イマジナリースカイ・オンライン    作:へあぴん

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処女作です。
拙文でありますが、お付き合いいただけると感激の極みです。


メカニカル・マインド
第1話


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Welcome To Imaginary Sky_Online

 

 

 

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広大無辺な空、蒼穹の彼方に浮かぶ白雲の合間に巨大な影がゆらめいていた。

唸り声を上げるように辺りを吹き荒れる風を切り、ただそこに悠然とあるそれは、途方もなく大きな岩石の塊のようであった。

浮遊大陸――名を『空を纏うもの(スカイクラッド)

直径およそ100kmという茫々(ぼうぼう)とした広さを持つこの大陸こそが、ここに生活する人々にとっての世界そのものであった。

大きさにして関東平野と同等の面積があるとされ、踏破されていない区域は未だ数多く、その全貌は明らかにはされていない。

とはいえ、これまでに無数に存在する迷宮区の攻略に伴って、多くの街や村が発見されている。新たに解放された地区には到達と同じタイミングで中央部に転移結晶が現れ、他の都市とのリンクが成立し、そうして誰もが行き来できるようになる。

既にこの巨大な大陸の周囲に点在する、いくつかの小さな浮遊島までもが解き放たれ、人々の生活圏となっていた。

浮遊大陸に暮らす約100万もの人間が、そうして自分たちの居場所を広げながら生きてきた。

IS―インフィニットストラトスという世界最強の兵器と共に。

2025年 2月16日 現在時刻 正午

この世界が生れ落ちて二年数ヶ月。

つまりそれは、《イマジナリースカイ・オンライン》が誕生し、それだけの時間が過ぎたことを意味する。

 

 

 

 

――1

 

2025年 2月16日 AM 6:30

 

 

 

 

この日は珍しく、俺――御鏡逢沙(みかがみあいさ)は現実世界での朝を迎えた。

碧玉のような深い緑色の小さな光点が、真夏に舞う蛍のように、暗闇の中で一つ瞬いていた。

首周りに取り付けられたコアコネクターと呼ばれるインターフェースにプリセットされている、目覚まし時計アプリの起動を示すLEDライトの輝きであった。

ポロン… ポロン…

脳に直接鳴り響くゆっくりとしたオルゴールの音色がまどろみの中から意識を覚醒させていく。

初めに感じたのは肌寒さだった。

昨晩は暖房をかけて床に伏したはずだったのだが、自分のベットが窓に面しているのもあって、どうやらカーテンから垂直に降りてきた冷気に身体を冷やしてしまったようだ。身を突き刺すような寒さに思わず掛けていた毛布を引き寄せた。

暗がりの中、ベッドの上に横たわったまま、薄く瞼を開いた。鼻孔をくすぐる微かな木の匂い、木組みの天井から釣り下がるシーリングファンがくるくると回転するのが視界に映る。

主人の目覚めを脳波から感じ取って、アラームが自動的に止まったのを頭の隅で確認しながら、そのままゆっくりと体を起こす。

照明の落ちた部屋には、昇って間もない朝日の光がカーテン越しにうっすらと透けて見える。

手を伸ばしてカーテンを開け放つと、真冬の朝を彩るぼんやりと温かみのある黄金色(こがねいろ)の陽光が差し込んだ。やわらかな日差しに目を細めながら、ぐるりと辺りを見回した。

十二畳ある空間には、木製の寝台が二つに白い小型の冷蔵庫、いくつかの観葉植物とフロアライトが置かれている程度で、一般的な内装に比べて簡素な部類に入るだろう。とはいえここは寝室であるわけだし、物が溢れかえっているよりは落ち着けるはずだ。それにこの家の主は俺とは別の人間なのだから、家具の配置どうこうを決める権利は端から無いのである。

二つ並んだベッドのうち、今俺が腰かけているものと対称にあるそれは、家主兼同居人である姉のものだ。今彼女は所要で出払っているために、蒲団の中はもぬけの空となっている。

姉のベッドから視線を外し、両腕を頭上に挙げて固くこわばった全身を伸ばす

しかし、こうして朝起きてみると、なんだか体がやけに重いと感じてしまうのは、昨晩姉を送り出すために遅くまで起きていたことだけが原因ではあるまい。例えば、仮想世界におけるいくら動いても疲れない身体の感覚に脳が慣れきっているために、現実の肉体と脳との間に齟齬が起きているからということも考えられる。

首の付け根に右手を伸ばす。指先に感じるひんやりと冷たく硬質な感触。フルダイブ型VR(仮想現実)マシン《コアコネクター》。現在世界で最も保有台数が多いとされるインターフェースの一つだ。

ネット世界と脳細胞とを量子レベルで無線接続できるこの端末の誕生は近代技術革新の代表格とも称されるほどの画期的な発明だった。

この《コアコネクター》によって五感全てがVR世界では再現されるわけだが、電磁パルスが脳に直接出力する鮮明な感覚に対して、マシンの最適化が済むまでの間、程度に個人差はあれど違和感が生じる。これが俗に言うフルダイブ酔いという現象だ。

今俺の身には、その正反対のことが起こっているようだ。仮想世界に日夜入り浸っているのが原因で逆に現実に酔ってしまうなんて、笑い話を通り過ぎて、もはや滑稽ともいえる。

「飯の時には毎度還ってきてるんだけどな……」

むしろそれ以外は閉じこもっていますよ、と言わんばかりの呟きに、我がことながら苦笑いを浮かべつつ立ち上がる。

とりあえずこの重たくなっている身体を何とかしなければならない。日頃の疲労か、はたまたVR鈍りなのか見当がつかないが、未だ眠気の残滓に引きずられる全身を目覚めさせるのに、ランニングでもしてくるのがいいだろう。

まずは衣装部屋に寄ってジャージに着替えてこなくては。家の外は身も凍るような寒さに違いないから、汗をかくのを差し引いても防寒対策はきちんとすべきだろうなどと考えをまとめながら、部屋の北側にある扉へと歩み寄る。

先日降り積もって道路脇で固まったままになっている残雪が溶けていることを願いつつ、俺は冷え切っているであろう廊下のフローリングに歩を進めるべく、ドアノブに手をかけた。

 

こうして、俺にとって人生の転換点となる一日が始まった。

 

 

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