食戟のソーマの世界で。   作:高任斎

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気づけ、主人公。
昴は、原作でも屈指のチートキャラだ。(笑)


5:そして平穏な日々は続いていく。(平穏とは言ってない)

 さて、昴。

 勝負というのは、勝つか負けるかわからないから、勝負という。

 絶対に負けない勝負は、勝負ではなく、ただの蹂躙だから。

 相手の分析と、自分を知ること。

 まあ、自分に出来ることとできないこと、相手にできることとできないことを知るってことね。

 

 俺の言葉を、どこか憑き物が落ちた感じの昴は素直に聞いている。

 うまくいくにしろ、失敗するにしろ、昴はうちの母親が引き取る方向で、話を進めているらしい……水面下で。

 

 まず、自分を知るということで……とりあえず、俺の料理を振舞ってみました。

 色々できるよと知ってもらうために、広く浅くのベクトルで知識と技術を用いたあり合わせの料理だったけど、昴がいいリアクションを返してきたから満足。

 

 目を見開き、動きが止まる。

 そして、猛然と食べ始める……うむ、こういうのでいいんだよ、こういうので。

 

 脱衣とか、【武士の情け】とか、目の保養になることは否定しないけど、そのあとの床の掃除とか、介護とか考えるとさあ。

 

 さて、昴の料理の腕前はどうよ。

 デザートというか、洋菓子のジャンル特化かな?

 

 

 

 

 お恥ずかしい話ですが、俺の料理力はチートだなどと考えてた頃もありました。(震え声)

 

 俺の従兄弟であり、友人でもある昴くん。

 俺の料理を、一度見て、味わっただけで、ほぼ完全に再現してくれました。(白目)

 ははは、ご丁寧に、俺の動きまでトレースしてきたよ。

 

 洋菓子職人も、日本料理の手法とか普通に使えるんだ……と思って尋ねてみたら、『初めて見た』とか言われましたよ。

 

 これが若さというか、転生者が陥る罠ってやつか。

 無意識に昴のことを下に見てたかも……うん、痛いヤツだな俺って。

 

 それにしても、これが、本当の才能か。

 そりゃ、考えてみれば……あの準ねえが、退学になるんだもんな。

 この世界が、俺の睨んだように料理漫画系の擬似世界だとすれば、遠月って学校は原作ラインに深く関わる舞台だと思うのよ。

 1000人が入学して、卒業できるのは十数人~数十人。

 でも、そのレベルが毎年毎年卒業していくわけだ。

 

 あのオーナー夫妻レベルが毎年数十人かぁ……。

 しかも、遠月限定の話で。

 

 もしかしたら、準ねえの『遠月に進学させるのは反対』ってのも、優しさと思いやりだったのかもなあ……俺の心が折れないようにって。

 

 安心しなよ準ねえ。

 道は、人ぞれぞれだ。

 仮に心が折れたとしても、歩みを止める理由にはならない。

 決して、俺が前世(仮)で社畜だったというわけじゃないが、挫折や蹉跌、理不尽に対する耐性は、身につけているつもりだし。 

 

 それに、昴のためにも、父親越えの手助けをしてやらないといけない。

 歩みを止める暇もないし、心を折られている場合じゃない。

 なんせ、俺の名前は『心』だ。

 うちの母親、いい名前をつけてくれたよ。

 

 でも、遠月は、化け物の巣窟って理解した。

 うん、現状を知るって大事だね。

 

 

 それはそれとして、せっかくだから昴にアドバイスを求めたところ、子供の頃から刺繍をやらされていたらしい。

 ああ、そういや外科医が手先の器用さの鍛錬のために……とかいう話を聞いたことがあるな。

 なるほど、物心着いた頃から、手先の器用さというか、繊細さを養う……か。

 洋菓子職人の繊細さってのは、こういう日々の積み重ねが生み出すものなんだな。

 

 よし、俺も刺繍をしよう。

 スポーツの世界でも、子供の頃は1種目に専念するのではなく、いろんな競技をする方がよく発達するって言ってたしな。

 

 幸い、その手の作業は嫌いじゃない。

 準ねえや、オーナー夫妻、両親、誠に幸、翼に、刺繍入りのハンカチでも作るとこから始めるか。 

 

 

 

 さて、店のヘルプは続いているんだけど。

 相変わらず、雰囲気も居心地も悪いが、目標があれば人は耐えられる。

 逆に、目標を失ったとき、耐えられなくなる。

 

 焦りは禁物だが、急いだほうがいいな。

 美作家だけの問題じゃない。

 店で働くスタッフの人生まで関係してくるんだ。

 

 店が終われば、昴と2人で試行錯誤だ。

 確かに昴はすごいが、弱点も見えてきた。

 俺の動きのトレースに関して、そうしないと、味の再現ができなかったようだ。

 つまり、俺のチートの初期状態というか、こうすれば美味しくなると理解しているわけじゃないから、調理条件が変わるだけで再現レベルが下がってしまう。

 なるほど、どちらにせよ、努力無用の便利なチートなんてものは存在しないのね。

 

 うん?

