ちょっと長々してます。
春秋五覇の一、斉の桓公。
そしてその忠臣である管仲の話をしよう。
桓公、公子時代はその名を
小白は斉の王族であり、兄を2人もつ。
1人は斉の君主の
もう1人が
当時私はとある事情から子供――名前はチョウジ――を連れて諸国を放浪していた。
そして斉の国についたときに、ふと春秋五覇に数えられる斉の桓公を見てみたいと思った。
ついでに英雄を見せることは幼いチョウジの教育にもいいだろうと思って。
そんなわけで斉の国の上の方にちょちょっと仕官することにしたのだった。
ただまぁやってみてから思ったのだけど、状況はすこぶる子供の教育に悪い。
まず、始まりからして近親相姦だ。
当時、斉の君主である襄公は実の妹の文姜と肉体関係を持っていた。
しかもただ関係を持つだけじゃなくて、この妹が嫁に行った後も旦那に黙ってヤることヤってしまうというヤバさ。
妹の文姜は魯の桓公(この桓公は後に斉の桓公になる小白とは別人ね)に嫁ぎ、跡継ぎの荘公を生んでいるにも関わらずまた実の兄と関係をもったということで、夫の桓公に厳しく責められる。
いや、まぁこれは普通の反応だと思うけどね。
自分の嫁が実はその兄とイケない関係で、自分と結婚して子供も生んでるのにまだ自分に隠れて関係を続けてるなんて話、今日日のドロドロ女性誌にもないわ。
でもって怒られちゃった妻の文姜、お兄ちゃんにこのことを告げ口しちゃう。
そしたらお兄ちゃんも逆ギレして、なんと一族の公子彭生って男に命令して桓公を暗殺してしまう。
この時代ってまだ戦場で「両軍が挑戦と応戦の使者で戯言ををやりとりしてから開戦する」とか「名乗りあってからの一騎討ちで戦の勝敗を決める」とかが普通にまかり通っている時代だから、割と礼を重んじてる。
そんな中で君主の暗殺は許されざる蛮行なわけで、とーぜん魯国はこの非道な行いを激しく問い詰める。
んでどうなったかと言えば、今度はこのお兄ちゃん、彭生を殺して「俺は何も知らない」と知らんぷりを決め込む。
この時点でだいぶ……いや、それ以前から頭おかしいね。
「俺は何も知らんが、魯国への償いとしてこの公子の首をお送り致す」と首まで送ったもんだから魯も激しい追及ができなくなって結局うやむやになってしまう。
さてこれで事件が終わったかと思えば、ところがどっこい。
今度はこれをきっかけに気に入らない人間を次々と処刑しだすお兄ちゃん。
斉国内はあっという間に大混乱。
国内の混乱を収めようと小白が進言するものの、お兄ちゃんは耳を貸さない。
それどころかうるさいことを言う小白と、ついでにその兄の公子糾も殺そうとする。
あ、この時私は諫言とかしないで普通に働いてた。
首切られるのは嫌だしね。
身の危険を感じた小白は信頼できる家臣の
兄の公子糾は魯国に逃亡。
さあ、ここまで好き勝手やった襄公、一体どうなったでしょう。
正解は、従兄弟の
そしてこの名前からして負け犬臭が漂っている無知君は小白と公子糾が国外に逃亡しているのをいいことに自分が斉の君主になっちゃう。
もうフラグとも呼べない無謀な行動である。
はい、君主に即位したこの公孫無知も暗殺されます。
やべー血生臭い争いを間近でみちゃったぜ……。
そしてチョウジにもみせちゃったぜ……。
性格ゆがまないといいけど。
そしてそれから私は大分忙しくなった。
まあ処刑粛清ラッシュの後クーデター起きてるからね、有能な文官とかばったばった死んだし。
あれよあれよといつの間にか繰り上がりで宰相になっちゃったし、これ私いなかったら正直国が滅んでるまであったと思うんだけど、史実ではどうやって存続していたのやら。
ちなみにまだ幼いチョウジは私の秘書だ。
ぶっちゃけそこらの文官より有能である。
そんなこんなで国内の有力な血筋は絶え、勃発するのは残った公子糾と小白の2人による後継者争い!
