GoGoがんばれ!ヘイローちゃん   作:竹林の春雨

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・以下注意文的なモノ

※1
原作の設定部分がかなり突飛なのと、足りない設定部分を独自設定で補強しているキメラみたいなお話に仕上がっているので、そこを受け入れられない場合はブラウザバック推奨
また競馬知識はウイポやクラシックロードなどのふんわりした知識しかないのでガチ勢には少し物足りない可能性があります

※2
レース&ライブ描写は控えめの方向でキングヘイロー視点での日々の日常を主軸にする予定


プロローグ

 ウマ娘――それはどこか異世界の馬たちの魂を受け継いだ少女たち。

 彼女たちは走るために生まれ、走るために生き、走るためにその生涯を捧げていく。

 ターフの上で織りなす様々なドラマ。躍動する彼女たちに人々は魅せられ、ウマ娘たちが走る会場へと足を運ぶ。

 

 そんな彼女たちウマ娘と人間たちの物語が幾度となく繰り広げられていた世界で、あるウマ娘の物語もまた始まろうとしていた。

 

「ねえねえ、お母様たち(・・)! 見てみて、今日はとても良い青空だわ!」

 

 家の裏手門から外へと飛びだす小さな女の子。

 綺麗に切り揃えられた芝生の上で、少女は空を見上げながら楽しそうに笑う。

 嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ね、久しぶりの芝生の感触を楽しむ。

 彼女は人間ではなくウマ娘と呼ばれる存在だった。

 耳は頭部の横ではなく上に2つ。お尻には尻尾。ただそれ以外では目立った差異は少ない。

 人と比べると超人的な脚力で走ることができるくらいだ。

 チャームポイントの耳と尻尾は、少女の喜びと連動するかのようにふりふりと動き、茶褐色の鹿毛がそのたびに宙を舞っていた。

 

 新緑を思わせる緑を基調としたドレス。

 口に軽く手を添えてくすくすと楽しそうにしている少女。

 妖精のような愛らしい笑顔は無邪気というより、教育の行きとどいたような、どこか気品さえ漂わせる仕草だった。

 振り返る彼女の視線の先には邸宅――東京ドーム1個分はあろう広大な敷地だ。

 

 敷地内は大人の身長ほどある鉄製の柵。家の正面には海外の貴族が作りそうな噴水に、庭師が毎日手入れを行っている花畑。扉を開けば高価そうな調度品が並ぶ。

 一般には豪邸と呼べるような家に住んでいたが、彼女の価値観ではそれがどれほど凄いかはまだ分からない。

 

 しばらく悪天候が続いて外に出られなかった毎日。

 高価なのだろうとぼんやりと察せられるスーツやドレスを着た大人たちとのパーティには出ていた。

 パーティでは将来の有力なウマ娘として彼女は注目を浴びやすい。そんな羨望とも嫉妬とも取れる視線は心地よかったが、生来走ることが大好きな彼女はどこか退屈さも感じていた。

 そんな日々が続いていたなかでの晴天。空は少女の機嫌を取るかのように穏やかな陽光を大地へと降り注いでいた。

 まだ幼さが残る彼女が親の手を引っ張りながら外出するのは無理もないだろう。

 

 そんな事情もあって、彼女は手を引くように両親と共に自宅の裏手にある芝生へと足を踏み入れていたのであった。

 

「そんなに慌てていると転びますよキングヘイロー」

「あら、いいじゃないブレーヴ。ウマ娘なら元気なくらいが丁度いいわ」

「君は……ふぅ、可愛いわが子が怪我をしたら大変じゃないか」

「あらあら名家ダンシングの当主ともあろうお人が弱気ね」

「そこは慎重だと捉えて欲しいな」

 

 男装をして落ち着いた印象を受ける女性と、ドレスを身にまとった気品がある――しかし溌剌さもある女性が立っている。2人はともに穏やかな表情でわが子を見つめていた。

 キングヘイローと呼ばれた少女には母親が2人いた。

 それが世間一般ではどう捉えられるのか――キングヘイローと呼ばれた少女には分からない。

 

