戦騎絶壊ディケイド   作:必殺仕事人BLACK

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注意:時間飛んでいます。この作品のツヴァイウィングの人気ぶりは、作者の妄想過多です。


06

かの天羽奏との出会いから約一年近く。あれ以来、『俺』は天羽奏とは接触していない。こちらは変わらず、ノイズ殲滅活動(強制)に精を出していた。もしかしたら、戦場でまた鉢合わせするかもしれないと不安を抱いたが、それは杞憂であった。

 

 

いや、正直に言おう。実は彼女に出会えなくて、とても残念がっている。戦場に出る度に不安はあったが期待の方が大きかった。

 

 

更に正直に言おう。奏ちゃんのおっぱいに触りたい。

 

 

もうこちとら本当にあれから、ただただノイズと戦う味気ない日々を送って、もう限界であった。

 

 

あの感触(あじ)を覚えてしまった『俺』は、戦場に出る度に天羽奏の姿を探し回ったもんだ。あわよくば風鳴翼とも出会えるのを期待して……。まあ結局、会うことはなかったんだけどね(泣)

 

 

とりあえず、『俺』がそんな代わり映えのない日々を送っているのに対し、世間では目まぐるしい変化が起きていた。

 

 

その世間を今一番騒がしているのが、『ツヴァイウィング』だ。

 

 

「戦姫絶唱シンフォギア」の適合者(ファン)なら知らぬどころか、シンフォギアシリーズにおいて最重要な歌手ユニット名なのだ。知らない奴がいたら、不適合者の烙印を押されかねない超大事な存在なんだ。

 

 

メンバーはご存知の風鳴翼と天羽奏の、二人一組のユニットである。

 

 

ディケイドとして最初に活動していた頃は、まだ存在していなかったが、結成した時期はなんと天羽奏との初邂逅からの数ヶ月後だったのである。

 

 

そして、結成当初から現在に至るまでのツヴァイウィングの人気の高さは留まることを知らずにいる。

 

 

デビューシングルのCDが発売されたときは、一週間も掛からずに全国のCDショップからツヴァイウィングのCDが完売されるという盛況ぶり。

 

 

次に音楽番組に出演されたときは、その番組の視聴率が過去最高の視聴率を叩きだし。

 

 

ツヴァイウィングのインタビュー記事が載っている雑誌が発売されれば、ファンたちが全国の書店の前で開店前から手に入れようとするために待ち構える程の熱狂さ。

 

 

ざっと3つ程、喩えを述べてみたが盛りすぎだろって、思うよな?

 

 

…………………………、事実だよ。

 

 

原作知識でツヴァイウィングの人気ぶりは知っていたが、実際に本物が存在しているこの世界に生きている『俺』にとって、世間のツヴァイウィングへの熱狂ぶりは度肝を抜かされた。

 

 

ツヴァイウィングの人気の高さは少なからずとも『国』が絡んでいるとは思うが、その他全部は彼女たち二人の自身の力だ。

 

 

容姿端麗で歌も上手いし、唄いながらのパフォーマンスは運動能力の高さもありとても流麗なのだ。まぁ、これだけならば、大体の歌手が持っているありふれた魅力さだ。

 

 

なら、何がツヴァイウィングをここまで飛躍させたのか。それは世界的にも有名なアーティストがある番組でツヴァイウィングと共演してからの、とあるインタビューの質問で答えてくれた。

 

 

『ツヴァイウィングの歌には血が流れているような、歌そのものに命が宿っているような、そんな力がある。きっと誰もが彼女たちの歌声を直接聴いてくれたら、私の気持ちが解ると思う』

 

 

そんなインタビュー効果もあってか、ツヴァイウィングの記念すべきドームライブはとんでもないことになったのだ。

 

 

ライブチケットは即日完売で、買えなかったファンたちは兎に角、荒れに荒れた。ネットオークションでは馬鹿にならないほどの額が提示され、借金をしてまでライブチケットを買うファンが続出するなどネットは大騒ぎ。

 

 