 昴って、遠月に放り込まれる予定だったんだよな?

 

1:実家との確執による、人格面の歪み。(現状はクリア)

2:卓越した繊細さと、飾りつけというか美的センス。

3:繊細さをもとにした、トレース技術。

 

 まさかこいつ、主人公ポジじゃないだろうな?

 

 いやいや、そんなこと考えてる場合じゃない。

 洋菓子職人として仕込まれている昴と、俺の組み合わせは悪くない。

 なんせ、『味付け』という点で、俺の能力がピンポイントで使える。

 

 それと、なんていうか。

 俺と同年代の、同性の昴と、2人で切磋琢磨してると……楽しい。

 別に、オーナー夫妻や、準ねえと仕事するのがどうだって話じゃないんだけど、こう、男友達っていうか、競い合える友人ってのは、別物なんだな。

 心なしか、昴もいい顔してると思う。

 最初に比べて、なんか顔つきも変わってきたし……それまで歩んできた人生が顔つきを変えていくってことかな。

 ストレスは、人類の敵だな。

 

 なんとなくだけど、いい感じだと思う。

 でも、この世界は化け物のような料理人がうようよしている世界なんだよな。

 

 ごめん、オーナー。

 

 俺は……全力を出すよ。

 

 たぶん、全力を出しても、勝てるかどうかわからない……そんなレベルの争いになるはずだ、きっと。

 主人公でもない人間に、世界はそんなに甘くないし、優しくない。

 

 余力を残して負けるなんて最悪だ。

 俺だけじゃなく、昴のためにもならない。

 全力だ、全力でぶつかる。

 昴にも、全力を振り絞ってもらう。

 

 全力を振り絞った先に……何かが見える、かも知れない。

 それは、自分自身だったり、将来に向けた目標だったり……もしかしたら、『何もわからないということがわかる』だけかもしれない。

 まあ、無知の知とも言うしね。

 

 たぶん、大事なことだと思う。

 うまく言えないけど、そんな気がする。

 

 転生者として、人生の先輩としての勘ってやつかな。

 

 

 

 

 

 そして、俺と昴は、完成させた。

 料理の道が果てしないように、あくまでも現段階で、だけど。

 2人が全力を振り絞った、渾身の一作。

 

 オーナー夫妻と準ねえが、完成品を見てちょっと不安そうにしてたけど……やれるだけのことはやったと思う。

 勝ち負けじゃない。

 勝ちたいけど、決してそれだけじゃない。

 

 うちの母親は、なんか口元を押さえてたけど……やっぱり、実家の思い出というか、洋菓子そのものに拒否感があるんだろうか。

 いつか、母親に俺の作ったデザートを食べてもらおう、そう思った。

 

 俺と違って、昴は平然としている。

 いや、口元には微かに笑みまで浮かべている。

 ちょっと羨ましいな。

 

 じゃあ、行くか。昴。

 

「ああ、行こう」

 

 こつん、と拳を打ち合わせ、俺と昴は、戦いに挑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……どうしてこうなった?

 

 いや、昴。

 むしろ、『どうしてこうならないと想像していた?』って表情で俺を見るのはやめて。

 

 うん、大惨事だ。

 というか、絵面(えづら)がひどい。

 

 スタッフ全員、ヘヴン状態です。

 

 これは俺が男だからそう思うのか、男のヘヴン状態は、正直見苦しい。

 黒歴史なんてレベルじゃない。

 そして、昴が、淡々と自分の父親と祖父の醜態を動画で撮影してます。

 

 いや、何してんの?

 この光景、知らない人が見たら、警察に通報されそうなんだけど。

 

「おばさんに頼まれたから」

 

 何してんのかーさん!

 せっかく、昴の心の闇が払拭されたってのに!

 

 ……あれかっ!

 あの時口を押さえてたのは、『まだ笑う時間じゃない』ってことか!

 

 これ、勝負じゃなくて、ただの蹂躙だった……?

