだったか。ちょっと離れたところに春蘭の気配も感じるしな。えらい殺気漏らしてるけど。さすが曹操、抜かりないな。俺は春蘭に気づかないふりをしつつ華琳と一緒に滞在している宿に向かった。
「華琳様、伝令の兵が戻ってまいりました。」
「そう。」
宿に戻って華琳の部屋に荷物を置いていると、秋蘭が訪ねてきた。その内容に対する華琳の言葉数は少ない。恐らく伝令の持って帰ってきた答えは予想がついているのだろう。
「やはり、豫洲へ立ち入ることはまかりならん…だそうです。こちらから逃げ込んだ賊は、向こうの兵で対処すると。」
「まぁ、そうでしょうね。」
華琳たちの追っていた、南華老仙の著書”太平要術”を盗んだ賊が、俺たちの証言とその後の情報収集で、すぐ隣の州…豫洲に逃げ込んでいることはつかんでいた。
華琳がこの町で待機していたのは、その賊を追撃するための兵を豫洲内へ派遣する許可を待っていたのだ。
結果はどうやら華琳たちが予想していた通りだったらしい。
まぁ確かに自分のテリトリーをよそ者に武装を許可した状態でウロチョロされたらたまらんだろうし、豫洲を収めている州牧もメンツが丸つぶれだ。
「これでこの街にいる理由もなくなったわ。秋蘭、春蘭たちに帰りの支度をさせなさい。準備が出来次第すぐに陳留に戻るわよ。」
「はっ。」
華琳は用は済んだとばかりに秋蘭にそう伝えた。秋蘭もそうなるとわかっていたのか、すぐに部屋を出て行った。
「さて、夏輝も一刀と一緒に支度をなさい。」
「俺たちも連れて行ってくれるんだ?何もしてないのに。」
「それはこれから返してもらうのよ。賊の顔もあなた達しか知らないのだし。」
「了解した。じゃあ一刀にもそう伝えてくるよ。」
俺は華琳に了承の意を伝えて部屋を出た。だがこの時俺はある事実を失念していた。それを伝えておけばあんなことにはならなかったのに...。
数日後
俺たちは陳留に続く道を行軍していた。一刀だけは馬に乗らず自分の脚で一歩一歩歩いていた。
「一刀お兄ちゃん、シャンの後ろ…のる?」
「やめておけ。初日はそれで遅れたのを忘れたのか?」
「春蘭の言うとおりだよ…気持ちだけ受け取っておくよ。ありがと。香風。」
こっちの世界では当たり前なのだが、長距離移動する際、相応の立場の人間は馬に乗る。が、この馬という乗り物は、現代に普及している自転車やバイクといったものと違い非常に慣れがいる。それを知らない一刀は果敢に挑み、そして散っていった。
初日、シャンの後ろにおっかなびっくり乗った一刀は常に下半身を力ませ続け、1時間も持たずギブアップ。その後体力を使い果たした一刀は、荷車に乗せられリアル荷物とかしていた。その間の顔も死んでいたので、ひょっとしたら相当なトラウマになってしまったかもしれない。一刀よ、強く生きろ。
「だが、馬にも乗れんで今までどうしていたのだ。不便ではなかったか?」
「あー秋蘭、天の国には馬より早くて楽な乗り物があってな。天の国の人間は大半が馬にも乗ったことがないような国なんだ。」
「なんと、馬より早いとは。ではなぜ貴様は乗れるのだ?」
まぁ春蘭の問いももっともだろう。
「まぁ、天の国の中でも俺の家は特殊でな。幸い馬に乗る機会は多かったんだ。」
幼少のころ鬼のように乗馬をさせられた記憶は忘れられない。いつか馬で親父のこと轢いてやるとか思ってたが、今は感謝の念がわいてきている。よかったな親父、少しだけ寿命が延びたぞ。
「馬に乗れないなら、出城にいる間に練習しておけばよかったでしょう。」
「…こうなるとわかってたら練習、したんだけどね。」