ライブ前から洒落にならない大騒動を起こしながらも、時は着実と針を進めて、今日のこの日で遂にドームライブの日を迎えたのだった。

 

 

世間ではめでたいこの日に、『俺』は複雑な思いを抱えていた。

 

 

原作知識によれば、戦姫絶唱シンフォギアの物語が始まるのは、ツヴァイウィングのライブからなのだ。正確にはプロローグに当たり、本格的に始動するのは更に2年後だが。だからといって、今日のライブがそのプロローグになるとは限らないからだ。

 

 

残っている原作知識でも、どの時期のライブで始まるのか明確に描写されてない。それでも、『俺』には言葉に出来ない予感みたいなのが、胸の中で燻っている。そのライブがどうなるか知っているがぶっちゃければ、『俺』のメンタル状態は過去最低と言っていい。

 

 

原作開始のライブでは、物語通りならライブ途中に大量のノイズが出現し、天羽奏と風鳴翼は観客たちを救うためにシンフォギアで戦うのだ。その戦いの結果、天羽奏は死んでしまうのだ。

 

 

そして、事故による偶然からライブに来ていた少女に天羽奏の力を受け継がれ、更に2年後にその少女が力に覚醒し、ノイズとの戦いに身を投じていく。

 

 

その少女こそが主人公であり、戦姫絶唱シンフォギアの御話しが真に始まるのだ。

 

 

『俺』の目的達成の為には、ちゃんとこの世界の物語を正しく始めて、筋書き通りに話を進めていく必要がある。だから、原作通りに天羽奏は死んでもらい、主人公に力を渡してもらいたい。

 

 

無論、『俺』がなにもしなければ普通にそうなると思うんだが、その『俺』自身に問題がある。『俺』というよりディケイドか……。どっちでもいいや、うん。

 

 

……ご存知のとおり、ノイズ在る処にオレ参上!みたいに、ノイズが出現すれば勝手に戦場に送られて強制戦闘に発展してしまうのだ。『俺』だけが。

 

 

おかしい。ノイズとはそもそも人間だけを殺すために、活動しているのに、『俺』がその場にいるだけで此方に殺到してくるのだ。確かに司くんの肉体はちゃんと人間だけど、なぜ此方ばかり狙うのか理解できん。

 

 

兎に角だ。原作通りにライブ会場にノイズが現れたら、ノイズどもは揃ってディケイドに突貫してくるし、『俺』も死ぬわけにはいかないから、結局戦うしか道がない。そうなれば天羽奏と風鳴翼の負担は確実に減ってしまい、天羽奏の生存率が大幅に跳ね上がる。

 

 

原作通りに進めたいのに、他ならぬ『俺』がその妨害をしているというこのジレンマ………………これも、フィーネのせいなんだ!(最低な責任転嫁)

 

 

誰にも訊かれていないが──天羽奏を死なせることについて、なんとも思わないのかだって?

 

 

ふぅむ。思うところがないといえば、嘘になるな。

 

 

なにせ一夜だけとはいえ、身体を重ね合った仲だし。(注意!身体が密着していただけです)

 

 

お互いの本音を語って、相思相愛だってことに気づき。(注意!慰め合っただけです)

 

 

何よりも奏ちゃんがオレの励ましで、「これからも頑張りゅ!(はぁと)」と決意を新たに立ち直ってくれたし。(妄想が含まれてるが、事実!)

 

 

『俺』自身、天羽奏のファンだし。それ故に、原作キャラとの邂逅を望みながらも、敢えて意識しなかった。これから死ぬ人間に本気で好意を抱いたら、立ち直れそうにない。つか、死ぬわ(真顔)

 

 

ホントにあの夜に、天羽奏を無視して立ち去らなかったことを激しく後悔した。お陰で、未練がたらったらだよ!

 

 

だからさぁ、そんな『俺』のメンタル状態を気に掛けて、今日のライブまでは、休ませてくれませんかねえ!!!!!?????

