紅炎公と銀の剣聖   作:凪里

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思いがけない再会

 レオンは学院長室の扉をノックし中に入る。

 

 

「失礼しまーす。学院長、話ってなんです──ん?」

 

 

 レオンは途中まで言いかけて先客の存在の存在に気が付いた。

 

 

「お、レオン。元気にしてるか?」

 

 

 レオンの魔術の師匠であるセリカの姿があった。ソファに腰掛け足を組みレオンの方を振り返ってにこやかに笑っている。

 

 

「失礼します───ぐっ……動か……」

 

 

 すぐさまレオンは扉を開け立ち去ろうとするが扉はピクリとも動かない。見てみればセリカが魔術を使用している。その表情はとてもにこやかだ。こうなれば諦めるしかない。

 

 

「はぁ……いや、なんでいるんですか。セリカさん」

「そりゃ私がこの件に絡んでるからに決まってるだろ」

「ん? この件って?」

「なんだ? 全く聞いてないのか? まあとりあえず学院長から話を聞くことだな」

 

 

 セリカが絡んでいるという時点で嫌な予感しかしないが逃げ出そうにも逃げれないので大人しく話を聞くことにする。

 

 

「レオン君。ヒューイ先生に代わり魔術基礎学を初めとする授業の代理、ご苦労じゃった」

「いえいえ。まぁ先日カストレ先生の黒魔術学の代理任された時は驚きましたね。なんすか新婚旅行って。理想の職場ですか、ここは。俺にも恩恵ないんですかね? ん、ご苦労?」

 

 

 だが学院長はなんと言ったか。ご苦労だとの事。それが意味することはつまり。

 

 

「察しの通り今回ヒューイ先生の代わりにひとまず一時的にじゃが非常勤講師を雇うことになった」

「やっっっっっっっっっっっっっと開放される!!!」

 

 

 レオンは特大のガッツポーズを決めていた。そのあまりの喜びようにリックも思わず苦笑いする。

 

 

「そ、そこまで喜ぶことかね……」

「そりゃもちろん。教科書がアレだったんで自分で色々準備してと大変だったんですよ? これで寝不足も解消される!」

「まぁとにかく……今回雇うことになった非常勤講師の名はグレン=レーダス。ここからは説明しなくても分かるかの」

 

 

 レオンの表情が一気に苦いものへと変わる。気の所為だろうか。今リックから軍時代、自分との相性の良さから度々組んでいた元同僚の名前が伝えられた気がしたのだが。聞き間違いかそれとも同姓同名の別人か。

 

 

「あの、学院長。もう一度、非常勤講師の名前を教えて貰ってもいいですか?」

「ん? グレン=レーダスじゃが? 知り合いではなかったのかね? 後、その助手及び副担任としてセラ=シルヴァースも雇うことになった」

 

 

 

 

確認したらフルネームで同じ名前だった。なんなら同僚が一人増えた。

 そして部屋は静寂に包まれた。

 

 

 

 

 

「まじすか」

「まじじゃな」

 

 

 

 

 まさかこんな形で再会することになるとは思わずレオンは動揺を隠しきれない。まさか軍時代の同僚と互いに教師として再会するとは思ってもみなかった。それも二人である。

 

 

「まぁ軍時代の同僚ですね。二人共」

 

 

 なんとか冷静さを取り戻し告げる。

 

 

「二人が元、軍人だと言うことはワシとセリカ君とレオン君しか知らないことじゃからな元同僚として二人に色々教えてやってくれんかの?」

「嫌です」

「即答かの!?」

 

 

 レオンは丁重にお断りを申し上げた。だがそれが通るはずもない。実際そうなることレオンも分かってはいる。だが言わずにはいられなかった。意志を見せることが大事なのだ。

 

 

「ん? お前に拒否権はないぞ? レオン」

 

 

 セリカは右手をレオンに向けて笑っていた。断れば死。となれば選択肢は一つしかない。

 

 

「……わかりました」

「そうか引き受けてくれてくれるか! それは良かった! それじゃあ後のことはよろしく頼むよ?」

「はぁ……了解です」

 

 

 とりあえず面倒な事になる事を確信しレオンはため息をつくしかない。レオンが扉を開け出ようとした時に学院長のリックが声をかけた。

 

 

「うむ。明日からよろしく頼むよ? レオン君」

 

 

 その言葉にレオンの扉に触れようとしていた手が止まる。

 

 

「え、明日? 明日から二人は来るんですか?」

「ん? 言ってなかったかの?」

「……初耳です。はぁ……それでは失礼します」

 

 

 レオンは頭を掻きながら学院長室から立ち去った。そしてレオンが去った後の学院長室で。

 

 

「剣術の講師に空きが出た際にキミがアテがあると言ってあのレオン君を連れてきた時は流石に驚いたが」

「どうせなら帝国一の剣士をと思ってね。あいつも暇してたし」

 

