紅炎公と銀の剣聖   作:凪里

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帝国一の剣士、教師になる

 帝国軍をクビになったレオンは自宅で横になって読書をしていた。帝国一とも呼び声高いレオンをクビにすることに軍の多くの人間は反対をしたがイグナイト卿がそれを押し切ったらしい。イグナイト卿はレオンがイヴと幼馴染という事を知ってか知らずかレオンの事を目の敵にしている節がある。

 

 

「はぁ……明らかに嫌われてるなー」

 

 

 嫌われる理由に心当たりが全くない訳では無い。レオンはその実力から軍においてもそこそこの発言力はあり軍の会議に呼ばれたりすることもある。その時にイグナイト卿の作戦に難色を示すことも多くその事から嫌われていてもおかしくは無い。

 

 

 イグナイト卿はその実力から軍でも多くの信頼を得ているレオンは自身の障害となりうると考えここがチャンスとばかりにレオンを軍から排除した。と言ってもレオンほどの人材をみすみす手放す軍ではなく、女王陛下アリシア七世から直々に任務を与えられることになった。だが、軍はクビになっているため今までと同じように軍の会議に出ることは出来ないし、意見を言うことも厳しくなった。

 

 

「おーおー暇そうだな。レオン」

 

 

 突然、レオンの背後から声がする。レオンは一瞬驚くがその声の主を悟り、呆れながら顔を後ろへと向ける。

 

 

「勝手に人の家入んないでくれますか……セリカさん」

 

 

 近くのソファに足を組んで腰掛けていたのは帝国一の魔術師セリカ=アルフォネアだった。

 

 

「あれー? 魔術がからっきしのお前の師匠に変わってお前に魔術を教えてやったのは誰だっけなー?」

「いやセリカさんですけど、言うて俺の魔術の腕はグレン以下ですよ」

 

 

 レオンはとある魔術以外は魔術が全く使えなかった。それこそ【ショックボルト】さえも使えなかった。だが、レオンの師匠の紹介でセリカに魔術を教わり軍用魔術もそれなりに使えるようになったのだ。と言っても基本的にはグレン同様、三節詠唱しかレオンには出来ない。

 

 

「にしても帝国一の剣士と言われるお前が軍をクビになって無職とはねぇ……あっはははははは! こんな……こんな面白い話があるんだなあ! あっはははははは! 」

 

 

 セリカは笑いを堪えようとしたが結局堪えきれずに笑い出す。そんなセリカの事をレオンはジト目で見つめる。

 

 

「笑わないでくれます? それに一応無職ではないので」

「いやぁ、すまんすまん。女王直属特殊なんちゃらだっけか?」

「女王直属特殊戦闘部隊です。まぁ1人ですし、ほとんど暇なので無職と遜色無いですけど」

「それで暇そうだからお前の師匠の腐れ縁の私が相手しに来てやってるんだ。感謝しろよ?」

「はーい。ありがとうございまーす」

 

 

 恩着せがましいセリカに対してレオンは適当な返事を返す。今日のセリカがはっきり言ってだるい事を一応弟子であるレオンは察していた。

 

 

「にしてもお前ホント、イグナイト卿に嫌われてんな」

「あの人が一方的に俺の事嫌ってるだけなんですけどね」

「そりゃあお前が噛み付くのが悪い。それにイヴにだって手を出してるからさ」

「そんな事言ってもあの人のやり方は好きじゃないんですよ……てかイヴに手を出すってそんな覚え無いんですけど……」

「は……? お前自覚なしって……あんな事言っちゃって……罪なヤツめ」

 

 

 セリカは肩を竦めながら呆れている。レオンにはなんの事か分からない。

 

 

「まぁそれは今日はいい。それで今日ここに来たのは頼みがあってな。私が務めているアルザーノ帝国魔術学院の講師が一人辞めてしまってね。お前に講師を頼みたい」

「……はい?」

「あー心配すんな。教員免許は無くても問題は無い。私がねじ込んだ。それとアリスに話をしたら全然OKって言ってたから大丈夫だ」

 

 

 

 セリカは権力を使い教員免許の無いレオンを無理やり学院にねじ込んだ。女王陛下直属として仕えることになっていたレオンだが、女王陛下とセリカは旧知の仲。その事もありセリカの申し出を女王陛下は快諾したようだ。

 

 

「いやそっちも心配してましたけど……俺、人に魔術教えられるほど魔術出来ないじゃないですか」

「そこは安心しろ。お前が教えるのは剣術だ」

「剣術……? 魔術学院で? 何そのギャグ」

「主に剣術及び体術。その他諸々って感じだな。場合によっては魔術を教えることになるかもしれんがそこはまあ何とかしろ」

「えぇ…………あの……折角のお話何ですけど……」

 

