戦騎絶壊ディケイド 作:必殺仕事人BLACK
たくさんの感想に感謝感激です。
今回はちょっと無理矢理感が強いです。
後、中二病が再発した
天羽奏はディケイドの姿に、両親の最期の姿を想起して心の奥底に眠っていたトラウマを呼び起こされた。
風鳴翼は大切な親友を救うために、自身ではなく他者にその身を傷つけさせて助けてくれたことに深い罪悪感を抱いた。
目映い光が二人を包み込んで、シンフォギアが解除された。戦衣から美しいライブ衣装へと変わり、それが戦う意志を失ってしまったことを証明していた。
今の二人が先程まで歌で多くの人々を魅了した歌姫で、その歌で人々を護っていた戦姫であったことなど誰が信じられるだろうか。
顔に飛び散った血を、奏は汚れるのを躊躇うことなく手で拭った。手に付着した血と、刺し貫かれたディケイドの傷を見つめ奏は何も言えなかった。ただ、後悔だけであった。自分がもっと早く絶唱を歌う決意をしていれば、深手を負うことはなかった。
「(死んじゃう、あたしを守ってくれたせいで……。父さんや母さんみたいにっ!)」
人々を守る防人であらんと、風鳴翼は常日頃から自分自身に言い聞かせていた。それが、己を盾にするでもなく他者にその役割を身勝手に押し付けてしまった。それがディケイドであっても、風鳴翼は自分を許せなかった。ディケイドが溢した案ずる言葉に、自分の愚かしさを盛大に呪った。
「(あの刃に貫かれるべきは、私だった。あんな己よりも他者を重んじられる、強き優しさを持つ存在がこんなところで消え行くべきではない!)」
腹部から背中まで貫かれたその傷は、どう見ても致命傷であるのにディケイドは痛みに苦しむ態度を表さなかった。ただ静かに、黒いノイズと大群のノイズを睨んでいた。その姿勢は、明らかに戦意を衰えさせていなかった。
二人の目にはそう見えて、間違ってはいなかった。
ディケイドが動き出した。
淀みのない歩きで、ノイズの大群に近づこうとする。対してノイズ大群の方は黒いノイズと一緒に動かずにいた。来れるものなら、来てみるがいいと挑発しているのかではないかと錯覚してしまう。
きっと、戦いが始まればディケイドは殺されてしまう。
ディケイドが深手を負っている状態で、尋常ではない戦闘力を持つ黒いノイズにノイズの大群とも相手しなければいけない。
そんな構図で、勝利を想像できる筈もない。
「行かないでくれ、ディケイドっ。アイツ等と戦ったら、アンタが死んじまう!」
「その傷で戦うのは無茶だ!止めてください、ディケイド!」
態々死ににいくようなディケイドに、二人は必死で止めようと言葉を尽くす。
それでも、ディケイドは立ち止まることなく歩みを進めていく。
自分たちが戦えれば、どれだけ良かっただろうか。身体を包んでいる、この小綺麗な衣装が恨めしい。これを着ているだけで、自分たちが蚊帳の外にいるのだと思い知らされていく。
「お願いだ……行かないでっ。あたしの心を救ってくれた、アンタが消えたらあたしは、耐えられないんだよっ。アンタがその身体で、そこまでして戦うことはないんだよ!」
「今ここで立ち去っても、誰も責めることはありません。なのに、何故そこまでしてアナタは戦うんですか?」
「──────」
ディケイドが歩みを止めて、ゆっくりと二人の方に振り返った。制止に従ったわけではなく、ただ二人の問いに答えるために立ち止まった。
世界の誰も、ディケイドのことなんて本質的な意味でわからないままだ。
何故、ディケイドがノイズと戦うのか。
天羽奏のように、復讐の為に戦うのか。
風鳴翼のように、防人として生きてきたが故の使命感からか。
「こんな『俺』でも、守りたいモノがあるから。それだけだ」
その言葉に怒りや悲しみは見出だせず、使命感のような息苦しさは感じられなかった。
ただ大切なモノを守りたい。そんな当たり前の、ありふれた想い。
「いつでも何処にも共に在る『命』を、『俺』は守りたいって思ったんだ」
