時は流れ、システィーナ達は進級し二年次生となった。そして現在、二組の生徒達はすっかり教師姿が板に着いたレオンによる剣術の授業の最中である。
「うぉおおおおおお!!!」
カッシュが右手に持つ剣でレオンへと斬りかかる。
勝った!!
完全な死角からの攻撃でカッシュは勝利を確信する。だが……
「!?」
レオンの姿はカッシュの目の前から消えていた。
「はい。おしまい」
カッシュの後ろに回り込んでいたレオンがカッシュにタッチする。カッシュは大の字になって倒れ込む。
「はぁはぁ……また負けたぁああああ!」
涼しい顔のレオンの周りには息を切らした10人の生徒がカッシュと同じように大の字になって倒れていた。
「やっぱりカッシュが最後に残ったなー剣術で言えばカッシュはクラスで三本の指に入るな」
「はぁはぁ……ありがとう……ございます」
レオンがカッシュに声をかけているとチャイムが鳴る。その音を聞いたレオンの顔は幸せに満ちていた。
「終わったあああー! 今日も1日疲れた疲れた。じゃあみんなは6限頑張ってね。俺は帰る」
「レオン先生! 忘れたんですか!? 次、先生が授業ですよ!?」
システィーナがその場を立ち去ろうとするレオンに声を掛ける。レオンは完全に忘れていたという表情だ。
「あ、そうだった。はぁ……ヒューイ先生なんで辞めたんだろ……」
レオンは肩を落として落ち込む。そのレオンにルミアが話し掛ける。
「あれ? 先生も知らないんですか? ヒューイ先生がお辞めになった理由」
「全然知らないね。おかげで俺の負担増えまくりだよ。あの糸目野郎め」
二年二組の生徒の次の授業は魔術基礎学。本来ならクラスの担任が受け持つ科目なのだが、二年二組の担任のヒューイが突然講師を辞めた為にその穴埋めでレオンはいくつかの授業を担当することになり魔術基礎学もレオンの担当となっている。
「でもレオン先生の魔術基礎学わかりやすいですよ?」
「そうそう。ヒューイ先生とはまた違った教え方で面白いです!」
生徒達がレオンのことを褒めるがレオンの顔は曇ったままだった。
「いやいや俺なんてアイツとか比べたら全然だよ。やっぱりこういうのはアイツの方が得意なんだよなあ……」
「アイツって誰ですか?」
ルミアがレオンに疑問を投げかける。
「ん? あぁ俺の知り合い? 腐れ縁? まあそんなとこかな。魔術を教えることに関してはこの学院の誰よりも上だろうな」
「へぇー! 凄い方ですね!」
「いやいやアイツはそんな凄いって訳じゃない。根っからのぐーたらのダメ人間。とんだロクでなしだ」
「そ、そうなんですか……でもそれだけ魔術を教えるのが得意な人なんだったら教えて貰いたいです」
「いや、お前達はアイツとは会うことないだろうよ」
「講師……してるんじゃないんですか?」
「そんな仕事じゃないよ。お前達とは会うことは無いさ。絶対に……」
「「?」」
レオンの言葉に生徒達はクエスチョンマークを浮かべていた。
「とにかくお前らそろそろ移動しろよー」
生徒達は剣術授業が行われた競技場から魔術基礎学の授業がある二組の教室へと向かっていく。
レオンはすっかり講師みたいになったなと苦笑する。今の自分をかつての同僚達が見たらなんというのだろう。バーナードは面白可笑しくはやし立て、クリストフやセラは応援してくれるだろう。アルベルトはどうせ表情を変えないのだろう。グレンは馬鹿にしてくる。これだけは確信が持てる。そしてイヴは……なんて言うのだろうか。
◇◆◇
「おいふざけんな!! イヴ!!」
グレンは手に持つ魔導器に向かって怒鳴る。通信の相手は室長のイヴだ。
『とにかくそちらに援軍は寄越さない。それじゃあ囮の意味がないわ』
「俺達を見捨てるって言うのかよ!」
