喫茶店の外の机の席にに翔太郎含めた三人は席に座りそれぞれ飲み
「それで、お前の案ってのはまさかあの事じゃねぇよな?」
喫茶店の外には何人かの通行人がいた。そしてフィリップが歩きながらある単語を呟いたことがある「ナンパ」と。
「君にしては勘が鋭いじゃないか、そうだよナンパだよ」
「ったく、良い案があるってついて行った結果がこれかよ……つかホントにやんのか?」
「うん、この際君の女性不信のトラウマをついでに克服させようと思って」
溜息を一つつき、コーヒーを口に流し込んだ。
ナンパという行為に慣れていない千翼はキョロキョロしがちなどこかしら心配そうな表情であった。
そして慣れなさそう敬語を使いながら話す。
「それで俺は何をすればいいん……ですか?」
「千翼、君は一度女性に声をかけてみるべきだ、君は女性に対して興奮が多いから慣れるのが一番いい」
フィリップはこのまま検索したナンパの必須方を千翼に教えていくがあまり翔太郎は乗り気じゃなかった。
依頼人の為とは練習で女性と関わるのは心を弄んでいるみたいであまりいい気分じゃない。
「これを頑張ればイユが笑って……」
千翼も色々とイユって子の事で追い詰められているのかハァハァ息が荒く絵面がヤバイ。
ナンパ必須法を伝授された千翼はそのまま白いノースリーブの綺麗な腕が似合う女性に近づいて行った。
「オイオイ、本当に大丈夫か?」
「ナンパ必須法をマスターした僕が思うからには……ダメそうだ」
「ったく、通報されてもしらねぇぞ……」
翔太郎は隠れながら千翼のそばに近づいた。
本を落とした女性の本を拾って、なんやら話しかけようとしているが後一歩の所で戸惑ってる感じだった。
「行けっ行け……もう少しだっ……」
そして相手が不思議そうに首を傾げた時、千翼は口を開いた。
「あの…………腕、綺麗ですね……」
息苦しそうにハァハァ言う姿は気持ち悪かった。
「ええ!?」
「う、腕が白くて綺麗ですよね……」
相手の女性が君悪く引くが、千翼も引いておけばいいもののこんな時に限って積極的だ。
「う、腕が綺麗ですね」
三回も言うんじゃねえよ。
「ヤベェ、これ以上はサツの世話になる羽目になる……!」
翔太郎は勢いよく飛び出して、今にも女性を襲いそうな絵面のヤバイ千翼の腕を掴み「いやぁすいませんね……」と無理矢理その場から離れ出した。
少し離れて元の席に座り、反省会。
「最初に出会って褒める言葉が腕が綺麗って流石に気持ちわりぃよ……!」
「いや……フィリップさんが、女性の綺麗なところを褒めろって……」
「ああ、確かに僕は言ったね」
フィリップはそう言いながら、本を読み始めている。
「おめぇのせいかよ……つぅか、褒めろつっても限度ってもんがあんだろ……! なんだよ三回も連呼する必要ねぇだろ」
だがフィリップの物言いによると「褒めろ」とだけを言ってアドバイスしたのだろう。
後は千翼のアドリブと言ったところか。
「ハァ…………」
少し厄介な依頼になりそうだ。
今回で千翼が女性に慣れる事が出来なければ、俺達は当日のデートを後ろからバックアップする事になるだろう。
だがそうなっては余計に悪化しそうな気しかしない。
「仕方ねえ……やるしかねぇな」
と翔太郎は立ち上がり、ドヤ顔を見せる。
今の俺はトラウマの向き合う時かも知れねえ。
「見とけよ千翼! この俺が、ナンパって奴を一から叩き込んでやるよ!」
「あ、ああ」
狂ったテンションの翔太郎に少し引き気味な千翼だが、翔太郎は本気で自分のためにやっている事なのは理解できた。
そして翔太郎は店の近くにある噴水の階段に座る黒いストッキングの足が光る女性に声をかけた。
「そこのレディ……少しいいかな?」
と長い黒髪の女性に声をかけた。すると女性は「はい」と緊張しながら答えてくれた。
翔太郎は名刺を取り出しながら語り出す。
「俺は私立探偵をやってる左翔太郎だ。アンタも困ったら俺のとこにやってきてくれ」
ここまでは順調だ。だが肝心のナンパが成功していないがこれも自分の作戦のうちだ。