 

 

今もこの瞬間、だらだらと『俺』の心中を吐露している間も手足を動かしてヒイ゛ヒイ゛しながら戦ってるるるんんだべぇ?!?!?????

 

 

じがぁ゛ぶぉっ(しかも)七徹ぅっ!!

 

 

その全部が、ノイズとの戦闘との詰め合わせバーゲンセールスケジュールとかぁ、頭おかしくねぇ!?休憩時間あるけど、オチオチ眠れもしない。眠っている間にもこの七日間、オーロラさんが迫ってくるんだよ!変身の有無にも関わらず、戦場に送り出させるし。変身して戦わないと、死んじゃうし帰れないだから、戦いは避けられないし。

 

 

気づけばライブのある七日目。原作通りのライブならば、そこに絶対喚ばれるし……。

 

 

もう、今何時なんだろ?二日目あたりで、体内時間がポゥズしちゃってるけど、今自分がいるところはほぼわかる。

 

 

米国のどこかの森林地帯だろ、ここ。

 

 

それだけでわかるのかだって?やば、眠気が──

 

 

眠気に負けてカクッと、首が前に折り倒れた瞬間。オレの頭上で音を置き去りしながら、鎌の刃が猛スピードで通過した。

 

 

「よ、避けた!?後ろに目でも付いてるデスかっ?」

「(アッぶなぁ!眠気サン、ナイスぅ!)」

 

 

即座に意識が再覚醒し、身体を翻す。オレの瞳に、黒と緑のシンフォギアのスーツを纏った少女の姿が映り入る。

 

 

トンガリ帽子を思わせるヘッドギアに金髪緑眼の少女は、手にした鎌を振り抜いた姿勢のまま驚きの表情でこっちを見つめていた。あ、目合った。

 

 

「ピィッ」

 

 

なんか可愛い悲鳴なんだが、そんな怯えなくとも……。確かに眼は血走ってると思うんだが、ディケイドマスクで気づかないはずだが。

 

 

「切ちゃん、下がって!」

 

 

上から聴こえた声に従い、金髪少女がバックステップで距離を取った。間を置かずに上から、目視だけで十以上の小型の高速回転した丸鋸が降ってきた。

 

 

発生源に視線を向けると、月を背にして宙に飛んだ状態で黒とピンクのシンフォギアスーツを纏った黒髪の少女が、オレを睨み付けていた。

 

 

【α式・百輪廻】

 

 

ツインテール型のヘッドギアから、休むことなく小型丸鋸を放ち続ける。撃ち落とすか考えたが、銃弾が当たってしまうと大変だ。

 

 

当たりそうな丸鋸を見切り、刃のない側面を殴って軌道を逸らしながらオレも後ろに跳ぶ。

 

 

「ッ、当たらない」

 

 

顔をしかめながら黒髪少女が着地すると、すぐさま金髪少女が黒髪少女の隣に並び立つ。

 

 

「ごめんなさいデス、調。ディケイドを仕留め損なったデス」

 

 

「ううん、私もダメージを与えられなかったからおあいこだよ。切ちゃん」

 

 

落ち込みながら謝罪する金髪少女──暁切歌。

謝罪する切歌に慰めの言葉を掛ける黒髪少女──月読調。

 

 

そう。この二人が今この場にいるのが、オレの現在位置が米国にあるのだという証拠。

 

 

この二人が所属している組織は米国政府管理のFISという、聖遺物を研究する機関である。この二人はある目的のために、幼少期にFISによって拉致誘拐され、彼女たちが本編に登場するまで過酷な実験と訓練を課された日々を送って来たという同情必至な境遇なのである。

 

 

原作知識ならば、彼女たちはまだこの時期は米国のFIS本部にいるはずなので、自然とオレも現在位置をなんとなく把握できたのだ。

 

 

こうして遇える可能性が現時点で低かった二人に出会えて狂喜乱舞したいが、残念ながら『俺』にそんな気力はなかった。

 

 

眠いしノイズとの戦闘中だし、攻撃してくるしあとちっさい。ちょっぴり、怒ってもいる。

 

 

だってさ、オレがノイズとの戦闘をしていたら二人ともいきなり武力介入して、オレに攻撃してきたんだぜ!?おかげさまで、二人の攻撃を気にしてロクにノイズの数を減らせなかったんだからな!

