この黒猫に祝福を!   作:双剣士

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こんな彼らに祝杯を!

 幹部を倒したことで街の冒険者ギルドは大いに賑わっていた。

 デュラハンを倒したキリカは2億8千万、手伝った響也は1千万、最後の最後にアンデットの軍団を消滅させ逃走を邪魔したカズマ一行には200万の賞金が送られた。

 

「ハッハー!今日は呑め呑めぇー!黒猫様のおごりだぁー!」

「「「「「「ヒャッハァーー!」」」」」」

 

 こんなにいらないということで、キリカが今日は奢ると言ってギルドは半ば狂乱パーティーとなっていた。

 

「………」

 

 そんな中、キリカは静かに剣を見ていた。

膨大な魔力付与の密度と超振動による金属疲労と切り裂いた衝撃によって粉々に砕けてしまった、剣だったもの。

丁寧に袋に入れ終わると、カズマがやってきた。

 

「お疲れさま。ほんと大活躍だったな」

「カズマもお疲れ様。最後、スムーズにトドメさせたのはカズマ達のおかげだよ」

「よせやい、褒めたってなんも出ねぇぞー」

 

 酔いも入っているのか、少しではなく顔を真っ赤にしたまま照れるカズマ。

しかし事実、大量のアンデットや逃げようとしていたデュラハンの足止めが無ければもっと泥沼になっていただろう。

もしかしたら逃げられていたかもしれない。そうしたら次は警戒され、碌なことにならなかっただろう。

犠牲者ゼロという奇跡のような現状を嬉しく思いながら、カズマと乾杯してしゅわしゅわを飲む。

 

「にしても今更なんだが、キリカって剣士なんだよな?にしては魔法の扱いがうまいけど、なんでだ?」

「本当に今更だね…」

「いや、だってさ……」

「アハハ。まぁ今日はめでたい日だし、いいよ。少し昔話しよっか」

 

 ぐぐっとしゅわしゅわを飲み干し、お代わりを頼んだキリカは少しだけ自分語りを始めた。

もう一杯飲み、頬が赤くなって酔いが回ってきたところでゆっくり話し出した。

 

「もう5年前になるかなぁ。わたし(・・・)はお兄ちゃんがリーダーをしてるパーティーに加入したんだ」

「兄貴がいるのか?」

「うん。付与術師(エンチャンター)っていう、ちょっと変わった上級職でね、近距離もこなせる頼りになるサポーターだったんだぁ」

 

 話している間にもしゅわしゅわを飲んでおり、顔が真っ赤になってしまっている。

全ては過去形で、彼女にとって酔わずには話せないのだろう。カズマはそこを無暗にツッコミはせず、いつもは見せないニヘラとした緩い笑顔を脳内保存しまくっていた。

 

「へぇ。じゃぁキリカの魔法はその兄貴から受け継いだものなのか?あの猫の強化魔法とかも?」

「魔法は他にもアークウィザードだったヤヨイさんとか、クルセイダーのルイさんとか、ア-クプリーストしてたククリくんとかから色々教わってたんだぁ……アレ(・・)はちょっと特別で、パーティのみんながわたしの為に作ってくれたんだよぉ~?」

「作った?!すげぇ……そんなことできるのかよ」

「まぁねぇ。たくさん教わったし、たぁくさん貰ってたよぉ~?」

「なるほど。というか、沢山って、じゃぁもしかしてキリカって元は冒険者だったのか?」

「そぉーだよ~?凄腕のみんなに追いつけるようにって、がんばったなぁ」

「へぇ。というか、そのパーティー構成……」

 

 ふとカズマは気づいた。

冒険者、アークプリースト、アークウィザード、クルセイダー……それって、まるで自分たちのパーティー構成そのままじゃないか?

付与術師、エンチャンターはいないがむしろその枠はキリカだとするとなおのことである。

 

「アハハ、流石に爆裂魔法は使えなかったし、あの魔法に巻き込まれて無事なほど頑丈じゃなかったけどねぇ。宴会芸とか、まず覚える余裕なかったし」

「まぁ、そだろうな」

 

 やっぱり自分のところのポンコツたちが異常なんだと再認識しながら、キリカの話を聞く。

 

「あれ、でもキリカって剣士なんだよな?付与術師じゃなくて」

「ん~、まぁね。色々あって、わたし一人で、稼がなくちゃいけなくなっひゃ()からね」

 

 段々酔いが酷くなってきており、そろそろ限界が近いのだろう、呂律が怪しくなっている。

しかし、彼女は語りを止めなかった。

 

「ずっと、ずっとずっとじぶんにエン()ャントして、剣を振るってたら、転職できるジョブがなぁんでか一個だけになっててね?」

「そんなことあるのか…?」

「あはは、まぁわたしがおかしいんだよ。ソロのくせに、片手剣に盾じゃなくて、両手に剣だもん」

 

 盾という自分を守る手段ではなく、剣という敵を斬り倒す選択をした彼女。

戦闘のやり方が異常になっていた彼女に適した職業が、必然と一つに絞られてしまったというそんな話だった。

 

「それで、でたのが双剣士。そうけんしって書くんだけど、読みがちょっとちがくて、……」

「? キリカ?」

「……ぁ、ごめんごめん」

 

 寝落ちしかけた彼女は謝るが、流石に疲れているのかうっつらうっつらととても眠そうにしている。

 

「あんま無理しなくていいぞ?」

「んー、とちゅうはきもちわるいでしょー?えっと、よみはねー……ブレイズっていうんだぁ」

「ブレイズ……?」

 

