マシロ様、中途半端でニューゲーム   作:秋羅

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8.旅立つ神への贈り物

 

 クジュウリ皇都周辺のタタリの浄化を終えた自分は、次の旅に出る為の準備をしていた。

 

 保存食に日記を書くための白紙の本と矢立。日に日に強くなる日差しを遮るための菅笠。それと酒。その他にも旅に必要な物を買い揃えていく。

 

 次はエンナカムイかイズルハに行こうと考えている。

 エンナカムイは、周囲を険しい山々や深い渓谷に囲まれた辺境の小國であり、豊かとは言えない土地だが、それにゆえに天然の城砦となっている場所だ。

 そして、イズルハは『エヴェンクルガ族』という武に優れた一族が集まって國を形成している地域だ。ここは一年を通し来て気候が涼しく、美しい紅葉がある景色と野生動物を含む山林資源が特徴だ。

 帝都に向かうならイズルハに行った方が近いが、エンナカムイにはどこか惹かれるものがある。

 兄貴が帝である可能性が高いと分かった今、早めに帝都に行きたい良い気もするが、エンナカムイのことを考えると郷愁にかられるというか、不思議な気持ちになる。もしかしたら自分にとってエンナカムイは特別な思い入れがある場所だったのかもしれない。

 

 ・・・よし。次の目的地はエンナカムイにするか。兄貴のことは気になるが、別に急いで会う必要もない。それにアマテラスにアクセスしたんだ。自分に気付いてあちらから接触してくるかもしれない。

 

 そうして、次の目的地を決めた自分は買い出しを続けながら世話になったヒト達に挨拶していく。贔屓の居酒屋の店主に酒屋の主人。それによく薬草を買いに来てくれた婆さん。飲み仲間達・・・皆良いヒト達だった。餞別にいろいろ貰って荷物が多くなってしまったが、彼らの気持ちは素直に嬉しかった。

 

 そして、準備を終えた自分は、最も仲良くなったルルティエ、シス、ヤシュマにも旅立つことを伝えた。

 

 「行ってしまうのね・・・とても残念だわ・・・」

 

 「できることならお前にはクジュウリに留まって欲しかったが、やるべきことがあるならしょうがない。またいつでも来てくれ。その時は歓迎する。」

 

 「・・・・・・」

 

 シスとヤシュマは複雑そうな顔で自分との別れを惜しみ、明日の夜には豪勢な料理と酒で門出を祝ってくれると言ってくれた。

 しかし、ルルティエは大きな目に涙を溜めながら立ち尽くしていた。

 

 「ルルティエ?」

 

 「ッ・・・」

 

 自分が声をかけるとルルティエは、泣きながら走り去ってしまった。

 慌てて後を追おうとしたが、シスに止められてしまった。どうやら任せろということらしい。

 

 「参ったな・・・」

 

 「すまないマシロ。だが、ルルティエにとってお前は初めて出来た人間の友達だ。だから・・・」

 

 「みなまで言うなヤシュマ。自分だって同じ気持ちだ。」

 

 そう、自分にとってもルルティエ達はこっちに来てからの最初の友人なのだ。だから別れるのは辛い。だが、これが今生の分かれというわけではない。またこうやってクジュウリに来れば会うことができるのだから。

 

 「そうだな、すまない・・・いや、ありがとう。妹の友達になってくれて。お前が友達になってくれた御蔭でルルティエは成長できた。そして、この別れもあの()を成長させてくれるに違いない。マシロ、俺達はお前に出会えて本当に良かった。」

 

 「よせやい。そんな事言われると恥ずかしいだろ・・・」

 

 真剣な顔でそんなことを言うヤシュマになんだか気恥ずかしくなってしまう。

 そんな自分の姿にヤシュマが笑い出し、つられて自分も笑い出していた。

 可笑しそうに笑い合う自分達の声が、快晴のクジュウリの空に響く。

 彼らの御蔭でクジュウリ皇都での日々はとても充実していた。自分は本当に出会いに恵まれている。

 また、必ずここに来よう。大切な友人たちがいるこの國に・・・

 

 

 

 

 

     ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 「それでは、マシロの旅の無事と使命が果たせることを願って・・・乾杯!!」

 

 『かんぱ~い!!』

 

 ヤシュマの乾杯の音頭で自分の送別会が始まった。

 場所は皇城にある宴会用の大広間で、自分の為にヤシュマ達だけでなく、仕事が終わったクジュウリ兵や13人の愚弟達、(オゥルオ)夫妻まで参加してくれた。

 そして、宴で出された料理はルルティエが中心になって作ってくれたもので、自分の好物が沢山用意されていた。

 

