2度目の人生くらいは平和に贅沢に過ごしたかった 作:はやく転生したい
────魔法────
現代社会を生きる社畜なオタクの身には、なんとも甘美な響きを持つワードだ。
ケアルで疲労回復、テレポで快適通勤、ヘイストで処理速度アップ、嫌味な上司にはバイオで腹痛食らわせる。
FFの魔法を例に挙げたが、DQでもいいし、それ以外でもいい、要は役に立つ魔法を使いたいのだ。
ちなみに童貞ではないので、そっちの意味で魔法使いにはなれない事を先に明記しておく。
何故こんな事を独白するかというと、なんと今流行りの神様転生に選ばれたのである。
死んだことはショックだったがどうにも思い出せないので、気持ちを切り替えて貰えるものの精査をしなければならない。
参考にと他の転生者が何を貰ったか教えてもらったが、9割テンプレ、1割ガチ勢といった感じだった。
そして悩み抜いた結果、魔法を使いたい、と要求した。
ただし、魔力を用いず、型に嵌らない、思い通りに使える独自の物が使いたい、と言った。
・・・贅沢? たしかに、異論は認める。でもよく考えてほしい。
魔力が必要→魔力を辿られて身バレする(かもしれない)
型に嵌る→アドリブに弱い(かもしれない)
思い通りに使えない→イライラする(重要)
既存の物→転生者バレする(確信)
ほらこんなもん。
神様にも若干呆れられたが、最終的には問題無く転生を行えた。
・・・自分で要求しておいてなんだけど、どんな魔法貰えるんだ?
ーーーーーーー
────カタカタッ、タンッ
「ふぅ・・・レポートはこんなもんか」
ようやく調査アンケートが挙がってきたので、次の商品開発で参考にする為にレポートを纏めていた。外を見たらもう暗い、道理で腹も減る訳だ。
「この時間なら、あそこかな」
偶然見つけた、近所の居酒屋。運が良ければ、よく来ている彼女達にも会えるかもしれない。
事務所を出てしばらく歩き、目的の居酒屋に着いた。扉をくぐると、カウンターに見覚えのある後ろ姿を見つけた。
「こんばんは、今日は1人ですか?」
「ん? あら、博士じゃん! 奢って!」
「まぁ1杯くらいならいいですけど・・・もう大分酔ってますね、早苗さん」
元婦警、現アイドルな片桐早苗さん。お酒(特にビール)が好きということもあって、よくこの居酒屋で遭遇する。
職業柄、芸能人、特に役者さんには知り合いが多い中、懇意な芸能事務所に所属している彼女とは、特に仲が良い。
「そういえば、手錠と十手はどうですか?」
「いい感じよー! おいたした子をとっ捕まえる時に助かってるわ! 強いて言うなら、ワイヤーの巻き取りの速さを調節出来たら嬉しいわねー」
「成程、今度持って来てください」
そんな会話をしながらお互いジョッキやグラスを空け、それが2つ3つと増えていく。
早苗さんは案の定ぐでんぐでんになってうとうとし始めたので、2人分の支払いを済ませ、タクシーを呼んで彼女の自宅へ向かう。
タクシーが止まる頃にはすっかり寝入っていたので、合鍵でドアを開け、そのままベッドルームへ向かい、優しく寝かせて薄手の毛布を掛ける。
「・・・もしもし、今大丈夫ですか? さっきまで早苗さんと呑んでいて酔いつぶれてしまったので、彼女の自宅に寝かせてます。明日の朝、一応モーニングコールしてもらっていいですか? ・・・はい、ありがとうございます、では失礼します」
彼女のプロデューサーに連絡し終え、一応メモ書きを残し、鍵を掛けて彼女の自宅をあとにする。
「・・・飲み足りないし、新しいお店の開拓でもするか」
明日は特に仕事も用事も無い、偶にはこういうのもいいだろう。
ーーーーーーー
カタカタカタカタ・・・
「・・・あー疲れた」
数時間もモニターとにらめっこしていると、流石に飽きと目の乾きがやってくる。
・・・気分転換に開発の続きでもするか。
「今途中なのは・・・千佳ちゃんにお願いされたステッキと、光ちゃんにお願いされたベルトと、奈緒ちゃんにお願いされたスカウター・・・結構溜まってたか、パパっと済まそう」
ステッキとベルトに関しては、デザイン通りに雛形は作ってあり、後は材質だけって所で止まってた。子供が使う事を考慮して、軽くて丈夫で色のムラや剥がれが無いような特別な合金を使い、センサー類を色々仕込んで完成。
スカウターは、あくまでも個人使用を念押しして、そっくりに完成させた。
「届けに行くか・・・どうせならそれっぽく渡してみたいな、協力者を募って仕込むか」
ーーーーーーー
「全くもう、プロデューサーったら、世話が焼けるんだから!」
「でも梨沙ちゃん、なんだかんだ言ってお手伝いするんだよね!」
「だな、世話焼きだよな」
「うるさいわよ、千佳、晴!」
さっきプロデューサーくんに、梨沙ちゃんと晴ちゃんと、倉庫から小物を探してきてほしいってお願いされちゃった。
何処にあるのかな〜?
