ドラゴンクエスト ダイの大冒険~裏の章~   作:山いもごはん

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今回もしょうもない話を書いています。
よろしければご一読ください。


プロローグ~魔王軍軍団長面接試験~

 勇者アバンによって倒されたかに思われた魔王ハドラーは、大魔王バーンによって命を救われていた。

 そして今、ハドラーはバーンにより、新生魔王軍の魔軍司令の座を与えられていた。

 新生魔王軍は6軍団からなり、各軍団長がそれぞれの軍団を統括する。

 これは、そんな軍団長選抜のために行われた面接試験の記録である。

 

「それでは皆様、こちらでお待ちください。後ほどそれぞれお名前をお呼びいたしますので、そうしましたら面接室の中へお入りください。なお、本面接の順序と、先の記述試験の成績との関係はございませんので、ご理解ください」

 案内役を務めるシャドーが一通りの説明を終える。

 面接の待合室には、3人の人物がいた。小柄な者から大柄な者まで、まさに多種多様といった様相だ。

「いや、どうにもこういう場は緊張しますな」

 最も大柄な魔物の男が、沈黙に耐えかねた様子で、誰ともなく声をかけた。

 そしてもちろん、その声に答える者はいなかった。

 

「では、バラン様、面接室へお入りください」

「はい!」

 最初に呼ばれたのは、中肉中背の人間と思われる男だった。齢は30前後だと思われる。

 彼は、面接室のドアを3回ノックした。

「どうぞー」

 その声を合図に、彼は面接室のドアを開けた。

 

「失礼します!」

 そこには、3人の人物がいた。

 1人は、ローブを頭から足の先まですっぽりと着ており、顔すら見えない者。1人は、顔に笑顔が貼りついたような仮面をかぶった者。1人は、いかにも魔王、といった貫禄を持った魔族だ。

「バランと申します!よろしくお願いします!」

「それでは、そこに腰掛けてください」

「はい!失礼します!」

 魔族の面接官に促され、バランがパイプ椅子に腰掛けた。一呼吸おいて魔族から質問があった。

「それではまず、当社を志望された動機をお聞かせください」

「はっ。私は、これまで、人間を護るという立場での職務を数多くこなして参りました。ところが彼らは、自身が脅威から護られているときは、私に対して感謝する一方で、私が脅威を排除すると、今度は私を脅威としてみなすようになるということが数多く見受けられました。私はそのような人間の愚かしさ、そして傲慢さに嫌気がさしたのでございます。ゆえに私は、人間を地上から一掃するという御社の社風に惹かれ、この度志望させていただいた次第でございます」

「あなたを雇用することで魔王軍にどのようなメリットがあるのかを教えてください」

「はっ!私は、剣と魔法の両方を比較的得意としておりまして、実績といたしましては、神々と連携し、魔界に君臨する冥竜王ヴェルザーを封印したことがございます!」

 その瞬間、仮面の発する雰囲気が少し変わった。しかし、仮面の下にある表情までは読み取れない。

「なるほど、戦力としては申し分ないということですな」

「いや、お恥ずかしい限りで」

「ボクからもちょっといいかな?」

 仮面が尋ねてくる。

「はっ。なんなりと」

「キミ、志望動機はきっと人間の手のひら返しだけじゃないよね。キミの瞳には、もっと鋭い、人間への憎悪…いや、復讐心と言ってもいいかも知れない。そんなものが見えるんだよね。もちろん、プライバシーに関わることだから、答えなくてもいいけど」

「申し訳ありません。隠すつもりはなかったのですが、あまりにもプライベートなことでしたので…。私は、妻を失っているのです。それも、人間の、彼女自身の父親によって。そのため、私は、人間に対して復讐…ニン間…ニンゲン…人ゲン…人間…ニンゲン…殺ス…滅ぼス…コロスホロボスコロスホロボスコロスホロボス!キヤァァァァーー!」