斉には王族が残っていないし遺書もないから、要は勝利条件「早い者勝ち」。
先に斉に帰って即位宣言した方の勝ちっていう子供の喧嘩みたいな状況だ。
私がどっちかの勢力につくとか言い出せば別だろうけど、私の勢力は完全な中立なのでそういうこともない。
さてこの争い。
ここで思い出してほしいのは二人の逃亡先、魯国と呂国。
これ、位置関係的にどう考えても魯のが遠くて馬車を急がせるとかでどうにかなる距離じゃないのね。
つまり、そのままだと確実に公子糾は小白に負ける状況。
こんなとき、あなたならどうする!?
はい、公子糾は腹心の
お前らホント、血は争えないというか、争いは同レベルの者同士でしか発生しないというか……。
困ったら暗殺者送り込むのワンパだからやめよう?
まぁここで少し違うのはこの官仲がとんでもなく優秀な人物だったってこと。
とにかく頭がいいし、決断力と行動力を持っている。
公子糾からも絶大な信頼を置かれていた。
そんな官仲が行なったのは毒矢による暗殺。
作戦は見事なもので、闇夜の中官仲が放った毒矢は小白の腹部に見事に突き刺さる。
さらっと流したけどこいつ文官のはずなのに弓矢めっちゃ使えてるし、闇世の中標的の急所に打ち込むとか尋常じゃないんだよなぁ……。
小白はなんとか馬車を走らせ逃走。
ところが官仲は小白の馬車を追わない。
「官仲様、どうして追わぬのです!」
「護衛は少なく、小白は手負い。確実に仕留めるべきではございませぬか!!」
「小白めの首を持ち帰れば管仲様は公子糾様の覚えもますますめでたく、かの光永宰相をも凌ぐことすら可能に……!」
「……いや、よい。追わぬ」
「!?」
「この暗闇の中ではあったが、私は小白様に毒矢が刺さったのを間違いなく確認した。確実に急所、万が一死なぬとしても絶対安静だ。斉に向かうことは不可能」
「それは、しかし……」
「それに! 今、お前たちを率いて小白様の後を追えば、少ないとはいえ護衛の私兵らの決死の反撃を受けるだろう。死兵を相手にすればこちらもけして無視できぬ被害を被る」
「管仲様……」
「糾様の斉への帰国……すなわち、即位を濃厚としたのだ。目的は達したと言える。これ以上を求めて無駄にお前たちを失うことに意味は無かろう。それに……」
「それに?」
管仲はニヤリと笑う。
「すでに密偵を小白様が向かうであろう宿に送り込んでいる」
「おお……さすが管仲様! その鬼謀、お見それ致しました!」
そして後日、管仲のもとに密偵からの報告が届く。
「官仲様に報告! 宿屋より棺(ひつぎ)が出てくるのを確認しました!」
「……棺だと? 中は確認したか?」
「は……いえ、申し訳ありません。中までは確認できていません。が、周囲の反応からして間違いなく小白と思われます。あちらの軍も到着しましたが、撤退の準備を進めている模様です」
「……そうか。わかった、引き続き監視せよ」
密偵の言葉通り、手負いの小白が逃げ込んだ宿には呂国からの兵が続々と集まるも、帰国の準備を始めていた。
この報告を聞いた官仲は、小白の死を確信する。
なにより、自身の目で、急所に毒矢が刺さったところを確認しているのだ。
これ以上の後追いは不要と判断した管仲は公子糾に事の顛末を報告する。
この報告を聞いた公子糾は大いに喜び、夜は兵士達にも酒を振舞った。
その後もそれまでの強行軍の反動か進軍速度は非常に緩やかになり、その結果、公子糾軍は通常の進軍の倍以上の時間をかけて斉国内に帰ることとなる。
しかし、公子糾がようやく辿り着いた斉国で見たものは、斉候となった小白の姿だった!
