「外がちょっと騒がしくない?」
美空ちゃんが少し不安そうな表情を浮かべていた。おちょこを口につける私はそんな事よりも温泉を楽しみたかった。
「近くでやってる花火じゃない?」
「いや空に何も浮かんでないし爆発音も聴こえるし……」
「そうかな……?」
「紗羽さんお酒飲みすぎでしょ……」
「てめえには一切容赦はする気はねえ……!」
グリスは足場を蹴り、一気にケルベロスの間合いに入り込んだ。
「なにっ!?」
「遅えんだよ゛!」
ケルベロスが驚きの声を上げた瞬間、グリスは両手が分身したと錯覚するレベルのラッシュを繰り出した。
相手のガードする手が弾かれた瞬間、体を浮かばせ回し蹴りで首を狙う。
ガッ! ズザザザザザザザザとケルベロスは右手でガードして後ろに吹き飛んで行った。
「ハッ! 中々やるじゃないか(手がぁぁぁぁ!)」
俺は本気でケルベロスを殴りにかかった。だが全てを受け止められた。
それに何度かカウンターを狙う隙だってあった。
それをしない理由は単純だ、要はナメられている。
「気に入らねぇなぁ゛加減のつもりか?」
「フッ、チャンスタイムだよ、チャンスタイム(右肩が…………上がらない……)」
だがこれは時間稼ぎのチャンスにもなる。この際、話題を持ちかけてやるのも悪くねえ。
「チャンスタイムか……なら、みーたんを狙う理由を聞かせろ」
ケルベロスの笑みで仮面の奥の余裕が目に浮かんだ。
「もしや時間稼ぎのつもりだろう? そんな暇があるわけないだろう!(よし、痛みが引いた!)」
「チッ……」
グリスはケルベロスの攻撃に耐えるよう身を固めた。
「これで最後か……」
ローグが無数に現れたハードガーディアンの最後の一体を破壊して、変身を解いた。
「守る事には成功したがこの騒ぎ、石動美空には気づかれただろうな」
「これで気づかねえ方が馬鹿だろ……」
その場で大の字で寝転がる万丈龍我はむくりと身体を起き上がらせて、肩を回した。
「けどよ、これで俺たちも温泉を楽しめ……」
ドカーン! チュドーン!
巨大な爆発音が鳴った。戦兎が戦ってる方向と山の方向にだった。
「またかよ……」
万丈龍我はいい加減にしろとうんざりしていた。無理もない、俺もそう思う。
「俺は葛城の方に向かう……お前は山の方を頼む」
「あっちはスゲー遠いじゃねえか、お前が山いけよ」
「……お前は空を飛べるだろ」
「あっそっか」
「そこだ!」
木に隠れみーたんのベストアングルな位置から離れるよう走っていたが、銅と銀の歯車の形をした攻撃がグリスに当たる!
「ぐわぁ!?」
その場に転がり、起き上がる隙も与えずケルベロスは空から右手を振り上げて落ちてくる。
(避けれねぇ……!)