「混乱か!誰か!天使のすずを持っている者はおらぬか!仕方がない…バラン殿、一撃食らわせるぞ!」

 混乱には物理攻撃を一撃。常識中の常識である。

「はっ…。私はなにを…」

「どうやら、一時的に混乱状態に陥っていたようだ。すまぬが、回復のため、一撃入れさせてもらいました」

「はっ。お恥ずかしいところをお見せいたしまして…。お手数をおかけいたしました!」

「しかし、あなたの人間に対する憎悪はかなりのものですな。面接の参考にさせていただきます」

「はっ。ありがとうございます」

「それでは、バラン殿から質問などはありますか?」

「いえ!ございません!」

「わかりました。それでは、あちらのドアからお帰りください。本日はお疲れ様でした」

「はっ。ありがとうございました!失礼いたします!」

 ドアを開けながらバランは、今日の面接も失敗だろうな、と考えていた。

 

「焦った…。面接にはあんなのも来るのだな…」

「んー、ボクは好きだけどね。ああいう、狂気にも似た憎悪ってヤツ。まあ、彼にはちょっと思うところはあるけど」

「ところで、ミストバーンはなぜこの場におるのだ?話もしないし、ただ座っておるだけではないか」

「ミストに面接なんて酷だよね。まあ、2人よりも3人の方が箔がつくしね」

「そもそも死神よ、お前もだ。なぜ魔王軍の面接にお前がいる?お前は魔王軍所属ではないはずではないか?」

「それこそバーン様のご意思ってやつだよ。ここも人手不足みたいでさ。ある程度実力のあるヤツを選んでいったらボクに白羽の矢が立ったってワケだよ」

「むう…。バーン様のご意思ならば仕方がない。先ほどの質問も、結果はああなってしまったが、的を射ていたと思うしな。よろしく頼む」

「ウッフッフ。了解」

「よし、それでは次の者を入室させてくれ」

 

「クロコダインと申します!よろしくお願いいたします!」

 一分の隙もない完璧な礼をしながら現れたのは、二足歩行のピンクのワニ、という表現が似合う魔物だった。その身長は優に250cmはあるかと思われ、皺のないリクルートスーツを綺麗に着こなしている。間違いなくオーダーメイドの品だろう。ネクタイもセンスのよい物を選んでおり、第一印象は良好だった。

「それでは、まず弊社を志望された動機をお聞かせください」

「はい!オレ…私は、地元では力自慢で通っております!実際、戦って私に傷をつけることのできる者は1人もおりませんでした!故に、私は地元では王だの主だのと祭り上げられておるのですが、私自身としては、そのような立場にあることは非常に遺憾なのであります!私は、この力を、我が主と認められる方のために使いたいと考えておる所存でございます!」

「なるほど、自身のためではなく、主のため、というわけですね」

「はい!左様です!」

「ちなみにその力ですが、どれほどの鍛錬で身につけられるものですか?」

「はい!1日に腕立て伏せ30回、腹筋20回、スクワット20回であります!」

「えー、もう一度よろしいですか?」

「1日に腕立て伏せ30回、腹筋20回、スクワット20回であります!」

「中学生の部活でも、もう少しハードな気がしますが…」

「はい!私もそう思いますが、これだけのトレーニングでなぜかこの筋肉を維持できてしまうのです!ひとえに言って才能かと存じます!」

 確かに、それだけの負荷であの筋肉がつくというのは、才能かも知れない。ハドラーはそう考えていた。

「ボクからも少しいいかな?」

「はい!なんでございましょう!」

「キミのパワーがすごいのは理解できる。確かに、一撃はとても重そうだ。ただ、小さな素早い敵に出会ったとき、キミはどう対処する?あるいは、どう対処してきたのかな?」

「はい!私には、怪力の他に、焼けつく息という相手を麻痺させる技と、闘気流を渦状にして相手にぶつける技を持っております。前者は、相手は予想外の攻撃を食らうということから、非常に命中率が高く、また相手を麻痺させることにより、一時的に移動すらできなくさせることができます。後者に至っては、闘気流自体が直撃せずとも、小兵ならば木っ端のごとく蹴散らすことができます!」

