予には大好きな家族がいる。
ヤマトの偉大な帝であり、とっても優しいお父上。
予の教育係で、いろんなことを教えてくれる大宮司のホノカ。
絵を描くのが上手でいつもは穏やかなのに怒るとこわい兄上。
ホノカの娘で予と遊んでくれるウルゥルとサラァナ。
それが予の大事な家族たちじゃ。
予はそんな家族たちと庭園で話をしていたはずなのに気づいてたらまっしろなところにおった。
そこは遮るものがなにもなく、ひたすら白い空間が続いているような場所じゃった。
はじめこそ初めて見る場所に好奇心を刺激されたが、こわいほど白しかない空間にだんだん不安になってきた。
予は家族の名前を呼んでみたが、返事はない。いよいよ泣いてしまいそうになったとき、白い世界に一か所だけ別の色があることに気が付いた。
予はそれを見つけると同時に走り出していた。だいぶ遠くだが、確かにあれはヒトの後ろ姿じゃった。
こんなわけのわからぬ場所で一人きりだなんて耐えられぬ。予は誰でもいいからいっしょにいたかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「おーい! そこの者! 待つのじゃー!!」
近づいてきた背中に大きな声で呼びかける。背格好からその者は女子のようじゃった。
「え?・・・誰かいるの?」
予の声に気づいてその娘が振り返る。じゃがその顔に予は驚いてしまった。
「な・・・なんじゃおぬし! なんで予と同じ顔をしておるんじゃ!!」
「そ・・・それはこっちのセリフだよ! なんでわたしと同じ顔をしてるの!?」
「何を言う! おぬしが予の顔を真似しておるのだろう!! 天子たる予の顔を真似するとはなんと不遜なやつなのじゃ!!」
「天使? あなた天使さまなの?」
「そうじゃ! 予こそヤマトの偉大なる帝の天子『アンジュ』なのじゃ!」
「ヤマト? ミカド?・・・あれ? あなたは天使さまじゃないの?」
「じゃから予は天子だといっておろう! 物わかりのわるい娘じゃのう!」
「え? 天使・・・テンシ?・・・あーーーもう! わけわかんない!!」
「それはこっちの台詞じゃーーー!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「へぇー。それじゃあアンジュはヤマトって国のお姫様なんだね。」
「そのとおりじゃ! まったく・・・チィ、おぬしは本当に物わかりがわるいのう。」
「しょうがないじゃない。わたしはヤマトなんて国知らないんだから。」
「・・・おぬしは本当に田舎に住んでいたんじゃのう・・・」
あまりの無知さに予が呆れかえっているとチィはムッと頬を膨らませた。
あれから予たちは互いのことを話し合った。
どうやらチィと名乗ったこの娘も気が付いたらこの場所にいたようだ。
理由と思わしきことは知っているようじゃったが、その話をしようとすると悲しそうにするため、詳しく聞けずにいた。
むくれるチィの顔を改めてよく見てみる。その顔はやはり予と同じ。違いがあるとすれば、チィの方がいくらか歳が上で、尻尾を持たず、耳も父や兄のようにツルツルだということだ。
「それにしてもホントに本物なんだね、コレ。ねぇ、触ってみてもいい?」
「うーむ・・・普通はみだりに触らせるものではないんじゃが、予と同じ顔にめんじてさわらせてやろう!」
「やった! ありがとうアンジュ!」
チィが恐る恐るといった風に予の耳に手を伸ばす。初めはつつくように触れていたが、そのうち撫でるように触り始めた。
「うわぁ・・・すっごくツヤツヤ・・・」
「そうであろうそうであろう! 毎日女官たちに手入れしてもらっとるからの! まぁ、帝の天子たる予ならそんなことせずともツヤツヤじゃがな!」
そう言って予は胸を張る。偉大なる帝に造られしこの身は、この世のあらゆるヒトよりも優れているのだ。あと数年もすれば、バインバインのおっぱいだって夢じゃないのじゃ!
