GoGoがんばれ!ヘイローちゃん 作:竹林の春雨
「どんな敵でも戦うとは言いましたけど……これだけは嫌い――ひゃあ!?」
ピシャンと雷鳴が轟く。
東京に来たときから嫌な天気だとは感じていたが、案の定というべきか。
曇天は更に暗さが増して雷が鳴り響いていた。
キングヘイローは昔から雨や雷は大嫌いだった。
特にいきなり脅かすような雷は大の苦手で、大体セットでやってくる雨もまとめて嫌いになるほど。
幼いときから刷り込まれたせいで条件反射でびくついてしまう。
そのためトレセン学園の下調べをしようと考えていたものの急遽、予定を変更し、近くの喫茶店に逃げ込んでいた。
店内を見まわすと突如の雨と雷鳴に他の人々も足早に歩いていくか、近くの店に避難し始めている。
びっくりしたことからウマ娘特有の俊足で、真っ先に店内の席を確保できたことに少し安堵する。怯えた結果での席確保は怪我の功名とも言えた。
ただ腹の底からゴロゴロと響く重低音までは店も防げない。むしろ見晴らしがよく、ガラス張りで外からも良く見えるような構造になっているため、外の嵐が良く見えてしまう。
なのでせめてもの対策にと仕方なく、キングヘイローは出来るだけ外から遠い席に陣取るしかなかった。
(もう踏んだり蹴ったりですわね……雨が上がったらさっさと学園へ向かいましょう)
いつもは頭部の上でピンと直立する2つのウマ耳も、今はぐんにゃりと折れている。
そんな彼女のところに店員が近づいてくる。
日本人らしい黒髪を軽くサイドテールで纏めた普通の人間だ。
店員のお盆には注文していたコーヒーと苺のショートケーキがある。
「どうぞご注文の品です――注文は以上でよろしかったでしょうか?」
「ええ、ありがとう」
「はい、それではどうぞ、ごゆっくりおくつろぎください」
にっこりと温和な表情でお辞儀したあとカウンターへと戻っていく。
雷にもまったく動じない様子に軽く尊敬の視線を送ったあと、角砂糖を数個ほど入れてかき混ぜる。
コーヒーの香りに甘さが混じったのを頃合いに口を付けようとしたところ、入り口の方からカランカランとベルの音が鳴った。
また客が入ってきたのだろう。
キングヘイローは何となくそちらに視線を向けると、
「あ゛め゛ひ゛ど゛い゛よ゛ーーー!!」
「だ、大丈夫ですかお客様!? タオルを持ってくるので少々お待ちを」
「う、ん……店員さん、ありがどうぅ……」
濁点が付きそうな涙声で一人の少女がやってくる。土砂降りから逃げ遅れたらしく、服は雨をたっぷり吸いこんでおり、水が
気の利く店員だったからか、それとも濡れネズミな状態で店内に入られても困るからか。
入口の方に留まったままタオルで少し乱暴気味に自分の服を拭っていた。
頭部の耳と尻尾――ウマ娘のようだった。
青と白のラインが入った服装はトレセン学園の物だろう。
腰まで伸びたロングヘアーに、頭部も短く髪を2つ結んで垂らすツーサイドアップ。
髪は茶褐色のキングヘイローと違い、同じ茶色系統でも白を混ぜたような明るさ――キレイな栗毛の少女だ。
ただパッと見で見てもキングヘイローよりかなり身長が低い。
背の低さに童顔とあってまさに子供が泣いているといったところだ。
(まあ
トレセン学園の制服は気になるが、あくまで他人なことには変わらない。
縁があれば出会うだろうし、そうじゃないなら尚のこと気に留めても仕方がない。
我関せずとコーヒーを啜っていたところ目の前で人が立ち止まるのを感じた。
「あのお客様、少々よろしいでしょうか?」
「? どうしたのかしら?」
顔を上げてみると先ほどの店員だった。
しかし先ほどと違い、温和な笑みというよりは少し困っている様子。
怪訝な表情を浮かべるキングヘイローだったが、続きを話すように視線を向けると店員は意を決したように話しだす。
「実は店内の席が満席でして……」
「ええ」
「それで入口のマヤ――えっと、お客様が雨で濡れてしまったようなのです。実はこの席が一番暖房に近いのですが……」
「……ああ、なるほど。そういうことですか。良いですわよ」
「お手数かけまして申し訳ございません。ご厚意、ありがとうございます」
途中、呼び方を変えたことに少し疑問が沸いたが、話の流れからして相席を頼みたい様子だった。
丸形のテーブルには椅子が4つほどある。
他人が座ろうと気にすることはないだろう。
「ふぅ、どうやら縁がある方で――そうだわ、そこの店員さん。ちょっとよろしいかしら?」
「はい、何でしょうか」
「そちらの濡れウマ娘さんに何か暖かいものを。できれば甘くて身体が芯から暖かくなるやつを、ね」
