この黒猫に祝福を! 作:双剣士
コミックと小説を読みながらの投稿です、よろしくお願いします!
駆け出し冒険者の街と言われる場所がこの世界にはある。
アクセルと呼ばれるこの街には、文字通り駆け出し、低レベルの冒険者が多く集い毎日を明るく過ごしている。
中には前線を退いたような古参の者もいたりして、余勢で商売をやっていたりする。
そんな中、一人厚手の黒いコートを纏い、フードを深く被った人間が騒がしい街中でも目立つ二人組を見つけた。
「………?」
手を握り合っていると言えば仲良く思えるかもしれないが、ギギギギと互いを押し合い、にらみ合っている男女。
痴話喧嘩だろうか、そう思うが会話の内容はいまいちピンとこない。
異世界だとか、女神だとか、ニートとか訳の分からないことを言い合っていた。
(………どうしよ)
関わり合いになりたくないが、二人の喧嘩を肴にして人が集まってきていた。
正直、邪魔になっている。というか自分の行きたい彼女の店への邪魔である。
仕方ない、切り替え話しかけることにした。
「あの、こんな往来で何をしているんですか」
「へ?あ、いや……」
人に見られていることに気づいたのか、男の方がサッと手を放して少し冷や汗を流しながらうろたえだした。
しどろもどろと答えようと頑張ってくれているので、ちょっと待っていると水色の髪をした女性の方が笑い出した。
「プークスクス!何話しかけられたくらいでおどおどしてるの?あぁヒキニートだったもんね~、まず話すことすら難しいか~」
「うっせぇ黙ってろクソビッチ!ぁ――コホン……えっと、冒険者になりたいんですけど、登録する場所がわからなくて……」
「?……場所がわからなくて、喧嘩を?」
「いや、これは別件というか個人的なあれこれで」
「……痴情のもつれ?」
「違います!!」
あ、違うんだと納得したところで冒険者ギルドへと案内した。
「あ、こんにちはキリカさん。お久しぶりですね、今日はどういったご用件で?」
「こんにちは」
(名前の響きからして、女の人なのか…?)
受付嬢に挨拶をしていると、何だか視線を感じた。
そういえばフードを被ったままだったことを思い出し、フードをとって改めて彼らへと向き直る。
「そういえば自己紹介してなかったね。ボク、キリカっていうんだ、よろしくね」
「ぁ、ご親切にどーも、カズマです。よろしくお願いします」
「ふっふっふ、聞いて驚きなさい。私は水の――」
「あ、こいつはアクアっす、適当に聞き流していいです」
「ちょっとー!?」
仲が良いのか悪いのかわからない二人に少し困惑するキリカ。
そんなキリカを見て、思わず赤面しそうになるカズマ。
(くそ、アクアは残念過ぎるダ女神だったが、この人はマジの美少女じゃねぇか!しかも超親切だし!!)
流れるような黒い長髪、身長差のおかげで少し上目遣いになっている、優し気な瞳を携えた目。コートで体のラインは分からないが、アクアよりも確実にヒロインとして見れることができた。
「あの、それで一体どうされたんですか?」
「あぁごめんなさい。この二人が冒険者になりたいって言ってて」
「あらそうなんですか?一人千エリスかかりますが?」
「う、金ない……」
「あー……ボクが貸します」
「マジすんませんほんとありがとうございます」
「いーよいーよ、冒険者になる人ってお金がないから始めるって人も多いし」
それからは受付嬢から説明を受ける二人を眺めること数分、彼らのステータスを表す冒険者カードの話になり、配布されることになった。
「えっと、サトウカズマさん。筋力、生命力…魔力、どれも普通ですね」
「えっ」
「あ、でも幸運は非常に高いですよ!……まぁ幸運の数値ってあんまり冒険者に必要ないんですけど……」
「え……」
「これですと、基本職の《冒険者》にしかなれませんが……」
「なぁんだってぇ~~!?」
「プークスクス!」
「ま、まぁレベルアップで転職できますし、すべての職業スキルを扱えますから」
「でも本職には及ばなくて器用貧乏なのよね~、スキルポイントもいっぱいいるし」
落ち込むカズマと笑うアクア。
流石に見かねてか受付嬢がフォローするが、それもアクアによって台無しにされていた。
「ハァ」
仕方ない、と両手を地について落ち込むカズマの隣に座って頭をポンポンと撫でてあげながら、少しだけフォローを入れておくことにした。
「そんなに落ち込まなくても大丈夫だよ?」
「で、でも……」
「言ってたけど、冒険者は転職が可能で全てのスキルを使えるんだ。言い換えれば時間をかければどんな職業にだってなれる。それに、今から有能なスキルを会得しておけば有利なんだよ?」
「そうなんですか?」
「うん。世の中にはなりたい職業を最初から決めて、その職業の人に弟子入りしてゼロから鍛えたり、転職後に有利なスキルを冒険者になってとっておいたり、そんな人もいるんだから」
「うぅ……ありがとうございます」
カズマを慰めていると、アクアのステータスを見た受付嬢が突然大きな声を上げた。
「何者ですかあなた!?ほぼ全てのステータスが大幅に平均を超えてますよ?!