 

 

ほら、今もオレの後ろで生き残っている数百のノイズがオレの背を狙っているよ。というか、ノイズくんたち大人しいね。こんな時だけ、空気を読むんじゃないよ。君ら二人も、お兄さんの邪魔をするじゃありません。許して欲しかったら、マリアさんを連れてきて『俺』にマリアさんの身体を触らせなさい。

 

 

ああ、マリアさんのおっぱいを揉みしだいて、おっぱいスイッチを押したい。(そうしたら、今日のことは水に流してあげるから)

 

 

おっと、本音と建て前が逆になっちまった。

 

 

「それにしても、ノイズがまわりにいるなかでディケイドを捕獲するなんて、結構無茶苦茶デスよ」

 

 

「うん。でもマムの言うとおり、ノイズはディケイドしか狙ってない。だから私たちは、ノイズの攻撃に巻き込まれないように隙を窺って──」

 

 

「ディケイドに仕掛けて、指示通りに捕獲!デス」

 

 

やっぱ君ら二人にも捕獲指示が出てたんだネー。嬉しくない予想が当たっちまったよー。

 

 

そして、ノイズどもよ何故そんなに大人しいのかね?

 

 

「というわけで、ディケイド。珍妙にロープでクルクルされるんデース!」

 

 

【獄鎌・イガリマ】の聖遺物を核としたシンフォギアを纏う暁切歌が、

 

 

「──覚悟して、ディケイド」

 

 

【魔鋸・シュルシャガナ】の聖遺物を核としたシンフォギアを纏う月読調が、

 

 

「「「「「────────────」」」」」

 

 

何故か一斉にピコピコと光だしたノイズが、

 

 

「(やばい、眠りそう。二度と目覚めない意味で)」

 

 

オレ──ディケイドに向かって再び動き出した。

 

 

頼むからぁ、もう来るなぁ!

 

 

最初に攻撃を届かせに来たのはなんと鋸、ではなく調ちゃん。歌を口ずさみながら、アームドギアを変形させていく。

 

 

【非常Σ式・禁月輪】

 

 

頭部と脚部から円形ブレードを展開し、摩訶不思議な組み立てで巨大な一輪バイクに変形し、調ちゃんが内側に乗り込む。地面に鋭利な切断痕を描きながら、オレに向かって突っ込んでくる。

 

 

後ろにはノイズの群れ。左右に避けても、後ろのノイズとすぐに接触する。

 

 

だから、上に避けるしかなくオレは跳んで、既に次に何が来るか予測をする。

 

 

避けられた調ちゃんは、【非常Σ式・禁月輪】を解除することなくノイズを轢殺しながらの軌道修正を行い、「切ちゃん!」と叫ぶ。

 

 

「今度は私が、上から攻める番デス!」

 

 

距離は開いているがオレより高く飛んだ切歌ちゃんが、鎌の刃を三枚に展開して待ち構えていた。

 

 

【切・呪りeッTぉ】

 

 

鎌を大きく振るい、三枚の刃が投擲される。回転しながら迫る刃に狙われるのは、勿論オレだ。空中に身を任せるしかないから、避けられないと思っているのだろう。

 

 

オレは素早くライドブッカーを手にし、剣へと変形させ、すかさず三枚の刃を切り払った。獲物を失った三枚の刃は落下地点にいたノイズを巻き込む形で、地面に落ち果てた。

 

 

それに続くように着地したオレは、剣で周囲のノイズを切り裂いていった。ノイズが炭に変化し、粉塵のせいで視界が阻まれる。

 

 

剣で粉塵を振り払おうとして、身体を強引に捻った。

 

 

【γ式・卍火車】

 

 

粉塵を切り裂いてオレの前と背中すれすれで、高速回転した二枚の鋸が振り下ろされた。回転に伴う風が粉塵を吹き払い、視界が確保されると調ちゃんが信じられない物を見る目でオレを見つめていた。

