この力、この世界で役立つか? in 魔法科高校の劣等生   作:zaurusu

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第12話

「さっちゃん先生!」

 

「あら〜ジロー君じゃない。どうかしたの?」

 

保健室に着くと、担当医である風宮佐知子。通称、さっちゃん先生が優雅にお茶をしていた。

 

「また、先生達に追われてるの?」

 

「違います。怪我人です!」

 

抱えている生徒を見せると、「あらあら、じゃー、その子をベッドに寝かしといて〜」と相変わらずのテンションでささっと、ティーセットを片付け、白衣を着始める。

 

「あら、勇人ちゃんじゃない。また、無理をしたのね」

 

どうやら、面識があるらしい。

 

「また、無理をした」と言っていたことから、何度かはお世話になっているようだ。

 

「うーん、熱は無いみたいだけど……恐らく、過労かしら?ここで、一休みした方が良さそうね。」

 

「過労?」

 

「ただの、過労じゃなくて、魔法の酷使によるものね。念のためだから、栄養剤の点滴をした方が良さそうね」

 

先程、彼女の体を抱えた時の違和感はそれだったのか。

 

そう言えば、この前の授業でレオが調子に乗って硬化魔法を使用しすぎて、想子が枯渇しかけて、保健室に運んだ時と症状が似ていたな。

 

思いの外、ノッキングが深く効き過ぎたのかと心配したが、大丈夫だったようだ。

 

「これで、大丈夫よ」

 

ベッドで寝たからなのか、栄養剤が効いているのか、彼女の顔は先程よりも明るくなり、スヤスヤと寝息も聞こえてきた。

 

こうしてよく見て見ると、本当に女だ。

 

後で、変態だと疑ったのを謝っておこう。

 

許してくれることを願って。

 

「でも、おかしいわね〜。勇人ちゃん程の実力者が想子が枯渇するまで魔法を行使するなんて……」

 

「そう言えば、そうですね……」

 

あのキレのある動きと魔法式の展開速度。

 

魔法師の中でも相当な実力者であることは間違いない。

 

それに、風紀委員会会長となると持っている想子の量もそれなりに多いはず。

 

しかし、彼女が使った魔法はCADを操作した回数で考えると4回。それで、何を展開したのかは分からないが、一つは確実にわかるのは自己加速術式を使用したこと。

 

後は、机とか椅子を軽々と持ち上げて、投げつけてきたことから重力ベクトル操作といったところだろうか。

 

とは言え、それだけで想子が枯渇仕掛けるとは思えない。

 

極端に普通に比べて消費量が多いとか、元々の想子が少ないとかは別として。

 

「ん〜、まぁ、理由は彼女が起きてから聞きましょう」

 

「そうですね……って、今、彼女って言いました?」

 

今、紛れもなく彼女とはっきりいったような気がしたのだが?

 

「他の先生方は気づいてないようだけど、私の目はごまかせないわよ。だてに保険医やってるわけじゃないのよ?それに、ジロー君だって、気づいてたんでしょ?」

 

「まぁ、なんとなくですけど……」

 

まさか、下着に着替えているところを見て、呼び出されて、なんやかんやあって勇人自身が自分から暴露したとかアホすぎて言えるわけがない。

 

取り敢えず、適当に取り繕っておくことにした。

 

「ジロー君は知らないだろうけど、鳴神ちゃんは古式魔法の名家、鳴神家の子なの」

 

「鳴神家?」

 

「聞いたことない?歌舞伎十八番の一つに鳴神って話があるんだけど?」

 

「あー、あの鳴神ですか?」

 

詳しくは知らないが、天皇が寺院建立の約束を破って、怒った鳴神上人が雨を降らす竜神を呪術で竜壺に封印して、雨を降らなくさせて土地を干ばつさせる話だ。

 

「でも、それって神話じゃないんですか?」

 

「ええ、まだ、はっきりとしてないんだけど、鳴神上人という人物は実際にいたと文献にも書いてあるわ。精霊魔法なんてものもあるのだから、強ち本当かもしれないじゃない?」

 

「そう言われると、納得できますね」

 

実際、魔法が体現されてから、神話とか伝説とか物語として語られていたものが実際にあった話と確認され始めているのを考えると納得がいく。

 

「で、その鳴神家なんだけど、やっぱり名門故、古い思想が残ってて、代々、当主の座は男と決まってたんだけど……」

 

なんとなく、だがわかってきた。

 

だがここはもう少し聞いてみることにした。

 

「勇人ちゃんが8歳の頃に両親が交通事故で亡くなったのを皮切りに、彼女の生活は一変したのよ」

 

先生の口調がつよくなる。

 

「当時、鳴神家では現当主が死んだのを境に後継者争いがおきたのよ。それも、嘘にまみれた騙し合いのね」

 

人は権力を求める為にはどんな手も使う。反応を見る限り、相当な争いがあったのだろう。

 

「一番の候補だったのが。鳴神貞夫。勇人ちゃんの父親の弟……叔父にあたる人ね」

 

まぁ、常識的に考えて、直系にあたる人物が選ばれるのは当然だ。しかも、男が継ぐという仕来りがあるのを考えるとなると。

 

「でも、鳴神貞夫はとんでもない屑野郎だったのよ。彼は徹底した魔法至上主義者で、家の名を使って暴行、脅迫、賄賂、好き勝手し放題。挙げ句の果てには、先々代当主の怒りを買って、破門されるはずだった」