 ただの剣士はソードマン。双剣士というなら、普通ツインソードとかだろう。

もしかしたら、エンチャントやらなんやら色々できる彼女だからこその職業なのかもしれない。

 

「すげぇんだな……」

「すぅ……すぅ……」

 

 カズマがこの街に来てから出会った冒険者は、大体想像していた通りの、気さくな荒くれ連中ばかりだった。

プリーストやらウィザードやらやっている女性も可愛いが、荒事に慣れていて頼もしい人ばかりだったし、何よりレベルやステータスという概念がゲーム感覚を抜けきらない。

それどころか、アクアがいれば蘇生魔法で生き返らせてくれるという話で、なお一層彼はこの世界から浮いていると自覚していた。

 でも、目の前にいる少女は年下にも拘らず、ずっと過酷な状況で頑張ってきたのだ。

自分と同じ冒険者だった彼女がこんなに強くなるなんて、きっと相当無理をしてきたんだろう。

 

「ほんと、お疲れ様」

 

 今だけは、この頑張り屋の少女に休息を与えたい。

そう思ったカズマは彼女を起こさないように、受付嬢のルナさんに別室に寝かせてもらうように手を貸してもらった。

……その際、ちょっと移動するのにおんぶをしてキリカの意外と柔らかく暖かな感触を味わったのは言うまでもない。

 

 

***

 

 

 次の日、呑み過ぎの頭痛に苛まれることもなく、いつもの爆裂と鍛錬の時間を過ごしていた。

普通ならダウンしているだろうが、流石冒険者というべきか、それとも呑み慣れたアホというべきか。

ともかく、彼女たちは今日も今日とて斬り合いを行っていた。

 

「このっ」

「そうそう、焦らず大振りにならないで……」

 

 果敢に斬りかかるカズマだが、やはりレベル差か職業の違いからか、軽く対処されてしまう。

だが教わったことを忘れず、忠実に、時に大胆に緩急をつけて攻撃できるようになっていた。

もう一端の剣士と言ってもいいだろう。

 

「はい、今日はこの辺にしておこうか」

「ハァ、ハァ……あ、ありがとーございやす……」

 

 ガクリッと倒れ込むカズマ。限界を見極めたような鍛錬。優しく手厳しい彼女は、意外とスパルタだった。

 

「そういえば、カズマ弓矢も使えるようにしたんだ?」

 

 ふと、いつもと違って弓と矢筒を持ってきていたカズマの装備を見た。

初心者でも買える、ちょっと頑丈なだけの普通の弓矢だ。

 

「ん?あぁ……遠距離がめぐみんの爆裂頼みだと、一発で終わっちまうしな。もうちょっと攻撃力を上げるのと、戦法を広げる意味も込めて《狙撃》スキルを取ってみたんだ」

「そっかぁ。でも只の弓矢だと意外と効かないよ?」

「そうなのか?」

「うん。肉と骨に阻まれて意外と致命になりにくいんだよね。でも極めれば……あぁでも魔力付与があるから大丈夫かな?」

「あれって手から離れても大丈夫なのか?」

「うん。色々使い道があるよ?なれると、こんな感じに……」

 

 カズマの矢筒から矢を一本だけ取り出すと、彼女はスキルを発動させた。

 

「《魔力付与》《雷変換》《貫通付与》《魔力放出》――!」

 

 彼女の魔力がこめられ、その魔力が雷へと変化、さらに魔力が鋭利になり貫通性能を引き上げられた矢は、魔力放出によって手のひらから(・・・・・・)発射された。

――ドンッという音速を突破した音を残し、矢は木々を貫通しどこかへ去っていった。

 

「す、すげぇ……」

「えへへ。でもこんなことするなら、普通に魔法を放った方がコスト的には楽だけどね」

「いや、十分だよ」

 

 今使ったスキルは冒険者であるカズマでも行える。

流石に魔力変換や貫通属性を付与なんて難しいことはできないが、少なくとも真似事は可能だ。

というか、こんなスキルの使い方は普通しないだろう。地球出身でもないのに思いつく彼女の応用力は天才的だと、カズマは改めて思った。

 

「なんか、ほんとありがとな。……なぁ」

 

 なんとなく、カズマは予感がしていた。

カズマは順調に成長しているし、遠距離攻撃も覚えようとしている。仲間はポンコツだが、強力ではある。

もしかしたら、そろそろ彼女は自分たちと距離を置くかもしれない。

もともと、冒険者として最低限のクエストを行えるようになるまで、という話だったのだから。

でも、彼女は戦力的にもそうだが、やはり一人にさせるのは少しカズマ自身が嫌だと感じていた。だから―。

 

「もしよかったらなんだけど、俺たちと――」

 

 再度パーティーの勧誘をしようとしたその時、ふと気配察知スキルに反応を覚えた。

少し離れた場所から走って現れる人の気配。それはまっすぐ近づいてきて……現れた。

 

「見つけた!!」

「「「え?」」」

 

 倒れていためぐみんと、座っていたカズマ、立ったまま一応モンスターを警戒していたキリカが呆けた声を出した。

現れたのは、豪華な鎧を着た青年。そう、名前は確か――。

 

「僕は御剣響也!キリカさん、僕を、僕を弟子にしてくれ!!!」

「へ?」

「は!?」

「おぉ……」

 

 勧誘の前の一騒ぎが始まろうとしていた。

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