 ただそれが当たり前だと認識してきた彼女にとって、他人にどう言われようが意に介さないだろう。

 高貴である自身が他者の戯言などで揺らぐことはない――令嬢として育てられた幼い彼女の価値観は既に定まりつつある時期だったからだ。

 そんなキングヘイローは少し頬を膨らませながら憤慨する。

 

「もうお母様たちばっかり仲良くして。走る姿を見たくないならやめてもいいんですのよっ!」

「おや、それは困るな。愛しいわが子の晴れ姿を青空の下で見られないなんて、これ以上の損害はない」

「写真の準備もしてきたから困るわね。お母さんたち反省するから見せてくれないかしら? 貴女の走る姿を」

「え、そうかしら……えへへ、それでは行ってきますわっ!」

 

 大好きな両親の言葉にコロッと意見を翻す少女。

 自分にとって理想のウマ娘であり、世界で一番尊敬するウマ娘であり、何より優しくて大好きなのだから仕方ない。

 

 元々両親は日本出身ではない。日本で偶然出会い、意気投合して一緒に暮らすようになったという。

 ウマ娘の間ではレベルが格段に高いとされるアメリカで生まれ、それぞれアメリカ国内やウマ娘発祥の地とされるイギリス――こちらもウマ娘たちの実力は世界屈指だという国など、様々な国でレースに出場して勝利していったと聞かされていた。

 

 そんな両親から生まれた自身が特別な存在だと思うのは無理もないだろう。

 あるときはそんな傲慢さが現れ、周囲にいばり散らす困ったウマ娘になりかけたものの、親のしつけという名の貴族としてのあるべき姿の薫陶とぶっちぎりで離される親子間のレースが行われ、多少は反省していた。

 

(いずれ赴くトレセン学園。そこでキングヘイローの名を――キングの走りを世間に轟かせる。その為にもお母様たちを喜ばせる走りを見せなくてはいけないわっ)

 

 そう思いながら、キングヘイローは実家の裏手にある芝のコース内に足を踏み入れる。

 まだ見ぬ強敵に思いを馳せながらも、敗北は考えない。考える必要もない。

 勝利が我が手にあるのは確定しているのだ。

 勝つつもりで戦うのは当たり前で、その為の努力も日々行っている。

 前を見つめ、綺麗なフォームでゴール板を駈け抜けるイメージを常に欠かさない。

 

 視界の隅に入っていた女性――芝の調整をしていたメイド姿の女性がキングヘイローの姿に気づき一礼。

 自身が仕える当主たちの視線の邪魔にならないよう、そっとコース外へと出ていった。

 

「ではお母様方……行きますわ!」

「ええ、お前の美しい疾走を見せておくれ」

「『ダンシング家は常に優雅たれ』よ。走りにも気品を忘れないようにね」

「はいっ!」

 

 スタート地点に立つ少女。

 ぐっぐっと足を踏みしめ、思った通りの感触を返してくることに内心、喜色を浮かべる。理想的なターフコンディション。

 ふと見上げるとすぐ傍の内ラチの上に小鳥が止まっていた。

 それを見た少女はスタートするタイミングを静かに決める。

 

 春先の青空。スズメが鳴く声が聞こえる。両親の視線を感じながらじっとそのときを待つ。

 足先から頭の先まで、ちゃんと美しく見えるように神経を集中させる。

 手の振り方、姿勢、自分が他者からどのように見えるかも考える。

 そうしてイメージを固めるながら、その時を待つ。そして――

 

「っ!!」

 

 キングヘイローの僅かな動きに驚いたのか小鳥が飛び立つ。

 その瞬間に少女はターフを駈け始める。慣れた空気抵抗を感じながらコース内を常人では不可能なレベルで疾走する。その速度は自動車と同レベルと言ってもいいだろう。

 この日のために特注したレース用の勝負服である緑のドレスがバサバサと音を――立てない。

 特注の服は空気抵抗を極限まで落とせるのだ。

 少女は芝生の上を人間なら到達しえない速度で走り続ける。

 