誰かに言われたのでもなく、憎悪に突き動かされたわけじゃない。
心の底からその力を、ノイズから
綺麗ごとだと、誰もが思うだろう。
両翼は、そんな事は微塵たりとも思っていない。
奏は知っている。一年前、守れなかった者たちのことを想い、苦しんでいたことを。
あの時のディケイドの言葉を思い出す。彼はただの通りすがりで、その道中で困っている人がいれば助けるだけだと。
ディケイドが現れるときは、いつだってノイズに苦しめられている人々の中心だ。そして、いつも現れてはノイズを倒して、人々から絶望を払い除ける。誰に頼まれたわけでもなく、ただそうしたいだけだと言うかのように。
だから、これもいつもと同じなだけだ。この会場に残されている人々を守るためにディケイドは戦うのだ。その中に奏や翼も、絶対に含まれているのだろう。
翼は思い知った。死んでしまうかもしれないあの凶刃を、身を呈して庇い奏と立花響を守った姿を。
「(──あぁ、今やっとわかった。叔父様がディケイドから感じたという怒りと、その中に宿らせていた暖かさが……)」
翼の叔父──風鳴弦十郎がディケイドと初めて出会った際、彼から尋常ではない怒りを発していたと翼は弦十郎から聞いていた。
その怒りとはきっと、ディケイドが大切だと感じている
そして、その暖かさは彼が何処までも怒りに染まりきらない、
だから、もう言葉が出なかった。何を言ってもディケイドを止めることは、出来はしないのだと。
翼もようやくディケイドの事を理解し始め、ディケイドから放たれた言葉に二人は心を締め付けられた。
「……残念ながら、オレは戦うことしかできない。だから、代わりにその子を助けてあげてくれ」
──自分にはもう、その子を助けてあげる力がないのだと。
二人は、ディケイドの言葉に含まれた意味を理解して深く頷いた。
ディケイドがこんな子供二人にお願いをすることなんて、きっと二度とないだろう。それでも、頼まざるを得ないのだ。
あの黒いノイズと他のノイズの大群を相手にするには、命を懸けなければいけない。たとえ、自分が死ぬことになるのだとしても。
そこまで察することが出来た奏と翼は、悲痛な表情を浮かべながら自分を責め立てた。自分たちのせいでディケイドを傷つけ、結局最後にはディケイドに頼ってしまっている。挙げ句の果てに心を折ってしまい、戦うための力を自ら手放してしまったことは生涯消すことができない汚点だ。
ならばせめて、自分たちの使命と償いも併せて立花響を守らなければ。
それが、今できる最善だった。
ディケイドは二人の顔を見つめ、最後に立花響を見て頷いた。
覚悟を決めたように。
静かにディケイドはノイズたちへ向き直り、再び歩みだした。
本当に死にかけの傷を負っているのかと疑うほど、ディケイドの身体がぶれることはない。着実にノイズとの距離を詰めていき、ディケイドが会場の中心地に至るところで、黒いノイズが動き出した。
他のノイズが微動だにしないなか、焦れったいような身ぶりをした直後に駆け出した。早く、ディケイドの息の音を止めたいと。
もう僅かで接触するその瞬間、ディケイドの手には一枚のカードが握られていた。
「──────変身──────」
手慣れた動作でカードを翻して、腰に巻かれたドライバーに差し込んだ。
黒いノイズの凶刃がディケイドの左胸に突き出された瞬間、会場全体が光に包まれた。
■■■■■
無限に連なる並行世界の何処かで、その黒いノイズは──カルマノイズと呼ばれていた。
通常のノイズが黒く染まっているだけのように見えるが、カルマノイズは他のノイズと違い自壊はしない。
活動限界が存在せず、無尽蔵に本能のまま人間を殺し尽くす。カルマノイズを倒すことでしか、その凶行を止めることしかできない。
しかし、それも困難を極めていた。カルマノイズ自身が高い戦闘力を持ち、別の世界の数多の戦いを経たシンフォギア装者が苦戦を強いられる強さがあった。
