「「「ありがとうございました!」」」
闘技場では今し方レオンの剣術の授業が終了し生徒達の声が響く。本日の授業はこれで終わりの為に生徒達は嬉嬉として帰路に就いている。
「レオン先生さようならー」
「おー気をつけて帰れよー」
そんな生徒達を見送りながらレオンも手早く帰る支度を整える。それはもう直ぐにこの場を離れたいと言わんばかりに。
「あ、レオ君いたよ!」
「マジじゃん。おい、レオ!」
直ぐに帰りたかった原因がやって来てしまった。とはいえ二人との再会が嬉しくないといえば嘘になる。
「二人揃ってどうしたの? 結婚の報告?」
「馬鹿言え!? んな事じゃねえ!」
「もう! からかわないでよ!」
グレンとセラは二人して顔を赤くしている。期待以上の反応にレオンは思わず笑いそうになる。これで二人は付き合ってもないという。早く付き合えよと突っ込みたくなる。
「どうしてレオがここにいるんだよ!」
「みんな心配したんだよ?」
レオンが今、アルザーノ帝国魔術学院で講師をしていることはセリカなどの一部の人間しか知らない事である。それは特務分室の面々にも知らされておらず女王陛下の指示で独自に任務に動いていると伝えられていた。
「女王陛下の極秘任務ってやつだな」
「それがなんで講師に繋がるんだよ」
「まあ色々とあってね」
そうしてレオンはグレンとセラの二人に講師になった経緯を伝える。実際女王陛下より任務が与えられてはいるがその事は伏せて話す。
「てことは魔術基礎学はお前の仕業か!」
グレンは先程の魔術基礎学の講義を思い出し合点が言ったという顔でレオンに詰め寄る。
「あーあれか。俺が教えたよ」
「俺が教えたよ。じゃねーよ!? お前のおかげで俺が恥かいたわ! 魔術からっきしで学院に入ることすら出来なかったお前が魔術の基礎とか語んな!」
「俺も魔術教えることになるとは思ってもみなかったよ。いやーこれもセリカさんのおかげだな」
「すぐ神を殺させようとするセリカの魔術論を分かりやすく説明してやったのは誰だと思ってんだ!?」
「別にグレンの説明がなくても理解出来たし。神殺せたし」
「嘘つけ!? 頭の上にクエスチョンマーク量産してただろーが!?」
言い争いを始めるグレンとレオンの姿にセラは懐かしさを覚え涙を零していた。
「お、おい……セラ?」
「ううん。違うの。二人が言い争ってるのがなんか懐かしくって」
「セラ……」
特務分室時代はグレンと剣術を基本とするレオンは相性が良いこともありよく組んでいた。そして度々言い争いをしていた。二人の言い争いは特務分室の面々からすると見飽きたものだったがレオンが特務分室を辞めてからは見ることは無かった。
「レオ君が辞める事になったのは私達の──」
「それは違う」
セラの言葉を最後まで聞かずレオンは強く否定する。
「二人は助けたのは俺の意思だ。あの時の選択に後悔は微塵も無いしあれで良かったと心から思う。二人を助けられた。それでいいじゃん」
その言葉に二人は黙るしかない。少し暗くなった雰囲気を変えるようにレオンは明るい口調で二人に声をかける。
「とにかくこれからまたよろしく頼むよ。グレン先生、セラ先生」
「うん、そうだね。よろしくレオン先生!」
「教師って柄じゃ無いんだけどな」
「結構合ってると思うけどグレン
「そうだよ! グレン
「先生を強調すんな!!」
こうして再会を喜びあった三人であった。
◇◇◇
グレンとセラが学院にやって来て数日。
二人は今や学院の人気者となっていた。
セラはその見た目や性格から生徒の信頼を集めており生徒達の相談に乗ったりしている。
グレンにおいては授業の質の高さから別のクラスの生徒の達がグレンの授業を受けようと教室を訪れており今では立ち見の生徒も見られ、中には生徒だけでなく教員の姿も見受けられる程だ。
だがこの日は2組の生徒しか教室に居ない。多くの講師が魔術学会に出席しており学院全体が休講となっているのだ。
しかしグレンの担当の2年次生2組だけは授業の遅れから本日は補講となっていた。
その為グレンのクラスは授業をしているはずだったが……
「……遅い! 凄くいい授業をするから、少しだけ。ほんっの少しだけ見直したらすぐこうなんだから!」
システィーナはなかなか姿を見せないグレンに苛立ちを隠せないでいた。既に授業開始時刻はとうに過ぎている。
「でも、珍しいよね? グレン先生、最近は遅刻せずに頑張ってたのに……レオン先生どうですか?」
ルミアが魔導器でグレンとの連絡を試みるレオンに進展がないか尋ねる。いつもはグレンのサポートはセラが行っているのだがセラは魔術学会に出席しているセリカの助手として同行している。そのため今日はレオンがセラの代わりにグレンのサポートをなることになっている。
「……ダメだな。アイツ寝てるわコレ」
「来たらぶっ飛ばしてやるわ」
「シ、システィ……落ち着いて……」
拳を握り締めるシスティーナをルミアが宥める。
「しゃーない。俺が授業するわ。アイツに頼まれてた物、研究室から取ってる来るからここで待っててくれ」
