GoGoがんばれ!ヘイローちゃん 作:竹林の春雨
海外からの転校生というエルコンドルパサーとグラスワンダー。
彼女たちがやってきてから数日が経過していた。
ウマ娘が海外からやってくるのも決して珍しいわけではないが、やはり物珍しさは湧いてくるもの。
興味津々なクラスメイトたちがワラワラと二人の周囲に飽きもせず集まってきていた。
両者は教室の一角で輪を形成しながら、それぞれ元気に会話している。
「あはは、日本ではそういう所もあるんデスね」
「そうなのよ。楽しいし、エルさんも今度一緒に行ってみよう!」
「グラスさんは喫茶店とかどうですか? トレセン学園の周辺には良いお店が一杯あるんですよー」
「ええ、もちろん。楽しそうですし、道もまだ不安なので是非、教えていただきたいです」
そんなクラスメイトたちとの楽しそうな会話が聞こえてくる。
まだ日は経っていないものの、日本と違いフレンドリーさが要求される海外出身だからか、あっという間に馴染んでいた。
グラスワンダーはグラス、エルコンドルパサーはエルと愛称も既に出来上がっていることからも窺える。
談笑の絶えない休憩時間の教室。
大体が二、三人ないし、集団を形成している。
その中でキングヘイローはというと、グラスたちの輪には加わらず、ノートとシャーペンを手に、一人静かに何やら記入していた。
「これが、それで――やはり、上位か。なら対策は――」
ぶつぶつと呟きながら真剣な表情でメモと取っていく。
夏の
思い出したように汗が筋となって顔を伝っていくが気にしない。
小笠原での特訓のおかげか暑さに耐性ができているせいでもあった。
しかし理由は単純に暑いからというだけではなく、前の時間が体育だったことにも起因する。
キングヘイローはその体育での所感をノートに記していた。
ひと段落ついたのでノートを閉じると軽く天井に視線を向けながら息を吐く。
「……ふぅ、ままなりませんわね」
「なーにが、ままならないなのかな、キングヘイロー」
「聞きながら勝手にノートを開こうとしないでくださいな」
青空混じりの芦毛で、セミショートの少女――もはやお馴染みとなったセイウンスカイだ。
さりげにキングヘイローのメモを覗き見ようとしてくるがきっちり手でガードする。折角調べた成果をみすみすライバルに晒すわけがない。
キングヘイローのガードに別段、気を悪くした素振りも見せず、セイウンスカイは肘をついて黒板側に顔を向ける。
グラスやエルたちの輪には加わらず、遠目から観察するように二人を眺めていた。
「体育での動きを観察してたのかな。研究熱心だねえ」
「分かっているならノートを覗く必要もないでしょうに」
「いやあ、ちょっとした挨拶みたいなものだよ」
「そんな挨拶はお断りですわよ。それより、そっちは加わらなくてよろしいのかしら。私と違って積極的に交流しているのでしょう?」
グラスワンダーとエルコンドルパサー――彼女たちに対するキングヘイローとセイウンスカイが取った行動はまったく正反対のものだった。
キングヘイローは挨拶もそこそこに、両者へのアプローチを積極的に行わなかった。
そもそも物珍しさからクラスメイトが集まっている状態というのもあるが、距離を置くように動いている。
逆にセイウンスカイは持ち前のゆるさを武器に事あるごとに交流を持っていた。
元々社交的な性格というのもあるが、ただそれだけで終わらないのが彼女のいやらしいところでもある。
「そうなんだけどねえ――――で、キングヘイローはどう思ったの?」
瞳を覗き込むように聞いてくるセイウンスカイ。
いつものふわふわとした雰囲気だが、抜け目のなさも感じられる彼女だ。
数か月の付き合いで既にお互い分かっているといったところ。
トントンと人差し指で机を叩いたあと、指を一本立てる。
話してくれたら、セイウンスカイからも情報を渡すという意思表示だろう。
情報収集の仕方が違う二人だけに有意義な情報が得られるのは分かっている。
そして勝利を目指すためなら最善を尽くすのがキングヘイローだ。
そのため、特に異議を唱えないまま徐に話し始める。