 

 レオンが断ろうとするがセリカが聞くはずもない。

 

 

「因みにお前に拒否権は無い。決定事項だ」

「ですよねー」

 

 

 こうして帝国一の剣士、レオンはアルザーノ帝国魔術学院の講師となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルザーノ帝国魔術学院、その名を知らぬ者はアルザーノ帝国において誰一人としていない、有名魔術学院である。既に前期課程は終了し、今日から後期課程が始まる。後期課程からは新しく剣術が授業に入っているが生徒達のやる気は無い。理由としては簡単。生徒達は魔術を学びたくて学院に入ったのだ。今更剣術なんて───というのが生徒達の考えだった。

 

 

「はぁ……今更剣術かよ……」

「魔術が学びたいよな! 魔術! 俺達は魔術を学びにこの学院に入ったんだぜ?」

 

 

 アルザーノ帝国魔術学院1年2組の生徒達は剣術の授業を前に不満を口にしていた。生徒達がいるのは剣術の授業が行われる競技場だ。

 

 

「そう言えば新しい講師の人が担当するんだろ? この授業」

「そうらしいなー。システィーナが噛み付かなきゃいいけど」

 

 

 皆の注目は新しい講師に対する『講師泣かせ』と呼ばれるシスティーナの反応だった。システィーナは親友のルミアと話をしていた。他の皆と同様に話題は新しい講師の事である。

 

 

「ルミア……新しい講師の先生どんな人だと思う?」

「うーん。どんな人かな? 良い人だと良いなあ」

「甘いわよルミア。どんなに良い人でもちゃんとした授業が出来ないとこの学院の講師としては失格よ。この学院の講師として相応しいか私がしっかり見極めるわ!」

「あはは……」

 

 

 すると競技場の入り口から一人の男が現れた。学院の男性用講師服に身を包んだ銀髪の青年だった。その顔の良さから一部の女子生徒達が歓声をあげる。

 

 

「はい本日よりアルザーノ帝国魔術学院の講師となりました。レオン=ベルナールです。よろしくー」

 

 

 生徒達が注目する中レオンの初授業が始まった。

 

 

「てなわけで授業するけど、みんな『剣術とかいらなくね』『魔術の方を学びたい』とか思ってるでしょ」

 

 

 レオンがいきなり生徒達の心中を言い当てたので生徒達は驚く。

 

 

「まーそう思うよね。実際その通り。剣術なんかより魔術の方が何倍も便利だ。軍の主力も剣士ではなく魔術師だし」

「「「!?」」」

 

 

 レオンの言葉に生徒達は再び驚く。レオンは剣術の授業でいきなり剣術を否定したのだ。その反応は無理もなかった。

 

 

「それでもまだ軍に剣士はいる。それは何故か分かる? ん───じゃあ君」

 

 

 そう言ってレオンはギイブルを指差した。生徒達はギイブルに注目する。ギイブルは淡々と答える。

 

 

「マナが必要ないからですね。魔術だとマナ欠乏症に陥った時、戦線からは離脱。けど剣術だとそれが無い」

「お、正解。やるねキミ」

「先生!」

 

 

 そこに一人の少女が声を上げる。その声の主はシスティーナだ。「遂に来たか」と言わんばかりに皆がシスティーナのことを見る。

 レオンはシスティーナを見た時かつての同僚に似ていた事でほんの一瞬驚くがすぐさま冷静になり話を聞く。

 

 

「何?」

「それは軍で何故剣術がまだ必要かって事ですよね? 私達に剣術が必要だと言うことではないと思いますが?」

 

 

 それもそうだと生徒達がシスティーナに賛同する。

 

 

「まあ君達が剣術を学ぶのは、ないとは思うけど魔術が使えないというもしもの時の為。あとは魔術の為に必要な体力を鍛えるってとこかな」

「魔術の為に必要な体力を鍛えるってことは結局剣術は魔術より下って事ですよね?」

 

 

 声の主はギイブルだ。ギイブルはそのまま続ける。

 

 

「体力を付けるだけなら剣術以外でも可能だと思いますが? 僕はこの剣術の時間を魔術の勉強の時間に当てるべきだと思います」

「ほほー言うね。てか、君。魔術が剣術より上って思ってる?」

「……は? 実際に先生が魔術の方が便利、軍だって剣士より魔術師の方が主力だと」

「そりゃあ便利なのは魔術だよ。だけど便利なだけで魔術が剣術より上ってことじゃない。じゃあ俺が剣術を学びたいと思わせてあげるよ」

「どうやって?」

 

 

 カッシュがレオンへと疑問を投げかける。その疑問にレオンは当然と言わんばかりに答えた。

 

 

 

 