 

 

「今の攻撃、察知できるものなの?」

 

 

安心して。オレも今の攻撃を避けれると、思えなかったから。

 

 

半ば奇跡に感謝しながら、オレは呆然とした調ちゃんの細腕を掴み、ノイズとは逆側に投げ飛ばした。投げた方には切歌ちゃんが、こっちに走り向かっていた。

 

 

「!?きゃあああああ!」

 

 

「調ぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 

鎌を放り投げ、切歌ちゃんが調ちゃんを見事キャッチする。勢いを殺せず、後ろに数歩下がり切歌ちゃんは尻餅をついてしまった。

 

 

とりあえず、調ちゃんを無事に切歌ちゃんが受け止めてくれたのを確認し、ノイズへと向き直る。

 

 

「女の子を投げ飛ばすとか、アンタには血も涙もねーデスか!!」

 

 

あるよぉ!血も涙も、あるよぉ!

 

 

槍に変形して飛来するノイズを剣で斬り伏せながら、心の中で反論する。

 

 

「ごめんね、切ちゃん。もう一度ディケイドに、あぐっ」

 

 

「調!?だいじょ、デスゥ?!?」

 

 

あれ、二人の様子がおかしい。

 

 

ノイズの攻撃を捌きながら、調ちゃんと切歌ちゃんの姿を視界に入れると、二人のシンフォギアスーツから紫電が発生していた。

 

 

思い出した。原作ライブや眠気の一杯一杯で忘れていたが、あの二人のシンフォギアって時限式だったんだ。

 

 

あの現象と二人が感じている痛みは、シンフォギアの制御時間が過ぎてしまったことを意味している。もし、無理して使い続ければ身体にダメージが蓄積して、最悪死に至りかねない。

 

 

大人しくしていれば少なくとも痛みは和らぐはずだが、二人は痛みに耐えながら立ち上がろうとするではないか。

 

 

「ここで、ディケイドを捕まえないと……」

 

 

「このチャンスを逃したら、駄目デス。でないとみんなが」

 

 

「みんなが、また……辛い目にあってしまう」

 

 

「私たちが力を示せば、大人たちもわかってくれるんデス」

 

 

「力を認めてくれれば、みんなをもっと大事にしてくれる!」

 

 

「辛くて苦しい、訓練が減ってくれるかもデス」

 

 

「美味しいご飯を、みんなで食べられるかもしれない」

 

 

大半のノイズを漸く斬り伏せて、オレは二人の想いに聞き入っていた。僅かにノイズが残っているにも関わらず、オレは手を止めてしまった。

 

 

……凄いと思った。きっと、まだ小学校に通っているはずの年齢なのに、ボロボロになりながら誰かの為に戦える二人に。今の自分たちにできる精一杯を、一所懸命にやる意思の強さに。

 

 

「「だから!」」

 

 

ふらつきながらも、決意を秘めた顔つきで立ち上がる。

 

 

ああ、やっぱりこの二人は最高だな。謝ろう、ちっさいと心の中で思ったことに対して。そして、『俺』がいなくなった後も、どうか司くんの生きる世界を守ってくれ!

 

 

今のオレが出きることは、すぐにこの場からディケイドであるオレが去ることだ。そうすれば、二人ともシンフォギアを解除せざるを得ない。

 

 

だから、早くノイズを殲滅して立ち去らなければってタァ!?