「それと最近この辺にはよくねぇ事件がよく起きる。男の俺はアンタのような可憐な女性は放っておけねぇんだ、もしよければメールアドレスでもを教えていただいても?」
これで成功しない女はいない、と少し口元が緩んだがその女性はちょっと困った顔をしていた。
ふと翔太郎は何段階も飛んでいきなりメールアドレスを聞いたのは不味かったのではと気づいた。テンションが高ぶりすぎたせいだ。
失敗した、と諦めかけたその時、女性は少し裏返るような低い声で名刺を見つめて何かに気づいた。
「あっ、もしかして鳴海探偵事務所の人!?」
予想外な返事に少し驚いたが。
「そ、そうそう、そこの探偵」
「私も昔、そこの前の探偵さんに助けてもらった事があるんです。そこの関係者なら……まぁ」
そう言い女性はメモに書いたメールアドレスを翔太郎に渡した。
過ぎ去っていく女性の後ろ姿を見ながら。
「やっぱおやっさんには敵わねぇな……」
彼女も翔太郎の師に助けれられた一人なのだろうと、まだ自分は全然追いつけていないなと自嘲気味に二人が座る席に戻った。
「どうだ、メールを聞いてきたぜ? これでもまだトラウマを持ってんだって……」
最後まで言おうとしたがフィリップが話し出す。
「翔太郎、君はナンパしに行くと言ったはずだがメールアドレスを聞いただけじゃないか」
せっかく人が頑張ったというのに、その言い草はなんだと文句を言いだしかけたが一言にその感情は打ち消される。
「それに彼女はおそらく男だ」
「ハァ!? 何言ってんだよ相棒、あんな可憐な女性が男なわけねぇだろ?」
「翔太郎、あまりこの事は言いたくないが僕は何度も女装したからこそ分かる、彼はカツラを被っているしストッキングを履いているのも毛を隠すためだろう。声の時点で疑問に思わなかったのかい?」
よくよく思うと確かに彼女、彼の声は男のような低い声だった。テレビのオネエタレントが無理して高い声をあげるのと似ていた。
「マジかよ……
翔太郎はその事実に頭を抱えた、が違う考えが頭に浮かんだ。
「なら相棒、一回お前がナンパのお手本って奴を見せてくれよ」
流石にアイツにナンパは無理だろうと謎の勝利感を味わっていたが。
「わかった。やってみよう」
フィリップは小さい自分よりも少し年下であろう女性と仲良く話している。最初の始まりは趣味の一致だそうだ。
翔太郎は陰ながら悔しそうに視線を当てた。
「フィリップの野郎口が達者すぎんだろ……」
フィリップは言葉通り有言実行してみせた。なのに俺はナンパの一つすらできねぇのが心からの悔しみをより湧き上がらせた。
「なんで……なんでだよ……チクショォォォォォ!」
翔太郎はその場でコケコッコと鶏のように叫んだが余計虚しくなるだけだった。
「でも俺は、探偵さんが一生懸命俺のためにやってくれてる事はわかってるから……」
後ろから千翼が俺を慰めてくれた。自分より年下に慰められるのは余計傷つくが、それでも自分のためにやってくれてるのだ。
「お前本っっ当にいい奴だな……」
千翼の手を握り、やはりここは漢を見せなければならないと歩道に移動した瞬間、何かにぶつかった。
恐らくぶつかったのは女性の胸で一瞬「ヤベッ!」と声を出しそうになったがもしかしてこれはチャンスではないかと思考を切り替えた。
「おっとすまねぇ、俺はあんたの魅力に目を奪われてたようだ」
とズレた帽子を元の頭の位置に戻しながらぶつかった女性の顔を見た……見上げたが。
「あらぁぁ、大胆な男ってSU、TE、KI!」
これはどう言えばいいんだ。
目の前にいるのは確かに女性だ。だがあまり言いたくないが凄くアレな女性だった。
肉つきは空気を入れたようにパンパンで、顔はどうみてもゴリラを切り取ったようなゴリラ顔で、何より身長が2メートル以上ある。
ガイアメモリでもキメてんのか。
「ねぇねぇ、貴方の名前は!?」
ゴリラ顔の女性は大胆に近づいてきて翔太郎を口出しさせないよう言葉のマシンガンを浴びせる。
「おかしいと思ってたのよ。私みたいな綺麗な女性に男の影がいないなんてねぇ! でも良い男はやっぱり見る目があるよねぇ!」
