つか、深夜で頭がおかしい。
20xx年、人類にある天敵が現れた。
それは、奇っ怪な様々な姿形を持った怪物。意思疏通は不能。奴等は突然現れては、人を襲い、自身諸とも人間を炭素の塊へと変えて殺していく。奴等は大量に現れては、その場を一瞬で地獄に反転させる大量殺戮者どもである。
突然大量に現れて人間を襲い、時間が経てば勝手に消えていなくなる。さながら、嵐や台風のようだ。故に、それを一種の自然災害になぞらえて、奴等はこう呼ばれるようになった。
──認定特異災害ノイズ。通称『ノイズ』
各国はそのノイズに、あらゆる対策を施したが、その尽くが無意味だと知った。思い知ってしまった。
先に述べた通り、奴等は一種の災害である。そして人類は今現在まで未だに自然災害への、有効的な解決策を編み出していない。それはノイズも、同じだった。
位相差障壁──ノイズが所有する能力であり、ノイズを災害たらしめている大部分である。
簡単に言えば、ノイズはこの力で非実体と実体とを使い分けているのである。
非実体であるときは、ノイズにはあらゆる攻撃が通用しない。銃弾の雨も爆弾の熱と爆風も全てすり抜けていくいくのである。そして実体になる瞬間の大体が、人間を殺す時だけである。
これによって既存の兵器は全て無力化され、ノイズに近づかれれば瞬くまに人間は炭素の塊になっていく。これがノイズに対する全人類の認識だ。
現状、ノイズには活動時間が存在し、それを過ぎればノイズはその場で炭素変換し自壊するということが判明している。よって、ノイズが発生すれば自壊するまで逃げ回る。
以上が、現在ノイズの脅威から逃れる手段である。
人類がノイズに敵わない存在と知り、日々不定期に現れるノイズに怯えながら過ごしているとき、ある変化が起きた。
それも、全世界を揺るがすほどに。
ノイズが認定特異災害として発表されてから、十年目になってからだった。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
とある日本の都市部。
昼下がりのどんよりとした曇天の下、人々の悲鳴が響き渡っていた。
ノイズが現れたのである。
ノイズは突然、予兆もなく現れる。それに例外はなく、ノイズは近くにいた人間を片っ端から炭素に変換して殺した。
そこでようやく、運良く巻き込まれなかった人々は、奴等がノイズだと認識し、次いで狂ったように叫びながら逃げ出した。遅れて、避難警報が鳴り渡り都市部にいた人々は、パニック陥りながら避難シェルターに殺到した。
そんな中、一人だけ人波に逆らってノイズのもとに早足で向かっている人物がいた。
ワインレッドのYシャツに薄紅のネクタイを締めた、筋骨隆々の大柄の男であった。
混雑している人波に苦もなく逆らって進み、その表情に恐怖はなく、強い決意を秘めた漢の顔をしていた。ペースを緩めず男は耳に当てている、小型通信機に指をあてながら、口を開く。周りに聞こえないよう、細心の注意払いながら。
「朔也、翼と奏はいつごろ到着しそうだ?」
『現在、一課の機動ヘリに同乗し現場に向かっています。天候は怪しいですが、このペースなら五分も掛かりませんよ』
「そうか。なら、俺の出番はなさそうだなっ、と」
人混みから抜け出し、乱れた服装を簡単に整えて男は歩行から走行に切り替える。アスファルトの路面を文字通り踏み抜きながら、風のような速度で。
ちなみに、避難に向かっていた何人かが、男の残した路面を踏み潰した足跡を見てあんぐりと口を開けて呆然としていた。
「君たち!何を突っ立っているんだ。早くシェルターに向かいなさい」
「アッ、ハイ」
驚きは消えないものの、避難誘導している自衛隊の声に我に帰り、再び足を動かす。
ん?と、自衛隊員の一人が足跡を残した潰れた路面を見て、理解し納得する。
ああ、あの人がいるんだなぁ、と。
『司令、まさかとは思いますが。ご自分でノイズの足止めをする気だったんですか?』
「まあな。一課が迅速に動いてくれたんでな。彼らに避難誘導を任せて、俺はあの二人が来るまで時間を稼ごうと思ったんだが」
全くの杞憂だったな、と男──
『……やっぱり』
通信機の向こう側にいる若い男──
朔也の隣にいる女性、
日本、というよりは世界には規模には差があるがそれぞれの国には対ノイズ専門の組織が存在する。
日本には特異災害機動対策部一課、二課が存在している。
弦十郎はその対策部の二課の司令官であり、朔也とあおいは弦十郎の部下である。
本来なら弦十郎は二課の本部で、前線で戦う同じ二課の人間に指示を出す役職であり、こうしてノイズ発生の最前線に居ていい人間ではないのだが。
「ったく、久々の休暇だったのになぁ」
休みだった。一組織の司令官という気を遣う立場で、多忙な仕事の日々を終わらせた弦十郎は、趣味のアクション映画のDVDを借りようとこの都市部に赴いていた。レンタルショップで、新作のDVDを手に取りかけた瞬間にノイズの避難警報が来たのだった。
