この黒猫に祝福を! 作:双剣士
「で、弟子入り?ボクに?なんで?」
頭を下げたままの御剣を見ながら、疑問をぶつける。
確かにキリカは双剣士であり、一端の冒険者だという自負はある。
だが、彼は確か……。
「職業、ソードマスターだったよね?」
「知ってくれてましたか!」
「う、うん」
ずずいっと顔を近づけてきた彼に一歩引きつつ、頷く。
一度だけとはいえ共闘した相手だ。受付嬢にちょっと聞けば職業くらいなら教えてもらえた。
豪華な鎧と剣から上級職だとは思っていたが、ソードマスターだったとは知らなかった。
てっきりどこぞの防御に極振りしているクルセイダーか何かかと思っていた……。
そのどこぞの
「……その、ご存知だと思うんですが……僕は、剣の振り方を碌に知らない」
「え、ぁー」
知っているどころか戦闘中にレクチャーまでしたので、重々承知していた。
「魔剣グラムがあればどんな敵だって一撃で倒せていた……だが、あの幹部にはそうはいかなかった。タメる間を作れなかったし、周りに人がいて、ぶっ放してしまうと巻き込んでしまうかもしれなかった。
かといって、周りを気にしていたら幹部に斬られていただろう。スキルの補正で体が軽く、それも自在に動くと調子に乗っていたんだ……」
「でも、それならボクよりもっと適した人がいると思うよ?同じソードマスターとか、知り合いにいないの?」
「いるにはいる。だが、僕は貴女に教わりたい。貴女のおかげで目が覚めたんだ!頼む!」
「えっと、えー……」
グイグイ来るこのイケメンをどうしようかと考えるキリカ。
正直、彼は基本が分かっていなかっただけで、大剣を持つこと自体は様になっていた。
そして、その基本もあの戦闘の際に軽くだが教えた。
後は実戦を繰り返していってもらうしかない。それに、そもそも大剣と双剣では運用が違うだろう。
カズマははてさてこの状況どうしようかと考えていると、地に伏しているめぐみんが話しかけてきた。
「カズマカズマ」
「はいカズマですけど?なんだめぐみん、ちょっと込み合ってるから黙ってていいぞ」
「女の子を地べたに放っておいてその言いよう、相変わらずですね。いや、そうではなくて、いいのですか?」
「………」
皆迄言わなくともめぐみんの言いたいことは分かっていた。
このままだと取られてしまうぞ、という意味では断じてない。
だが、近い意味ではある。
(キリカの性格からして、断固拒否はしないだろうからなぁ)
このままカズマの修業を終え、ミツルギの修業を始めかねない。
そして、それはそのままカズマパーティーからの完全離脱を意味する。
これからこの変態たちを自分一人で相手にするのは、考えるだけでも胃が痛い。
(まぁ俺はまだ未熟だし、ちょっと強く頼めば修業は続けてもらえるだろうけど、ミツルギもセットで来かねない……)
チートを持った転生者が現地の美少女剣士に出会い、弟子入り……どこのラノベだと言いたいくらいに先が見据えられる展開だ。
そして、その展開を鵜呑みにするわけではないが、それでも無視はできない。
さて、どうしたものかと考えていると、声が聞こえてきた。
数は二つ、少女のものだ。
「いた、キョウヤー!」
「もー、待ってって言ったでしょ!?」
声の正体は黄緑髪のポニーテールをした、剣を腰に携えた少女と、桃髪で長めのおさげをした盗賊の少女の二人だった。
どうやら彼の知り合いのようだ。恐らくパーティーメンバーなのだろう。
(チートハーレムテンプレ転生者とか……何よりまともなパーティーメンバーとか、超羨ましいっ!!)
(剣士…いや、戦士?それに盗賊かな)
彼に心底嫉妬しているカズマだが、自身のパーティーメンバーも美少女具合では負けていない。そのため嫉妬している場所は少し外れてメンバーがまともそうだということに集約されていた。
キリカは彼女たちの装備と佇まいから職業をなんとなくで当てていた。
「あぁ、ごめん。探し回ってやっと見つけたから、つい」
「つい、で置いてかないでよね~」
「全くもう。急に走っていかれたら、私たちじゃキョウヤに追いつけないの分かってるでしょ?」
「うっ。……ごめん」
流石に悪いと思ったのか、二人に頭を下げるミツルギ。
職業とレベルの差で地力が上がっているため、素のスペックで二人を超えている彼の速度には置いてけぼりになってしまう。
敵が見当たらなかったとはいえ、置いていかれたらそりゃたまったもんじゃないだろう。
「えっと……」
「あ、すまない。この二人は僕のパーティーメンバーなんだ。こっちが戦士のクレメア、こっちは盗賊のフィオ」
「初めまして~」
「は、はじめまして」
「あ、うん。ボクはキリカっていいます……」
つい挨拶を返してしまったが、そんな事よりも用事を済ませる方が先だ。
ちょうどいいタイミングだと感じたカズマは、そそくさとキリカ達との間に入った。
「ちょーっと失礼。悪いけど、まだ
「へ?か、カズマ?」
わざと強めの口調で言ったため、若干挑発気味になってしまったが気にしない。
チートらしい能力をしっかり貰って今まで楽をしてくたミツルギに、カズマは遠慮するつもりはなかった。
「彼女、キリカさんはどこのパーティにも所属していないと聞いていたんだが…?」
「あぁちょっとした縁でな。
「へ、へぇ……」
ピクっと少しミツルギの頬が引き攣った。
カズマの言い方にカチンと来ているらしく、そろそろ仕掛け時だとさせているカズマは頬のニヤケを必死に抑えていた。
「大体、俺と違ってそっちは他にあてがあるんだろ?そっちに行ったらどうなんだよ?」
「さっきの話を聞いていなかったのか?僕は彼女に教えてほしいんだ」
「キリカが戸惑ってんのわかんねーの?そもそも、前のデュラハンの時に手解きは受けてただろ?勇者
挑発を重ねるカズマ。
彼の予定では、あと二言か三言で完全に自分のペースにもっていき喧嘩……は勝ち目がないため、他の何かしらの勝負事に持ちこむつもりだった。
(大体イケメンでチートとかモテない方がおかしいよな。あぁそうだよ只の妬みだよ悪いかチクショウ!!)