それだけでなく、カルマノイズは人に『破壊衝動』を植え付ける。人間が持つ怒りと悲しみ、不安と恐怖など負の感情を肥大化させて暴走させる。
そして、このカルマノイズは、『他の通常型ノイズを取り込むことで強くなっていく』のだ。
出現直前に会場全てノイズがカルマノイズに集束され、その強さはシンフォギアを圧倒し、ディケイドの鎧を刺し貫くまでに至った。
通常のノイズと同じく、カルマノイズも本能のまま人間を殺す。
そう。だから、カルマノイズの凶刃がディケイドの胸を刺し貫くことなく、凶刃が片手で止められていても疑問も思わない。
戸惑いも不安も何も感じず、本能が素直に告げた。
──コレ、コロセナイ。
凶刃を形成している腕を掴まれたまま、力強く引き寄せられた所でカルマノイズの腹部に拳の重い一撃がめり込んだ。
カルマノイズが軽々と吹き飛び、後方のノイズの大群に戻されながらカルマノイズは目にする。
ディケイドのバックルから目映い閃光が収まった後、そこにいたのは見慣れない存在だった。
引き締まった肉体を金色の外装に覆われ、強靭な目力を感じさせる真っ赤な複眼、そして、頭に金色に輝く二本の角。
その者の姿を言葉に表すとしたら──黄金の戦士。
そう呼称するに相応しい威厳を、黄金の戦士は備えていた。
名前など知らない。
この世界の誰もが、その姿の名前を知る由もない。
何故なら、それはこことは違う世界の戦士の姿なのだから。
知る者がいるとすれば、黄金の戦士へと姿を変えた
その姿の名は、『仮面ライダーアギト』
人が持つ光によっていずれ辿り着く進化の可能性の姿。
そして、神と呼ばれた存在と戦い続け世界を救った戦士の名である。
悠然と歩くその姿に、カルマノイズが刺し貫いた傷が見当たらなかった。まるで、最初から存在していなかったかのように。
黄金の戦士となった姿に、ディケイドの面影は見られない。唯一腰に巻かれたドライバーが変わっておらず、それがあの姿もディケイドなのだろうという証明に見えた。
距離が縮まるに連れて、ノイズたちも動き出した。ディケイドアギト(以後、Dアギト)に近いノイズたちがその身を槍へと変えて、Dアギトに飛来する。
歩みを止めずにDアギトは右手で手刀を作り、槍に変わったノイズたちを切り払った。
次々と射出される槍の攻撃にDアギト片手のみで対応し、彼の通った道には一塊の炭素の粉の山が何個も出来上がっていた。
ノイズたちの攻撃にやがてタイムラグが生じ、その一瞬の隙を突いてDアギトが一跳躍で一気に距離を詰めた。自分からノイズの大群に飛び込むなど、誰にもできないだろう。
Dアギトはたまたま直ぐ目前にいたノイズに、一切の容赦なく拳を見舞う。
仮面ライダーアギトのその黄金の姿には、大地の力が宿っているという。
不動の大地と化して、邪悪を打ち砕かん。
風のように疾く、大地の如く重い拳撃。そんな威力を宿した一撃は、たったの一発で前方に蠢いていた数十体のノイズを吹き飛ばして殺した。
それが合図かのように、ノイズたちはDアギトを囲み四方八方から攻撃を繰り出していく。
ノイズの怒涛の攻撃の手にDアギトは、恐ろしく洗練された最小限の動きで避けて、カウンターの要領でノイズを殺していく。
ただの偶然か、それとも先読みでもしているのか。ノイズが攻撃を繰り出そうとした瞬間には、まるで誘い込まれたのかようにDアギトの拳撃と蹴撃が待ち構えていた。
Dアギトの動作は決して激しくはない。だというのに、ただの一撃のだけで次々と数十体ずつノイズを殺し、確実に数を減らしていった。
深手を負い、数においても圧倒的な有利があったノイズの群勢が瞬く間に形勢を逆転されている。
ノイズたちも学習したのか、直接攻撃から射撃へと攻勢を変えた。
Dアギトから離れていたノイズたちは、次々と白い光弾を放ち、安全圏からDアギトを追い詰めようとするも──、
Dアギトが一枚のカードをドライバーに挿入すると、姿を変えた。
外装が金色から青色へと移り変わり、Dアギトの左手には両端に刃が備えられた棒状の武器──