警報が耳に入った途端、意識を瞬時に切り替えて店内の人間の避難誘導に入った。その後、店外に誘導し一課の隊長と合流し、誘導を任せて発生現場に向かって現在に至るのだ。
休暇を潰されたことに思うところはあれど、人命を守ることに全力で臨む。風鳴弦十郎という男は、そういう人間だからこそ、自ら進んで死地へ向かっていけるのだ。
「俺は、このまま現場に留まる。逃げ遅れた奴がいるかもしれないからな」
『分かりました、気を付けてくださいね。って、嘘だろ!?』
『司令っ、大変です!』
「どうした、何があったっ?」
『今現在、新たなノイズの反応を観測しました!?』
「何ぃ!?」
あおいの報告に、弦十郎は足を止めてしまう。
ここに来て、新手かと内心で毒づき、冷静に状況を把握する。
「あおい、発生場所は何処だ?規模はどれくらいだ、避難状況は?」
『■■地区に観測あり、数は司令の所より少し多いです。避難状況は、混乱しています。一課が向かっているのですが、間に合う頃には『司令!』──』
あおいの報告に朔也が割り込んできた。
『新たなノイズを確認された地区の近くに、二人を乗せたヘリが飛んでいます!』
朔也の「二人」という言葉に、弦十郎はすぐに決断した。
「あおい、朔也。今すぐ一課の隊員に二人を、■■地区に向かってくれと伝えてくれ。翼はノイズの
脳裏にあの強気な少女の顔が過る。きっと後で、何かしら文句を言ってきそうだ。
『奏ちゃん、きっと不満ですよね』
弦十郎の心の内を読んだかのように、あおいも少女に思いを馳せる。
『仕方ないですよ。状況が状況ですし。役割分担、適材適所ですよ』
「朔也の言うとおりだ。それに、今の奏は何処か危ういからな」
弦十郎と朔也の言葉に、あおいも納得し、気持ちを切り替える。
「──悪いな、二人とも。奴さん方のご到着だ。二人は、翼と奏のサポートに専念してくれ」
静かに二人に告げながら、弦十郎は前方を見据える。表情を引き締め、力強く構える。
数多の異形──ノイズが
人間はノイズに絶望的に敵わないと、弦十郎は知っている。
ノイズには殆んどの攻撃が効かず、触れれば即座に炭素変換されることを理解している。
だから、ノイズが自壊するまで、ただただ逃げ回るしかない。
しかし、今ここで逃げたら。
弦十郎はここに来るまでの道のりを、思い出す。
恐怖に怯えきった人々の顔。
親とはぐれて泣きじゃくる子供。(ちなみに、しっかりと弦十郎が隊員に保護させ、間もなく親と再会させることができた)
そして、元は人であっただろう炭素の塊の数々。
「させんぞ、ノイズども」
今、此処で逃げ出せば更なる地獄が生まれるだろう。
攻撃が効かない?触れれば即死?
「そんなんで、ここから逃げる理由になるかよ!!元より、決死の覚悟は昔からできてんだ!!!」
全身に力を張り巡らせ、闘志の炎を宿した眼がノイズの大群を射抜く。
『『司令』』
二課本部にいる二人は、弦十郎の勇姿に覚悟を決める。そして、無事に帰ってきてくれと祈る。
その時、突如入ってきたデータを目にした朔也は、
『嘘だろ!?』
本日二度目の『嘘だろ!?』を炸裂させた。
「どうしたぁっ、朔也!?」
まさか、また新手かと戦慄する弦十郎だったが、あおいの次の報告に更に驚愕する。
『司令っ、別地区に発生したノイズの反応が全て、消失しました!』
「消失だとぉ!?」
驚きが抜けないまま、弦十郎の通信機に別の声が割り込んだ。
『おじ、し、司令っ、翼です!報告したいことが』
「翼か!」
聞こえてきたのは、弦十郎の姪の翼であった。
『司令の指示通りに、奏と■■地区に向かい、ノイズと会敵する瞬間にノイズが倒されたのですっ』
自壊ではなく、倒された?確かに、ノイズか現れてから、そんなに経ってはいないが。
「翼、ノイズは自壊したんじゃないんだな?」
『はい。はっきりと捉えられませんでしたが、高速で動く何かに切り裂か『アイツの仕業だ、旦那!』ちょ、まだ報告中よ』
聞き慣れた声に、弦十郎のことを旦那と呼ぶのは一人しかいない。
すぐに誰か分かった。
「奏か」
『旦那っ、今からそこに向かうから、アイツが現れたら『奏、落ち着いて!』翼!?通信が切れ──』
「いったい何が、ん?」
そこで弦十郎は気がついた。通信中も、油断なくノイズを見据えていたが、一向に襲ってこないのだ。ノイズは目に入った人間をすぐに襲い、殺すのだ。
今、ここにいるのは弦十郎だけである。
それなのにノイズは一向に動かない。よく見ると、怯えているように見える。
ノイズの見たことない反応に、弦十郎も理解できないでいたが、不意に奏の言葉を思い出した。
──アイツの仕業だ、旦那!
『アイツ』──まさか、
弦十郎は不意に背後に感じた気配に、振り向いた。
弦十郎の目に此方に向かって、歩いてくる存在がいた。
弦十郎はその存在を、知っていた。
マゼンタのアーマーを纏い、エメラルドグリーンの複眼。何より目を引くのは、腹部に巻いたベルト。
臆せず、迷いなくノイズを見据えながら向かってくる存在に、思わずその名を口にした。
「──ディケイド──」
次回戦闘に入る、絶対に