一体どうすればいい、泣きそうな顔で後ろの千翼に助けを求めようとするが向こうもどうすればいいのか困惑していた。
クソ、どうすればいい今すぐこの状況から抜け出さなければ。
いや、待て顔だけで判断するのは男のする事じゃねえ。
「千翼。見とけよ女性は見た目じゃねえ……一番大事なのはココ
、ハートグァァァァァァァァァァ!」
千翼にかっこいい所を見せようとしたら、ゴリラからハグをされた。
いやコレはハグじゃない。ミキミキ背骨や両腕の骨も鳴るしもうベアハッグだ。俺のハートが先に砕けちまう。
「こ、これ以上は……死ぬから!」
千翼が止めにかかって来てくれたので助かった。
骨抜きになった翔太郎が地にドンと落とされ身体中が軋む中ゴリラは冷酷に言い放って来た。
「あらごめんなさい。私つい力強すぎちゃって……でもちょっとの力しか出してないのにアンタ弱いじゃない。私、弱い男嫌いなのよね……」
そしてそのまま翔太郎の背を向け「さようなら……」と歩いて行った。
「く、つっっ……ふざけんな! これじゃあ俺がフられたみたいじゃねえか!」
「大丈夫?」
「んなわけねぇよ……ったく……」
背中がズキズキ痛むのを我慢しながら立ち上がって溜息を一つついた。
そんな中、千翼はぼそりと不安そうに呟いた。
「本当にこんな感じで大丈夫かな……イユはどうすれば……」
そんな千翼の様子に少し今の自分を連想させた。だから翔太郎は自分に言い聞かせるよう本音を伝えるべきだと思った。
「大丈夫かそうじゃないかは俺達が決める事じゃねえ。お前が自分の意思で決めるんだ、俺達がやってやれる事は背中を押してやれるだけだ」
「最後は俺が決める……」
「ああ、一回ぐらいイユって子に砕けるぐらい思いをぶち当ててみろ!」
「俺が……」
「ああ」
「俺が」
「ああ!」
「俺が!」
「よっしゃあ行ってこい!」
翔太郎の掛け声気合いが入った千翼は何処かに走り出して行った。何処に向かってんのか分からないがこれで大丈夫だろう。
(失敗したら、慰めてやるから頑張れよ)
翔太郎は心の中でエールを届けた。
「青春っぽくていいじゃねぇか……」
痛む背中をさすりながら噴水前の石段に横になる。これはフィリップに迎えに来てもらわないとちとキツイ。
連絡を取ろうとクワガタ型携帯電話のスタッグフォンを使い電話をかけた。
「あーフィリップ? ちと色々あって腰がいてえんだ……こっちまで来てくれねぇか」
「わかった、すぐに向かうよ」
「場所はそっからちょっと歩いた先にある噴水……」
最後まで伝えようとしたが突然目の前に現れた影に声が止まっ
た。
「あ、アンタは……」
「あらぁさっきはごめんなさい? やっぱり弱い男性も悪くないかなって思って」
ゴリラ顔の女だった。
「フ、フィリップー! はやく助けに来てくれ!」
「翔太郎!? 一体どうしたんだい?」
「いいから来てくれ!」
「私が怪我を治してア、ゲ、ル! こういうのは逆方向に身体を曲げればいいのよ!」
「フィ、フィ、フィリップゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!! や、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「すまない、これは本当に僕のせいだ。因果応報という言葉を鵜呑みにするのなら本来は僕が受けるべきだった」
フィリップはそのまま話を続けた。
「…………けど悪い事だけじゃない、今回の依頼人の千翼は君の言葉のおかげで上手くいったそうだ」
フィリップは小さい病室でぐるんぐるんのミイラ男になった翔太郎を見た。
「そうか……ちゃんと成功したんだな……なぁフィリップ……」
「?」
「あの女の顔が……夢に何度も出てくるんだよ……」
トラウマが悪化してしまったようだった。
すると隣のベッドのバッタマスクの刑事である男がこちらの話に入ってきた。
「青年、君も苦労しているんだなっ……!」
その男も大怪我をして入院しているようだった。