「……体育の動きを見た感じでは、グラスワンダーさんは差しか追い込み。エルコンドルパサーさんは自在の脚質を持つタイプでしょうね」
「本当?」
「ここで嘘をつくほど不義理じゃないですわよ。それにこちらはこちらで、信頼できる筋からいただいた情報なのだから感謝して欲しいくらいね」
セイウンスカイから見えないようにノートを開きながら観察した結果と、いくつかの情報筋からまとめた結果を話す。
あっさりと開示したことに相手は微妙に疑っていたが、「ふ~ん」と鼻を鳴らすと興味の持ったように拳一つ分だけ近づく。
「なるほどねえ……でも、随分と断言しているようだけど根拠は?」
「独自の情報網はあるけど、最終的な判断は勘ですわよ。空気を揺らすほどの末脚を持つグラスワンダーは、普段の様子も相まって基本的に前で争い合うタイプではない。エルコンドルパサーは、ハナをきるような動きもできるけど、とにかく柔軟性があるから幅広い距離に対応できる――知り合いにいますが
そう断言したキングヘイローだったが、実際のところ単純に勘だけが根拠ではない。
夏合宿で行ったレース鑑賞会――それが別の意味で役立っていた。
本来はレースに集中して雷などの外因的な事象を気にしないようにするトレーニングだった。
実際、多少ではあるが効果はあり、現在も悪天候の際はレヴァティにて鑑賞会を継続的に行っている。
もともと向上心や勤勉さが一際強いキングヘイローとあってか、レース内容もつぶさに記憶しており――――それがグラスやエルの能力を理解する判断材料となっていた。
セイウンスカイに勘と言ったのは、トレーニング内容を突っ込まれたくないための方便だ。
(まあセイウンスカイなら、そこら辺はさほど気にしないかもしれませんが。……それにしても)
問題は件の二人――グラスワンダーとエルコンドルパサー。
明らかに高い素養を持つ彼女たち。
それなりにウマ娘たちへの観察力を鍛えていたキングヘイローにとって、非常に厄介だと感じていたのはエルコンドルパサーの方だった。
エルを見て、連想するのはチーム<レヴァティ>の先輩――マヤノトップガン。
根本的な方向性や容姿は違えど、何となく
口にすると軽い言葉になってしまうのでセイウンスカイには言わなかったが、『天才』という表現が妥当だと感じていた。
(未だ底を見せないセイウンスカイだけでも頭が痛いのに、更に2人も強豪がやってくるとはね……)
トレセン学園でも通常やるような学校のカリキュラムが存在しているため、体育などの身体を動かす授業がある。
高速で走れるウマ娘同士とあって、それだけでも見ごたえのある試合になりやすい。
前の授業ではドッヂボールをやっており、グラスワンダーやエルコンドルパサーの同世代とは思えない俊敏な動きを外野からつぶさに観察していた。
二人とも手を抜かない、真面目な性格をしているのかもしれない。
対して授業でも、いつものふんわりポーカーフェイスを維持しているのがセイウンスカイという少女だ。
キングヘイローがセイウンスカイを警戒しているのは、適当に授業を流して自身の身体能力を隠すような素振りをしていることだ。
今も情報収集を欠かさず行っていることからも分かる。
ただ情報を集めてライバルの対策を取ろうとする思考が似偏っており、それがキングヘイローとセイウンスカイの仲の良さにも繋がっていたのだが、若い二人にはそこら辺のことは気づいていなかった。
キングヘイローが思案気に心の内で考えていたところ、セイウンスカイが声を出す。
「じゃあさ、提案があるんだけど」
「……何かしら」
いつもの眠たげなとろんとした瞳に、薄っすらと悪戯っ子のような表情を形作りながらセイウンスカイが口を開く。
「――本丸に二人で突入ってのは、どう?」
ニヤリと口元は三日月を描く。
ある晴れた日のこと、キングヘイローとセイウンスカイによるグラス&エルへの強硬偵察が始まる。
☆
「――――で、やることがボウリングってどうなんですの」
「まあまあ、キングヘイローって普段はあんまり人を寄せ付けない質でしょ? グラスたちも教室の隅にいる子と話したいなーって相談してたんだよ」