 

 

剣を持っている手に痛みが走り、剣を手放してしまう。足元には見慣れた小型の丸鋸が、落ちていた。

 

 

視線を向けると、ヘッドギアから丸鋸を放ったであろう調ちゃんの姿が。

 

 

そして、突如オレの身体に緑の鎖が何重にも巻かれて動きを拘束している。巻いてる鎖の内の二本が前方斜め上に伸びており、眼で辿るとギロチンの刃と鎖が連結し刃のない部分に切歌ちゃんが両足を掛けて立っていた。

 

 

「お願い、切ちゃん!」

「これで決まり、デース!」

 

 

【断殺・邪刃ウォttKKK】

 

 

肩部のプロテクターに内蔵されたブースターを噴射し、自身ごとギロチンの刃と一緒に突撃してくる。このままでは、ギロチンの刃で両断されてしまいオレの上半身と下半身が泣き別れてしまうだろう。

 

 

と、ここまで来てオレは漸く状況を理解できた。あまりにも突然の状況変化に、置いてけぼりを食らってしまった。

 

 

…………………………冷静に状況分析してる場合かぁ!というか君らさぁ、捕獲指示が出てんのに何で殺傷力の高い技ばかりブッパするの!?デースじゃなくてDEATHになってるよ切歌ちゃんや!今すぐ拘束解いて、こっち来なさいよ切歌ちゃん。お尻ペンペンの刑に処したるんだからな!オレぁ知ってるんだぞキミが、周りがドン引くくらいのドM属性を隠し持っていることをなぁ!!その柔らかいお尻をペンペンしてあまりの気持ち良さに、アへ顔をさらすのじゃあ!そんで、そのアへ顔を写真で撮って、後でオカズとして使わせていただきます(合掌)

 

 

調ちゃんはぁ!………………なんか、将来的な報復が怖いのでやめとこ。

 

 

あ゛あ゛、そしてノイズは「スキありぃ!」とばかりに飛び掛かるしさあ!今日のノイズどもはホントに、空気を読むなあオイ!

 

 

うわぁぁん!もう、謝るからぁ!二人のことをホントは、お胸がちっパイから全然そそらねえなあと思っていたことを謝りますからぁ!!誠心誠意の土下座もつけるから拘束はずしてください、まじでマジで外せや(ドス声)

 

 

しかし、残酷かな。迫り来る死の刃どもに、拘束されたオレはあまりに無力すぎた。

 

 

引くもノイズ。左右にもノイズ。前方にはドMデスっ娘。というか動こうにも、拘束されて動けないんだけどね。極めつけには上から光の雨が…………光の雨!?

 

 

ノイズと切歌ちゃんとオレを巻き込むように、光の雨が猛烈な勢いで降り注いだ。よく見ると、光の雨の正体は白い光を纏った短剣であった。

 

 

降り注いだ短剣の雨は、周囲のノイズを全て切り裂き炭素の塊に早変わりされた。更にはギロチンの刃に数発の短剣が命中し、強い衝撃だったのかギロチンが叩き落とされ切歌ちゃんは空中に投げ出された。

 

 

オレもダメージを覚悟したのだが、運良くオレ自身に当たらずに拘束していた鎖を切り裂いてくれた。何本か鎖は残ったが、拘束力が弱まり力づくで鎖を破ることができた。

 

 

鎖を引きちぎる拍子で、オレは大きく腕を広げた。何故って?ばっか、切歌ちゃんを受け止める為に決まってんしょ!

 

 

カモン!イガリマ シンフォギア!デスガール オブ デスサ~イズ!(戦極ドライバー風)

 

 

さぁさぁさぁ、切歌ちゃん。(ネットリ)キミのそのプリティなお尻をペンペンさせておくれ。ペンペンしてモミモミし、調ちゃんの前であられもない姿を晒すのだ!たとえ調ちゃんに嫌われても、オレが目一杯に可愛がってあげるから(真性のド屑)

 

 

──この時のオレは、気づいてなかった。先の光の雨によってこの場にいるノイズが、すべていなくなったことに。ノイズの全滅により、オレはその場に居続けられない。その事をすっかりと忘却していたオレは、盛大なミスを犯してしまった。

 

 

どこからか発生したオーロラさんが、かつてない超高速でオレへと迫り、別の場所へと転送。

 

 

転送したことに気づかなかったオレは、腹部に強烈な衝撃と痛みを感じたところで我に帰った。

 

 