その身を嵐と化して、邪悪を振り祓わん。
そして、光弾に追従していたノイズたちは
「ハアァァァッ!」
両手で
上空にいた飛行型ノイズたちは流れが変わった風に強引に引かれ堕ち、嵐はノイズの大群に向かって動き出す。
嵐へと接触したノイズたちは、嵐を構成する無数の風の刃によって次々と微塵切りにされていく。嵐から逃れようとするも、風の檻に捕らわれてしまいその身を嵐へと投げ出されてしまった。
自然発生する嵐には物の数分で、小さな集落を更地にする力を秘めている。そんな風の暴力に曝され続け、嵐が晴れた時にはノイズの大群は殆んど消えていた。
小型、中型、そして飛行型ノイズの姿は、嵐の消失と共に姿を消していた。Dアギトによってノイズたちはその場に炭素の粉を遺されることなく、消滅していた。
それでも、ノイズはまだいる。
圧倒的な質量で構成されている大型ノイズたちは、あの嵐の猛攻に耐え抜いていた。体の半分以上を削り抉られたが、辛うじて身体を動かせている。
「……ハァ、ハ、ァ」
対してDアギトは左手の槍を地面に突き刺し、右手を腹部に当てながら荒い呼吸と共に肩を上下させていた。その様子に、真っ先に思い浮かんだのはカルマノイズにやられた傷だ。
どれほど取り繕い、傷痕を無くしてもカルマノイズの凶刃は確かにDアギトの身体を蝕んでいた。
痛みで動けなくなったDアギトに、大型の巨人型ノイズたちが迫り来る。
その内の一体が残された片方の右腕を、Dアギトに伸ばす。成人男性をまるごと包み籠める掌が、Dアギトを覆い包もうとした瞬間、Dアギトの右手にカードが握られていた。
カードをドライバー挿し込んだ次の瞬間には、巨人型ノイズの腕は切られていた。手先から肩まで切られた巨人型ノイズの前には、右手に剣を握りしめて上に振り抜いているDアギトの姿が存在していた。
外装が青から赤へと移り変わり、左手に持っていた槍が消えた代わりに、右手には剣──
その身を火と化して、邪悪を焼き祓わん。
「ハアァァァ!」
右手に力を込めると、刀身が赤熱を帯びる。両手で
振り下ろそうとした瞬間、火柱が生まれた。その火柱はDアギトの剣から発生し、火柱は刀身の延長として形成されていた。
文字通り火の剣となって、七千度の斬撃に巨人型ノイズは溶断された。切口から燃やし尽くされながら灰の代わりに、大量の黒粉が降ってくる。
巨人型ノイズが消滅した時、狙い澄ましたかのように左右から一体ずつ、更にまた前方から同型のノイズが迫り来ていた。更に間の悪いことに、向かい風が吹き出し先の巨人型ノイズの黒粉が、Dアギトを隠すように躍り舞った。
Dアギトの視界が遮られ、最大の機会を逃さんと残りの大型ノイズたちはDアギトに飛び掛かった。
しかし、黒粉の即席の結界から火柱が伸びて前方の大型ノイズの胸を刺し貫いた。
前方の大型ノイズを起点に、火柱が時計回りに動いた。左右から来ていた大型ノイズも、火柱を避けることが出来ず横一文字に切り裂かれた。三体同時に炭素の塊に変わると、一拍開けて火柱が消え、Dアギトを覆っていた黒粉の中から光が溢れだしていた。
黒粉が晴れると、最初に変身した黄金の姿となって奏と翼と立花響を見つめていた。
■■■■■
ほんの数刻前。
ディケイドがノイズの大群に歩き出した時には、奏と翼は立花響を安全な場所に連れていこうとしていた。
丁度その時に通信機に連絡が入った。
二課のエージェントにして、ツヴァイウィングのマネージャーの
二人は簡潔に状況の説明をし、応急処置を施した立花響を連れ出そうとしたが、緒川から通信機越しに止められ、緒川側の状況を聞かされた。
避難口前で大多数の観客の暴動が起こり、避難が進まず人身事故が多発していると。その状況下で重傷人である立花響を連れてくるのは危険であり、何とか救護が来るか暴動が収まるまで持ちこたえてほしいとのことだった。
二人は歯痒い想いを抱きながら、立花響の意思力と生命力に祈るしかなかった。
