晴人異世界(てんい)る
「うい~っ……次行くぞ次ィ!」
「ストさん……アンタもう飲み過ぎだって、さっさと帰りますよホラ」
「うるせぇ! てめぇに俺の気持ちなんてわかるわけないだろ……うう……クソったれ!」
ベロンベロンに酔ったストさんの肩を担ぐが、彼は本当に酔っていて手に負えない。
そういや改造人間は酒を飲んでも酔えないんじゃなかったのか。
「うう…………俺だって……本意で言ったわけじゃねぇのによ……」
ストさんは奥さんと別れたが、今日偶然久し振りに会い仲を修復出来そうな雰囲気だった、が元奥さんは新旦那とよろしくやっていた。そしてこうなった。
「はいはいわかりましたから」
無理矢理引っ張り、青になった信号を急いで渡ろうとする。急いで歩かないと信号が変わりそうだ。
「うっぷ……」
信号の中程でストさんの容態が急変した。
「ちょ、ここでリリースは勘弁してくださいよ……」
「ダメだ…………出……る」
「なんのための改造人間なんだよ……!」
晴人は急いでゲロを吐かせない為に魔法で処理しようと指輪を手にはめたが。
キキーッ!!
突如嫌な音がして身体がすくんだ。
背後から強いエンジン音が聞こえた同時に身体に強い衝撃を感じた。
微かに木々から覗ける青い空が見える。
強い日差しを顔に感じて、晴人は目を覚ました。
「あー…………頭が……」
ストさんと共に酒を飲まされすぎたせいか頭が痛い、今すぐ顔でも洗おうかと身体を起こした。
鳥の泣く男、どこか爽やかな風が吹き、都会とは違う空気が美味い。
「どこだ……ここ……」
晴人が目を覚ましたとされる場所は森の中だった。
横たわっていたのは自分の知るベッドでもソファーでもない、枯れ葉の上で、一体ここはどこなのか理解ができなかった。
晴人は一度落ち着いて、昨日何があったか思い出そうとする。
ストさんがオンドゥル語解読に失敗して、違う、戻りすぎだ知りたいのはもっと後、ストさんが酔っ払った後だ。酒を飲まされ自分も酔っ払った後に、確か車かトラックに轢かれた気がする。
「……天国?」
いや違う、俺は主人公なのにあんなアッサリ死んでいいのか?
「いや違うっ! 貴様は勇者剣士ウィザードだっ!」
ふと隣の湖から聞き慣れた渋い声が聞こえた。
なんと湖から小さくセミのような羽が生えたボスが出てきたではありませんか。
「ボス、怪我が酷いと聞きましたが……そんなに酷かったとは……!」
おそらく怪我を治すための手術でミニサイズになってしまったんだ。
「だから違うっ、ここは別世界で私は精霊ボスだ」
「別世界……? 精霊ボス……?」
意味がわからなかった。
「うむ、ここは勇者剣士ウィザードの住む世界とは違う並行世界だ」
「ほーうどうでもいいっすけど勇者剣士なのにウィザードって矛盾してますね」
精霊ボスはううっ、と図星を突かれたような声を出した。
「細かいことは気にするな」
「そうっすか」
晴人はこのボスも自分の知るボスと同じ性格をしているのだと気づいた。
「まあ、急で悪いが勇者剣士ウィザードにはこの世界を救ってもうっ」
「本当に急だなオイ……!」
何故この世界に連れて来たのか普通は話の順序を踏むだろ。それを二、三段階蹴飛ばしている。
晴人は理解できるようで理解しづらいこの状況にため息をついた。異世界に行った事は何度もあったが、一人だけ異世界にいるのは心細さを感じた。
ザッザッザッ。
ふと背後から強い魔力を感じ、晴人は危険を感知する。
三人、いや、三体の足音。
「危ない!」
晴人は手づかみサイズの精霊ボスを突き飛ばして、晴人も後ろからの火球を避ける。
横に転がり、放った方向に目をやると、そいつは三体のグールだった。
晴人の世界にも存在する下級ファントムであり群れで動く習性を持つ。魔力以外では倒せぬ敵だ。
「ボス……ファントムはこの世界にも存在してるのか」
「そっ……そうだ。もう少しまともな助け方はないのか……」
助けた勢いで湖に落ちたボスがゼェゼェしながら這い上がる。
奴らが何故存在するのか分からなかったが世界を救って欲しいという理由が曖昧ながら理解できた。
この世界は分からないが、自分のやるべき事は分かった。
『ドライバーオン! プリーズ!』
晴人は手にウィザードリングをはめ、グール三体に向かい合う。
「ボス、俺は希望の魔法使いだ、ここが俺の世界じゃないとしても俺のやる事は変わらない」
そう、この世界に絶望があるのなら、俺が希望に変えてやる。
『シャバドゥビタッチヘンシーン♪シャバドゥビタッチヘンシーン♪』