「馬鹿な! どういうことだ管仲! あやつめは死んだのではなかったのか!!」
しかし、詰られるまでもなく、この光景に一番の衝撃を受けているのは当の管仲だった。
(なぜだ……間違いなく毒矢は刺さっていた。確実に。致死量の何倍もの毒だ、生きていられるはずがない。もし仮に毒で死んでいなかったとしても、絶対に進軍に耐えられる状態ではないはずだ!)
(なんだ……私は何を見落とした……何を……ありえぬ……)
国境まで迫った公子糾軍が魯国へと撤退したという報告を聞き、私は小白にニヤリと笑いかけた。
「お見事、小白。これで公子糾が君主になる道は完全に断たれた。これからは君が名実ともにこの斉の君主だ」
「……お戯れを、光永宰相。まだ終わってなどおりませぬ。糾の首を挙げるまで私に安寧は訪れない」
「ま、いいけどね。ここ数年の財政は厳しいんだから軍を出すならぱぱっと片付けてきなさいね」
「無論。あの情勢の中、厳しい、程度に収められたその手腕。あなたこそこれまでの、そしてこれからの斉になくてはならない人物だ」
「ま、評価してくれるのはありがたいね。それで小白。冠を被るにあたって、名前はもう決めてあるの?」
「既に」
こうして、斉の君主となった小白は
そしてすぐさま、「大罪人である糾と官仲を匿っている」として魯に対して進軍することを決定する。
魯軍もまあ頑張って戦うものの、国力にもどう頑張っても埋まらない差があるし、曲がりなりにも私が管理してた斉国軍はしっかり統率されている。
私は自分のお仕事はちゃんとやる方だからね。
仕事をやり始めるまでは面倒くさいと思うものの、一度始めたら全力でやる。
宰相業務も結構楽しいし、自分の処理能力以上のものが来てもジョブチェンジすればなんとでもなるから気楽なもんだ。
あ、ちなみに私の名前だけど、姓は
一応それぞれ由来はあって、例えば姓は前世の名前から。
まあ私の名前なんてどうでもいいね。
さて、戦争をふっかけた桓公だけど、ある程度魯を痛めつけたとこで降伏を勧めた。
条件はもちろん、「糾の首」と「配下の引渡し」だ。
魯は、これをあっさり受け入れた。
まあ受け入れない場合は国が滅ぼされるかもしれないし、特に公子糾らに恩があるわけでもない。
魯に行ったのは糾の母親の実家が魯だったってだけだからね。
残念でもなく当然。
糾が君主になったときは甘い汁を啜る気だったろうし自業自得みたいな。
その結果、降伏の使者を出してから1月もせずに糾の首と、官仲が斉に送られてきた。
本当は官仲ともう一人、腹心の召忽という男も送られてくる予定だったけど、こっちは主君の公子糾が死んだ事を知って自害してしまったので管仲だけだ。
さて、首だけになった糾と召忽はいいとして、ここで問題になるのはひっ捕らえられた管仲だ。
縄を打たれた状態で桓公の前に引きずり出された官仲。
「……貴様が官仲か。この私に弓を射ったのだ。ただでは殺さぬぞ!」
まあいわゆる絶体絶命ってやつだ。
一応私はこのあとどうなるか史実で知ってるんだけど。
「何か最期に言いたいことはあるか」
「…………ひとつだけ、お聞きしとうございます」
「……なんだ、申してみよ」
「私が放った毒矢は間違いなく当たっていたはず。なのになぜあなたはここに立っているのですか」
「……ふん。確かに、おぬしの毒矢は私の体に当たった。しかし、刺さってはいなかったのだ」
「そんな、まさか。甲冑を着ていた訳でもないのに、刺さらないわけが無い!」
「しかし、現に私はここにいる。お前の矢は、腰の留め金で止まっていたのよ。私の体までは届かなかったのだ」
「……それでは、矢が当たった後は演技だったと?」
「その通りだ。宿屋の棺も、兵を引かせたのも、全てな」