「かしこまりました」
ふとした思い付きから相席になる人物の注文を頼む。
別に深い意図があったわけではない。
先ほどの様子から相席になる人物が騒がしそうな人柄に見えたため、飲み物でも飲んでいてくれた方が静かに過ごせると思ったからだ。
実家がお金持ちということもあり、彼女も一般人からすれば十分すぎるほどのお金は持たされている。
ケチケチするような感性は持ち合わせてなかった。
注文しながら自身の長い髪がコーヒーカップに当たりそうだったので、左の前髪を軽く払う。
曲がりなりにも美少女がやると絵になるもので少し視線が集まったように感じたものの、キングヘイローは気にした様子を微塵も見せない。
自分の容姿とプロポーションから注目が集まることは昔からなので慣れているのだ。
そういった整った所作も名家の令嬢として教育を受けた彼女だからこそと言えよう。
喫茶店内にある少し古めかしい時計に視線を向けると、入店してから20分ほど経過しているようだ。
雷雲が早くも上空を去っていったのか、今は雨粒が店のガラスを叩く音しか聞こえない。
耳を澄ますと客の雑談に混じって、落ち着いた曲調のBGMが流れている。
――雨音とクラシックを味わいながら飲み物を頂くのも悪くない。
そう思いながら目を瞑り、コーヒーの苦みと甘さを舌で転がしながら味わっていると、
「ふぁぁぁ~! おねーさんってとっても大人の女性って感じですごいねぇ~!」
「ん?」
甘ったるそうな子供っぽい声が対面から発せられた。
対面には先ほどのずぶ濡れになっていた少女が目をキラキラさせながらこちらを見ている。
彼女が座っている席は暖房に一番近い席で、温風を受けて長い髪が揺れていた。
甘い飲み物はまだ届いていない。
どうやら注文は間に合わなかったようだ。
まあ仕方ないかと思いつつ返答する。
「ん、そうかしら。あんまり意識はしていないのだけれどね」
「うわー、うわー! 凄いっ! なんかもうその余裕がすんごい大人な感じ! レディーっていうのかなっ?」
「そ、そうかしら? ふふーん♪」
「あれ、ちょっと子供っぽくなった?」
純粋に称賛されるのも悪い気はしない。というよりむしろ嬉しい。
ただふふーんと胸を張っていたら何故か逆に子供っぽいと言われてしまった。
しかし先ほどまで落ち込んでいた気分がプラス方向に急上昇したのは確か。ついでに何かしてあげようか、という気分になってきた。
そう思っていた矢先、目の前の少女からお礼の声が上がる。
「あ、忘れてた。席ありがとぉ~! とっても困ってたのっ」
「ふふん、別にいいですわよ。ノブレス・オブリージュというやつですわ」
「ノブ……おぶ?」
「ノブレス・オブリージュ、ですわ。『立場ある者、自身がそうであると思っている者は、それに見合うだけの立派な振る舞いをせよ』とでも思っておけばいいわ」
「なんか分からないけど、おねーさんがとぉっても格好いいのは分かった!」
「ええ、格好いいんですわ♪」
先ほど無視しようとした事実はさらりと流す。
キングヘイロー自身はそういった振る舞いをすべしとは考えてはいても、無暗やたらに手を貸すことを良しとしない性分でもあった。
(まああくまで自分の手が届く範囲で、それ以上はお節介。優しいだけが全てではないですし)
などと内心で己を納得させる。
それはさておき目の前の少女には語ったのだから名家らしい振る舞いをしようと考えていた。
「今日は気分がいいですし、ついでですわ。何でも好きなものを頼んでも良いですわよ」
そんな言葉がキングヘイローの口から自然と出ていた。
少し褒められただけで気分がよくなり奢る――とてもちょろいお嬢様だった。
その言葉に目の前の少女は目をまん丸にしながら驚く。
「えぇっ!? で、でもでもっ、相席して貰っただけでもありがとーって気持ちなんだけど……」
「相席になったのも何かの縁、遠慮はご無用ですわよ。それにお金ならたーっぷりありますからね。このブラックカードがあれば!」
すっと自分の鞄に手を入れた。
ブラックカード――大金持ち御用達の買えないものはないとまで言える最高位のカードである。
ただし一口にブラックカードと言っても色々な種類があるのだが、自分の持っているカードが何かまではイマイチ理解していなかったりするが。
普通ならそんなカードを不用意に子供に持たせるべきではないのだが、彼女はこれでもお金の使い方に関しては両親にとても信頼されていた。
(ふふふ……なにせ使用額のトップがガラナだから!)