「変身」
腰に現れた手の平の形をしたベルトに指輪をかざし、赤い魔法陣が現れる。
はずだった。
『エラー』
「え?」
晴人は驚いた顔でもう一度かざす。
『エラー』
『エラー』
『エラー』
『エラー』
グールがもういい? と言わんばかりの顔をしている。
「どういう事だ……?」
晴人は変身するのに魔力を使う。エラーが起きるという事は魔力不足を示すアンサーだ。
グール相手には生身でも対処は可能だが、ここ数日間で大量に魔力を使った覚えなどない、そっちの方が気になる。
「あーごほん、勇者剣士ウィザードよ」
晴人が知りたがってる事を知ってそうな表情だった。
「ステータスをオープンするのだ」
「はあ? 頭打ったんすか」
「ステータスオープンしろっ!」
「ステータスオープンってどうす……ええ……出てきた」
晴人の目の前に、3D映像のような立体的プレートが浮かび上がった。
自分についてのステータスというのが書いてあった。やけにゲームな世界観で少し混乱しそうだ。
冷静に書かれた文字を読もうとしたが、グールの放った火球が余裕を与えてくれない。
晴人はボスをキャッチしたまま走り、火を防いでくれそうな岩の後ろに隠れた。
「ふぃー……」
一息をついてステータスを見たが、頭が余計痛くなった。
勇者剣士ウィザード レベル1
HP145 MP24
スキル 変身50MP
ドライバーオン10MP
コネクト5MP
変身できない理由は明白だった。MPが足りなかった。
「一体なんなんだよこの世界は……」
「こういう世界なのだ勇剣ドーよ」
「もうちょっとマシな略し方ないんですか」
晴人はウィザーソードガンをコネクトで取り出し、火球で砕かれる岩から離れ、距離を取った。
そしてジャキンと剣を持ち、三体のグールに立ち向かった。接近戦となり、晴人は剣でグールの槍を捌く。
一体のグールは槍を晴人に突き刺そうとしたが、晴人はその槍を足場として利用してグールの頭上までジャンプし晴人は銃弾をグールに食らわせる。
血飛沫のよう火花を散らした一体のグールは爆発し、地面に着地した瞬間に晴人は残りのグールに数発の銃弾を放った。
グールは変則自在に動く弾丸を阻止しようとするが、弾丸はそれを許さない。
盾とする槍をすり抜け、グールの肌に着弾していき爆発した。
「ふぃー……これで終わりか」
「おー! 流石勇剣ドー! この程度の敵はたわいもないなっ!」
木の後ろで隠れていた精霊ボスが、無邪気に喜ぶがこっちは割としんどいのが本音だった。
グールの槍捌きがいつもより早く、重く、硬く、敵の強さがおかしかった。
いや違う、敵が強いんじゃない。
自分が弱くなったんだ。
「精霊ボス、取り敢えず何故俺がこの世界にやってきたか教えてくれますか」
この時空では珍しくシリアス顔をする晴人に精霊ボスも釣られて真剣な表情をする。
「そうだな、あれは今から三日前……あれ、二日前、一年前だったか……」
「どれだけボケ入ってんだ」
「ボケてなどいないっ! うむ……? ハッハッハ、思い出したぞ、勇剣ドーよ。あれは今から一週間前のことだ。私は突然神のお言葉を貰ったのだ、一週間後にこの世界を救う勇者が現れるとなっ! そして現れたっ! 終わりだっ!」
「いやいや、アンタが俺を連れてきたんじゃないのかよ」
「そうだなっ、だから帰し方も知らん」
異世界から元の世界に帰る方法は、まあ魔法で何とかなるからいいとして、問題はこの世界の事情だ。
ファントムが現れるという事はあまり良い世界とは言えないだろう。
「じゃあ、この世界について説明を」
「おお、乗り気だな、俺は嬉しいぞっ」
またいつものように喜で話すのだろうと思ったがボスの声は低くシリアス口調である。
「あれは……今から数年前の事だ」
「その説明好きっすね」
「いいから聞くんだ、この世界の名前は異世界ライダーワールド、平和が全てな世界だったがある日、四人の魔王が誕生してしまったのだ」
「四人の魔王……?」
「ああ、そいつらは酷く恐ろしい力を持ち、人々を恐怖で支配して絶望の世界へと塗り替えて行ったのだ」
ボスの手から何故か世界観ぶち壊しのスマホが登場した。
「こいつらがあの悪魔のような魔王の一人、マヨネーズの魔王のビーストだ」
ボスのスマホを覗くと画面に、辺り一面、黄色い液体に浸かる満面の笑みを浮かべた男の写真が現れた。
「ええ……」
写真の男は晴人の知る、仁藤攻介事仮面ライダービーストそのものだった。
よく見ると黄色い液体はマヨネーズだ。つまりこれはマヨネーズ風呂……?