でも数日くらいの付け焼刃ではあまり結果は変わらなかっただろう。
「陳留に就いたら、今度は馬の乗り方を教えるね。」
「よろしくお願いします。香風先生。」
華琳たちと話をしながら小高い丘を越えると…。
「ほれ、北郷。その陳留が見えてきたぞ。」
「...え。あれが!?」
「...っ!?」
丘の向こうに見えてきたのは、思ったよりも高い城壁に囲まれた巨大都市だった。今まで見てきた出城の町とは比べられないほどに大きい。それこそ漫画やゲームでしか見たことのない城塞都市だ。
「でかい、な。」
「あぁ、もっと小さいと思ってた。」
「ふふふ。そうだろうそうだろう。」
「なんで春蘭様が偉そうなの?」
「…見て見ぬふりをしてやってくれ。香風。」
あまりにも驚いてしまって声が出なかった。でもこの町を治めている華琳だ。現代でいうところの相当な立場なのだろう。
「もしかして、華琳って実はものすごく偉い人?」
「…一郡を任されただけのただの太守よ。それ以上でもそれ以下でもないわ。…驚くのはそれくらいにして、早く歩きなさい。いつまでもあなた達の干渉に付き合っている暇はないのよ。」
「あぁ、すまん。」
華琳にそう促され急いでついていく俺と一刀。そこからしばらく歩くと、ようやく城門の前にたどり着いた。近付くにつれ思ったが、
「でかい。」
そうただひたすらにでかい。陳留でこの大きさなのだから都の門はもっとでかいのだろう。
「おかえりなさいませ!お姉様!」
俺が再び感傷に浸っていると、門の前で華琳を迎えたのは華琳と同じ髪の色をした女の子だ。
見るだけで強い意志を感じさせる切れ長の瞳、整った顔立ち、華琳と同じくまぶしいほどに輝く金色の髪。それは華琳への呼びかけを聞くまでもなく、華琳の親族だとわかるものだった。
「…誰、あの子。華琳の妹?」
俺の後ろで一刀が秋蘭に小声で確認を取っている。
「この陳留の金庫番を任されている、曹洪という。実の妹ではないが、華琳様の曹一門に属するお方だ。…それと、北郷と高河はしばらく黙っていろ。華琳様から何か言われても最低限の事しか答えなくていい。わかったな?」
秋蘭が確認を取った一刀と、聞いているんだろうといわんばかりの瞳で俺に伝えてきた。
あー、何というかフランチェスカ学園にもいた、言わゆるアレな方ですか。
秋蘭の言ですべてを悟った俺は目を合わせうなずく。その反応を見て秋蘭は満足そうな顔をする。
「いま戻ったわ、栄華。…けれど、なにもここで出迎えなくてもよかったのよ?」
「遣いも受けましたし、見張りからも遠くにお姿が見えたと報告がありましたので…いてもたってもいられず。…あぁ、御髪もお衣装も砂だらけで。お風呂とお召し物の支度をさせていますから、すぐにお使いくださいまし。」
「ふふ。ありがとう。留守中は変わりなくて?」
「はい。柳琳もいましたし、華侖さんも……彼女なりに、よくやってくださいましたわ。」
曹洪さんも春蘭たちのように華琳の事が大好きなんだろう。弾む声、向ける視線、すべてから華琳に対する愛情の念が伝わってくる。…華侖って子のことを説明するときに微妙な間があった理由は、なんとなく察してしまった。
「それと、その…お姉様。…新しく迎えたお客人がいるとか。」
「…ふふっ。そうね、いらっしゃい。」
「あぁ...。」
「はーい。」
華琳にそう言われ俺とシャンは馬から降りる。それに合わせて一刀も一緒に出てくる。この時俺はあえて返事をしなかった。どうせしても結果は変わらないだろうし。
「あらあら、まぁまぁ!」
曹洪さんの目がシャンをとらえた瞬間輝き始めた。あー、やっぱりこういう人なんですね。