 あの時泣いてしまったルルティエの事が気になっていたが、どうやらシスの慰めが上手くいったようで、宴の初めに昨日のことを謝ってきた。

 だが、その表情には憂いが残っており、挨拶を済ませるとすぐに厨房に戻ってしまった。

 

 やはり、まだ心の整理がついていないのだろう。自分が居なくなることを悲しんでくれるのは嬉しいが、あんな姿を見てしまうと心にモヤモヤとしたものが湧き上がってくる。

 だが、そんな自分の心情などお構いなしに男連中が集まってきて、次々と酒を注いでくる。

 注がれた酒は必ず飲むのが信条の自分としては、それを断ることが出来ないので注がれる度に杯を空けていく。そのせいでかなりの量を飲んでしまったが、注がれた酒が酒精の弱いものだったのでなんとか平気だった。

 

 そして、野郎共が捌けると今度はヤシュマとオーゼン、皇后さんが挨拶に来てくれた。

 

 「マシロ殿! 良い飲みっぷりだのぅ! どれ、こいつも飲んでみんさい!」

 

 「このクジュウリで一番強くて旨い酒『火神殺し(ヒムカミごろし)』だ! きっとお前も気に入るぞ!」

 

 そう言って大きな盃に注がれたのは、琥珀色の香りの高い酒。一見ウィスキーの様だが、もしかしてクジュウリで少量育てられている(メングロ)が原料なんだろうか? というか、こんな強そうな酒をこのデカい盃で割らずに飲めとか、こいつら自分を潰す気か?

 

 「ささっ! グイっといきんさい!」

 

 「一気で行くのが流儀だぞ!」

 

 火神殺しを前に躊躇っていると二人がニヤニヤ笑いながら早く飲めと急かしてくる。その顔は明らかに何か企んでいる顔だが、自分が酒を前に逃げるわけにはいかない。

 

 いいだろう。その挑戦受けてやる!!

 

 自分は覚悟を決めると大きな盃を両手で持ち上げ、火神殺しを一気に流し込んだ。

 

 「んぐっ!?」

 

 口に含んだ瞬間、雑味の無いほんのり甘くコク深い味わいとふんわりとした麦の香りが広がる。しかし、すぐに喉に焼けるような痛みが走り、胃がカッと熱くなる。

 流石はクジュウリ一強い酒だ。もしかしたら、今まで飲んだ酒の中で一番強いかもしれない。

 だが、自分は火神殺しを気合で飲み干す。しかし、そのせいでかなり酔いが回ってしまった。これ以上は拙いかもしれない。

 

 「流石だのぅ! ほれもう一杯!」

 

 「今日は好きなだけ飲ませてやるぞ!」

 

 空になった盃に再びなみなみと火神殺しが注がれる。どうやらこいつらは何が何でも自分を潰したいらしい。

 助けを求めるようにオーゼンの隣の皇后さんに目線を送っても申し訳なさそうに笑うだけで止めてくれなかった。

 どうやら自分に味方はいないようだ。

 だが、ここで前の様に酔い潰れるわけにはいかない。タガが外れた自分が何を仕出かすか分かったもんじゃないからだ。

 しかし、注がれた酒を飲まないわけにもいかなかった。

 

 本当ならこの手は使いたくなかったが、今回ばかりはしょうがないか・・・

 

 「こうなりゃ自棄だ! 一滴残らず飲み干してやらぁ!!」

 

 自分は奥の手を発動させながら、火神殺しを一気に煽る。そして、あっという間に飲み干すとオーゼンに向かって盃を差し出す。

 オーゼンはそれに笑みを深めながら再度酒を注いでくる。

 それを自分は黙って飲み干し、更にオーゼンが注ぐ。だが、先ほどとは打って変て全く変化の無い自分にオーゼンとヤシュマの顔が困惑に変わる。

 そして、自分は次々と杯を空け、とうとう全ての火神殺しを飲み干した。

 

 「ぷはっ・・・どうだオラァー!!!!」

 

 『おぉーーーー!!!!』

 

 最後の酒を飲み干した瞬間、いつの間にか周りに集まっていた連中から歓声が上がった。一方オーゼンとヤシュマは顔を青褪めながら呆然としていた。

 あれだけ酒精の強い酒を大量に飲んだのだから当然と言えば当然だが、ズルをしていた身としては、なんだか申し訳ない気分になってくる。

 

 実は酒を飲んでいる間、治癒術の応用で肝機能等を活性化させてアルコールを即座に分解していたのだ。

 酒飲みにとっては酔うことが醍醐味なので、邪道とも言えるこの手は使いたくなかったが、皇城で粗相をするわけにもいかないので使わせてもらった。しかし、そのおかげで火神殺しは飲み干せたし、オーゼン達の企みを潰すことが出来たので良かったとしよう。