腕を組んで周囲を見やる。
場所はトレセン学園の付近にあるボーリング場の一つだ。
人間やウマ娘たちが楽しそうな様子で、ピン目掛けてボーリング球を転がしている。
二人が話しているのを他所に、本日招いた二人――今をときめく転校生、エルコンドルパサーとグラスワンダーだ。
今日は四人でボウリングをしにきていた。
物珍しそうにエルコンドルパサーが周囲を見回す。
「おおー、ここがジャパニーズテンピンボウリングの会場! ……あんまり大きくないデスね?」
「こらエル。規模はお店によって違うんだから変なこと言わないの」
「府中は都会と言っても規模に大小があるからねえ。そこら辺は勘弁して欲しいかな」
「……これもトレーニングになるのかしら?」
テンションが高めのエルコンドルパサーにグラスワンダーが手綱を握るように制御している。
それを見てセイウンスカイが苦笑いしているのを見ながら、トレーニングになるのかなとぼんやり考えていた。
本来はレヴァティでのトレーニングもあったのだが、坂戸に相談したところ「友人と交流するのも大事」だとして、軽めのメニューを行って切り上げている。
キングヘイローとしてはきっちり練習をこなしたいとの気持ちが強かったが、レース本番に向けての休養も兼ねていると諭されてしまっては仕方ない。
突如として空いた時間をセイウンスカイたちと過ごすことになっていた。
「それにしても」とキングヘイローが呟くと、振り向いたセイウンスカイに話しかける。
「セイウンスカイ、私は別に人を寄せ付けない雰囲気は出してないわよ」
「えーいつも休憩時間にノートを開いてメモを取ったり、勉強してたら誰だって話をかけ辛いよ?」
その返答になるほどと頷く。
ライバルの観察に、授業に、レースにと時間はいくらあっても足りない。
夏前なら多少は余裕もあったがメイクデビューも近づいているとあって忙しくなっていたのだ。
そういう意味ではセイウンスカイの指摘ももっともなのだが。
「ああ、そういうこと。でも私もやらなければならないことが多いので、善処しますとしか言えませんわね」
「遠回しに否定するねえ。キングヘイローって変なとこ頑固だよね」
「さてどうでしょうね」
何事もゆるくいくセイウンスカイと何事も真面目にこなすキングヘイロー。
彼女の突っ込みを適当に受け流す。
二人がいつものやり取りをしていると、その様子を見ていたグラスワンダーがくすりと笑う。
「ふふっ、御二人はとても仲がよろしいのですね」
「別に腐れ縁的な間柄だと思うけどなあ」
「倒すべきライバルなだけです。……この際ですからハッキリ言っておきますけど」
「およ?」
セイウンスカイだけでなく、グラスやエルの方にも語り掛けるようにする。
グラスワンダーに釣られるようにエルも視線を向けてきた。
「――この場にいる全員がライバル。来年には三冠ウマ娘の座を賭けて戦うのですから、覚悟しておくことね」
背筋を伸ばし、気合を込めるように勢いよく、びしっと指を差して宣言する。
トレセン学園には、同年代かつ多くのウマ娘たちがいた。
もしかしたら未だ現れない、強敵が潜んでいる可能性もなくはない。
しかしライバルのチェックを欠かさないキングヘイローが、現時点でピックアップしていて、競い合う好敵手――おそらく激戦を繰り広げると予想しているのは目の前にいる三人の少女たちだった。
突然のライバル宣言に、呆気に取られていた一同だったが、
「ふふっ♪ なるほど。キングヘイローさんがどういう方か何となく分かってきました。……でも私は負けませんよ?」
クスリとグラスワンダーが口元に手を当てて上品に微笑む。
教育の行き届いた、草原を思わせる優げな笑みだ。
しかし温和であっても闘志という雰囲気は誤魔化せない。
後ろに陽炎が揺らめくような独特のオーラを
続いて両目をマスクで覆っている少女――エルコンドルパサーも白い歯を見せて、快活そうな笑顔を見せる。
「熱いハートを持ったウマ娘のようデースね! で~も~……一番になるのはワタシですよっ!」
「望むところよ。でも最後にターフの一番先を駆け抜けているのは、このキングヘイローだけれどね!」