 

「だった?」

 

「ええ、名門故のプライドというやつね。一族から追放者……それも、直系からとなると家の名が落ちる。なんとしても世間に明るみになってはならないということで、修行という形で九州のある寺院に左還したのよ。まったく、聞いて呆れるわ」

 

聞いていて、あまり気分がいいものではない。先生も怒りに震えているのがわかる。

 

「そんな奴が、当主にでもなったらどうなると思う?」

 

「嫌な事しか想像できませんね」

 

権力片手に暴走するのは間違いない。

 

「そうよ。それを知っていたから先々代当主が再び当主の座につくことになったの。でも、先々代当主も若くはない。なんとしても家を守る為に、苦肉の策として出したのが……」

 

「鳴神勇人を男として育て、次期当主にする」

 

「そういうことよ。運がいい事に貞夫は左遷されてて兄に子供がいるのを知らなかった事と……彼女が中性的だったことが相まって、今の結果になったのよ」

 

「彼女にそんな過去が……」

 

そう言えば、母上の話をしていた時、少しだけ目が悲しんでいたのはそういう事だったのか。

 

凛とした彼女からは想像もできないものだった。

 

幼くして、両親を亡くし、挙げ句の果てには権力争いに巻き込まれ、女性としての暮らしを奪われた……

 

一生、男として生きていかなくてはならない。

 

それが、家を守る唯一の方法……

 

「……胸糞悪い話ですね」

 

知らずのうちに拳に力が入っていた。

 

「本当にそうよ」

 

どいつもこいつもろくな奴じゃないと先生の目は語っていた。

 

「先生、勇人は……」

 

「失礼します」

 

と、質問しようと仕掛けたその時、ふいにガラガラとドアが開く音がした。

 

振り向くとそこには教員らしき男性がいた。

 

たしか、あの人は……

 

「あら、教頭先生、何かごようですか?」

 

「いや、教え子が急に倒れたと聞きましてね」

 

相変わらずさわやかな笑顔。

 

教頭の二十九屋信春だ。

 

「あらそうですか。でも、教頭自ら来るほどのことではないのでは?」

 

「いやいや、自慢の教え子が倒れたとあってはいてもたってもいられないのは教師として当然では?貴方は冷たい人ですね」

 

笑ってはいるがどうやら、この2人は犬猿の仲っぽいな。

 

「まぁ、それはさて置き。君が保健室まで運んでくれたらしいね。どうも、ありがとう」

 

「いえ、当たり前の事をしただけです」

 

笑顔で握手を求めてきたので、ここは素直に返した方がいいと考え、差し出した手を握る。

 

「おっと、そろそろ授業の時間じゃないか。私は佐和子先生と大事な話があるから、早く行きなさい」

 

ーッ!? こいつ

 

一見、優しそうに言ってるけど目を見ればわかる。

 

部外者はとっとと消えろ。

 

やっぱり、いけすかないな。

 

しかし、下手に逆らうといけないので「ありがとうございます」と礼を言って出て行こうとしたら

 

「いや、君はここに残りなさい」

 

と先生の一声で足止まる事に。

 

「何故、止めるんですか?学生の本分は勉強ですよ?少しでも遅れれば大きな痛手となり、他から置いていかれる。このご時世特に彼のような一般人は特に……」

 

それっぽいこと言ってるつもりだろうが、馬鹿にしてるのが丸わかりである。

 

「少なくても、彼には知る権利があると思ってのことです。なんせ、彼は

鳴神勇人が女だと気付いていますから」

 

「ーッ!?」

 

明らかに動揺している。

 

まるで、計画が狂ったような顔をしてこちらをチラチラと見ている。

 

しかし、直ぐに笑顔になって

 

「次狼君だったね?どうして、鳴神勇人が女だと分かったのかな?」

 

と聞いてきた。

 

「彼女を運ぶ時に、男にしては妙に軽かった事と、それに肉つきがどうも男性のものとは違いましたからね。それで、佐和子先生に問い詰めたら正直に答えてくれましたよ」

 

「佐和子先生……」

 

何故、バラしたと思っているのだろうな。

 

すごい形相だ。

 

しかし、流石は佐和子先生。そんなのまったく動じない。

 

「下手に噂を流されて校内に知れ渡るよりははっきりと1人に真実を教えた方がいいと思いましたね。それに次狼君は口の硬い方ですから気にする必要はありません」

 

彼は秘密を守る男だときっぱりと言い切った。

 

そう言われると、なんか照れて来くる。

 

「はぁー、佐和子先生は食えないお方だ」

 

言い切られた信春はというと、言葉が出ないのかしばらく黙り込んだのち、何処か諦めたというか、やれやれと言った気持ちで鳴神勇人の方に近寄り始めた。

 

「まぁ、どうせいつの日か明るみになる事ですしね。彼には特別に今ここで教えるとしましょう」

 

勇人を見る信春の目が何処か変だ。

 

まるで、愛しい恋人を思うかのようなあの仕草

 

もしかして……

 

「私は鳴神勇人の許嫁。つまり、私と勇人は婚約者なのですよ!」

 

「ぇぇぇええ!!」

 

開いた口が塞がらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




シリアス……なのか?


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