最近気付いたことだが、どうやらピリカは自分を宿主に定めたらしい。
というのも
そんな時に強い樹のチカラを持った自分がやってきたので、これ幸いと宿ることにしたらしい。
そこは素直に別の木に宿れよとか、まがりなりにも神様である自分に宿るってどういうことだよとか思ったが、可愛いので気にしないことにした。
それにピリカが居れば子供気質で騒がしい他の木霊達も話を聞いてくれるので、タタリ等の探索の際に協力を得やすいのだ。
なんでも長い年月を生きた生命力溢れる大きな木に宿る木霊程偉いらしく、樹齢3,000年を超える古代樹レベルの生命力を持った自分に宿ったピリカは木霊達にとって女王様的な存在なのだそうだ。
そんなわけでピリカはめでたく自分の眷属?となり、それに伴いチカラが増し、ヒト前に姿を現せるようになった。
そして、そんなピリカを自分の式神だと言ってルルティエ達に紹介したところ、彼女達は一目見てピリカを気に入ったようで、黄色い声を上げて可愛がり始めた。
特に末っ子であるルルティエは、妹の相手をするかのように甲斐甲斐しく世話を焼き、お菓子を食べさせてあげたり、膝に乗せて髪を梳いたりしていた。
「はい、ピリカちゃん。終わりましたよ。」
「alぃ難tお;瑠rt恵!」
「髪留めは気に入ってくれたかしら?」
「kn入ttよ姉!」
髪を梳き終え、シスから貰った髪留めで髪を結ってもらったピリカが、短い音声を加工して繋ぎ合わせたような謎言語で礼を言う。
自分には何を言っているのか分かるが、ルルティエ達からしたら、わにゃわにゃ言ってるようにしか聞こえないだろう。
だが、ピリカは思ったことがすぐ態度に出るようなやつなので、ルルティエ達も言いたいことをなんとなく察して嬉しそうに笑っている。
「ふふふっ・・・こんな可愛い
「そうですねお姉さま! わたしもピリカちゃんみたいな式神さんとお友達になりたいです!」
「うーん・・・ルルティエは兎も角、シスは難しいだろうな。武術が得意なやつは総じて呪術の適性が低いし、式神を使役するには更に才能が必要だからな。」
「あらそうなの? 残念だわ。でも、ルルティエは可能性があるのね?」
「ああ、資質自体はあるだろうな。あとはルルティエの頑張り次第だ。」
「本当ですか! わたし、がんばります!」
ピリカを抱きしめながら呪術習得に意欲を燃やすルルティエ。
優しい彼女なら、治癒術を中心に習得するのが良いかもしれない。それに感受性も高そうなので、式神を使役するのもそう難しいことではないだろう。
何時までここに居られるかは分からないが、自分もこの可愛らしい友人の為に一肌脱ぐとしよう。
いつかルルティエがここから巣立つ時にシス達が安心して見送れるように・・・
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
天邪鬼とピリカを伴い、薄暗い通路を歩く。
ここはクジュウリの皇城地下へと続く遺跡の中だ。
捜索開始からすでに一ヶ月以上経ち、昨日になってようやくこの道を見つけることができたのだ。
これでやっとタタリ達を浄化してやることができる。
しばらく通路を道なりに進むと壁の一部が崩れて穴が開いている場所に出た。どうやらここを通れば皇城地下に入れるようだ。
「ぐっ・・・かなりぎりぎりだが、なんとかいけるか?」
天邪鬼達に押してもらいながらなんとか穴を抜ける。起き上がって周りを見渡せば、先ほどより明るい。どうやら、この遺跡はまだ生きているようだ。
感覚を研ぎ澄ましながら慎重に進む。ここはもうタタリの巣窟なのだ。何時奴らが現れてもおかしくない。
中枢への案内板に従いながら歩いていると、こちらに向かって複数の気配が近づいてくるのを察知した。どうやらお出ましのようだ。
「天邪鬼、タタリが現れたら自分の周囲20尺(約6メートル)から離れるなよ。その範囲内に居れば契約の鎖が見えるから、そいつを破壊しろ。そうすればタタリを倒せる。」
「「「キキー!!!」」」
自分と背中合わせに立ち、それぞれ得物でもある楽器を構える天邪鬼達。
戦力としては心許ないが、背中を任せられる相手が居るのと居ないのとでは、戦闘の安心感が違う。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛・・・」