「なるほど、納得できました。これで心置きなく逝けます。よい冥土の土産ができました」
「残念だったな。――さあ、この者の首を刎ねよ!」
「お待ちください!」
桓公が官仲を殺そうとすると、ある男がそれを遮り静止した。
「
「お止めください我が君! ここで官仲を殺してはなりませぬ」
「なぜだ鮑叔! こやつはわしを殺そうとした張本人ぞ!!」
鮑叔。
姓は姒、氏は鮑、諱は牙、字は叔。
鮑叔牙とも呼ばれる斉の政治家だ。
鮑叔は若い頃に管仲と親しくしていた男で、管仲と共に商売を行っていた。
そこで管仲が大損失を出しても商売には時勢があるとして決して咎めず、また、多大な利益を上げても貧乏な管仲の為にその利益のほとんどを与えていた。
鮑叔のこの厚情に管仲は「私を生んだのは父母だが、父母以上に私を知る者は鮑叔である」と言うほどの仲で、大恩人。
聞きようによってはおんぶにだっこされてるような関係でもあるけど……。
まぁこの事から後世の人が二人の厚い友情を”管鮑の交わり”と呼んで大いに称えるくらいには有名な話だ。
個人的には鮑叔が管仲を見る目は割と熱が籠ってるし、実はガチで狙ってるんじゃないかと思ってるんだけど……いや、よそう、私の勝手な推測でみんなを混乱させたくない。
「分かっております。しかし、私も小白様に命令されたならば糾様を暗殺しておりました」
「確かにそれはそうかもしれんが、こやつを見逃す理由にはならぬぞ」
「この者の才は、私が誰よりも知っております。彼は私などとは比べ物にならないほどの才を持つのです」
「まさか……私が信頼するおぬしよりも上だと?」
「はい。もし我が君が斉一国に留まらず、中華の覇者となるおつもりであらばこの者の力が必ず必要になるでしょう」
「……なるほど分かった、本当にそうであるならば処刑は取りやめよう。だが、もしも取るに足らない男なら死んでもらうが、よいな?」
「感謝します、我が君」
こうして官仲の処刑は鮑淑の働きによって中止になった。
見ていた私も史実通りになってホッとしたもんだ。
その後は特に語ることでもない。
桓公と官仲はこれからの斉の行く末、何が斉に必要か、どこをどう変えていくかを話し合い、
そこで官仲が出す案は全てが斬新かつ理論的で、桓公は官仲を認めざるを得なかった。
こうして桓公、官仲、鮑淑の3人(と私)で国を支えることになるわけだ。
宰相は私だったけど、その直下に新たに役職を制定して、官仲と鮑淑が私の補佐官みたいな形に収まった。
そこからは凄まじい速度で国を立て直し、改革を行って国を発展させることに成功する。
まず行ったのはそれまで私腹を肥やしていた官僚や役人を片っ端から排除していったこと。
国主がいない状態でやればさすがに国が傾くので私がついぞできなかった事でもある。
私腹を肥やすとか言うとなんか小物っぽいイメージあるけど実際それでうまくやってる奴ってだいたい有能なんだよね。
また同時に民に明確な規律を徹底させた。
規律は民を縛るためのものではなく、民を助けるものでもある。
これによって安定した税収と、民の負担が減り暮らし向きが向上する。
そうなれば働く意欲を湧かせることにもつながる。
規律……というか法律関係で最初に着手したのは
井田制は正方形の田を九等分し、それを八の家族に割り当て「私田」とし、そして真ん中の「公田」は八家族で耕し、これを国への税として出す、という制度である。
まぁ聞いて分かる通り変な法だ。
あまり理に適っているとはいいがたい。
そこでこれを取りやめ、斉を二十一の領土に分割してそれぞれ各地で取り仕切るようにした。
管理も楽になったし税収の把握も簡単、命も出しやすい。
陸はこんな感じなのに対して海の方の開発も重点的に行った。