 

 まさか帝国一の剣士としてそれなりに名が通っていたレオンを連れてきた時はニックも驚いたものである。だが今回の件はそれとは違う。レオンと違い二人は軍に入った経歴は公の資料には記載されていない。

 

 

「今回の一件は君の差し金だとしても……」

「無茶ってことはわかってるよ。本当にすまんと思ってる」

「なんの実績もない魔術師を二人も強引に講師職にねじ込む。二人が元、軍属だと知らない学院に関わる者達は難色を示しておるぞ……特にハーレイ君なんかは……」

「あぁ……確かにハーレイ辺りは特にだろうな」

 

 

 セリカは少しの間、押し黙ってから迷いなく言った。

 

 

「責任は取るさ。二人がこの学院で為すことやること、全て私が責任を取る」

「そこまでして彼らを推すか……二人は君にとってなんなのか……聞いてもいいのかな?」

「まぁ別に浮いた話も、因縁もないよ。ただ……」

「ただ?」

「あの二人には、特にあいつにはただ、生き生きとしていて欲しくてな。まぁ、老婆心だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。学院の廊下を歩く二人の男女の姿があった。

 

 

「うぇー。全然変わってないのな。この学院……」

 

 

 青年は懐かしいものを見るかのように辺りを見渡しながら歩いている。

 

 

「あれ? グレン君ってここの卒業生なの?」

「ん? 言ってなかったか?」

「初めて聞いたよ! グレン君の学生時代ってどんな感じだったの?」

 

 

 グレンと呼ばれた青年が学院の卒業生と聞いた途端、隣を歩く若い娘は興味津々になる。

 

 

「普通だよ。普通」

「ふーん」

 

 

 ジト目で青年を見つめる。グレンの言葉を信用してないのは明らかだ。

 

 

「おい白犬。なんだその目は」

「グレン君の事だから友達出来ずにボッチ街道まっしぐらなのかなって」

「うぐ……」

 

 

 セラの指摘にグレンの顔が苦い顔になる。図星である。

 

 

「やっぱりね。魔術全然だもんね」

「あのな、これでも最年少で学院に「あ! 見えてきたよ」──聞けよ」

 

 

 セラが指さす方向にはグレンとセラが担当するクラスである二年次生二組の教室があった。

 

 

「ここか……」

「どんな子達なのかな?」

 

 

 二人は教室の前に立つ。

 

 

「さぁ? はぁ……なんで俺が教師なんか……セリカの奴め」

 

 

 グレンは数日前の出来事を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはアルフォネア邸で突然起こった。

 

 

「なんで俺が教師にならなきゃいけねーんだよ」

「丁度学院の講師が一人辞めてしまってな。その穴埋めを暇してるお前に頼みたい」

「嫌だね」

「ちなみにお前の助手をセラに頼んだらセラは快く引き受けたぞ。むしろ乗り気だ」

 

 

 セリカがセラに声を掛けたところ二つ返事で引き受けたのだ。

 

 

「なんであいつ乗り気なんだよ……とにかく俺は教師にはならん」

「お前、帝国軍を辞めてどうするつもりなんだ? この私がお前の新しい仕事を紹介してやってるというのに」

「ん? そりゃこの家でのんびり暮らすに決まってるだろ? セリカの稼ぎを考えたら俺1人養うことなんて余裕だろ? なぁ頼むよ?」

 

 

 グレンはロクでなしのクズ発言をしているにもかかわらず何故か堂々としている。そんなグレンにセリカもため息をつくしか無かった。

 

 

「なるほど最早お前のクズさ加減には清々しさを覚えるよ」

「じゃあ飯できたら起こしてくれ。俺は寝る」

「仕方ないこの手は使いたくなかったんだが……《其は摂理の円環へと帰還せよ・五素は五素に・象と断りを……」

 

 

 セリカの唱える物騒な呪文にグレンは飛び起きる。

 

 

「待て待て待て!? 【イクスティンクション・レイ】は駄目!? 粉々になっちゃう!? てか粉すらも残らねえ!? 嫌ァアアア──ッ!」

 

 

 グレンは高速で後退りし、壁を背に声を裏返して悲鳴を上げた。

 

 

「嫌ならこの話を引き受けろ。さもなくば……《其は摂理の……」

「受けます!! 喜んで引き受けさせて頂きます!!!」

 

 

 セリカはにこやかに笑う。

 

 

「そうか。それは良かった!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうしてグレンは非常勤講師を引き受けることになった。数日前の事を思い出しセリカにブツブツ文句を言っているグレンにセラが話しかける。

 

 

「グレン君? そろそろ入るよ?」

「おう」

 

 

 セラは教室のドアを開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──てなわけでこれから一ヶ月間非常勤講師としてお前らに魔術を教えることになりましたグレン=レーダスです」