「フーン、なるほど。力一辺倒じゃないってワケだね」

「はい!そのように自負しております!」

「なるほど…。それでは、クロコダイン殿の方から聞きたいことはありますか?」

「いえ、ございません!主となる方のため、精一杯力を振るう所存でございます!」

「わかりました。本日はお疲れ様でした。それでは、あちらのドアからお帰りください」

 クロコダインは、彼の体に比して小さなパイプ椅子から立ち上がり、一礼して部屋から出て行った。

「さて、死神よ。どう思う?」

「うーん、彼の忠誠心は立派なモノだと思うよ。実際にバーン様のお声を聞けば、さらに磨きがかかって、意外と化けるんじゃないかな」

「そうだな。なにより、見た目の割には礼儀正しかったしな」

「体育系なんてあんなモノだよ」

 

「さて、次で最後だ。入室させてくれ」

「かしこまりました」

 案内役のシャドーが言う。

「イィ~ッヒッヒッヒ。失礼いたしますぞ。ワシは、ザボエラと申します」

「ザボエラ殿ですな。それでは、そちらの席におかけください」

「それでは失礼して…。この年になりますと、やはり腰にきますゆえ」

 ハドラーは面食らっていた。

 なんだこのジイさん…。就職面接の場なのに、変な笑い声とともに登場し、いきなり自分の腰の話を始めおった…!ここはイニシアティブを取らねば、延々と話を聞かされてしまう!

「では、面接を開始させていただきます」

「イィ~ッヒッヒッヒ。よろしくお願いしますぞ」

「まず、弊社を志望された動機を教えてください」

「ワシは、魔法や呪法、人体の改造などの研究を行っております。先日も、息子を実験体にしたのですが、これがもう怒って怒って。『父さんひどいや!』なんて言うもんですから、こちらも売り言葉に買い言葉で、『お前のような者はクズじゃゴミじゃ』と罵ってしまいましてな。やはり母親がおらず男手一つで育ててしまうとこのようになってしまうんですかのぉ…」

 ハドラーの驚愕はさらに強くなっていく。

 ヤバい、ジイさんしゃべりすぎる。しかし内容はかなり興味深い…。だけど肝心の志望動機は話していない…。どの程度まで聞いてみるものか…。

 そして、ハドラーがくだした結論は…。

「先ほど、息子さんを実験体にされたということですが、具体的にはどういった研究なのですか?」

「ええ。これが、あらゆる魔物のいいとこ取りをして息子に全部ブッこむというものでしてな。頑強さとしなやかさなどが共存した、最強の魔物を誕生させるというものですな」

「ほう…。それは、魔王軍としてはかなりの戦力増強となりそうですな」

「ありがとうございます。ただ、現在の問題として、強化対象がその強化に耐えられる肉体を持つ魔族にしか使えないことと、強化後は呪文が使えなくなる、というものがございます」

「それは、研究が進めばどうにかできるものですかな?」

「1年や2年といったスパンでは無理でしょうが、必ず解消できる問題かと存じております」

 ハドラーは、面接の流れに安堵していた。

 ジイさん、ちょっと大人しくなってきたな。オレの聞き方がよかったのか。

「ウッフッフ。ボクからもいいかな?」

「イィ~ッヒッヒッヒ。なんなりと」

 こいつらウゼぇ!なぜいちいち言葉を挟まないと話せないのだ!?