なぜか脳内ではドヤ顔気味だった。
単純な話、ドレスなどのお金がかかりそうなものは全て用意されていたため特に使い道がない。
それ以外の遊興費も大体、両親同伴のため無駄使いがほとんどなかった。
基本的に興味の対象がウマ娘たちが走るトゥインクルシリーズに集中しているため、さほど金のかかる趣味を持たなかったからとも言える。
そんなこんなで人差し指と中指に挟むように出したのだが、
「おぉ~、それが噂のぶらっくかーど……でも黒くないよーな?」
「…………え?」
目の前の少女から疑問の声があがる。
その言葉に嫌な予感が脳裏をよぎった。
手にしたカードをゆっくりと見てみる。
銀色と緑と、そしてよく分からないアニメ絵。
先ほど駅で地面に叩きつけた忌々しい偽カードだった。
地面に叩きつけたとはいえポイ捨てはいけないと結局、拾ってカバンの中に入れっぱなしにしていたのだ。
キングヘイローはその事実に思い至り、硬直。
少し冷や汗を流しながら、どう答えるか数秒悩んだ結果――「ていっ!」とテーブルに叩きつける。
駅と同じようにぺしっと気の抜けた音が出た。
そして彼女が出した答えは、
「――――これはメンコですわっ!!」
「ぶらっくかーどってメンコなの!?」
トンチンカンな答えに、相手も変な受け取り方を見せたのだった――
☆
先ほどの間違いをなんとか誤魔化し、散々失敗の元になっていた偽カードを捨てようかとこぼしたところ、
「カワイイから欲しい!」
という少女の発言から、ジョークグッズであるカードを譲渡していた。
別段、失っても惜しくないものなので渡りに船だった。
時間は更に経ち、雨は既に小康状態。ほぼ止んでいると言っても差し支えないだろう。
どうやら質の悪い雨雲による一時的な雷雨だったらしい。
なればキングヘイローがカフェに留まる理由はない。
さっさとトレセン学園に向かえば良かったのだが。
「それでねそれでね! ワタシ、ここの喫茶店のジョーレンなのっ。ここってウマ娘だと、ちょっとしたサービスが受けられるからお得でおススメだよ!」
「なるほど。さすが天下のトレセン学園のお膝元、ウマ娘相手のサービスなんてものもあるのね」
「そうそう、ここら辺はそーいうお店が多いからウマ娘なら要チェックだよ! ちなみにここのお店は喫茶店ティンカーベルっていうの!」
「ふむ妖精の名前から取っているのかしら。アンティークや店内の装飾も凝っているようだし、なかなか良いお店みたいね」
2人はなし崩し的に話し込んでいた。
事情を知らない人からすれば仲の良い友達同士に見えるだろう。
目の前の少女はニコニコしながら矢継ぎ早に話題を出し、キングヘイローがそれに返答するといった形になっていた。
「うんっ! 確かウマ娘ちいきしんこー組合、だっけかなぁ? そういうところに入ってないといけないんだって」
「ウマ娘地域振興組合ねぇ……よく分かりませんけど、そういうものもありますのね」
何故こんなことになっているのだろうという疑問はあるものの、府中を詳しく知らないキングヘイローからすれば彼女の話は興味を引くものであった。
またそれとは別に少女の人懐っこさも原因だろう。
名家の令嬢として過ごしてきたキングヘイローにとって彼女のようなタイプは非常に珍しい。というよりも初めてだ。
基本的に令嬢同士の会話はおっとりとした調子で、ひと呼吸置いて話し合うことが多い。
どちらかというと我が強いタイプという自覚がある自分であったが、パーティの会場でそれを表に出すことはまずなかった。
本来ならこういったグイグイくる手合いは相性が悪いのではとも思っていたのだが、
(こういうのを『ウマが合う』とでも言うのかしら?)