 

 自分は水っぱらならぬ酒っぱらになった腹を擦りながら席を立つ。アルコールは分解したが多量の水分を摂取したので厠に行きたくなったのだ。

 広間を出る途中で離れて様子を伺っていたシスとアイコンタクトをとる。彼女は即座に自分の考えを察してくれたようで、頷くとその華奢な背に仮面の者(アクルトゥルカ)のような気迫を背負ってオーゼン達に向かって歩いて行った。

 

 広間を出てると背後からこの世の終わりのような声が聞こえたてきた。馬鹿二人がシスの折檻を受けているのだろう。

 そんな馬鹿二人の悲鳴と時折聞こえる殴打音をBGMに自分は上機嫌で厠へと向かうのだった。

 

 

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 騒がしくも楽しかった宴会も終わり、風呂に入った自分は皇都を一望できるベランダで火照った身体を冷ましていた。

 今晩はこのまま皇城に泊めてもらうことになっており、明日はそのまま旅立つつもりだ。

 

 結局あの後ルルティエとは話すことが出来なかった。どうやら料理を作り終わった後、すぐに部屋に戻ってしまったらしい。

 別に避けられているわけではないとは思うが、このままお別れになってしまうかもしれないと思うと気分が沈んでくる。

 

 「ハァ・・・」

 

 「なに溜息なんてついてるのよ。」

 

 「あ?」

 

 ベランダの手すりから身体を離して振り返ると呆れ顔のシスが立っていた。

 

 「どうしたんだ? もう遅いんだから早く寝ろ。夜更かしは美容の敵だぞ。」

 

 「そう言う貴方だって。明日出発なんだからそんなんじゃ寝坊するわよ?」

 

 シスはからかうようにそう言うと、後ろを振り返り柱の陰に隠れていた人物に声をかけた。

 

 「ほらルルティエ。マシロに渡したい物があるんでしょ?」

 

 「へ? ルルティエ?」

 

 つい先ほどまで考えていた少女の名を聞き、慌てて柱の方を見てみる。すると白い布を両手で抱えたルルティエがモジモジとしながら現れた。

 

 「えっと・・・」

 

 「・・・・・・」

 

 彼女の傍まで行って向かい合うが、突然のことに何を話せばいいのか思いつかない。一方ルルティエは頬を赤く染めながら、チラチラとこちらの様子を伺っていた。

 

 「もう、しょうがないわね・・・ほら頑張ってルルティエ! 早くしないと私が渡しちゃうわよ?」

 

 「だっ、ダメです!」 

 

 「だったら勇気出さなくちゃね?」

 

 「お姉さま・・・はいっ!」

 

  シスに励まされたルルティエが自分の目をまっすぐ見つめてくる。しかし、その身体はプルプルと震え、緊張しているのが伝わってきた。

 

 「あ、あの! マシロ様!!」

 

 「お、おう?」

 

 「こ・・・これを受け取ってください!」

 

 そう言うとルルティエは手に持った布を渡してきた。

 それを受け取り広げて見ると、上質な布を使ったしっかりとした作りの羽織であることが分かった。

 

 「これは・・・羽織か?」

 

 「そうよ。ルルティエが貴方の為にたった一日で縫ったのよ?」

 

 「は? これをルルティエが? ・・・どうして?」

 

 「・・・お姉さまに言われたんです。『確かに一緒に居られなくなってしまうけど、育んだ絆は失われない。そして、離れていてもいつでも思い出せるように贈り物をしなさい』って。」

 

 「シスがそんなことを・・・」

 

 チラリと視線を横にズラせば、茶目っ気たっぷりにウィンクするシスの姿があった。

 彼女には何かと世話になったが、最後の最後まで迷惑をかけてしまったようだ。最初の頃はヒステリックな女傑とか思っていたが、今ではとても良い女だと素直に言える。

 実際に最近はイライラすることも無くなり、余程の馬鹿をやらなければ怒らなくなったので、シスの良い面・・・面倒見の良いところや純情で思いやりがあるところ等が前面に押し出されて、元々有った人気が更に上がったらしい。

 

 「マシロ、折角だからここで着て見せてよ。ルルティエだって見たいわよね?」

 

 「はい! 私も見てみたいです!」

 

 「・・・そうだな。着てみるか!」

 

 二人に乞われて、早速羽織に袖を通してみる。大きさは丁度良く、しかも動きやすい。自分の服装にもピッタリだ。

 

 「まぁ! 似合ってるじゃない!」

 

 「マシロ様! すごく素敵です!」

 

 「へへっ、ありがとう二人共! それにしても流石ルルティエだな! 裁縫の腕も一級品だ! でも、何時の間に自分の寸法測ったんだ?」

 