当時は造船技術なんかも拙いし、漁業のレベルもたかが知れていた。
それを国が支援してガッツリ開発していった。
広い中国で海に面しているというのは大きなアドバンテージであり、なにより生活必需品の「塩」もとれるというのが最高だ。
開発しない理由がない。
こうしてこの時代の基幹産業になり得る「食」に関わる開発を行えば、民の暮らしは良くなり街が活性化する。
そうなれば他地域・他国の商人の出入りも増え、多くの人がやってくるようになる。
難民・流民問題も発生するが、まぁ発展速度に比べれば些細な問題だ。
なによりこの時代、土地は余っているし、開発していない地域なんていくらでもあるのだから。
食料に関しては私だけでなく管仲も重視していた事柄だった。
例えば官仲はこんな言葉を残している。
「倉廩満ちて礼節を知り、衣食足りて栄辱を知る」
食料庫が一杯になって初めて人は礼儀をわきまえ、さらに衣服を十分に所持して外聞や恥を気にするようになる、という意味だ。
生活に余裕があってはじめて、人は人間らしい振る舞いができるようになるのだ、という極めて的確に真理を言い当てた言葉だろう。
良く一般に知られる「衣食足りて礼節を知る」という格言の元となった言葉でもある。
人は余裕が無いと獣と変わらないということだ。
もともと貧乏だった官仲だからこそそう思うのか、食には人一倍貪欲な男だった。
私が作った料理を率先して平らげ、独占しようとするくらいには。
管仲は後年、贅沢をしすぎだと言われることもあったが、まぁそこらへんが関係しているのかもしれない。
さて人が人を呼ぶことであっという間に斉は大都市となり、仕官を目指す優れた人材も集まるようになってきた。
私たちのやっている改革がどういう類のものなのかを正確に見抜けるような頭を持つ人間も居て国の上層部の層も厚くなった。
人材については管仲が最も重視したことでもあり、彼の書いた『管子』には
「大数に明るき者は人を得、小計を
「一年の計は穀を樹うるに如くは莫く、十年の計は木を樹うるに如くは莫く、終身の計は人を樹うるに如くは莫し。一樹一穫なる者は穀なり、一樹十穫なる者は木なり、一樹百穫なる者は人なり」
「天下を争う者は、先づ人を争う」
などなど様々な言葉でその重要性を説いているほどだ。
後の有名な人材マニア曹操が詩に詠んでいたりと後世への影響もなかなか強い。
このように色々改革は成功しているわけだが、もちろんただ無造作に発展させただけではない。
急速な発展には歪みも生じるものだ。
その対策として打ち出したのが「五人組」の制度だ。
五つの家で一つの集まりとして、その中で不正を働く家がないか相互監視させる制度であり、日本史でも出てくる。
元をたどれば確か秦の商鞅が定めた什伍の制に端を発していた気がする。
相互監視によって、不正を報告すれば褒美を与え、不正をした一家には処罰が与えられるという割とブラックな感じの法だがまぁ時代にはマッチしている。
実際のところこの時代は近隣の家が相互に助け合っていかないと生活がままならないので虚偽の報告などはほとんどないし、五家族全部が共謀して不正を行ったことが発覚した場合はとんでもなく重い罰を与えることになっている。
制度はわりと上手く行って目立った不正が無くなったし、安定した税収が斉の運営資金として入手できるようになった。
まぁこんな風な改革をいくつも進めるうちに斉は周囲に並ぶもののいない大国に成長した。
そうなると今度はついに、力のない周に変わって斉が諸侯からの相談を受けるようになる。
さらに、南方の大国楚が周やその他小国を脅かし始めたときには、すぐさま諸侯を率いてこれを破る活躍を見せたことで諸侯の斉への評価はストップ高を記録した。
私はこの頃、十分に国が回ることを確認して宰相位を降りた。