「……?」
どうやらシャンはわかっていないらしい。恐らく隣でボケーっとしてる我が親友もだろう。
「ふふっ。とっても可愛らしい子ですわね……。お姉様、この子は?」
「遣いに持たせた連絡の通りよ。私の元でしばらく働いてくれる事になったわ。」
「そうですの!」
曹洪さんは華琳の紹介にぱっと花の咲いたような明るい笑みを浮かべると、香風の顔を覗き込むように身を屈ませる。
「わたくしは曹洪と申しますわ。あなたのお名前は?」
「あぁ、俺は..グエッ!?」
「徐晃。……でも、シャンの事は香風でいい。」
「香風さんですわね。なら、わたくしの事も真名の栄華でお呼びになって?」
「...わかった。」
ふう、どこぞの空気読めないボケが前に出ながらなんか言おうとしたので、シレっと襟をつかんで元の所にひこずった。なんかカエルが死んだときのような声がした気がしないでもない。
シャンに真名を許されてさらにテンションの上がる曹洪さん。もはや暴走に近づいている。
「それと香風さん。客人用のお風呂の支度もしてありますから、よければお湯をお使いになってくださいまし。」
「わーい。」
「それから…よければお召し物も用意させていただきますわ。それにぼさぼさの御髪もちゃんと整えないと、可愛いお顔が台無しですわよ。」
「……うん?」
曹洪さんはどうやら面倒見のいい子なんだな。
この子に面倒を見てもらえばシャンもきっと、女の子として大事なものをつかむはず。
…つかんでくれるといいなぁ。
「お姉様、よろしくて?」
「ふふっ。好きにしなさい。」
「あとは、そうですわね…。うん。身だしなみが整っていなのはそれで良いとして、口調に気品が感じられないのは、おいおい躾ければ良さそうですわね…。」
…だめだ。これはもう完全に暴走特急になってやがる...。
「都の役人を務めていたということから、最低限の学問は修めているでしょうし……後は、家での振る舞いとお作法を仕込んで、わたくしへの奉仕の仕方も…ふふ、ふふふ…。」
「……ひっ。お、おおおお、お兄ちゃん。」
「…はいはい。大丈夫大丈夫。」
おわったな、この感じ...。
シャンは少し涙ぐみながら俺の腰に抱き着いて背中に隠れる。
「栄華。」
「あ……。ふふっ、申し訳ありません。つい癖で…。」
…癖って。
「…どんな癖だよ。」
一刀、考えが口にでてんぞ。
「ご安心なさって。お姉様のお手付きの子に手を出すような真似は、誓っていたしませんわ。」
「私の期待を裏切らないで頂戴。」
「……お手付き?」
「あー、シャンは気にしなくても大丈夫だ。」
シャンがこちらを見上げてくるが、意味を教えない方がいいと判断。大丈夫といいながら頭をなでると、気持ちよさそうな顔をしてギュッと腰に抱き着く。
「それと、一刀、夏輝名乗りを。」
華琳がいったん間を取った。ま、そのことには感謝するけどどうせこの手のタイプは...。
「ああ。俺は北郷「はい、それで結構ですわ。」...。」
やっぱりこうなるんだよな。
「お姉様の連絡には目を通しましたから、もう充分です。」
一刀の顔が引きつってる。まぁ想像できていなかったらそうなるよね。
「栄華。一刀と夏輝はこれでも例の事件の貴重な情報源よ。必要以上にはしなくていいけれど、相応の扱いはするように。」
「それは…どうしてもですの?お姉様。」
「どうしてもよ。」
「…はぁ。承知いたしました。」
さきほどのシャン時とはうってかわって、素晴らしく温度感のある視線が飛んできた。
が、それも目があった瞬間そらされ、もう視線は俺と一刀の足元をロックオン。