一か八かその場でグリスは両肩の噴射口から油を出しながら後ろに下がる。
「何!?」
『スクラップフィニッシュ!』
「こ゛れ゛で゛も゛喰゛らいやがれえぇぇぇぇぇ゛!!」
必殺技の蹴りを食らわせて、ケルベロスは木をなぎ倒しながら数十メートル吹き飛んだ。
「これでくたばっちまえばいいんだがな……」
だが奴はまだ立ち上がるが、すぐにのたうち回った。
「痛あァァァァァァァァ!! クソッ! クソォォォッ!」
そろそろみーたんは風呂から出る頃だろう、それを抜きにしてもあの騒ぎじゃ温泉に入っている場合じゃねぇと気づく。
「何故貴様は邪魔をする? 貴様の何が突き動かすのだ!?」
「簡単な話だ、性欲! 盗撮! 変態! それしかねえてめえなんかに負けるわけにはいかねぇんだよオラぁ!!!」
グリスのパンチにケルベロスは吹き飛び地面を舐めるように倒れた。
「ぐっ……黙れ! 貴様に何が分かる! あの女に与えられた苦しみを……! 恨み! 苦痛を!」
「みーたんはそんな事する子じゃねぇ! ただの勘違いに決まっんだろ!」
グリスは次は八つ当たりのように飛び蹴りを食らわせた。
「ちょ、ちょっと……待ってくれ……話をしてる時に攻撃はやめてくれ……」
「だったらさっさと話やがれ!」
「ならお望み通り聞かせてやろう…………私は……私は……!」
ゴクリと唾を飲み込んだ。
「あの女の笑顔のせいで…………貢ぎすぎて借金して東京湾に沈められる寸前だったのだぁぁぁぁ!!!!」
「ただの逆恨みじゃねぇぇぇかぁぁぁ!!」
『スクラップフィニッシュ!』
「ぎいやぁあああああああああ!!」
ドガーン!! と強烈な爆発音が鳴り、怪盗、いや最低野郎を倒したのだった。
「これでみーたんに危険は……」
疲れ果てて、その場に倒れそうになった瞬間だった。
ケルベロスはムクリと亡霊のよう立ち上がり。
「裸…………裸…………写真……!!」
「何っ!?」
突然の事に避ける暇もなく、相手の攻撃に対応しきれず、身体がとてつもなく吹き飛んで行くのを感じた。
「これで……邪魔者は消えた……………………」
私は歩く、裸を手に入れるために。借金を返すために、ここまで来たのだ。
「ここからなら……撮れ……」
『ボルケニックアタック!』
「え……?」
「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
山で強力な爆発が起こった……私はもう動ける力はこれっぽっちも残ってない。負けてしまった……
俺はどこまで吹き飛ぶんだ、くそっ、早く体制を立て直してどうにかしねえと。
だが身体が言うことを聞かない。
俺がもうダメかと一瞬諦めかけたその時、クローズが自分の隣を素通りするように飛んでいくのを見た。
「後は俺に任せてろ!」
(仕方ねえ……ここはあいつに任せるとすっか………………どこまで飛んでるんだ)
本音を言えば助けろよと言いたかった。
だがそろそろ速度が緩み、角度が落ちていくのを感じて衝撃に備えようとした、後ろは温泉。
しかも女風呂だ。
(ラッキー! んなわけねぇ……)
流石にみーたん達は騒ぎに気づき風呂から出ている。絶対そうだ、絶対にそうに決まって……
ボチャーン!!!
「がぁっ……はぁ…………はぁ……」
生身になった一海は墓から這い出るゾンビのように湯から上がった。
這いずるようにここから出ようとしたら後ろから聞き慣れた声で一番嫌な予感が的中してしまって泣きてえ。
「なんでいるの……」
「み、みーたん…………こ、これはナイル川よりも深いわけがあって……」
バスタオルで身体を隠していた二人は、もうまるで汚物を見るような目で、みーたんにならその目で見られても悪くないと思った。
「いやっだから、みーたん達を変態から守ろうとしただけで……」
「変態はそっちでしょ……?」
みーたんの瞳の色がエメラルドグリーンに変わった。
「ま、待ってくれ、本当に守ろうとして…………」
耳を傾けてはくれなかった。確かにこれで信じろと言うのが酷かも知れない。これから起こる運命を受け入れてみーたんのバスタオル姿を目に焼き付けた。
「ほらよっ」
全てが終わり、一海がどこかに吹き飛んで行ったのを気づいてない戦兎は、万丈からプロテイン牛乳を投げ渡された。
「やっと終わったな」
イチゴ牛乳を片手に格好つける幻さんに少し苦笑いしかけながらも本当に終わったのだと実感ができた。
「ああ、俺たちは美空を守り俺たちの明日をビルドしたんだ」
一見いい風に言っているが、理由を知るとかなり下衆いセリフに聞こえる幻徳は考えることをやめた。
「待った! 今のちょいーと待った!」
「はっはっはっ、左君。男の世界には待ったはないんだろう? だからダメだっ!」
「ちくしょう……これで22敗目かよ……」
「違うな、23敗目だっ」
ある事情で病院を入院していた翔太郎とボスはドラマの話をするに打ち解けて今では仲良く将棋をする仲にまで発展した。
たまに刑事ドラマと探偵ドラマで争うことはあったが。
そういえば今日、新しい入院患者がこの部屋にやってくると聞いた。確か名前は猿渡と。