「ふふっ・・・アンジュはお父さんのことが本当に好きなんだね。」
「あたりまえであろう! 予のお父上なんじゃぞ? 嫌いなわけがないであろう!・・・む? もしやチィはお父上が嫌いなのか?」
どこか寂しそうな顔をするチィに思わずそんなことを聞いていた。もしそうであったら悪いことをした。さっきまで散々家族自慢をしていたのだ。チィが家族と仲が悪いのであれば、聞いていて気持ちのいいものではなかったじゃろう。
「そんなことないよ。お父さんのこともお母さんのことも大好きだよ。でもね、もう会うことはできないんだ。」
「それはなんでじゃ?」
「たぶんね、今の世界はわたしたちが生きていた世界のずっと未来。わたしたちが生きていた時代は人は地上に出れなかったし、アンジュみたいな耳や尻尾もなかった。それに・・・」
チィの語ることに頭がついてこない。未来? 地上? なんだそれは。それでは・・・それではまるで・・・
「わたしの身体は病気で溶けちゃったし・・・」
「ッ!」
その言葉で確信してしまった。この目の前にいる娘の正体を・・・
「
それはヒトを生み出した大いなる存在。うたわれるもの――はるか昔にお隠れになった方々。
じゃが、予は知っていた。
「えっと・・・そのオンビタイなんとかってなんなの?」
「・・・
「もしかして、それって・・・」
「うむ・・・恐らくおぬしのことじゃろう。」
「そっか・・・そうなんだ・・・」
チィは悲しそうに目を伏せた。恐らく
そんなチィの姿を見るとこちらも悲しくなってくる。じゃが、ふと疑問が湧いてくる。チィの話が正しければ、チィもタタリになってしまっているはずなのだ。それなのに今はこうして人の姿でここにいる。タタリがかけられた呪いは絶対のはずなのに・・・
「のう、チィよ。そろそろ話してはくれんか? なぜおぬしがここにいるのかを。」
俯いていたチィは一度頭を振るうとポツポツと話し出してくれた。
「おじちゃんがね・・・おじちゃんがわたしを助けてくれたの・・・」
「おじちゃん? それはおぬしの叔父ということか?」
「そうだよ。わたしのお父さんの弟で、わたしが一番大好きな人・・・」
「そんな馬鹿な!? おぬしの叔父だというなら
「でもあれは確かにおじちゃんだった。着物を着て、顔には変な模様があったけど、確かにわたしの大切なおじちゃんだったの・・・」
「・・・それでそのおじちゃんとやらは何をしたんじゃ?」
「おじちゃんはね。わたしを緑のグネグネで捕まえて刀みたいなのでわたしを斬ったの。そしてたら身体が軽くなって気づいたらここにいたんだ・・・」
語り終えるとチィは肩を震わせて泣き始めてしまった。「やっと会えたのに」「ずっと待ってたのに」と・・・
普通に考えればありえない話だ。
そして、アンジュは父の話を思い出した。父にも弟がいて、自身の研究の実験体となったことを・・・
その実験の情報を元に父と兄は身体を造り替え、タタリになるのを逃れているということを・・・
ああ、そうか・・・この娘・・・チィは・・・
「チィよ・・・其方はどうしたい?」
「・・・え?」
アンジュの言葉に泣いていたチィは顔を上げる。目の前のアンジュは先ほどと打って変わって、真剣な表情をしていた。
そのことに若干気圧されてしまうが、チィは自分の願いを言った。
「・・・おじちゃんと・・・おじちゃんといっしょにいたい。今度こそおばあちゃんになるまでずっと、ずっといっしょにいたい!!」
チィの魂の叫びを聞いたアンジュは、うむと頷き立ち上がった。
「ならば予と共に来るがいい! 其方の願い予が叶えてやるのじゃ!!」
「え!? そんなことできるの?」
「うむ! たぶんの!!」
「た、たぶんって・・・あんなに大見得切ったのにたぶんなの!?」
自身満々に言い切った割に確信を得ないアンジュの言葉にチィがズッコケる。
希望持たせといてそれはないよと一発殴ってやろうと拳を握るが、その手を捕まれ引き寄せられる。
「安心せい。これでもホノカからいろいろ教わっておるからの。まぁ、呪術は扱えぬが、なんとかなるじゃろう。」
「だからなんでそんなに自信満々なの!?」
「良いから良いから・・・じゃが、まぁ・・・ここで一つ話をするとしようかの。」
今だツッコミをいれてくるチィを尻目にアンジュは語り始める。ヤマトという國を作り上げた一人の哀しい人間の物語を・・・そして、その人間にとって自分がどのような存在なのかを・・・
「嘘・・・それじゃあ、あなたは・・・」