知力がやや低いのと幸運が最低値ですが、こんなステータスだったら魔法使い以外ならどんな上級職にもなれますよ!」
「さっすが私!じゃあ、アークプリーストにでもなろうかしら?」
有頂天という言葉が相応しいほど上機嫌なアクア。
それを見て悔しいのだろう、やけっぱちのようにカズマがアクアを引きずってクエストへと赴いていった。
「……なんだか、嵐のようなお二人でしたね」
「あ、アハハ……一応、ボクついていくね?」
「あら、キリカさんがですか?珍しいですね」
「んー、ここまで関わって、直後に死なれても後味悪いしね?」
「分かりました。健闘お祈りしています」
「ありがと」
さすがに短剣すら持っていない二人で何をするのか気になったキリカは、改めてフードを深く被ると二人を追ってクエストについていった。
そして、その思いやりは大正解だったと知る。
「こんなの倒せるかぁー!!」
「カーズゥーマー!助けt――ムグッ!?」
「なんだダめ、が……み」
大きなカエル……ジャイアントトードという魔物に追い回される二人。
道中短剣を買ってあげたのだが、分厚い肉を持つカエルには通りにくく、逃避一辺倒になっていた。
さらに、足を滑らせたアクアがカエルにつかまり……パクリと、口の中に。
「あ、アクアー?!」
「……さすがに、見てられないなぁ」
苦笑いを浮かべたキリカ。
ダッシュした彼女が取り出した剣によってカエルを一刀両断するまで一秒すら掛からなかったが、アクアは唾液でベショベショになり半泣きになってしまった。
「うぅ……生臭いよぉ」
「カエル、でか過ぎ……てか、キリカさん強ぇぇ」
「アハハ、まぁボクはこれでも一端の冒険者だからね」
これくらいはね、と余裕の笑みを浮かべたキリカは、ヒロインではなくヒーローに見えたカズマだった。
「つぅか、登録料に短剣、キリカさんにこの借金を返せるのかすら怪しくないかこれ?!」
「まぁ冒険者なり立てで討伐はちょっと難しいよ」
言っては何だが、カズマはこの世界の冒険者たちに比べて細い。
ステータスという異世界の異能を受けても、貧弱なのだ。
キリカだってステータスに加えて日頃剣を振るっているため、見かけからは分からないがカズマよりは筋力がある。
「ほら、今日は街に戻ろ?トードの報酬はそっちもちでいいからさ」
「うぅ…本当にありがとうございますぅ!」
ちなみに本来なり立ての冒険者は馬小屋で寝泊まりとなる。
まとまった金が入るまではそこで我慢するのだが、風呂から上がったアクアが駄々をこねだした。
「えー、馬小屋とか私嫌なんですけどー」
「いや、お前どうしようもないこと言うなよ」
「やだやだやぁだぁー!」
「あのなぁ」
説得しようとカズマが叱りつけようとしたが、あっけらかんとキリカが言った言葉によって二人は文字通り助かることとなる。
「あぁ、なら私の家に来る?」
「やったー!キリカありがとー!」
「……いいのか?」
「本当はあんまりやらない方がいいんだけどね。まぁこれも縁ってことで。一人用の小さい家だけど、我慢してね?」
「いえ、助かります!!」
キリカはこの街に一軒だけ家を持っている。
だが言った通り狭い。なにせ、本来寝泊まりするためだけの家だからだ。
「本当は王都にちゃんとしたマイホームがあるんだけどね」
「王都に?……ていうか、もしかしなくてもキリカさんって駆け出しじゃない、ですよね?」