その時、ディケイドとノイズの群勢との戦端が開かれた。
そして、戦いが終えたときにはディケイドとノイズの群勢の戦況を見守っていた奏と翼は言葉を失っていた。
ディケイドがノイズの大群に勝利を収めるこの光景は、二人にとっては見慣れているはずだった。だから、このように茫然自失するほど、衝撃的ではないのだ。
二人の心を支配しているのは、ディケイドの姿が変わり、その姿形の恩恵によってもたらされた、先の蹂躙ぶりだろう。
黄金の姿はただの一発一発の攻撃で、数十のノイズを纏めて葬り。
青い姿は槍を振るい、嵐を起こし圧倒的な災害となってノイズを一掃し。
赤い姿は剣を振るい、巨大な質量を誇る大型ノイズを苦もなく斬滅させ。
ノイズを殲滅した今、最初に変身した黄金の姿となって三人を見つめていた。
「姿が変わることによって、あれだけの力が出せるのならば、何故今までああしなかったの、ディケイドは?」
「…………
翼が口にした疑問を、奏がディケイド──Dアギトの周囲を見て翼に指し示す。
Dアギトが踏み込んだ地面は大きくひび割れ、嵐によって多くの瓦礫が上の階の観客席に吹き飛ばされていた。Dアギトを囲うように火の剣によって作られた、焼け焦げた地面が夕陽の光で照らされていた。
幸い一般人が巻き込まれておらず、安堵したところで翼は気づいた。ディケイドが今まで、あの姿と力を晒さなかったのか。
「……周りの被害を、人々を巻き込まないように力を抑えて、今まで戦ってきたというのっ!?」
信じられなかった。
過去に幾度も出現したあのノイズの大群を、そんな状態で戦い続けてきたことに。
自分の首を絞めるようなやり方に、それを承知で戦い勝利してきたこと。
思い返せばディケイドが現れてから、人命だけでなく建造物の損壊被害も格段に減少していた。
たとえ自分が苦境に立たされても、人とその帰る場所を傷つけないように戦えるその姿に翼は心酔する。
──守るためとはいえ、人々と国土を己の力であれ傷付けるのを厭う。それがディケイドの、防人としての心か!
対して、奏はディケイドに後ろめたさを抱いていた。翼も同じ事を思い始めたのか、顔を伏せてしまう。
今までディケイドが己に課していたものを、自分たちが破らせてしまった。
あの黒いノイズだって、ディケイドが万全であれば対処出来ていた筈だ。
それ以前に、ディケイドが来る前に倒せていればこんなことは起こらなかった。挙げ句の果てにはディケイドに傷を負わせる不始末。
重傷な状態では満足に戦えないから、ディケイドは周囲を破壊する力を使わざるを得なかった。最悪の結果、ノイズによる殺戮をこれ以上引き起こさないために。
そして緒川から聞かされた、恐怖からの観客たちの暴動。ノイズを素早く殲滅し、歌姫として人々に安全を伝えていれば招かなかった惨劇。
──歌姫としても、戦姫としてもまるで役立たず。
二人はディケイドに、遅れて現れたことに文句を言う気は更々なかった。
奏が言っていた通り、ノイズが出現してもディケイドが現れない状況は、ディケイドが別の場所でノイズと戦っているからだ。
二人の手の届かない所で、人々を救うディケイドに何かを言う資格は最初からないのだから。
だから、Dアギトがこちら側に歩き出したことには驚いた。
「はは、まさかなぁ……」
奏は既知感を抱いた。まるで、一年前のあの夜と同じ状況に似ていることに乾いた笑い声が漏れでた。
翼は言葉が出てこず、ディケイドが近づいてくる事に戸惑いを隠せなかった。翼の目には何かをするがために、こちらに歩いて来ているように見えた。
こちら側に来て、何かをするつもりのDアギトの進行を止める者がいた。
Dアギトの背後、会場の端に出来上がっていた瓦礫の山が吹き飛んだ。正確にはそこに埋もれていた黒いノイズ──カルマノイズが飛び出してきた。
体にDアギトの拳撃によって作られた陥没した痕を残しながらも、恐るべき跳躍力でDアギトの背に飛び掛かった。