胸に手を当てふふんと鼻を鳴らす。
グラスとは打って変わってエルは分かりやすいほど勝気な表情だ。
強者の余裕と言ってもいい。自分の勝利を信じてやまない自信家。
それは自らの実力を頑なに信用しているからであり、ただの虚言の類ではない。
何処までも飛ぶように走り去ってやろうという矜持をキングヘイローは感じていた。
対するは強敵。
それは紛れもない事実で悩ましいもの。
しかし自然と口元には笑みを浮かべていた。
相手が強いということは、それを倒せれば自身の輝きにもなる。
いつかレースで戦うことを想像し、闘争心が湧いてきていた。
「燃えているところ悪いけど今からレースをするわけじゃないし、とりあえずボウリングで勝負しよっか」
「貴女は相変わらずマイペースですわね……」
「私がというより、キングヘイローが燃えやすい質なだけだと思うけどねえ。ほら早く靴とボールを選ばないと寮の門限になっちゃうよー」
三者三様の様相を呈している者たちを他所に、いつの間にか準備を済ませていたセイウンスカイ。
若干、気勢が削がれた気もするが気を取り直して準備に取り掛かる。
セイウンスカイと離れ、三人は室内に備え付けられている靴置き場で室内用のシューズに履き替える。
「――あ、そういえば言い忘れてましたわ」
「? どうしたんですか?」
グラスワンダーが声に反応する。
いそいそと履いている途中でキングヘイローは忘れていたとばかりに話し出す。
「今回のボウリングはグラスワンダーさんやエルコンドルパサーさんの身体能力を調査したくて、ボウリングに参加しましたので、一応伝えておこうかなと」
「……あら、それは話してもいいんですか。普通は秘密裏に調べようとするものですが」
「色々と裏で調査はしてきましたが、こそこそするのも馬鹿らしくなってきましてね。勝利のために最善を尽くすのが私の信条ですが、正面からぶつかって勝つ――それが一番気持ち良いやり方でしょう?」
あっさりと今回の目的をバラす。
キングヘイローの突然のライバル宣言に対し、真っ向から受けて立つ構えを見せた二人。
その二人に対し、変にこそこそしても悪い気がしたのだ。
もちろん勝つために必要な調査は継続するだろうが、内心を話してしまっても良いと思っていた。
少なくとも目の前のライバルたちは、いつだって正々堂々と戦うだろう。
それに恥じない自分でいたかった。
何より偉大な母親たちに胸を張って会えるように頑張りたいのだから。
「ふぅ~ん、キングヘイローは私たちを随分買ってるんデスねえ」
「当然。これでも強いウマ娘を見分ける嗅覚には自信があるもの。グラスワンダーさんとエルコンドルパサーさんが並大抵の相手ではないことくらい――」
「エル。エルで良いよ。長いでしょ?」
「……分かりましたわ。それにしてもエルさんは普通に喋れますのね」
変なイントネーションで「デスデス」喋る口調から一転して、普通の日本語らしい発音で喋れることに、思わず突っ込みを入れてしまう。
対するエルはてへっとわざとらしくおどけると、
「おっと。エルはアメーリカからの帰国子女なので、こっちでよろしくお願いしマース!」
「なぜ口調が――いえ、何か事情があるかもしれませんし、追及するのも野暮かしらね」
考えてみればツインターボという後輩キャラを作っている人物を思い出す。
もしかしたらエルコンドルパサー――エルにも理由があるかもしれないと考え、あまり深く考えないことにした。
「ふっふっふっ、それが賢明デース。これには山よりも低く、海よりも高い理由が――」
「エルは間違ったイントネーションで日本語を覚えてしまったので、単にそちらの方が話しやすいから喋っているだけですよ。公園の池のように浅い理由しかありません」
「アウチ!? グラス、いきなりバラさないでくださいよー!」
「キングヘイローさんの親切心を利用してイタズラしてはいけません。めっ、です」
両手の人差し指でバッテンを作りながら、グラスが子供を諭すような言葉で駄目出しする。
知り合いの突然の裏切りに、エルは観念したようにがっくりと肩を落とす。