 変な口癖2人の会話を聞きながら、ハドラーはうんざりしてきた。

「呪法についても研究してるってことだけど、具体的にはどういうことかな?」

「はい。まだ完成はしておらんのですが、最新の研究となりますと、呪法による罠にあらかじめわずかな魔法力を残しておき、なんらかの対象が通ることで自動的に罠が発動する、といったものですな」

「ウッフッフ。いいじゃない」

「イィ~ッヒッヒッヒ。ありがとうございます。あとは、罠が発動する対象を選べれば完璧なのですが」

「ウッフッフ。そこまでやっちゃうと、後世の魔族が研究しちゃう部分がなくなっちゃうからさ。伸びしろは残しておいてあげようよ」

「イィ~ッヒッヒッヒ」

「ウッフッフ」

「えー、他にザボエラ殿からご質問などはございますか?」

「ワシは、研究ができる環境と、それを実践できる戦場があれば、他にはなにもいりませぬ」

「わかりました。本日はお疲れ様でした。それでは、あちらのドアからお帰りください」

 ザボエラは、ハドラー達を振り返ることなく、腰をさすりながら真っ直ぐにドアから出て行った。

「ハドラー君!彼はいいよ!是非採用しようよ!」

「しかし、人格面に問題が…」

「魔族なんてどこかしら狂ってて当然なんだからさ!それより彼の技術はすごいよ!魔王軍の魔術担当にすれば魔法技術が一気に跳ね上がるよ!」

 こんなに興奮する死神を見るのは初めてだ。逸材なのかも知れない。

 自分には理解しきれない分野の内容を理解できる者が隣に座っているということは、ハドラーにとっては思った以上に安心できた。

「さて、面接も終了したことだ。バーン様に報告に参る」

「ハドラー君、ボクも行くよ。あと、ミストもね」

 ハドラーの脳裏を稲妻が走る。

 ミストバーン…すっかり忘れていた…。隣に座っていたというのに、なんたる不覚…。これはフォローしなければ。

「ミストバーンも当然行くよねー?一緒に面接したもんねー?」

 ミストバーンはコクリとうなずく。

 こうして、ハドラー、ミストバーン、キルバーンはバーンのもとへ報告に行くのであった。

 

「うむ、全員合格とせよ」

「は?」

 バーンのもとへ到着するなり言われた言葉に、ハドラーは一瞬困惑する。

「聞こえなかったのか?全員合格とせよ。それとも…理由が必要か?ハドラー」

「い…いえ、バーン様のおっしゃるとおりに」

「まず、余も面接の様子は見ておった。どいつもこいつもクセがあってよいではないか」

 結局、理由をおっしゃるのか…。ハドラーの当惑は無理もない。

「続いて2つ目。これが最も大きな理由であるが…応募者が少ないのだ」

「は?」

「世間は好景気のようでな。うちのようなブラックな会社に応募してくる者は少ないのだ。そもそも、今回も5人募集したにも関わらず、3人しか集まらないというこの体たらく。やはりハローワークでの求人が甘かったのか…」

「左様でございますか…」

 魔軍司令でありながら、そんなことまで気が回らなかったことに、ハドラーは反省していた。

「おそらく、もう一度募集をかけても応募は少なかろう。よって、方針を変える」

「と、おっしゃいますと?」

「まずミストバーンよ。お主はその辺の子どもを見繕って誘拐し、人間を憎むよう洗脳して暗黒闘気の使い方を叩き込め」

 ミストバーンはコクリとうなずく。

「そしてハドラーよ。お前は禁呪法を用いて、強力な魔物を一体生み出せ。魔物の種類などはお前に任せる。必要ならばミストバーンのサポートも認める」

「はっ。かしこまりました」

「それでは、新生魔王軍誕生への第一歩に向けて、一本締めで締めようぞ。よーお!」

 ぱぱぱん、ぱぱぱん、ぱぱぱん、ぱん!

「いよっ!」

 ぱぱぱん、ぱぱぱん、ぱぱぱん、ぱん!

「いよっ!」

 ぱぱぱん、ぱぱぱん、ぱぱぱん、ぱん!

「いよーーっ!」

 ぱちぱちぱちぱち。

 

 こうして、波乱含みの新生魔王軍が誕生したのだった。




最後までお付き合いくださりありがとうございました。
楽しんでいただけたのなら幸いです。

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