「そりゃあ実戦しかないでしょ」

「「「!?」」」

「いやいや君達を斬ったりしない。君達が俺に対して魔術を打つ。俺はそれを剣術で防ぐ。それだけだよ」

 

 

 レオンは簡単に言ってのけるがそれは魔術の世界にとって有り得ないことだった。魔術は魔術でしか防げない。それが常識なのだ。魔術の速度に剣が追いつくはずが無いのだ。

 

 

「そんなの無理に決まってますわ!」

「不可能だ!」

「へーじゃあやってみなよ?」

 

 

 レオンが競技場の中心へと歩いて行って手招きをする。ギイブルが生徒達の前に出るがその時レオンが声をあげる。

 

 

「え? 何やってんの? 君達全員だよ?」

「「「え?」」」

「君達程度のひよっこ魔術師だったら俺一人で全員相手にできるって言ってんの」

 

 

 実際にレオンは一流魔術師を何人も同時に相手にしてきた訳だがそんなことは知る由もない生徒達はレオンの挑発にやる気になる。リンやルミアなどの一部の生徒を除いたほぼ全員がレオンの前に立つ。

 

 

「ルールは簡単。君達は誰か1人でも一撃でも俺に魔術を当てれたら勝ち。俺は魔術を一切使わないでそれを防ぐ。じゃあ君」

 

 

 そう言ってレオンは横で見ていた生徒達の中からルミアを指名する。

 

 

「あ、はい」

「俺が魔術を使ったかどうか見てて」

「分かりました」

 

 

 レオンが生徒達の方へと向き直り合図を出す。

 

 

「制限時間は1分。用意───始め」

 

 

 レオンの合図と共に生徒達が魔術の詠唱を開始する。

 

 

「「「《雷精よ・紫電の衝撃以て───……」」」

 

 

 生徒達の大半が三節詠唱で【ショック・ボルト】を唱える中、成績上位者の三人は一節で魔術を放つ。

 

 

「《雷精の紫電よ》──ッ!」

「《雷精の紫電よ》──!!」

「ら、《雷精の紫電よ》──!」

 

 

 その三人とはシスティーナとギイブル。そして少し出遅れてウェンディだ。1年のこの時期で既に一節詠唱が出来る生徒はかなり優秀とされている。三つの電撃がレオンへと飛来する。しかしレオンは顔色一つ変えることなく左手に剣を構える。

 

 

「もう一節詠唱が出来るのか。最近の子は凄いな」

「危ない──ッ!」

 

 

三人の技量に賛辞を送るレオン。しかし攻撃はすぐ目の前まで迫っており見学のリンが思わず声をあげた。

 二対の雷撃がレオンの顔を捉えると思われた瞬間レオンは素早く剣を振りその雷撃を真っ二つにしてみせる。一瞬遅れて飛んできたウェンディの【ショック・ボルト】も難なく斬る。

 

 

「なっ…!?」

 

 

 その後に無数の【ショック・ボルト】が弾丸の様に飛来する。だが、雷撃は一撃もレオンの身体を捉えることは無く。全ての雷撃をレオンは斬った。生徒達はその後1分間様々な魔術を放つが宣言通りレオンは剣だけで防いで見せた。

 

「すごい……」

 

 

 横で見ていたルミアが思わず声を上げる。

 

 

「まぁ……こんなもんかな」

 

 

 倒れ込んでいる生徒達の姿を見ながらレオンは呟いた。

 

 

「はぁはぁ……なんだよこの人……めちゃくちゃつえぇ……」

「すご……すぎる」

 

 

 生徒達は皆疲れて息が上がっているのに対し、レオンは汗一つかかず実戦を開始する前と変わらない様子で立っている。

 

 

「ここで君達に耳寄りの情報だ。この学院にセリカ=アルフォネアっていうバカ偉大な魔術師いるでしょ? 二百年前、あの人と一緒に戦った英雄の一人は魔術がからっきしだったらしいよ」

 

 

 ギイブルが声を上げる。

 

 

「七英雄の一人が魔術を使えなかった? 本当ですか? それは?」

「ホントホント。ちなみに俺もそこまで魔術は使えない。魔術に関していえば一節で【ショック・ボルト】を打てる君の方が優秀だよ? 俺、三節詠唱しか出来ないしね」

「なっ!?」

 

 

 衝撃の事実にギイブルの他、その場の生徒全員が驚く。

 

 

「無駄話はこの辺にして……とりあえず剣術の凄さは伝わったかな? じゃあ君達に剣術を教えよう。興味無い奴は魔術の勉強でもしてなよ?」

 

 

 その場にはレオンの話を聞こうとしない者は一人もいなかった。




一応言っておくと六英雄ではなく七英雄なのはミスじゃなくて仕様です。
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