 

 

 グレンはだるそうに挨拶を終える。グレンは隣のセラに視線で合図を送るとセラが一歩前に出る。

 

 

「グレン君……じゃなかった。グレン先生の助手としてみんなに魔術を教えることになりました。セラ=シルヴァースです。みんなよろしくねー!」

 

 

 男子生徒達から歓声が上がる。

 

 

「どんな先生が来るのかと思ったらめちゃくちゃ美人だあああああああ!!」

「ありがとう。神様。ありがとう」

 

 

 生徒達の様子にセラが困惑する。

 

 

「あはは……それじゃあ授業始めよっか? グレンく……先生」

 

 

 セラはグレンの方を見るがグレンは既に寝ていた。

 

 

「ちょっとグレン君! 起きてよ!!」

 

 

 セラがグレンを起こそうと呼びかける。結局グレン君呼びになっている事にセラは全く気付いていない。そんな二人の様子に今度は生徒達が困惑する。

 

 

「……大丈夫なのか? あれ」

「さ、さぁ……」

「夫婦漫才みたい」

 

 

 セラに起こされたグレンが教壇に立つ。

 

 

「だりぃー……セラ代わりにやってくれ」

「駄目! グレン君ちゃんと授業してよ!」

「わかったわかった。んじゃ授業を始める。えーと呪文学の授業だっけか」

 

 

 生徒達はグレンに注目する。あのセリカ=アルフォネアが褒めるほどの人物がどのような授業をするのか全員が気になっていた。

 

 

「なになに? これが魔術基礎学の教科書か……」

 

 

 グレンは教科書に目を通す。生徒達はそれを静かに見守る。

 

 やがて

 

 

「なんだこのクソ教科書? ばっかじゃねえの??」

 

 

 グレンは教科書を投げる。セラが慌ててそれを拾う。

 

 

「ちょっと!? グレン君!?」

「なあにちゃんと理由はある。呪文と術式に関する魔術則……文法の理解と公式の算出方法こそが魔術師にとっては最重要なんだが、この教科書ときたらそれをすっ飛ばして『細かいことはいい、とにかく覚えろ』ってね。アホかと」

 

「呪文や術式をわかりやすく翻訳して覚えやすくし、ガリガリ書き取りして覚えるという無駄な授業を受けてきた諸君に問題だ」

 

 

 そう言ってグレンは【ショック・ボルト】の呪文をルーン語で黒板に書き表す。

 

 

「この【ショック・ボルト】の呪文をこうして唱えると何が起こる? 当ててみな」

 

 

 グレンはチョークで黒板に書いた呪文の節を切った。

 

 クラス中が沈黙する。

 

 

「まぁわからな「右に曲がる。ですよね?」──あ、あれ?」

 

 

 クラスの中でもトップの成績を誇るシスティーナが答えていた。

 

 

「……お前、なんでわかった」

 

 

 グレンがシスティーナに問う。正直答えられると思って無かったのだ。それがこうも簡単に答えられてしまいグレンは驚きを隠せない。

 

 

「え? ちょうど前回の授業で教えられたんです」

「え、マジで?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レオンはわざわざ遠回りをして授業に向かっていた。理由はグレンやセラと合わない為である。

 

 

「俺が学院に居ることを知れば絶対に厄介事をグレンが持ってくるに違いない」

 

 

 グレンとはなんだかんだ長い付き合いなのでこれは確信を持って言えることだ。

 

 

「セリカさんには二人に色々教えてやってくれと言われたが幸いあの人は出張らしいからな。まあ二人にバレなければ大丈夫だろ!」

 

 

 レオンは意気揚々と廊下を歩く。

 

 

「んー? どこだろここ。迷っちゃった」

 

 

 セラは一人、廊下を歩いている。

 

 

「とりあえずここ曲がってみよう」

「ここを曲がれば競技場だな」

 

 

 

「「あ」」

 

 

 

 レオンとセラの目が合う。それはもうバッチリと。レオンはすぐさま顔を下げて立ち去ろうとする。が、セラが通そうとしなかった。

 

 

「レオ君……だよね?」

 

 

 この瞬間レオンの平和な教師生活は終わりを告げた。

 

 

「違います。人違いです」

 

 

 レオンはそう言ってなんとかセラを無視して立ち去ろうとするがセラがそれを許さず立ち塞がる。

 

 

「絶対レオ君だよね」

「誰ですか? レオって。ボクのは名前はハーレイですよ」

 

 

 とりあえず適当に名を騙る。しかしセラがはいそうですか。となるはずも無く。

 

 

「ふーん。イヴにレオ君にセクハラされたって言っちゃお」

「おい、イヴは関係無いだろ! 適当抜かすな!」

「ほらやっぱりレオ君じゃん」

 

 

 こうして騒がしい日常が幕を開けるのだった。

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