誰に叫んでいるのかわからない内心を抱えながら、魔剣の力の成り上がりだとか、ぶっ放すだけならそこで倒れている爆裂娘にも出来るわとか色々言おうとしていた。
なお、挑発材料に使われる爆裂娘は、今倒れているため反撃できないのも考慮に入れているあたり、彼の狡猾さがうかがえる。
(何をするにしても、魔剣使われたら勝負にならない……出来れば、運頼みのギャンブル要素が混ざるような奴に誘導を――)
ついでに言うなら、ミツルギの後ろでカズマが言葉を重ねるたびにイライラしている二人の少女、クレメアとフィオを巻き込むつもりで言葉を選ぶ。ちなみにここまでほぼ数秒の思考だった。
大体の筋書きを脳裏に描き、心底からの言葉で脇にそらしていこうとカズマが口を開いたその時だ。
「はい、すとーっぷ!」
「ングッ?!」
後ろから抱き着くようにカズマの口をキリカが封じたのだ。
カズマが黙ったのを確認するとすぐに身を離したが、カズマの心臓がバックバクなのは言うまでもないだろう。
「な、何するんだよ!?ドキド―ビックリしただろうが!?」
「だって、ボクを放置して口論しだすんだからしょうがないでしょ?喧嘩するなら鍛錬取りやめにするよ?」
「それは困る」
「素直でよろしい……えっと、ミツルギさん、だったよね」
「あぁ。僕を鍛えてほしい」
紳士的な態度をとっている彼は好感が持てるが、いきなり鍛錬中に押しかけている時点でそこは打ち消されている。これで粗野で乱暴だったら冒険者流の
「んー……でもね、カズマが言った通り基礎はあの時教えたんだよ?あとは貴方が自分で鍛えるだけ。それができるスペックも、スキルだって持ってるでしょ?」
「それは、そうなんだが……」
「「……」」
渋るミツルギと、その後ろでジッとキリカを見つめる二人の少女。
彼女たちの視線から察するに、ミツルギが鍛錬をするのはいいがキリカという少女が新たに日常に加わることを嫌がっているのだろう。
ミツルギの願いだから受けてほしいが、出来れば取りやめにならないかな、という願望がすけてみえる。
厄介なのは、ここで一方的に断れば後ろの少女たちが後で何を言ってくるかわかったものじゃない。
元々《黒猫》の名は良い意味でも悪い意味でも広まっているのだから、何と言われようがどうでもいいがカズマ達を巻き込むのはちょっと考えものだろう。
「はぁ……じゃあこうしよっか。明日、ある条件下でそこのカズマと戦ってもらうよ」
「え?俺!?」
「彼と……?」
「そう。条件は明日言うけど、出来るだけ実戦に近づけた状況で――なおかつ、魔剣なしでやってもらう」
「魔剣、なし……」
「剣はこっちで用意するけど、細工されないか心配ならそっちで用意してもいいよ」
「はい、質問!」
勢いよく手を挙げたカズマ。
冒険者という弱い職業だが、それでも勝ち目がない条件下でやらせないだろうと考えているカズマは、自分がやらなきゃダメか、なんて質問はしなかった。
「なに?」
「俺の方はいつも通りでいいのか?」
「いいよ。ミツルギさんはミツルギさんが思い描くソードマスターとして、カズマはカズマらしくいつもの冒険者として戦うといいよ」
「オッケー」
ニヤリと不敵に笑い、キラーンというよりギラついた目を輝かせるカズマ。
同じように同一の女神によって転生してきたはずなのに、ミツルギと違ってこちらは随分と悪党な雰囲気が出ていた。
「つまりそこの彼に勝てば、弟子入りを許してもらえる、と?」
「これ以上の条件は明日言うよ。というか、許すも何も君は元々実戦さえこなせばいいだけなんだけどなぁ」
キリカの後半のボヤキは聞いているのかいないのか、ミツルギはやる気満々の様子で街へと戻っていった。
これから剣を仕入れに行くのかもしれないし、なにか特訓でもするのかもしれない。もしくは何もしないかもしれない。
別に弟子にしてないため、キリカは彼の行動に何を言うわけではない。
例え無視されたとしても、何も言わなかった。
「じゃ、今日は帰ろっか?」
「え、まだやれるけど……?」
「んー、やる気があるのはいいけど、色々準備したいんじゃない?」
「それは……いいのか?」
