「結局、なんだったのかね」
竹ボウキをぶんぶんと振り回しながら漣が言った。
「ちょっとやめてよ、散っちゃうでしょ……深海棲艦は沈んだ船の怨念が形になったものだって説があるって、神通さん言ってたけど」
漣のせいで散ってしまった落ち葉を、朧が手にしたホウキで素早くかき集める。
「怨念がおんねん」
「……曙はずっと提督のこと気にしてたし、心残りだったんでしょ。怨念じゃないけれど、強い後悔の念ってところは同じだし」
「スルー?」
あのあと三人は寮に戻って一眠りした後、神通とともに大淀のところへ赴き、こっぴどく叱られた。
そして罰として命じられたのが「一週間の鎮守府清掃」。この日は中庭の落ち葉拾いをしていた。
ときおり曙の話が出る。以前はどうしても湿っぽい雰囲気になってしまうので、あまり話題にすることはなかったが、三人ともどこか憑き物が落ちたようだった。
「安否はともかく、提督のこと確認できて一応は満足できたんじゃないかな」
「それで成仏したと」
「……まあ、そんなところじゃない」
艦娘でも成仏って言うのかな、と朧は苦笑した。
「あっちで提督に会えたかな」
漣は天を見上げた。秋晴れの空。一筋の雲が流れていく。
「今頃ぎゃーぎゃーまくしたててるんじゃない」
「クソ提督?」
「クソ提督」
二人同時に吹き出して、けたけたと笑った。
ちょうどそのとき、場を離れていた潮と神通が戻ってきた。笑い合う朧たちを見て、二人とも首をかしげる。
「どうしたの?」
「あ、いやなんでも……って、なにそれ?」
朧は振り返りつつ、潮の抱えているものを見て聞き返した。
「ゴミ袋取りに行ったんじゃなかったっけ」
「そうだったんだけど……間宮さんが」
潮が見せたのは袋いっぱいにつまったサツマイモ。
「落ち葉を集めてると言ったら、くださったんです。たくさん仕入れたらしくって」
落ち葉とサツマイモと言えばもはややることは一つ。
「焼き芋キタコレ!」
漣がホウキを握りしめた腕を高々と掲げた。
「あっちの広いところで焼きましょう。あ、ちゃんと許可をもらってるので、怒られる心配はないですよ」
そう言って神通は小さく笑って、手に持っていた大きなカゴを地面に置いた。
さっそく朧たちは集めた落ち葉をカゴに入れ、すこし離れたところの土がむき出しになっている場所まで移動する。
「曙ちゃんにも食べてもらいたいな」
抱えたサツマイモに目を落として、潮は言った。
「たくさんあるし、あとで持って行こうよ。提督の分も一緒に」
朧があの高台を振り返りながら言うと、潮は嬉しそうにうなずいた。
落ち葉と枯れ枝を一箇所に固めると、神通がマッチで手際よく火をつける。
乾いた枯葉はすぐにぱちぱちと音を立てて燃え始めた。
「お芋は濡らした新聞紙でくるんで、その上からアルミホイルを巻くといいそうです」
神通はサツマイモを一つ取り上げると、間宮さんに聞いたという焼き芋の作り方を説明した。当然、新聞紙とアルミホイルも、バケツと一緒に用意されている。
「潮、芋似合うね」
不意に漣が、ずっと大事そうにサツマイモを抱えている潮を見ながら言った。
「な、なんですかそれ⁉︎」
芋が似合うなどと言われて喜ぶはずもなく、潮は抗議の声を上げる。しかし、
「あー、なんとなくわかる」
「朧ちゃんまで!」
朧にも肯定されてしまい、潮は涙声で叫んだ。そんな潮の訴えにもかかわらず、くすくすという笑い声が聞こえてくる。
「もう、笑わないでください!」
「笑ってないけど……」
朧も漣も、すました顔をして潮を見ていた。
「え、じゃあこの声は……?」
三人が周囲を見回すまでもなく、笑い声の主は見つかった。
「くっ、ごめんなさい、ふふっ、ごめ、くくっ」
芋を持ったまま焚き火の前にうずくまって、神通が必死に笑いをこらえていた。
「べ、べつに潮ちゃんに、ふふふっ、お芋が似合うとか、くふっ、思ってないですけど、ふっふふっ、ごめんなさ、ふっ」
どうやらツボに入ったらしく、こらえようとすればするほど笑いがこみ上げてきているようだった。
見慣れない神通の姿に、潮たちは顔を見合わせ、そして、
「ふふっ」
「あはっ」
「はははっ」
笑った。