ふと昔ながらの言葉を思い出す。
『ウマが合う』とは人間たちが発祥元である
当事者であるウマ娘たちからすると不思議な言葉なのだが、人間たちからするとウマ娘たち同士は非常に仲が良いと思われていた。
ウマ娘と言う種族自体がお互いに険悪な関係になることがあまりないのだ。
当事者たちが仲が悪いと言っても、人からすると喧嘩するほど仲が良いという風に受け取られる場合もある。
また彼女たちは出会った当日でもすぐ仲良くなることも少なくない。
それこそ前世で何かあったのではないかとまことしやかに囁かれるほどだ。
そういったオカルト的なものをキングヘイローはあまり信じていなかったのだが、
「少しだけ見方を変える必要があるのかしらねえ」
「? どうしたのおねーさん?」
「いえ何でもないわ。ちょっとした感傷の念を抱いていただけよ」
「おぉ……なにやら大人の貫禄が見える気がする」
打てば響くと言うのだろうか。
ころころと表情が変わる少女との会話はなかなか楽しいものであった。
そうして時間を忘れるほどの会話を重ねていたのだが、終わりの時間もまたやってくる。
会話をしている最中にキングヘイローは何気なく外を眺めてみる。
すると外が薄暗くなっていることに気付いたのだ。
「あら?」と声を挙げた。
「いけませんわね。約束の時間を過ぎてしまうわ」
「おねーさんどうしたの……あれ、外暗くなり始めてる!」
「さすがに話し込みましたわね。ちょっと急がないと」
「ごめーん! まさかこんなに話し込むなんて……」
「別に良いですわ、楽しかったもの。でもこれ以上はさすがにいけないわね。会計はこちらでするから、貴女は早くおうちに帰った方がいいわ」
「うん、ありがとう、おねーさん……それじゃーねー!」
彼女も慌てているのだろう。お礼もそこそこに見事な俊足で外を駆け出していく。
人にぶつからないか不安になるレベルだったが、府中のことも詳しかった少女だ。
おそらく大丈夫だろうと考える。
そんな後ろ姿を見送ったキングヘイローだったが、ちょっとしたミスに気付いた。
「そういえば名前を聞くのを忘れていましたわ。……まあ、いいでしょう。どのみち騒がしい子のようですし、すぐに出会うでしょう」
仲良く話していたのにお互いの名前を聞くのを忘れていた。
その事実を忘れていたものの後悔はしない。
あんな、騒がしい少女なのだ。トレセン学園に行けば、すぐに出会えるだろうと思っていた。
会計を済ませ、カバンを持ち直す。
薄闇の空の合間から星々が瞬き始めている。
その様子をじっくり楽しみながら歩けないことに少し残念な想いを抱きつつ、彼女は小走り気味にトレセン学園へと向かい始めた――のだが。
「――――ッ!?」
最初は突風が吹いたのかと思った。
違う、風ではない。風が人型をしているわけがない。
彼女を追い越すかのように何名かの黒髪っぽいウマ娘たちが颯爽と追い抜いていったのだ。
(速い!? もしや私よりも――)
思考が追いつく前に彼女たちは既に去ったあとだ。
薄闇ではあったが白と青の制服はよく映える。
間違いなくトレセン学園の生徒――喫茶店の少女と同様、ただ寮へ帰ろうと急いでいたのだろう。
しかしキングヘイローの目にはしっかりと刻まれた。
「強敵、ですわね」
駅ですれ違った少女もそうだった。
そして喫茶店での少女も浮ついた気分ではあったが、冷静に考えるとかなりの潜在能力を持っているように見えた。
キングヘイローの前に立ちふさがるであろうウマ娘たちの存在。
いずれレースで戦うであろうことを想像し、彼女は口元を薄く三日月にさせる。
「やってやろうじゃないか、ってやつですわ」
気合を入れ直し、彼女もまた小走りでトレセン学園へと向かうのであった。
☆
「これでよし、と。荷物が多いと大変ですわね……」
「荷物が多すぎたかしら」と内心思いつつもキングヘイローは額を拭う。
トレセン学園へ着いた時には陽が沈みかけていたが予定の時間ギリギリには間に合っていた。