そう言うとレオンは教室を後にした。
「セラ先生がいないから心配してたけどレオン先生がいて本当に良かったわ……」
「そうだね。レオン先生は頼りになるから」
数分後、教室の扉が乱暴に開けられた。教室に居る全員が入口に注目する。
「やっと来たわね! さぁはや───え?」
グレンが来たと思ったシスティーナが遅刻を問いただそうとするが入ってきたのはグレンではなく二人の男だった。
「邪魔するよー」
黒い服に身を包んだ二人の男の雰囲気はあまりに異常だった。
「ちょっと貴方達、何者なんですか?」
「黙ってくんない?」
男はシスティーナに向かって指を突き出してただ一言。
「《ズドン》」
男が小さく呟くとシスティーナの顔の真横を光の線が走る。
システィーナが恐る恐る後ろを振り向くと小さな穴があきその穴からは外の景色が見える。
システィーナは汗が止まらなくなった。
「……え?」
男が放ったのは軍用魔術【ライトニング・ピアス】。軍用とだけあって当然人を殺せる魔術だ。誰もが恐怖で声を上げることすら出来なかった。
「いい子じゃん! んで早速なんだけどさ───」
◇◇◇
「これで全部だな」
レオンは授業に使う魔石を研究室に取りに来ていた。グレンの助手としてグレンに頼まれて準備しておいたものだ。
「やれやれ……結局俺が授業しなきゃならねーのか……まぁ久々に魔術の授業すんのも悪くは──!?」
その時レオンは学院の普段とは明らかに違う気配を感じ取り教室を飛び出す。
レオンが階段に差し掛かった時レオン目掛けて魔術が飛んでくる。
「ちっ……!」
レオンはすぐさま後方に飛び一撃目を回避しながら剣を抜くと後方から迫る二撃目と三撃目を斬る。
「その反応速度……流石は《銀の剣聖》と言ったところか」
黒服に身を包んだ三人の男がレオンを前方と後方に立っている。
「なんだバレてるのか」
「レオン=ベルナール。貴様は今ここで殺す!」
三人は次々と魔術を唱えるがそれを片っ端からレオンは斬っていく。レオンは敵を崩す隙を探るが敵も帝国一の剣士と言われるレオンを想定した戦力を投じておりその技量は高い。三人の陣形を崩せそうな隙は見当たらず防戦一方となる。
「《雷帝の閃槍よ》」
「《吠えよ炎獅子》」
「《氷狼の爪牙よ》」
一節で放たれる軍用魔術をそれぞれ対処していく。判断を見誤ればその時点で致命傷。そんな中でレオンは反撃のきっかけを探る。三体対一と圧倒的に数的優位な状態に加え、相手が魔術をここまで一切使ってないにもかかわらずまともなダメージを与えられていない事実に魔術師達は苛立ちを覚えつつあった。心の乱れはやがて隙を産む。
「!」
レオンが一瞬の隙を見逃さず敵との距離を床を蹴り一気に縮める。敵は魔術を慌てて放とうとするがもう遅い。レオンの剣が敵を捉える。
「ちっ……!」
ことは無かった。遠方より飛来した【ライトニング・ピアス】をレオンは躱すため攻撃を中止し、すぐさま飛び退く。
コンマ前までレオンがいた地点を雷線が駆け抜ける。
「狙撃手……!」
その間も敵の攻撃は魔術は放たれ続ける。
「「《雷帝の閃槍よ》」」
同時に放たれた【ライトニング・ピアス】はそれぞれと頭と心臓目掛けて飛来する。それをレオンは剣で斬って見せた。
「なんだと……!?」
ここまでレオンは【ライトニング・ピアス】だけは他とは違い斬ることはしなかった。多少の傷をおってでも躱すことに専念していた為、敵は【ライトニング・ピアス】を斬ることは出来ないと読んでいたがそれはレオンのブラフ。
レオンは狭い廊下で三人と狙撃手を相手にするのは不利と判断しその隙を狙って窓を割って外に飛び出すると初めて魔術を詠唱する。
「《輝く壁よ・彼の災禍を阻みて・我を護れ》」
遠方より空中のレオン目掛けて放たれた【ライトニング・ピアス】を【フォース・シールド】によって防ぐ。レオンを追った三人の魔術を受け【フォース・シールド】は破れるがその時にはもうレオンは次の魔術の詠唱を終えていた。
「《───打ち据えよ》」
【ゲイル・ブロウ】を地面に向かって放つと土煙が巻き起こり空中のレオンと三人を土煙が包み込んだ。これではレオンの位置を把握出来ず狙撃手は攻撃出来ない。
「はい。終わり」
三人をレオンは一瞬で斬り伏せる。倒れた三人に目をくれずレオンは振り返り剣を構える。
「これまた大物だね」
そこには周囲に五本の剣を携えた男が立っていた。名をレイク=フォーエンハイム。軍時代に記録で見たことがある相手だ。
「流石は帝国一の剣士、《銀の剣聖》レオン=ベルナール。三人の一流の魔術師と俺の狙撃を相手にしてもほぼ無傷とはな」
「竜化の呪い解いてんの?」
「どうだろうな」
「抜かせ」
レオンは地を蹴り斬りかかる。まさに神速の一撃。
飛来する三本の剣を掻い潜りレオンの剣はレイクの腕捉える。その瞬間まるで金属に当たった様な甲高い音が響き渡る。
「これじゃあ傷一つ付かないか」
「その程度避ける必要も無い」
「へえー言ってくれるね」
レオンは地面を蹴った。