余りに早い襲撃速度に、奏と翼もDアギトに伝えようとするも、発する前にカルマノイズの右腕の凶刃が振り下ろされた。
頭から切り割らんと降ってきた凶刃は、
「──フッ」
時間を置き去りしたかのような早さで繰り出された上段回し蹴りによって、へし折られた。折られた刃先がDアギトの前面を、際どい間隔で通過してDアギトの拳撃を浴びせられる。
拳の連打と共に重々しい音が響き渡るも、カルマノイズはそれでも消滅することなく耐えていた。せめての反撃として折れた凶刃を突き出すも、Dアギトの腕で逸らされガラ空きとなった胴体に正拳突きを叩き込んだ。
まともに喰らい、カルマノイズは背中から倒れて砂煙を巻き上げながら、後方にスライドしていく。
恐らく世界で初めてディケイドに傷を負わせたカルマノイズが、最初に感じられた威圧感と脅威さが今では見る影もない。
Dアギトの手に金色のカードが握られ、勢い良くドライバー挿し込まれた。
Dアギトの頭部の二本の角が、六本に展開される。
大地が鳴動し、Dアギトの足元に六本角を模した紋章が浮かび上がり、紋章を形成している莫大なエネルギーが右足に収束する。
Dアギトは大きく跳び上がる。
宙に飛んでいるDアギトは、夕陽の光で全身を浴びながら右足を突きだした。
ライダーキック。
音を置き去りにして放たれた蹴りは、起き上がっていたカルマノイズの胸に直撃し、風穴を空けながら後ろに飛ばされて轟音を伴って爆散した。
音もなく着地したDアギトは、そのまま奏と翼と立花響を一瞥した直後、静かにその場から消えた。
それと入れ替わるようにして、弦十郎を伴った救護班がライブ会場に到着した。
立花響は直ぐ様、ドクターヘリで病院に搬送されて、何とか一命を取り留めた。
そして、奏と翼も病院に搬送され治療を受けながら、入院することが決まった。
ただ、二人は退院するその日まで、抜け殻のような精神状態であったと言う。
余談ではあるが、このときツヴァイウィングの二人はディケイドから流れ出ていた血の痕跡がなくなっていることに気づかなかった。
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Q.本音は?
FOOOOOOO───────!!YEAH───────!!! 今夜はツヴァイウィングの全曲エンドレスリピート再生っしょぉ!やったぜ、これからもツヴァイウィングの新曲を聴けるだけじゃなく、諸手を振ってライブに行けるZE!!ライブ衣装奏ちゃんの生上チッチ!翼さんの生ァ脚!パイに興味ないの?デカパイしか興味ねえ!(最低発言)ヤベェ、このあっつい衝動が留まるところを知らねえ!こうなったら、ツヴァイウィング全曲を今から歌ってやるぞ、こら。おら、こら!さあ、マイクを準備して、CDをセット。
今更、天羽奏を助けて恥も罪悪感もないんすかねぇ(真顔)
というかなんで、オレは仮面ライダーディケイドアギト──長いからDアギトな──のまんまで、殺人現場みたいに血まみれな自宅のリビングの血を拭き取っているんだろうね。
皆まで言うな。この血が誰のかは分かっている。
ハイ、司クンの血デス。(震え声)
オレが自宅に着いた直後、オーロラさんが態々回収してくれたみたいです。ご丁寧に血が乾ききる前の状態でこの部屋にぶちまけてくれましたよ。
うん。嬉しいよ。そりゃ嬉しいよ。
通常型ノイズを全滅させた後、ぶちまけてしまった司くんの血を秘匿せねばと、あの三人のところに歩いたからね。走らなかったの、だって?ハッハ、腹に風穴状態で走れないよ(遠い目)
その後に襲ってきた黒いノイズをブッ殺して、いざっていうときに、まさかの強制帰還。あの時は絶望して、思わず血反吐を吐いちゃったね。マスクで見えんけど。(代わりに窒息しかけた)
帰還直後に部屋が血みどろになって、もうビックリしたよ。オーロラさんや、せめてこの血を海とかに捨ててておいてもらうとマジ助かるんすよ。
ナニ?自分の不始末は、自分でしろと?仕っ方ねぇじゃん!