カズマのその質問は、自分に加担するようなことを聞いていいのか、というものと鍛錬はこれで十分なのか、ソードマスターと少しはやり合えるのか、という不安だった。
「だいじょーぶ。カズマは弱いし陰湿だけど、賢いし、強いよ」
「言っていることおかしくないか?」
「おかしくないよ。ねー、めぐみん?」
「……あぁー、そうですね。カズマは最弱ですが、頭がキレて厄介です」
知力が高いアークウィザードであるめぐみんは色々と察しもいい。
矛盾しているキリカの言葉にもあっさり納得し、頷いた。
上級職である二人の言葉をどうにか飲み込んだカズマ達は、進言された通り街へと引き帰っていった。
***
その日の夜、武器の手入れなどの準備を終えたカズマは、アクアたちに金を握らせ酒場へ向かわせ、ちょっと無理やりキリカと家で二人きりにさせてもらった。
何かしら《条件》に関して聞けるかもしれない、という打算と……一つだけ、聴いておきたいことがあったから。
「悪いな、我がまま言って」
「いーよ。話って何かな?」
寝間着のキリカもやっぱり可愛い…と思考が逸れつつ、用件を切り出した。
「キリカは、パーティーに入ったり作ったりするつもりはないのか?」
「えっと……ないわけじゃ、ないよ?」
「でも戸惑ってるよな?」
「アハハ、まーね」
困った顔をする彼女。引き入れる可能性があることを確信したカズマは、意を決した。
「理由はお兄さんたちがいないことと関係してる、よな?」
「あー……まぁわかるよね」
酔った勢いを使って喋ったのだ。カズマが察していることくらい、キリカにもわかっていた。
「キリカが言いたくないなら、これ以上聞く気はない。でもさ、やっぱり俺キリカにパーティに入ってほしいって気持ちがある」
「それは、ボクが強いから?」
「まぁぶっちゃけそれもある」
「あはは、素直だなぁ」
こういう欲望に真っすぐな彼は意外と嫌いではない。
なぜだろう?考えても分からない。彼女がそれを語るには、今は彼との距離が遠い。
「キリカはどうだ?」
「そうだね……カズマ達は楽しそうだなぁって思うよ。でも……」
「……おっし、分かった」
「?」
何かあった過去と、進んで新しい今に戸惑っている彼女には悪いが、カズマも生きるのに必死だ。
無理やりにでも、仲間になってもらおうと悪知恵が働いていた。
「じゃぁミツルギみたいに条件にしよーぜ?」
「えぇ?」
「良いだろ、俺なんも相談されずに条件に入れられたんだし」
「あれはカズマにもいい修行になると思って……」
カズマが何も言わずミツルギと戦うと決めた一因として、こうして一個貸しに出来るから、ということもあった。
狙い通りに行って思わずニヤケてしまう。
「あー、カズマ悪い顔してる……」
「うぐ、悪い顔ってなんだ悪い顔って」
「こういう時のカズマは凄いんだもんなぁ……覚えてないかもだけど、首なし騎士を狙ってた時も似たような顔してたんだよ?」
「うそ……?」
「ほんと……で、条件って?」
あっさりと条件を飲んでくれたのは、カズマ達のパーティーに惹かれているから。
それでも躊躇しているのは、過去のパーティーを忘れられないから。
何かを変えてくれるのなら、それに期待しないわけにはいかないだろう。
「いつか、俺がキリカに一本攻撃を通したら、俺のパーティーに入ってくれ」
「……それ、いつになるかわかんないよ?」
カズマは駆け出しの冒険者で、キリカは特異な職業の上級者。
差は大きい。それでも、カズマは自信を込めて言った。
「俺は運がいいからな。何かふとしたきっかけで、案外すんなりといくかもしれないぜ?」
「アハハ、それだけでうまくいくほど、ボクは甘くないぞー?」
意味は違うが、それでも笑い合う二人。
色々カズマも考えていた。だが、どんな条件を考えても、仲間想いの彼女を変えるには、やはり相応の覚悟と意思を見せなければいけないと思った。
例えば運任せのギャンブル、例えば前世から負けなしのジャンケン……そういうものじゃなく、もっと強い自分を彼女に焼き付けなければいけない。
(簡単じゃないだろうけど、だからこそ手加減なんてしねぇ。
この真っ直ぐで醜くも純粋な強い想いが何なのか、生前から縁がなかったカズマは、未だ何の名称も付けられないでいた。