 「マシロ様とヤシュマお兄さまの身長が同じくらいなのでそれを参考に・・・本当はきちんと測りたかったんですけど・・・」

 

 「ピッタリだったんだから気にするなよ。それに折角ルルティエが作ってくれたんだ。例えつんつるてんやぶかぶかでも着ていたさ!」

 

 「もう、マシロ様ったら・・・ふふふっ・・・」

 

 自分が冗談混じりにそう言うと俯いていたルルティエは顔を上げて笑ってくれた。

 

 そうだ、この笑顔だ。自分はこの笑顔が見たかった。雪に覆われたクジュウリの大地にひっそりと咲く節分草(イエニレ)のように儚くも美しいこの笑顔を・・・

 

 「ふふっ・・・見つめ合ってるところ悪いんだけど、私からの贈り物も受け取ってくれるかしら?」

 

 「お、お姉さま!」

 

 「別にそんなつもりはなかったんだが・・・まあいいか。それでいったいシスは何をくれるんだ?」

 

 「それは開けてみてのお楽しみよ。」 

 

 そう言ってシスが渡してきたのは、細長い木の箱だった。受け取って開けてみると中には白い房が付いた木の棒のようなものが入っていた。

 

 「うん? なんだこりゃ?」

 

 「それは木扇よ。『コノハナサクヤ』っていう神聖な木の枝を材料に使っていて、呪術との相性が良いの。」

 

 「へぇ・・・木扇ね。」

 

 箱から取り出した木扇は意外とズッシリとしており、開いてみると扇を構成する板一枚一枚に細やかで美しい模様が彫られていた。どうやらこの模様が呪術の効果を高めてくれるようだ。

 

 「どう? 貴方が使ってたっていう鉄扇みたいに武器としては使えないけど、高位の術者も使う逸品よ。」

 

 「ああ、いい感じだ! それに材料に使われている木も自分と相性が良さそうだ。大事に使わせてもらうぜ、シス!」

 

 礼を言って木扇を(トゥパイ)に差してポンポンと上から叩く。鉄扇じゃないのが少し残念だったが、これの御蔭で今まであった違和感が無くなりしっくりときた。ホント、シスは良いセンスしてるぜ。

 

 それはそうと、こんなに素晴らしい贈り物をしてくれた二人に何かお返しをしないとな。しかし、何を渡せばいいんだろうか? やはり女の子だから綺麗な物とかが良いと思うが・・・そうだ! 

 

 自分は両手に桜花のチカラを集中させた。それは植物を生み出す時とは違い、チカラそのものを凝縮させて形を与えるような感じだ。そして、チカラを結晶化させて生み出したそれを二人の前に差し出した。

 

 「わぁ・・・すごく綺麗です・・・」

 

 「これは・・・緑琥珀(レラ・コゥーハ)桜琥珀(アィ・コゥーハ)!? いったいどうしたのよこれ!?」

 

 自分の手のひらから現れた二つの琥珀(コゥーハ)に目を輝かせるルルティエ。対してシスはすぐにその価値を見抜き、疑念の声を上げる。それもそのはず、自分が生み出したのは琥珀の中でも珍しい緑と桃色の琥珀だったからだ。

 

 「こいつは二人がくれた羽織と木扇のお礼だ。受け取ってくれ。」

 

 「え? でも・・・」

 

 「そうよ! こんな高価な物受け取れないわ! これ一つでどれだけの価値があると思ってるの!?」

 

 「気にするな。こいつは自分が呪術で造った模造品みたいなものだからな。本物程の価値はないさ。」

 

 実際は本物の琥珀以上に希少なもので所有する者に加護を与えるものだが、自分がそう言うと二人は申し訳なさそうにしながらも受け取ってくれた。

 ルルティエには桜琥珀(アィ・コゥーハ)を。そして、シスには緑琥珀(レラ・コゥーハ)を。

 二人は最初こそ戸惑っていたが、月明かりに照らされて輝く琥珀の美しさに魅了されたようで、うっとりと眺めていた。

 

 「どうやら気に入ってくれたみたいだな。」

 

 「当然じゃない。貴方が私達の為に造ってくれたものだもの。大事にするわ。ねぇ? ルルティエ。」

 

 「はい! マシロ様。こんなに素敵なものをありがとうございます!」

 

 月の光に照らされた彼女達の微笑みは、美しく、いっそ幻想的ですらあった。

 自分はそんな姉妹の姿を目に焼き付けながら、また必ず彼女達に会いに来ようと心に誓うのだった。

 

 

 

 

 




この作品に出てくる用語で、ゲームをやってて知らないなぁ、という言葉はアイヌ語等を参考にした造語です。
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