あん時、切歌ちゃんを受け止めるために、動かざること山の如し状態になって全身で踏ん張ってたんだよ!次の瞬間には切歌ちゃんの柔こいボディを受け止められると思っていたら、まさかの黒いノイズの攻撃を受けると誰が思う!?全身力んで固まってたお陰で、衝撃を逃がせず貫かれたんですぅ。普通だったら食らっても火花散らして後ろにのけぞっていましたァ!
ちゅーか、オレは今その時の傷を治すせいで、仮面ライダーアギトのオルタリング(偽)の力を借りて、延命と傷の治癒をしているんですよ!
絶賛治療中なのに不始末の責任を取れとか、オーロラさんやアンタは鬼か。元から、悪魔で鬼だったか。
だがこの際だから言わせてほしいぞ、オーロラさん。アナタがホイホイとオレを送り飛ばすお陰で、現在進行形でオレにはあらぬ罪が重なり続けていると!
不法入国という大罪がなぁ!それも割りと洒落にならん数でなぁ!
最近たまに居合わせる、外国の軍人さんが物々しい雰囲気しているなあと思っていたら、気づきたくない真実にたどり着いてしまったんだよ糞がァ!
違うんです。オレは無罪なんです。全部オーロラさんのせいなんです。ヤッベ、証拠がねぇ。死刑不可避やん。あ、『俺』だけの死刑ならOKなんで(*^^*)
てな感じで、裁判沙汰になったら司くんの命が危ないんだよ、わかってんのかオラァン?
はぁ。
そういえば、司くんの命を助けるためとはいえ、奏ちゃんを助けることになるとは。
最初は奏ちゃんに絶唱してもらって、The END の予定だったんだ本当に。
でもさ、あそこで奏ちゃんと翼さんの変身が解けるとは思わないじゃん。
その時に『俺』は思ったね。これ、オレが戦わないと司くんが死ぬぞってね。
知っての通り、ノイズは執拗にディケイドを狙う。まともに攻撃を食らえば、当然ダメージを貰う。しかも、割りと重傷だったし冗談抜きで死ぬ。
だから、戦った。アギトの力を借りて何とか延命治療をしながらなぁ!
結果的に奏ちゃんを助けることに、繋がったけど。
奏ちゃんが生きてくれて、そりゃ嬉しいよ。でも、本当に『俺』にとっては今更どの面下げてという気持ち。
セレナ・カデンツァヴナ・イヴを見殺しにした『俺』は、到底許容できそうになかった。
一年前、奏ちゃんに言った言葉は『俺』に対して言った言葉でもある。
呑気に見殺しにした奴が、今更甘い想いを抱かせないように言った言葉。
当然、セレナちゃんが死んだ年には『俺』はディケイドの力を持っていなかった。
でも、一年前に奏ちゃんに会った時にこう思った。
もっと早く、ディケイドの力を手に入れていればセレナちゃんを助けてあげられたのではないかと。
過ぎたことは、最早仕方ない。
というか、G篇に突入したら『俺』は罪悪感でマリアさんとまともに戦えなさそうな気がする。
ガングニールで貫かれる未来しか見えん。
うーん、死ぬのならばたやマ状態のマリアさんの胸に沈み込みながら死にたい。もとい、イガリマの刃で死にたい。
ところでさ、オレはいつまでDアギトの姿で掃除しなきゃならんの?
だいぶ傷も治りかけてるけど、なんかオーロラさんがチラホラとノイズの影を見せびらかす──
この後、メチャクチャやった。
その後、ちゃんと8時間寝た。
次回は未定です。
そろそろ、原作に入らないと不味いですね。