 なぜ走るときにドレスを着るのか。

 普通なら動きやすい服装にするべきであり、非合理的だ。

 しかし彼女らウマ娘たちはそういった人間たちが考えるような機能美(・・・)は一部を覗いて好まない傾向にある。

 

 走ることは彼女たちにとって生きることと同義。

 生きているのだから服装は自由であるべきだ。

 

 自身を彩る理想的な服装、そして自身の魂とも言える走りを魅せることこそ至上の喜び。

 その上で同類であるウマ娘たちの中で誰よりも先にゴールする。それは勝者でしか味わえない美酒だ。

 貴族は誰よりも前で戦い、民衆の前で勝利を引き寄せ与える。

 その先には素晴らしい光景が見えるだろう。

 

 その後にウイニングライブなる歌とダンスを披露する場もあるが、そこは人間たちを喜ばせるパフォーマンスでしかない。

 もちろんそれが目的で勝利を目指すウマ娘もいるし、注目されるのが好きなキングヘイローも別に嫌いではなく、むしろ好きな方ではある。

 ダンスレッスンも完璧にこなせるし、いかな曲が来ても名家の令嬢として恥ずかしくない完全無欠な姿を披露できるだろう。

 

 尊敬する両親から教育を受けた自身のダンスで人々を魅了し、3着まではステージに上がれるという制度のウイニングライブで、負けたウマ娘たちの視線を浴びながら、ダンシング家の晴れ姿を披露する自分の姿。

 それはとても心地よい光景だ。

 

「はぁ……はぁっ……もっと速く! もっと速く、駆け抜ける! 私はキングなんだからっ!」

 

 与えられた名前に負けないように努力し続けてきた。

 顔は正面を見据え、走り続ける。

 顔を上げるのは自身に喝采を与える民衆の顔を見るため。

 そして何より――

 

(私に期待をお母様たちの表情を見るためにっ!)

 

 自分が一生懸命に走り続ける姿に、笑顔を向け続ける両親。それだけで胸が暖かくなる錯覚を覚える。

 

 走り方について、両親からは特に指導らしい指導はされてこなかった。

 最低限、コースの走り方やスタート、戦略関係を少々といったところか。

 両親曰く「ウマ娘の走りは魂そのもの。それを専門知識もない自分たちが指導しても歪めてしまうだけだ」という言葉を受けていた。

 

 ウマ娘の面倒は『トレーナー』と呼ばれる専門の知識を持つ人間たちに託されている。

 彼ら彼女らはそれぞれの信条、理念、技術等々を駆使し指導を行う。

 レースの勝利はそんな人々の協力もあってこそだ。

 

「もっと先へ……! 誰よりも届かない先へっ!」

 

 足に力を入れる。

 踏み出したに更なる力が入り、後ろに蹴り上げ、地面が抉れていた。

 スタートから600mのバーを通り過ぎている。

 体感では33、4秒くらいだろうか。ややハイペースかもしれない。

 それでもグッと両脚を叱咤激励しつつ、キングヘイローはただただ青空の下を駆け抜け続けている。

 

 喜んで欲しい、嬉しくなって欲しい、誇らしく思って欲しい――そして我が子は素晴らしいウマ娘だと思って欲しい。

 

 それは顔を上げなくては見れない姿だ。

 俯いては見れないものだ。

 優雅な姿を見せてこその名家、貴族。

 見えない観客が大声援を送っているような幻想を抱く。テレビの先でいつも見ていた景色。

 自分が主役になれるなら、それはとても素晴らしい光景だろう。

 

 全身に空気抵抗という名の風を受けながらもキングヘイローはそう願ってやまない。

 勝利して両親が喜ばせたい。

 それが彼女の願いだ。

 しかしこれから先、どういうドラマが彼女に待ち受けているのか――それは誰にも分からない。

 ただ言えるのは、例えそれが苦難の道だとしても彼女が歩み続けた道程には変わらないということ。

 

 

 色々な思考が錯誤していたのもつかの間、すぐ目の前まで迫っていたゴールが見える。

 既に最初から全力だ。

 勢いのままゴール板を駆け抜け1200mの疾走が終わる。

 1分少々の短い時間だが、汗が湧き出て脚も少し震えていた。

 