「うむ。確かめることはできぬが、予はおぬしを元に生み出されたのじゃろう。姿も似ておるし、ホノカもおぬしの母上に似ているようだしの。」
「・・・あなたは、わたしだったんだね・・・」
「そうじゃ。そして、おぬしは予でもある。だからこそできることもあるというわけじゃ。」
「どういうこと?」
「ホノカが言うには、魂にはそれぞれハチョウ? というものがあってじゃな。それが近い者や相性の良い者同士は引かれあうそうじゃ。そして、ここにおる予たちは魂だけの存在で、予とおぬしの魂はほぼ同じ。なれば、魂を一つにすることもできるのではないかと思ったのじゃ。」
「大丈夫なのそれ?」
「そんなことは知らん。じゃが、もう予はおぬしを他人とは思えぬ。そんなおぬしが泣いておるのじゃ、どうにかせねば女が廃るのじゃ!!」
太陽のようなアンジュの笑顔にチィの心が温かくなる。そして、彼女とならばなんでもできるという根拠のない自信が湧いてきた。
「・・・分かったよ、アンジュ。わたしの願い、あなたに託すね!」
「まかせよ! 予とおぬしが合わさり超天子となって、そのおじちゃんとやらを手に入れるのじゃ! そして、ヤマトの大地のみならず世界の全てを遍く照らし出そうぞ!!」
笑い合いながら両手を重ねた少女たちを中心に光が集まってくる。この時、アンジュにはどうすればいいのか不思議と分かっていた。
そして、その光が最高潮に達した時、爆発したかのような音と衝撃が白い世界に響き渡り、二人の意識は暗転した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「うん?」
一瞬揺らぎのようなものを感じたので辺りを見回してみるがおかしなところはない。
念のため感覚を研ぎ澄ましてみるが、なんの反応も感じられなかった。
「気のせいだったのか? それともどこか遠くで・・・いや、後で考えるか。」
今までに感じたことのないような感覚に不安になるが、一瞬過ぎてなにも分からなかったので今は気にしないことにした。
それより今は目の前の問題をどうにかせねば。
「どうかしたんですかい旦那?」
「いや、なんでもない。それより離れて耳を塞いでおいてくれ。デカい音がするからな。」
「へい! わかりやした。」
商人の男とその仲間が離れていくのを確認して、目線を前に戻す。そこには道を塞ぐ大きな岩が鎮座していた。
ここはクジュウリの皇都へと続く山道だ。自分はその皇都を目指して旅をしていたんだが、途中で岩が道を塞いで立往生している商人達に出会ったのだ。
彼らも皇都へ行く途中らしいが、硬く大きな岩を前にどうすることも出来ずにいた。
幸い、ヒト一人通れるくらいの隙間があったため、仲間の一人に皇都まで知らせに行ってもらったそうだが、雪も多いので、いつ兵士が来てくれるかもわからない状態だったらしい。
そして、そんなところに出くわした自分は、彼らから酒を貰うことを条件に岩を撤去してやることにしたのだ。
「・・・よし。おーい! 爆破するから耳を塞げよ!!」
そう言って自分も足早にその場から離れ、設置した『輝玉』を爆破させる。
すると大きな音と鮮やか花のような炎が巻き起こり、道を塞いでいた岩が粉々に砕け散った。
「おーー!! すげぇぜ旦那! 呪術師ってのはこんなこともできたんだな!!」
「まぁな。それより、残った破片を片付けちまおう。このままじゃ荷馬車が通れん。」
「そうだな。よし、残りは俺たちがやっちまうから、旦那は休んでてくれよ!」
商人の男は仲間と共に砕けた岩を片付け始める。これなら今日の日暮れ頃には皇都に着くことが出来るだろう。
自分は対価として貰った酒を飲みながら、その様子を眺めるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
皇都に着くとすでに連絡を受けていたらしい兵士に驚かれた。
どうやらあの道は皇都に続く主要道だったらしく、兵たちも急いで準備していたそうだが、最近降った雪の除雪が間に合わず、なかなか兵を出せないでいたそうだ。
自分は何度も礼を言ってくる兵士に気にするなというと、商人たちと一緒に旅籠屋に移動した。なんでも対価の酒とは別に宴会を開いてくれるというので、遠慮なく参加させてもらうことにしていたからだ。
旅籠屋に着くと知らせに出ていた商人も合流して宴会となった。
こういった大人数での宴会は久しぶりだったので、自分は大いに楽しんだ。
そして、場も盛り上がってきたので伝家の宝刀『裸踊り』をやろうとしたら、
まったく。いいところだったのにどこのどいつだ!