周囲を警戒していると通気口からタタリが現れた。彼らは地の底から響くようなおどろおどろしい呻き声を上げながら、じわじわと近づいてくる。
「ひい、ふう、みい、よ・・・4体か。これなら大丈夫だな。」
現れたタタリの数を確認すると先手必勝とばかりに桜花で動きを封じる。そして、そのまま一閃で契約の鎖ごと3体のタタリを一気に切り裂いた。
ふっ、今の自分にとって数匹のタタリなど物の数ではない。自分を染めたければその三百倍は持ってこいというのだ。
そんな風に余裕ぶっこいてる自分に切り裂かれたタタリはそのまま白い煙と共に溶けていき、イシクラゲへと姿を変えた。
そのことに非常に微妙な気分になりながら刀を鞘に納める。きっとタタリになる前はジメジメとした陰険な性格をした奴らだったのだろう。
「さてと・・・あいつらの方はどうかね」
イシクラゲのせいで変になった気分を変える為に残りのタタリと戦っている天邪鬼の方を見ると、丁度緑が横笛を使った吹き矢で契約の鎖を壊しているところだった。
不死性を失ったタタリが狼狽えるように身震いする。そこへ赤が琵琶を振りかぶりながら接近し、そのまま滅多打ちにしだした。その姿はまるでロックバンドのギタリストのようでかなりシュールだ。
そして、止めとばかりに黄色が太鼓をバズーカのように担ぐと、大きな音と共に衝撃波を打ち出した。
天邪鬼の連携攻撃を喰らったタタリはそのまま弾け飛び、煙を上げて溶け消えていった。
「お前等よくやった! 大金星だ! この調子で頼んだぞ。」
「「「ウキャキャキャキャッ!!!」」」
正直期待してなかった戦果に驚きながらも天邪鬼達を褒めると彼らは小躍りしながら全身で喜びを表現しだした。
天邪鬼にとってタタリは遥か格上の存在だ。そんな相手に弱小
何時しか自分の周りを楽器を奏でながら回り始めた天邪鬼達にしょうがない奴らだと思っていると肩に乗っていたピリカがなにやら慌てた様子で頭を叩いてきた。
その様子に危機感を覚えて感覚を広げてみると大きな気配がこちらに近づいてきていた。
そして、自分達が来た道を振り返ってみると、そこには津波のように押し寄せてくる大量のタタリの姿があった。
「おいおいおいおい!? 洒落にならんぞ!?」
慌てて桜花で柵のように木を生やすが、次々と押し寄せるタタリの質量を前に呆気なくへし折られてしまった。
これは拙いと駆け出すが、遥か前方にすでに逃げ出した天邪鬼達の姿があった。
「あ・い・つ・ら~!!!」
主人を置いて逃げ出した式神達を見て、ピキリと額に青筋が浮かぶ。今すぐ捕まえてボコボコにしてやりたいが、今はそんなことをしている場合ではない。
帰ったらハエトリグサの刑にしてやると心に決めながら、天邪鬼の後を追って全力で通路を駆け抜けるのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
押し寄せるタタリから全力で逃げていると、崩れた壁から半身を出して手招きする緑の姿があった。
自分は急いでそこに入り込むと穴に面する通路ごと桜花で塞ぎ、さらに壁のこちら側にもバリケードを築いた。
そして、壁から離れて息を整えながらタタリが来るのを待っていると壁の向こう側でタタリが流れる音と木がバキバキとへし折れる音が聞こえてきた。
「・・・やり過ごせたか?」
しばらく様子を伺っていると音が聞こえなくなった。試しにピリカに通路を見てきてもらうとタタリは一体も居なかった。
どうやらタタリは横穴に気付かず行ってしまったようだ。
大きな溜息を吐いて座り込む。こっちに来てからいろいろあったが、ここまで危なかったのは初めてだ。
天邪鬼達の方を見ると、奴らも安心したのか大の字になって倒れていた。
いくら逃げ足が取り柄の天邪鬼でもあんなモノに追いかけられたらそうなるのもしょうがない。だが自分を置いて逃げたことは絶対に許さん。まぁ、緑は自分を誘導してくれたから少しだけ加減してやろう。そうだな、イガグリの上で正座とかいいな。
そんなことを思いながら立ち上がり、部屋の中を見渡す。
そこは朽ちたコンテナが積まれた広い空間で、恐らく倉庫として使われていたのだろう。
そして、自分が通ってきた横穴の反対側に目を向けると搬入用と思われる大きな扉があり、ギシギシと音を立てて今にも壊れそうだった。