『・・・聞こえますか・・・』
「・・・? 梨沙ちゃん、何か喋った?」
「何も言ってないわよ。ったく、何処にあるのかしら・・・」
「じゃあ晴ちゃん?」
「ん? 何も言ってないぞ?」
ゼッタイ何か聞こえたんだけどな〜・・・?
『・・・私の声が聞こえますか・・・』
!! やっぱり!!
「何処? 聞こえるよ!」
「ちょっと千佳、何が聞こえるのよ」
梨沙ちゃんと晴ちゃんには聞こえてないんだ・・・!
『・・・こちらです、木箱の中です・・・』
「こっちかな・・・」
倉庫の奥に進むと、ダンボールに混ざって、ひとつだけ古い木箱があった。多分この中だと思う。
「よし、開けよう・・・くしゅん」
埃が舞ってくしゃみが出ちゃった。中を見てみると、布で包まれた何かがある。
「何だろう・・・わぁっ!」
ゆっくり布をめくったら、少し汚れちゃってるけど、アニメで魔法少女が使ってるみたいなステッキがあった!
「私、魔法少女になっちゃった・・・!」
「あー・・・千佳、感動してるとこ悪いけど、全部仕込みよ」
・・・・・・
後ろを向くと、困った顔の梨沙ちゃんと晴ちゃん、扉の所にプロデューサーと博士のお兄ちゃんが覗いてた。
「千佳ちゃん、頼まれてたステッキ、遅くなってゴメンね。それとさっきのステッキの声は、中に入ってるスピーカーから出てる音だから、千佳ちゃん以外にも聞こえるよ」
・・・・・・
ーーーーーーー
千佳ちゃんを拗ねさせてしまったので今度お詫びすることを約束し、光ちゃんと奈緒ちゃんには普通に渡した。
2人とも満足してくれて良かった。
「教授! 今大丈夫だろうか?」
「お、晶葉ちゃんか。何か質問かな?」
「うむ。今進めているロボの機構が難航しててな・・・」
声を掛けてきたのは池袋晶葉ちゃん、私の事を教授と慕ってくれているアイドルの1人だ。
「そこは・・・こうで・・・こうはどうかな?」
「ふむ、となると・・・こうなって・・・」
前世からは考えもつかない、専門用語が飛び交うハイレベルな会話は、正直今でも自分の気がしない。
「・・・成程、やはり別の視点からの意見は重要だな。こんなアプローチがあったとは」
「晶葉ちゃんなら私に聞かずとも気付いたよ」
「ふふっ、教授にそう言われると照れてしまうな」
普段の得意気な発明家の表情から、頬を染めた年相応の少女の表情に変わる。
開発室に徹夜して2人で泊まった事が何度もあるが、普段異性を感じない彼女が見せる異性の一面は、妙に頭の片隅に焼き付く。
・・・ロリコンの気は無い筈なんだが・・・
「・・・教授?」
「あぁ、ゴメンね、今度の仕事の事考えてぼーっとしちゃってたよ」
「今度の仕事? また何か無茶振られたのか?」
「いや、簡単だけど、なんとなくね」
「教授よ・・・仮にも女性と会話しているのだから、別の事を考えるのは失礼だぞ?」
「はい、申し訳ございません」
自分より一回り年下の子に説教されるとは・・・いかんな、この辺は前世と変わってない。
「罰として、今夜は私のラボに泊まり込みで開発だ、異論は認めないぞ?」
「了解しました、お姫様」
今日はこの前見つけた居酒屋で呑むつもりだったけど・・・また今度でいいか・・・
そんな事を考えていたからか、晶葉ちゃんの浮かべた怪しい笑みに気付くことは無かった。
────そしてこの時はまだ知らなかった。
晶葉ちゃんのラボにいたトラブルメーカーこと一ノ瀬志希が晶葉ちゃんと結託し、志希の特製無味無臭媚薬を飲まされ嗅がされベッドに拘束され、2人に襲われ、初めてを奪われ、責任をとるよう脅され、今後一生2人に首輪を着けられる事になるなんて・・・
────私の名前は
神様に魔法と称して貰ったのは、現代社会から見てオーバーテクノロジーの0.5歩手前の工学知識と技術。
マンガやアニメ(特にアメコミ)に登場した物の幾つかを現代の技術で再現して動画を投稿したり、映画や特撮の技術協力を仕事にしている。
ちなみに業界や掲示板では『魔法使い』などと呼ばれている。
・・・童貞は奪われたから、そっちの意味で魔法使いにはなれなくなったがな!