『あと数分。作戦終了まで持ち堪えることね』
「おい、イヴ!! ……クソッ! 切りやがった!」
グレンは通信用の魔導器を叩きつける。
「グレン君……仕方ないよ。作戦なんだから。とにかくこの状況を切り抜けよう」
「そんな事言ってもよ……っ!? セラ!!」
「……え?」
「大人しく投降することね。痛い目にあいたくないならね」
イヴは一人の男の前に立っていた。
「はっ! 誰が投降などするか!! 第二団《地位》の力を舐めるなよ!」
男が魔術を詠唱しようとするがイヴは小さくため息を吐き
「……哀れね。そんな隙、この私が与えるとでも?」
刹那、男の周囲を炎が包み込む。
「!?」
「ここは既に私の領域。それ以上指一本でも動かしてみなさい。動かした箇所を正確に焼いてあげる」
「《──・遥か彼方の仇を刺し射貫け》」
アルベルトの指先から放たれた眩き極光の雷閃はフェジテの空を真っ直ぐ駆け抜けると一人の男の肩を貫いた。
「……ふん」
男が帝国軍によって捕らえられたのを確認するとアルベルトはその場から姿を消した。
『《星》だ。こちらは片付いた』
「そう。こちらも片付いたわ」
『これからグレンとセラのサポートに回る』
アルベルトのその言葉はいつもとは心做しかトーンが違ってるように感じられた。
「っ……分かったわ」
イヴは通信用の魔導器を仕舞う。
「……天の知恵研究会。呆気ないものね」
イヴは白魔【スリープ・サウンド】によって眠らせた敵を見据え呟いた。イヴはその場を軍の兵士に任せると一人誰の目にもつかない場所で壁にもたれかかり俯く。
「許して……セラ、グレン……こうするしか無かったの……お父様に逆らえば私は……」
「ごめんなさいレオン……私はやっぱり……」
お父様に逆らうことは出来ない。
◇◆◇
作戦は上手く行き、見事に天の知恵研究会の内部の人間、第二団《地位》の一人を捕らえることに成功。加えて第一団《門》の魔術師も一人捕らえることができた。
しかし敵に掛けられていた魔術により、有益な情報は殆ど得ることは出来なかった。それでも第二団《地位》の一人を生きたまま捕らえることができたのはとても大きくイヴは父親が望むように多大な戦果を得た。
だが、この一戦で帝国側もセラという戦力を失った。グレンもセラを守れなかった自分を攻め、帝国軍を辞めた。イヴが手にした戦果の代償はとても大きかった。
作戦終了後、病院の一室にイヴの姿はあった。
「……私を恨んでないの? セラ」
イヴがベッドで横たわるセラに話しかける。
「何言ってるの、イヴの作戦は正しかった。私がドジを踏んだだけ」
「でも私は……また貴女たちを囮に……」
「でもおかげで敵を倒せた。だよね?」
セラが身体を起こしイヴを見据える。
「確かにイヴや皆と一緒に戦えなくなったし一族の為に戦うことが出来なくなったのは辛いけど、それでも私は役に立てて嬉しかった。悔いはないよ?」
「……セラ」
「帝国軍を辞めたってみんなへの協力は出来るからね!」
「……えぇ」
イヴが病室を後にしようとドアに手をかけた時、セラが声をかけた。
「イヴ、もっと自分の気持ちに正直になった方がいいよ?」
「自分の気持ちに正直に……」
私はイグナイト家を変える。姉さんとの約束を果たしたい。しかしその為に父親にイグナイトに認めてもらわなければならない。
その為には変えようとしているイグナイトの方針に従うしか無い。そんな矛盾をずっと抱えてきた。
これまでイヴが悩んでいる時は姉がレオンがセラが助けになってくれた。だが、もう姉もレオンもセラも自分の近くにはいない。これからは1人で悩みを抱えるしかない。
イヴは1人、特務分室の一室で誰にも気づかれずひっそりと涙を流した。
「姉さん……レオン……セラ……私はどうしたらいいの……?」