そもそも宰相になったのもなんか流れに任せただけだったし、チョウジのためにも他の国を色々見て回りたかったしね。
さて、そんなこんなで国内の整備と富国強兵が一通り済んだことで、斉は魯を再び攻撃するようになる。
まぁ公子糾と管仲の引き渡しを条件に降伏を許したものの、魯はなんとかして支配から脱しようと足掻いてたからね。
ここらできっちり潰しておくのは対外的にも内外的にも大事だった。
もちろん斉軍は圧倒的に過ぎる国力を持ってるので非常に強く、魯はほとんど抵抗らしい抵抗もできないままに侵攻されてしまう。
もう後がないやんけ!と焦った魯は「お兄さん許して、国家こわれる。土地あげるから!」と和睦の使者を斉に送った。
これに対し斉は「どうして”なんでもしますから”の一言が言えねえんだ!言え!」と怒る――ようなことはもちろんなく、普通にこの和睦と条件を受け入れ、会談を行うことになる。
しかしこの会談でまたひと悶着が発生する。
和睦の話がまとまって魯候が土地を渡す署名をしようとした時、突如、魯の将軍が桓公に襲いかかる。
隠し持っていた短剣を桓公の喉もとに突きつけ、叫ぶことには。
「俺の敗北で魯は斉に国土を奪われた。だからたとえどんな手を使ってでも斉に奪われた魯の領土は返していただく!」
「貴様、和睦の場でこんなことをして許されると思っているのか!」
「許されるとは思っておらぬ。だが、最低でも憎き桓公と共に果てる覚悟はできていますぞ」
「――くそっ、分かった。領土は返す、だから短刀を置け!」
「口約束で信用できるとでも? 正式に記してもらわねば――」
「っぐう……」
「我らは国を奪われ非道に手を染めた愚者とその犠牲となった悲劇の王として、史に名を残すことになりましょう」
「……署名しよう」
こうして和睦の会談が終わると、桓公は当然激怒した。
「許さんぞ、魯国め、ふざけおって。特にわしに刃を向けたあの
そして報復を行おうとするのだが……。
「全軍に出陣の用意をさせよ! 魯国を徹底的に蹂躙する!!」
「わが君よ、お待ちくださいませ。お気持ちは分かりますがそれはなりませぬ。如何に向こうが非道な行いをしたとはいえ、約束は約束です。それを反故にすれば、我が国は諸侯の信用を失います」
「何を言うか官仲。それではわしに、あの蛮行を見過ごせと言うのか」
「そうです。ここで軍を出しては魯国と同じく信用を失います。それは、領土を失うことよりもはるかに大きい損失ですぞ」
「くそっ」
「あの土地は斉人の血と汗と涙で得た領土ですが、ここは中華の覇者として耐えねばなりません」
「……分かった、官仲。わしは蛮族ではない。中華を導く、覇者なのだ……」
こうして桓公は官仲の言葉を聞き入れて出兵を取りやめることとなる。
そして約束どおり、魯から奪った領土を全て返すこととなった。
この話を聞いた諸侯はそれはそれは驚いた。
斉の軍事力からすれば、魯などどうにでもできる小国。
そんな相手に見せた桓公の誠実さ、蛮行を許す器の大きさから、斉はこの事件から逆に諸侯の大きな信用を得ることとなった。
また、これ以降も桓公は権力者、軍事大国として力を振るおうとするが、そのたびに諌める官仲の意見を尊重し続けた。
権力者は往々にして配下の諫言を疎ましく思うものだが、こと桓公においては官仲に絶対の信頼を置いていたこともあり、そのすべてを聞き入れた。
これはまぁ、彼に備わった権力者への適正とでもいえるだろうか。
この件以降も桓公と官仲の両名は諸侯からの絶大な信頼を得て、ついには、中華の今後を話し合う会盟を取り仕切り中華を導いて行く事となる。
チョウジ でピンと来たらかなり歴史好きの人。
でもぽっちゃり系の人の方が思い浮かぶ人多そう。