 うわあ、やれるだけのことはやったというより、やれるだけやっちまった……。

 

 

 

 相手の料理力を感じ取り、適切な料理を作る……か。

 オーナーはすごいや。

 確かに大事だ。

 うん、俺はまだまだ未熟。

 そう、だからこれは、未熟ゆえに起こった事故。

 俺も昴も、まだまだ子供(強調)だからね、仕方ないね。(白目)

 

 うん、昴。

 心ゆくまで撮影しててくれ。

 俺は、床の掃除をするから。

 

 床でビクンビクンしてるスタッフに……数が足りないから、女性だけに毛布をかけ、淡々と床の掃除をこなす。

 

 どうやら、俺の料理力は、チートってほどじゃないみたいだけど、結構イケるかも、ぐらいのレベルにはあるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの一件の後。

 

 昴は、いい性格になった。

 ちょっと斜に構えた部分はあるけど、俺としては、良い感じに砕け、悪巧みもできる、付き合いやすいタイプになった。

 俺の家に住み、俺と一緒にオーナーの店で修行をしている。

 

 うちの母親は、なんというかものすごく明るくなった。

 でも、昴が撮影した動画を見ながらニヤニヤするのはやめて欲しい。

 幼少期の教育って大事、超大事。

 

 だからこそ、誠と幸には、過保護でもなく放置でもなく、この世界のいろんなものを見せてやりたいと思う。

 

 

 ……え、母親の実家(美作家)がどうなったのって?

 

 し、心折スタッフが5割、逆に奮起したスタッフが4割、かな。

 うん、いろいろ頑張ってるんじゃないかな。(目逸らし)

 こ、子供の無邪気さって、時に残酷な結果を生むから。

 オーナーも、後始末を知り合いに頼んでくれたし……。

 

 そうそう、オーナー夫妻は、相変わらずだ。

 ただ、昴という即戦力に近い人材をゲットしたため、色々と悩んでいる。

 とりあえず、二号店の展開とか、業務拡大にはあまり興味がないらしい。

 俺はともかく、昴にはいろんな料理の世界を見せて、その上で進路を選ばせたいそうだ。

 

 あ、俺には選択肢はないんですね、わかります。

 別にそれがいやってわけじゃないからいいんだけど。

 

 ちなみに、翼が、俺じゃなく昴に懐きはじめた。

 やはり、昴の方がイケメンだからか。

 まあ……仕方ない。

 

 そして、準ねえ。

 俺を正座させ、頭をペチンペチン叩いている。

 例の一件で、洋菓子職人が……残り1割のスタッフである女性二人が俺につきまとうようになったからだ。

 正確には、俺と昴の合作目当てだと思うんだけど。

 

「心の、全力の料理を食べていいのは私だけなんだから!」

 

 やめてよ、準ねえ。

 俺の料理を、フラグメーカーみたいな言い方するのは。

 チートかなって思った時期もあったけど、俺はそんな大した料理人じゃないんだから。

 

 ペチンペチン。

 

 いや、わかってないって、何がわかってないっていうのよ?

 

 準ねえが、俺を睨みながら言う。

 

「いい?絶対に、遠月に進学したらダメだから」

 

 ははは。

 料理人として興味がないとは言わないけど、化け物ぞろいの場所に近づこうとは思わないって。

 

「お、おとーさんとおかーさんは、その化け物ぞろいの学校の、1席と2席卒業なのっ!」

 

 え、マジで?

 パないと思ってたけど、やっぱ、すごい人なんだ。

 

 などと感心してたら、準ねえが、ムッとする。

 

「わ、私だって…」

 

 退学だよね?

 

「退学だけど、退学じゃないのっ!」

 

 ペチンペチンペチンペチン。

 

 なんだろう、よくわからん。

 オーナー夫妻に対するコンプレックスってわけでもなさそうだし。

 

 うん、料理を作ろう。

 俺は、料理人だからな。

 

 準ねえ、何が食べたい?

 

「……なんでもいいけど、本気の料理を」

 

 ちょっと涙目の準ねえに向かって、俺は微笑んだ。

 腕を、振るわせてもらうよ、準ねえ。

 

 

 ありきたりだけど、俺はこの果てしなく続く料理の道を歩き始めたばかりだ。

 道ってやつは、ありふれた日常を続けていくことで、進んでいくんだ……きっと。

 

 俺の日常力は、53万だぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわーん、心のばかぁ!総帥の孫娘が、アンタの料理目当てにやってきちゃったじゃないっ!」

 

 え、誰それ?

 ああ、あの時の女の子……って、なんか重要人物なの?

 

 ペチンペチン。

 

 泣きながら俺を叩いてくる準ねえ。

 無言で、でも、その子供らしからぬ目力で俺に料理を要求してくる女の子。

 騒ぎに乗じて、俺にスイーツを要求してくる女性が2人。

 そして昴は、姿を消している。

 

 ごめん、俺の日常力、ちょっと自信なくなってきた。

 53万じゃなくて、5ぐらいしかないかもしれない。

 

 




これにてひとまず終了でございます。

高任先生の、次回作にご期待下さい。

……おまけ話もあるのよ。(チラッ)


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