草木が生い茂った森林ではなく、荒れ果てたどこかの開けた建物の中。天井は大々的に開かれ、夕焼けの太陽がこの場を色濃く照らしていた。風が強く吹き出し、黒い粉がまるで何かの演出のように舞い上がっていた。

 

 

オレのすぐ前には、どこか奇妙な威圧感を放つ黒いノイズ。黒いノイズの遥か後方には、大型と中型と小型が全て揃った数えきれないノイズの大群。

 

 

動こうとすると、腹部に痛みが走る。視線を動かすと、オレの腹部が背中まで黒い剣のようなもので刺し貫かれていた。その剣は、黒いノイズから生えていた。

 

 

「ディケイド……?来て、くれたのかぁ?」

 

 

「ディケイド?何故今になって、まさか奏とあの娘を守るために?!」

 

 

未だに上手く状況が飲み込めないなか、二つの驚愕を含んだ声がディケイドになって強化された聴力が拾った。

 

 

声の方向に目を向けると、離れた所に青と白のシンフォギアを纏った少女──風鳴翼が。

 

 

もう一つの声は後からで、朱色のシンフォギアを纏った少女──天羽奏が。

 

 

そして、その天羽奏の後ろには一人の少女がいた。瓦礫できた壁を背にして座り込み、左胸から夥しい量の出血が確認できた。少女の胸が僅かに上下に動いてるのを見て、まだ生きているのが分かる。

 

 

『俺』はその少女──立花響から目を逸らして、場違いながらもマスクの下で笑った。

 

 

──まさか、このタイミングでの原作ライブ会場に現れるとは。だけど、あの立花響の様子じゃ、どうやらしっかり力を受け継がれたっぽいな。

 

 

身体を刺し貫かれているも、痛みなんかより安堵の方が大きかった。懸念されていたことが、クリアされたのだから。

 

 

あとは、天羽奏が絶唱を放って、ノイズを殲滅してもらう。それで、天羽奏はここで終わる。

 

 

なにも、問題はない。オレもちょうどいい怪我を負っているし、ここだけのリタイアだ。

 

 

腹部に刺さっていた剣が抜かれ、黒いノイズは剣に変形させた腕から血を振り払い、ノイズの大群に合流する。

 

 

風穴を開けられて、洒落にならない血を流しながら、オレはマスクの下で穏やかな笑みを浮かべていた。

 

 

「……良かった(これで、やっと寝れる!)」

 

 

 

■■■

 

 

 

 

──ディケイドが去った後の、FIS組の装者。

 

 

「──どうして、邪魔をしたの……?」

 

 

「あとちょっとで、ディケイドを捕獲できたのに……。どうしてなんデスか、セレナぁ!」

 

 

調は信じられないという表情で、切歌は怒りに奮えた眼差しで目の前の女性に問い掛けた。

 

 

森林地帯であるこの場所で、ラフな私服に身を包みながら調と切歌と相対する背の高い女性。

 

 

名をセレナ・カデンツヴァナ・イヴ。二人と同じ所属のシンフォギアの装者であり、先の光の雨を発生させたのは彼女のシンフォギアの力である。

 

 

セレナは冷静に、二人の問いに答えた。

 

 

「私は邪魔したつもりはないよ、二人とも。ただ、あの状況は危なかったの。二人とも、時間が切れてたでしょ」

 

 

「時間切れでも切ちゃんは、ディケイドの動きを封じていた。セレナが割って入らなければ、あの場でディケイドを捕まえられたはず」

 

 

「あのディケイドが、そう簡単に縛れると思えるの調?