脱ぎかけた着物を戻して内心文句を言っていると、凛々しい顔の青年が入ってきた。
すると周りにいた商人たちが平伏して、「ヤシュマ様・・・」と呟いた。
「・・・顔に隈取をした御仁。あなたが兵士が言っていた者か・・・俺はクジュウリ皇オーゼンが長兄ヤシュマだ。この度は我らに代わって商人を助けていただき誠に感謝する。」
「まさか、クジュウリの皇子自ら礼を言いにくるとはな・・・いや、挨拶がまだだったな。自分の名はマシロ。旅の呪術師だ。」
「マシロ殿か・・・聞くところによると、巨大な岩を一撃で破壊するほどの腕前だとか。どこかの國のお抱えだったので?」
「まぁ・・・昔は、な。今は自由気ままな一人旅さ。」
「む・・・なにやら言いずらいことを聞いてしまったようだ。許されよ。」
「別にいいさ。」
そうしてしばらく歓談した後、ヤシュマはお付の者から包みを受け取り、こちらに渡してきた。
「こいつは?」
「それはこの度の礼です。冬のクジュウリにとってあの道は生命線とも言えるものです。本来であれば、我らがどうにかしなければいけないところをマシロ殿に助けていただきました。ですので、どうかお収めください。」
ふむと、前に置かれた袋を見る。取り出した時に聞こえた音から中身は恐らく金子だろう。しかも袋の大きさから、一ヶ月は遊んで暮らせそうな量だ。
現在懐が寂しい自分としては受け取っておきたいところだが、すでに商人達から対価を貰っているため、受け取るのは戸惑われた。
昔なら喜んで貰っていただろうに自分も随分と神としての性質に影響されているようだ。
「いや、これを受け取るわけにはいかんよ。礼ならすでにこいつらから貰っている。これ以上は貰いすぎだ。」
「いや、しかしそれでは・・・」
「・・・ふむ。それなら、この金でここにいる全員に奢るってのはどうだ?。」
「マシロ殿がそれでいいのでしたら・・・」
若干納得いってない様子ではあるが、ヤシュマが了承したので、金の入っている袋を掲げながら商人たちに振り返る。
「よーしお前ら! 今日はこの金で飲みまくるぞ! ヤシュマ殿に感謝しろよ!!」
そう自分が宣言すると商人たちは大喝采で雄叫びを上げた。
自分は近くにいた
「ほれ、ヤシュマ殿も飲め飲め!」
「い・・・いや、俺は・・・」
「自分に感謝してるってんなら、一緒に飲もうぜ! 自分はその方が嬉しい。」
戸惑うヤシュマに杯を持たせるとなみなみと酒を注ぐ。
「よーし! そんじゃあ乾杯だ! 無事に皇都に着いた事と今日も酒が旨いことに感謝して・・・乾杯!!」
「「「「かんぱ~い!!!!!」」」」
「か・・・乾杯?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ヤシュマとそのお供を巻き込んだ宴会は大盛り上がりとなった。
金に物を言わせて旨い酒と肴を大いに喰らい、全員揃って馬鹿騒ぎだ。
途中から天邪鬼達も呼び出して楽器を演奏させると他の奴らも次々と余興を始めた。
ある者は酒瓶でジャグリングをし、またある者は一升瓶を一気飲みし、またまたある者はジャイアンのような歌声で熱唱した。(当然そのジャイアンは全員にボコられたが。)
そして、自分はというとヤシュマを巻き込んで今度こそ裸踊りを踊っていた。
「こ、こうか? それともこう?」
「違う違う! ヤシュマ! 自分の技をよぉく見ろぉぉぉ!!!」
高速で両手に持った盆を翻し、局部を隠しながら華麗に舞う。
「「「うおぉぉぉぉ!!! すげぇぜ旦那ぁぁぁぁ!!!! 」」」
「見えそうでまったく見えねぇぜ!! こりゃあ神業だ!!」
「そうか! こうやればいいんだな! うおぉぉぉぉぉ!!!!」
「今度はヤシュマ様が逝ったぞ!!」
「マシロさんに負けてねぇ!! 流石はクジュウリの皇子だぜ!!」
白熱する裸踊りに自分とヤシュマは顔を見合わせてニヤリと笑う。今の自分達は最高の好敵手だ。
「やるじゃねぇかヤシュマ!!」
「マシロ殿こそ!!」
「ならこれについて来られるか? 三倍速だ!!」
「なんのなんの! 俺だって!!!」
スパンッ!!
「ちょっとヤシュマ!! お礼にいつまでかかってる・・・の・・・・・・・・・」
その時、その場の空気が完全に凍り付いた。
ギギギと首を入口の方に向けると顔を真っ赤にした女性が立っていた。
「あ・・・あねうえ・・・」
顔を真っ青にしたヤシュマが呟く。どうやら彼女はヤシュマの姉らしい。ということは、このヒトは皇女さんなのか・・・
「・・・終わったな。」
「・・・そうですね。死にましたね。」
己の死期を悟り、逆に冷静になった自分達はいっそのこと開き直ることにした。
自分とヤシュマは頷き合うと盆を構えて笑顔で堂々と言い放った。
「「安心してください。穿いてませんから!!!!」」
大きな悲鳴と共に迫ってくる拳を自分達は黙って受け入れた。
アンジュが原作よりいろいろ知っているのと兄上の部分についてはまたそのうちに