「仁藤じゃないすか、どう見ても仁藤っすよね」
「誰だそいつは、勇剣ドーよ、奴は恐ろしい魔王なのだぞ。民のマヨネーズを奪い取り幸福を奪おうとする絶望の魔王なのだぞ」
「そんな理由で……? というかこの世界マヨネーズあるんすね、世界観ぶち壊しだろ」
「細かいことは気にするな」
ボスはそう言いながらスマホを使っている。もうこの際何が起きても不思議じゃない。
「次にこいつは森の魔王のバロン、森の番人だったがある日を境に魔王へと変わってしまった」
バロンという男も俺たちの世界で何度か共に戦った事がある男だ。
「奴は、弱い人間が許される世界を作るために、全人類を運動音痴に変えようとしてる恐ろしい奴だっ!」
頭が痛くなってきた。俺はこの世界を救わなくてもいいんじゃないかな、既に救われてる気がする。
「そして三つ目、最強の魔王のレンゲルだっ、魔王の中では一番弱い」
「どう突っ込めばいいんすか」
「そして最後の魔王、NTRの魔王タドルファンタジー。思い人を取られたことで闇落ちした元勇者だ。今は怪我人を治療する医者として精を出しているぞっ」
「いやもう最後の魔王ただの被害者でしょ!」
「つまり、勇剣ドーよ。貴様はこの魔王を倒して世界を救うのだっ」
「いやいや最後の魔王はただの死体蹴りじゃないっすか!」
思い人寝取られて悪魔になったと思えば医者として活躍しているただの良い人を倒してどうする。
それにだ、他の魔王も頭のネジが緩んでるだけで悪事は行ってないように思える。
「ふむ……確かにそうかもな」
「そうかもなじゃなくて絶対そうでしょ!」
「なら、こうしよう、魔王を説得して心を入れ替えさせるのがお前の使命だっ!」
晴人はこの世界にプレーンシュガーはあるかないか、どうでもいいことを考え出した。
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私立探偵、左翔太郎は束の間の休息を楽しんでいる。
だが、あの街には探偵が必要である、誰もが探偵の復活を待ち望んでいるだろう。しかし探偵には休息も必要なのだ。
そう、俺はある事故と言っていいのだろうか、それのせいで大怪我を負って入院している。
まぁ、今は溜め込んだまま開くことのなかった推理小説でも気ままに楽しもうか。
本を開こうとした時である、相棒からの電話が来た。
「なんだフィリップ、俺は怪我してんだ。検索の手伝いはもうしねえからな」
「違うよ翔太郎、事件だ」
「何っ?」
フィリップは軽い依頼なら相棒一人で解決できるだろう。だが俺を頼って来たということは何か危険な匂いを嗅ぎつけたという事だ。
「ここ最近、行方不明者が増えてる事に気付かないか?」
「あー確かにニュースでよく見かけるな」
「それはトラックメモリの能力の可能性が高い」
「メモリが関係してんのか?」
「うん、トラックに轢かれた人達はみな何処かに消えている。だが本来のトラックメモリに轢いた相手を消去させる能力など存在しない」
「まさか、適合率か……」
「ああ、メモリの適合率の高さにおける突然変異の可能性が高い。僕はこれからその事を調査しに行くけど、いつでも変身できるように準備してくれないか」
「わかった、何かあったら教えてくれ」
その言葉を最後に会話は終了した。
翔太郎は怪我のせいで何もできない自分にもどかしさを感じた。