「まぁね。この街には知り合いがいるから度々来るんだ。それと丁寧語、慣れてないなら無理しないでいいよ?名前もアクアみたいに呼び捨てでいいからさ」
「そうか?ならそうさせてもらうよ。正直、慣れなくて肩が凝りそうだったんだ」
「だろうねー。あ、アクア、ベッドはそっちの部屋ね。カズマは……悪いけど、そこのソファーでお願い」
「藁の上じゃなくて本当に助かるけど……キリカはどこで寝るんだ?」
「ボクはちょっと行くところあるから、大丈夫。明日の朝には戻るよ」
「今からか?」
すでに外は真っ暗で、女の子が一人歩くのは危険だと思ったカズマだが、キリカは駆け出しではないことを思い出した。
「もしかしてクエスト?」
「違うよー。まぁ昼間様子見に行けなかったからね」
「こんな時間に行って大丈夫なのか?」
「まぁ彼女は起きてると思うし、問題ないよ。それよりゆっくりしてて」
会うのは女性らしく、さらにクエストでもないとわかり、正直疲れていたカズマはキリカの言葉に甘えることにした。
「分かった。本当ありがとな、おやすみ」
「ん、おやすみー」
家を出たキリカは暫く夜の街を歩いた。
ある一軒の店に辿り着くが、そこに目的の人はいない。
「となると、あっちかな?」
次に向かったのは墓地だった。
そこには、一人の女性が巨大な魔方陣を描いてその中心で言の葉を紡いでいた。
彼女が呪文を唱えていくと、墓地から魂が昇っていく……成仏しているのだ。
「相変わらずだね、ウィズ?」
「え……キリカさん!?どうしてこんな時間に?」
「本当は昼についてたんだけど、色々あってね」
魔法使いの格好をしている彼女はウィズ。
魔法店の店主なのだが、優しぎる性格と特殊な品揃えから儲かってはいない。
ただ、彼女が優しく、昔助けてもらった恩もありキリカは放っておかないだけである。
「色々ですか?」
「うん。面白い二人とあってね、緑色の変わった服を着た男の子と、なんか神々しい感じの女の子なんだけど……」
ウィズにあったら世間話に花を咲かせるのが、彼女の数少ない日課の一つだった。
日課といっても一週間に一度とか、そんな頻度ではあるが。
「そうですか…じゃぁ、キリカさんはそのお二人とパーティーを?」
「あー……それは、ちょっとどうしよっかな」
「……まだ気にしてるんですか?」
「アハハ、まぁこんな職業だし、仕方ないんだけどね」
キリカには二つ名がある。
色々あるが、その中でも特質なのが《黒猫》だった。
不吉の象徴だと言われているそれは、彼女にぴったりだと噂されている。
「あまり、気に病まない方がいいですよ」
「分かってるよ。ありがと」
「キリカさん……」
無理して笑っているのが、それなりに付き合いのあるウィズにはわかってしまった。
それより!と無理やり話を切り替えられ、その後も彼女たちの世間話は続いた。
(……どうか、こんな頑張り屋の彼女に祝福がありますように)
話に頷きながら、ウィズは心の底でそれを願う。
もし、
それはある意味叶えられることとなる。
重い気分にならない、というより
冒険者キリカ
特異職業《双剣士》
外見《黒の長髪》《二振りの剣》《身を覆うコート》
二つ名・通り名《黒猫》
初期設定としてはこんな感じです。
イメージしずらい人はGGOのキ〇トくんちゃんとか、ALOのユ○キちゃんをイメージしてもらうといいです。