初日から遅刻していては家の名前に傷がしまうかもしれなかったので、ホッとしたものだ。
寮長というフジキセキ先輩――黒髪に前髪の一部が白い『流星』とも呼ばれる髪色を持ったウマ娘から軽い説明を受け、現在は自室で荷解きがひと段落ついたというところ。
次の日にはクラスへ転入する予定だった。
ここまで多少のドタバタはあったものの問題なく到着できたわけだが、少しだけ悩みもあった。
「狭い、ですわね。荷物が多いとか関係なく、部屋自体が物理的に」
彼女が入った
内装は2人部屋ということで、ベッド、机、小物入れ、椅子、クローゼットなどが2つずつ。ついでに共用だと言わんばかりに小さな冷蔵庫が1個。
あとは洗面所やトイレ、小さなお風呂。お風呂に関しては他にもウマ娘用の大浴場があるとのことだった。
スペースとしては8畳から10畳といったところか。
実家の自室に比べると三分の一か四分の一くらいの狭さだ。
幸いもう一人の住人はまだ決まっていないようなので、今のところキングヘイローが全て使える状態。
自分の荷物はできるだけ自身のベッドの方に押し込めておいて、収まりきらなかったら空いているベッドも使わせて貰おうと考える。
「制服はともかく私服はいくつか送り返さなきゃいけませんわね……食器などもかさ張るわ。ふぅ、しばらく忙しくなりそうね」
分かっていたこととはいえやることが山積みで少し面倒な気持ちが沸く。
ただ同時にふつふつと込み上げてくる想いもある。
今日出会ったような強敵たちを打ち負かす自分の姿を。
そして観客がキングヘイローの名を呼ぶと共に拍手喝采を送る光景を。
考えるだけでいくらでも気合が入ってくる。
「明日から始まるのね――キングヘイローの伝説が! おーっほっほっゲホゲホッ!? た、高笑いって何気に難しいですわね。とりあえず今日やるべきことは終わりましたし、喉が渇いたから何か飲み物を――」
勝利したときにと練習していた高笑いを盛大にしくじりせき込むキングヘイロー。
涙目になりながら段ボールを開けていると、小さいながらもひと際想い箱を見つける。
中を覗いてみると案の定というべきか。赤と黒の装飾が特徴の缶ジュースがズラっと並んでいた。
(今日はガラナを飲んでさっさと寝ましょう。明日も早いですし)
さすがに長距離の旅で疲労が溜まっていたのか、身体の芯から重い感覚を覚える。
旅行から帰ってきたとき特有の何もしたくなくなるタイプのだるさだ。
冷えてはいなかったものの氷は用意していたので、グラスに注いで一気に飲み干す。
何か忘れていた気がしたが気にしない。
大変な旅だったので自分へのご褒美だ。
その後は風呂も手早く済まし、洗った髪も乾かし、歯も磨いた。
パジャマ姿になったキングヘイローはそのまま電気を消し、自分のベッドに潜り込む。
「お母様たち……お休みですわ……」
そのまま静かに眠り、明日への英気を養う。
そのつもりで彼女はゆっくり睡魔に襲われて寝る――
――――――はずだったが一時間経っても寝れなかった。
全力で寝ようと思うと逆に色々脳内で考えが、浮かんでは消え、浮かんでは消え、まったく寝れる気配がしない。
むしろどんどん覚醒していく感覚すらあった。
原因は明白。いくら何でも寝る前に飲んじゃいけないものだってある。
(……ガラナのカフェイン効果を忘れてましたわっ!? いえ、1本程度のカフェインなら慣れてるし問題ないはず。……あのティンカーベルとかいう喫茶店でコーヒーをたくさん飲んでいたのが原因かしら)
間違いなく、それに違いない。
慣れない旅と、話に花が咲いたせいで油断してしまっていた。
あの少女と話し込む過程でかなり注文していたのが明らかに原因だろう。
人知れず悶絶した彼女がようやく眠れたのは2時を過ぎ、3時に回ろうかという時刻。
――翌日、当然のように寝過ごしたキングヘイローだったが、遅刻ギリギリとはいえ学園に間に合ったのは奇跡という他なかった。
しかし彼女が最初に乗り越えるべき強敵は、その日に何度も襲い掛かる睡魔だったのは大きな誤算であった。