「って、待て待て待てぇい!? まさかもうバレたのか!?」
慌てて桜花で補強するが、軋みを上げる扉はどんどん変形していく。
天邪鬼達も異変に気付いたのか、自分の背中に縋り付いて、躰を高速で振動させながら扉を見つめている。
このままでは扉を破られるのも時間の問題だろう。
「これは腹を括るしかないか・・・お前等、この前教えたアレをやるぞ。」
自分の背で震えていた天邪鬼達は一瞬なんのことか理解できなかったようだが、自分の肩から降りたピリカが
天邪鬼の演奏に合わせてピリカが舞う。それは、舞踊のような激しい動きではなく、回転する動きが基本となったゆっくりとした舞いだ。
それは『神楽』
日本の神道において神に奉納するために奏される歌舞であり、鎮魂の儀でもある。
くるくる回転してながら舞っているピリカから暖かな光が溢れ出る。そして、その光は蛍が飛び交うように広がっていき、倉庫を清浄な空間へと変えていく。
さらにその光は自分の方にも集まってきて、次々と躰に入り込んできた。
「・・・いける。」
躰に漲る祈りの力と今まで集めた幸玉を使って根源に接続し、失われた
この状況で最も有用な
バキンと扉が壊れる音と共にタタリが雪崩れ込んでくる。だが、ピリカの神楽によってもたらされた清浄な空気によりその動きが鈍る。
そして、そんなタタリの群れに向かって自分は新たに取り戻した
「『吹雪』!」
かざした手から、触れるもの全てを瞬間凍結させる極低温の冷気が吹き荒れる。
それを直に喰らったタタリは瞬く間に凍り付き、巨大な赤い氷塊へと姿を変えた。
そこにすかさず大量の輝玉を生み出し、桜花の蔓でタタリ諸共繭の様に包み込むと一気に起爆させた。
爆発の衝撃で、周りを包んでいた蔓が一瞬膨らみ、隙間から白い煙が上がる。しかしそれ以上は何も起こらず、役目を終えた蔓は枯れ果て、ボロボロと崩れていった。
そして、崩れた蔦の繭の中からは、大輪の花を咲かせた八重の桜が姿を現した。
こうして、タタリの
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「はぁ~・・・一仕事終えた後の温泉は格別だな・・・」
タタリを浄化し終え、疲労困憊となった自分達は探索を早々に切り上げて山の温泉に来ていた。
この場所はピリカに教えてもらったもので、探索の度に入りに来ている。
ちなみにこの温泉、アルカリ性低張性単純温泉で、ほどよいぬめり感がじわじわと効いてきて、湯が肌をすべるような感覚がする。
効能は、筋肉痛、五十肩、運動麻痺、関節のこわばり、疲労回復等々・・・
タタリに追いかけられ、全身の筋肉を酷使した今の自分にはピッタリの温泉だ。
顔を濯いで温泉のふちに持たれ掛かって辺りを見渡す。
温泉には自分達の他にもオルケや
本来なら食う者と食われる者という間柄である彼らもこの温泉では争うことはしないらしい。
そして、そんな獣達相手に天邪鬼がなにやら熱弁している。どうやら、今日の武勇伝を語っているようだ。
しばらく見ていると
それに気を良くした天邪鬼達は今度は楽器を取り出して祭囃子を奏で始め、獣達も音色に合わせて踊り始めた。
自分は、その楽しげな音楽に耳を傾けながらピリカのお酌で酒を飲む。
季節は冬の終わり。雪も解け始め、春の足音が聞こえてくるようになったが、まだまだ寒い。
そんな寒空の下、温泉に浸かりながら飲む酒は格段に旨いのだ。
「これでお酌してくれるのが美女だったら良かったんだがなぁ・・・」
などと呟きながら、隣で温泉に浸かっているピリカを見る。
葉っぱのお面はそのままにすっぽんぽんのピリカの体には、まったくといっていいほど起伏が無い。
木霊は一生幼子の姿のままなので仕方がないと言えば仕方がないのだが、とても残念な気分だ。
ピリカはそんな憐みの視線に気付いたのか自分の腹を抓ってくる。だが、その力は見た目相応でまったくもって痛くない。
そのことが癇に障ったのか、今度は両手で自分の頬を抓ってくるが、ムニムニと揉まれているようにしか感じられず和んだだけだった。
「悪かったからもうやめろ。ほら、天邪鬼が
そう言って、ピリカを抱えて膝に乗せる。
ピリカはまだむくれているようだったが、頭を撫でてやると次第に機嫌が良くなっていった。