「では、厩の隅に藁がありますから、そちらをお好きにお使いください。使った藁を馬が食べてしまわないよう、しっかりと片付けてくださいませ。よろしくて?」
あまりの想定外さに口をあんぐりとあけている一刀。アホが前面にでてんぞ。
まぁでもよろしいかといわれたら間違いなくよろしくはない。
「…栄華。」
さすがの華琳も見るに見かねたようだ。まぁ確かに一応拾った客人を厩で寝かせている。という事実は広まってしまったらたまらないだろう。
曹洪さんは、華琳の顔と俺たちの足元に視線をふらふらさせ、
「…はぁ。わかりましたわ。お部屋を用意させます。」
渋々といった表情でそういってくれた。
「ありがとう。世話になってる分はちゃんと働くよ。」
嬉しそうな顔で曹洪さんにそう言う一刀。
「当たり前ですわ。あなた達がここで暮らす中、どれだけのお金が無駄にかかっているのか、ちゃんと理解してくださいまし。…それから金輪際わたくしの視界に入らないでくださいまし。」
が、この言葉を返され完全に顔が苦笑いで引きつっていた。
男が嫌いなんだろうが、ここまで強烈に表に出されると何とも言えない気持ちになってしまう。
「そこのあなたもいいですわね!」
ズビシッ!という効果音が付きそうな素早さで俺を指さしでご指名。…顔は俺たちの足元に向いたままだが...。
「…まぁ善処させてもらいます。」
視界に入らないのはさすがに厳しそうだが、何とかするしかないだろうな。これから。
「はい。それではわたくしは先に城に戻っていますわ。春蘭さん!お話がありますので、一緒に来てくださいまし。……あと、香風さんもお風呂にご案内いたしますわ。…ふふっ。」
「…ひっ……お、おおおお兄ちゃん。」
「おう。……では華琳様、お先に。」
春蘭は華琳にペコリとお辞儀をして、曹洪さんの方へ馬を向かわせた。……なぜか曹洪さんにご指名されたシャンは俺の腰に抱き着いたまま 。
「あのー、シャン。せっかくだし使わせてもらったら?」
「うぅ……お兄ちゃん。一緒にお風呂入って。」
「大丈夫だから。な?それに俺が行くと、より曹洪さんの中の俺の評価も落ちちゃうし。シャンだけでも大丈夫だよ。...だよな?華琳。」
「栄華は自分の言ったことには責任を持つ子よ。手を出さないと誓った以上は、大丈夫でしょう。」
「だってさ。お風呂でゆっくりしてきな。」
俺たちの世界じゃ当たり前になってるが、この当時の風呂は贅沢行為なのだ。現代のように蛇口ひねれば飲める水がって時代ではない。水の確保は大変だし、なにより火をおこすための薪は準備にも時間が必要だ。
そんな贅沢なものを準備したってことはそれだけ歓迎しているてことだろう。
まぁ、俺たちは間違いなく歓迎されていない。
「...わかった。」
すごく涙目になりながら、時おりこちらをちらちら見ながらシャンは曹洪さんの方へぱたぱたと駆けていった。
なんだろう、この年の離れた妹を見送るような感覚。
「ずいぶん好かれているのね。」
「あぁ。本当に会ったばかりなんだがな。そうだ華琳、彼女が曹家の金庫番で間違いないのか?」
「ええ、そうよ。少し変わっているけれど、優しくて賢い子よ。」
「それは伝わってきたよ。」
あれだけシャンや華琳にたいして物腰が柔らかくて、気を利かしている。
「高河、城内を案内する。北郷と一緒についてこい。」
「わかった。じゃあ華琳また後で。」
「えぇ。」
華琳との話がひと段落したところで秋蘭に呼ばれた。
とりあえず今は秋蘭について行って場内を案内してもらおう。
そう考えて、ちょっと先を歩く秋蘭と一刀に小走りで駆け寄った。