拘束されたと見せかけての罠だったら、限界の切歌が危険だったよ?調は切歌がそんな目にあっていいの?」

 

 

「っ、それは……。切ちゃんが、怪我するのは絶対駄目」

 

 

ディケイドとの戦闘を思いだし、セレナの答えに納得してしまう。ノイズとの戦闘中に、調と切歌の攻撃をなんなく捌き続けたのだ。あのとき、ディケイドの動きを簡単に封じこめていたことに疑問を持つべきだった。

 

 

下手をしたら、切歌が帰らぬ人になっていたかもしれなかったのだ。

 

 

「でもでも、わざわざノイズを全滅させる必要はないデスよ!セレナがノイズを巻き込んだせいで、ディケイドがどこかに行っちゃったんデス!」

 

 

「あのまま突撃したら、切歌だってノイズの攻撃に巻き込まれるところだったのよ?ギアを纏っているとはいえ、下手をしたら切歌はあの場で死んでたかもしれないよ」

 

 

先の状況を思い返し、顔を青ざめる切歌。シンフォギアの力があるとはいえ、あの時点で性能はガタ落ちしていた。ノイズの炭素変換を防ぐバリアコーティングも、下手をしたら機能せずに切歌は黒炭になっていただろう。

 

 

「「ごめんなさい/デス」」

 

 

死ぬつもりは更々なかったが、知らぬ間にあの世への道を突っ走りかけていた。そんな二人を善意で止めてくれたセレナに、切歌と調は申し訳なさから謝罪する。

 

 

謝罪する二人をセレナは優しく抱いてあげた。

 

 

「私の方こそ、ごめんね。二人の頑張りを無駄にしちゃって。でも、二人が無事で本当に良かった」

 

 

セレナから感じられる優しさがそうさせたのか、二人はやっとディケイドと相対した恐怖を吐き出すことができた。

 

 

「……ディケイドに腕を捕まれたとき、腕を折られるじゃないかって思った」

 

 

「ディケイドに、に、睨まれたときは生きた心地がしなかったデス」

 

 

ノイズを倒し、人間を守ってくれる存在とはいえ、そんな強い存在に刃を向けるのにどれだけの勇気がいるだろうか。

 

 

二人の震えを感じて、セレナは更に二人を強く抱き締めた。

 

 

「大丈夫だよ。もう、ここにディケイドはいないよ」

 

 

(ごめんなさい、ディケイド)

 

 

言いながら、セレナは心の中で謝罪する。

 

 

ディケイドはセレナにとって、命の恩人なのである。その命の恩人に対し、二人を守るためとはいえ刃を向けてしまった。

 

 

自分が幼い頃、とある聖遺物の実験事故によって命を散らしそうになった。そんなセレナの窮地を救ったのが、ディケイドであった。

 

 

当時は自分も重傷を負い、幻を見たのかと思った。事故現場には、ディケイドがいた痕跡はなかったのだ。

 

 

それが、一年前のあの日の米国首都のノイズの蹂躙劇で、セレナは再会したのだ。

 

 

実はその当時は、米国史上最大最悪の被害が出るのを恐れ、政府がFISに秘密裏に装者の出動を要請し承ったのがセレナであった。

 

 

しかし、現場につくとセレナは戦えなかった。崩れた建物と、瓦礫の下敷きになって亡くなった人々。ノイズによって、次々と命が奪われていくその光景は、セレナにとって幼い頃に刻まれた死の恐怖を思い出させるのには充分だった。

 

 

恐怖に震えて動けないセレナを殺そうと、ノイズが触れようとしたときにディケイドは現れたのだ。

 

 

ノイズを殲滅したディケイドの姿は、かつて自分を救ってくれたものと同じだった。

 

 

ディケイドが歩き自分の方まで来たときは、心臓が激しく鼓動して息がつまりそうだった。それでも、セレナはなにか言葉を発しようと、考え抜いて問い掛けた。

 

 

──あなたの名前は何ですか?

 

 

命を二度も救ってくれた、恩人の名前を訊きたかった。かつて訊くことが出来なかった、この機会に。もう一度会わせてくれたこの運命に感謝して。

 

 

『──────ディケイド───────』

 

 

──ディケイド。それがあなたの名前なんですね。

 

 

過去を思い返し、調と切歌を抱き締めながら、セレナは未来に思い馳せる。

 

 

──また、あなたに逢えますよね?私の、王子様。

 

 

 

 

 




次回は、ディケイドが戦っていた間のライブの話をしていきます。

尚、次回『俺』くんは【KAMEN RIDE】する決意をする模様。


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