そして、天邪鬼達が
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皇城地下に巣くっていた大量のタタリを浄化してから数日経ち、自分達は再びそこに訪れていた。
今回は、遺跡に残ったタタリの浄化と案内板に書かれていた『コントロールセンター』を調べるのが目的だ。
コントロールセンターというくらいなのだから大規模な端末もあるはずだ。それを調べれば現在のヤマトの情報が分かるかもしれない。
そんな考えの下、タタリの残党を浄化しながら案内板に従いコントロールセンターに辿り着くと、自分は端末を調べ始めた。
「・・・ふむ。どうやらここでは『アマテラス』の管理を行ってたみたいだな。」
『気象制御衛星アマテラス』――人類の技術の粋を集めて作られた人工衛星であり、地上の観測と気象管理を主な目的としている物だ。そして、どうやらこの施設はそのアマテラスを管理するための場所であり、旧時代にはここからアマテラスを制御して地球環境の改善を行っていたのだろう。
端末からの情報によると現在はヤマト一帯の気象管理を行っており、本来寒冷な土地であるヤマトをヒトが生活できる環境に制御しているようだ。
「一番新しいアクセス記録は15年前・・・正規の管理者IDで入ってるな。それで管理者名は・・・・・・ッ!?」
アマテラスの記録を調べていくうちに驚くべき事実が判明した。それは、現在アマテラスを管理しているのが、自身の兄だということだ。
「・・・そういうことか。確かに兄貴なら生き残っていてもおかしくないな。」
自分の兄は、『真人計画』という研究の主任だった。
この真人計画というのは、環境の激変で地上に住むことができなくなった人類が、その身を高め、微生物を克服し地上に出ることを ・・・あくまでも、その身一つで自然環境への耐性を身につけ地上に出る、という人間の再興計画のことだ。
自分はその研究の集大成として兄の実験の被験者となり、永い眠りに就いた。結果は自分が地上で活動できていたことから分かるように成功だ。
恐らく兄も同じように自身を改造したのだろう。そして、
そう・・・自分の兄こそ、このヤマトの建国者にして長きに渡り支配してきた『帝』その人なのだろう。
ちなみに自分や兄貴がタタリにならずにすんでいるのは、真人計画による肉体改造の結果、ウィツァルネミテアの考える『人間の定義』から外れたからではないかと考えている。
実験では様々な薬物投与や遺伝子操作まで行っていたので、元々の人類とは違う存在になっているのかもしれない。
その後も端末で情報を漁っていく。
どうやら兄貴が最後にアクセスした少し前にアマテラスに不正アクセスがあり、サテライトレーザーが使用されたようだ。照準は現在のトゥスクル。恐らく2つに分かれたウィツァルネミテアの争いがあった時だろう。
幸い出力が弱かったのと兄貴がすぐに対処したことでアマテラスの機能停止は防がれたようだが、もう少し出力が強ければ今頃ヤマトは寒冷化していただろう。
まったくもって迷惑な話だ。人類嫌いの癖に人類の遺産使うとか、どんな思考回路してるんだ? ホント、神って奴は自分勝手だよな。
自分のことは棚に上げて内心愚痴りながらアマテラスに細工を施す。
また不正アクセスでサテライトレーザーを使われたんじゃ堪ったもんじゃないので、即興でプログラムを組んで不正アクセスしようとした場合、ウィルスが相手に流れ込むようにする。これで今度不正アクセスがあったら相手の端末はおじゃんだ。OSは書き換えられ、データは崩壊。自分がワクチンプログラムを使わなければ二度と使えなくなることだろう。
幸い兄貴が自分を管理者に登録してくれていたようで、ハッキングの手間も無く作業は数時間で終わった。
これで安心してアマテラスを運用できる。
久しぶりにプログラムを組んだのでだいぶ疲れたが、なかなか楽しかった。特にウィルスを喰らった相手を想像するとニヤニヤが止まらない。
自分は固まった身体をグッ伸ばすと床で寝てしまっていたピリカ達を起こして遺跡を後にするのだった。
『大神』といえば、やっぱりミカン爺や花咲爺の神楽ですよね。
カムイでもあると思ったけど、ピリカは祈祷だけだったので残念でした。