「うぅ~ソーリー、まあそういうことデース……」
「いえ、私としてはどちらでもいいのだけれど」
口調に関する細かりあれこれを突っ込んでも仕方ない。
ただグラスワンダーにとってはあまり良くないことだと受け取っているらしく、しきりに謝っていた。
異国から来た二人とあってか何かと周囲に気を使っているのかもしれない。
そんなやり取りをしていると、
「三人ともー、待ちくたびれたんだけどー」
焦れたようにセイウンスカイが、自慢の尻尾でペシペシと壁を叩いている。
彼女なりの抗議のようだった。
肩を竦め、互いを見やる。
「ごめんなさいね――それじゃ、気を取り直してボウリングでも楽しみましょうか」
「そうですね。チーム分けはどうしますか?」
「時間もあまりないし、バラバラでいいんじゃない。ついでだから、負けた子はジュース奢るってのはどう?」
セイウンスカイがいやらしく笑う。
元々は互いに競争することで身体能力を調べる予定だったのだが、キングヘイローとしては純粋に楽しもうという方向にシフトしていた。
(セイウンスカイには悪いけど、私の中では今日はもうお開きな気分だから普通に楽しみましょう。トレーナーも、おそらくそれを望んでいらっしゃるでしょうし)
レースが一番とはいえ、学生同士。まだまだ学園生活は続く。
ライバルではあるが、ピリピリした関係よりも肩肘を張らずに済むだろう。
ボールを拭きながら遊ぶ準備をする。
奢るという単語に反応したのかエルコンドルパサーが右手を振り上げながら。
「それ良いデスねー、じゃあ早速やりましょう。キングヘイローもそれで良い?」
「もちろん。貴女たちとの前哨戦として、ボウリングも華麗な勝利で終わらせますわ」
「言いましたねー、絶対負けないデスよっ!」
「望むところっ!」
不敵な笑みを浮かべながらお互いに睨み合う。
勝負をするからには全勝するつもりで戦うのがキングヘイロー。
今日も今日とて彼女は勇ましく戦うのだ。
それを横目にセイウンスカイとグラスワンダーが話す。
「なんか気付かないうちに仲良くなったみたいだねえ」
「そのようですね。たぶんエルと気が合うのかもしれません。ああ見えて、エルは負けず嫌いですから」
「あー、それはキングヘイローと噛み合うかもねえ。負けず嫌いという言葉が服を着て歩いているのがキングヘイローだし」
芦毛の少女は噴き出すように苦笑いする。
数か月ほどの付き合いだったので、大体の性格は把握していた。
その言葉にグラスワンダーは少しだけ困ったように微笑む。
「ふふふ、本人に言ったら怒られますよ。……さて、私たちもやりましょうか」
「そうしよっか。色々考えてた気がするけど、今日はもうどうでもいい気分になってきたよ」
「? 何かあったんですか?」
「本当にどうでもいいことだから気にしないでいーよ。ほらほら始めよう」
四人はワイワイ騒ぎながらボウリングを楽しむ。
来年にはライバル同士。しかし今日はただの親しい友人として笑い合う姿がそこにはあった。
――ついでに碌にボウリングを経験してないのに、謎の自信で勝負を挑んだお嬢様が、ガーター連発で惨敗している姿も見られたがそこはご愛敬。
☆
そんなこんなの日々を過ごしていたキングヘイローであったが待ちに待った日が近づいていた。
正面で真面目な雰囲気を醸し出す坂戸トレーナーがおもむろに口を開く。
「――さて、マヤノトップガン、キングヘイロー」
「「はい!」」
「直に10月。レースが近づいてきた。これからは最終調整として強めにトレーニングを行っていくぞ! えいえい、おーじゃ!」
気合を入れるためか拳を天井に突き上げる。
マヤノは楽しそうに続いた。
「おぉーじゃ♪」
「おおーじゃっす?」
「お……おぉーじゃ……?」
「じゃ、は真似せんでもええ。とにかく特訓じゃ!」
「「「はい!」」」
マヤノはノリよくジャンプし、ツインターボは首を傾げ、キングヘイローは謎の振りに戸惑う。
一同が困惑する場面はあったものの、レヴァティは一丸となって更なる練習態勢に入り始める。
トレセン学園に入って数か月が経過していた時期。
キングヘイローのデビュー戦は着実に近づいていた。