「はぁっ……はぁっ……どう、でしょう、か……はぁ……っ」

 

 いきなり立ち止まっても心臓によろしくない。

 軽く小走り――実際には歩き同然の速度だが――そんな気持ちでクールダウンしつつ、両親の元へと駆け寄る。

 

 そんなキングヘイローはぽんぽんと頭を撫でられる感触を覚えた。

 

「わぷ、お母様……?」

「うむ、良い走りだったよ。さすが自慢の娘だ」

「写真も撮れたし、立派だったわよ! さて早速、執事に現像を頼んでできた写真をアルバムに入れなくちゃね」

 

 そういった片方の母親はルンルンとした足取りで屋敷へと戻っていく。

 その姿にブレーヴは少し苦笑しながら見送っていた。

 そしてキングヘイローへと向き直ると、先ほどとは打って変わって真剣な表情になる。

 

「キングヘイロー、ほんと良い走りだったよ。もう少し先の話にはなるだろうけど、トレセン学園の願書が届いていた」

「っ!? お母様、それじゃあ――」

「うん出願手続きをする予定だ。憧れの舞台――全力で楽しむといい」

「はいっ! キングヘイローの名を、お母様たちの娘は素晴らしいウマ娘であることを証明してみせます!」

「ふむ、元気でよろしい。しかし注意しておくことだ、キングヘイロー」

「……注意、ですか?」

 

 神妙な面持ちで話す親にキングヘイローは疑問符を浮かべる。

 普段から静かな人ではあるが、いつもの飄々とした姿とも違って見えた。

 困惑とも違う、少し闘志が沸きあがっているような、いつもと違う様子だった。

 あえて言うならレース前のウマ娘たちに似ている、とキングヘイローは感じた。

 

「日本のウマ娘界隈も年々レベルが上がっていっている。レース内容が濃くなっているとも言えるのかな。凱旋門賞を始めとした、いくつもの戦いで強敵たちとしのぎを削ってきた私だが、それに近い熱のようなものを感じるんだ」

「熱、ですか?」

「ふむ、表現が難しいね。ウマ娘としての本能が騒ぐ、といった方が正しいかもしれない。強敵、好敵手、絶対者――そんな一筋縄ではいかない者たちの出現をなんとなくだが、肌で感じるんだ。もしかしたら君の年代は荒れるかもしれない」

「それでも……それでも私はお母様たちの自慢の娘ですわ。いかな相手でも立派に戦い――そして勝利してみせます!」

「ははは、頼もしいね。だからこそ用心しないといけない。手助けはあまりできないが、出来る範囲での手は打っておくように」

「もちろんですわ。慢心して負けるなんてみっともない姿は私の誇りが許しません。最大限の努力を積んだうえで、最後に私の走りでもって勝利を手中に収めてみせます! というわけでもう一回走ってきますわっ」

「うん行ってきなさい。ただし暗くなったらやめるように。オーバーワークも注意だよ」

「はいですわ!」

 

 そう言いながら駆け出す。

 強敵の出現? 上等だと彼女は闘志を燃やしていた。むしろ願ったり叶ったりだった。

 弱い相手に勝つより、強い相手に勝つからこそドラマが生まれ、語り継がれる。

 例え誰であろうと負けるつもりはない――そんな信念を胸にキングヘイローは、その時が来るまで走り続けるのだった――

 

 

 ☆

 

 

 そんなキングヘイローの後ろ姿をブレーヴは見つめる。

 その表情は娘に向けていたときとも違い、憂いを帯びていた。

 

「頑張るといいキングヘイロー。例えその道が茨だったとしても、君は投げ出すことはしないだろう。顔を下に向けず、誇りを胸に立派に戦えばいい」

 

 そう呟くとコースを走る娘を尻目に踵を返し、屋敷へと歩いていく。

 「しかし」と彼女は誰に語りかけるわけでもなく声を漏らす。

 

「……厳しいな。本当に」

 

 扉を開け、屋敷へと入っていく。

 青空だったはずの天気は既に陰り始めていた。

 

 

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