GoGoがんばれ!ヘイローちゃん   作:竹林の春雨

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皇帝成分多め


皇帝と青雲と天真爛漫少女と

 青空の下。トレセン学園、芝のコースで体操服を着た2名のウマ娘が競り合うように激走していた。

 

「まだっ! こんなところでっ! 負けるわけにはいかないっ!!」

「うわわわ!? ヘイローちゃんすっごーい!」

 

 片方はキングヘイロー。普段の余裕は何処へやらとばかりに汗を流しながら全力で疾走している。

 もう片方は綺麗な栗毛の少女。約2週間ほど前に喫茶店で出会った少女だった。冷や汗を流しながら背後から迫ってくるキングヘイローに驚愕している。

 

 ――何故、キングヘイローがコースで走ることになっているのか。

 それは時を遡り、その日の午前中にまで巻き戻る。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 青と白のラインの入ったトレセン学園の制服に身を包んだキングヘイローは、とある扉の前で緊張した面持ちのまま、右手を軽く挙げて扉を叩く。

 コンコンコンと小気味よく叩くと室内から「入れ」と声が聞こえたので、ゆっくりと扉を開ける。

 

「失礼致します」

「来たか。そこに座ってくれ」

「はい、それでは……」

 

 腰まで伸びた鹿毛のロングヘアーに、前髪は左右に黒、中央が白色という少し珍しい髪色。

 しかし腕を組んだ姿は威厳という言葉が似合うほど堂々とした姿だった。

 可愛いというよりは、凛々しさや雄々しさを感じる威風堂々とした出で立ち。

 トゥインクルシリーズを知っている者なら、まず知らない者はいないであろう人物。

 

「三冠ウマ娘であるシンボリルドルフ先輩に御呼びが掛かるとは光栄ですわ」

「トレセン学園においては生徒会長という役回りだがな。ダンシング家のご令嬢にして一粒種である、キングヘイロー女史。ようこそ、トレセン学園へ。全国でも有数の規模を誇る学園だけに見るべきところも多いだろう」

「そうですわね。さすが日本中のウマ娘が集う場所――強者も多いようで」

 

 シンボリルドルフ――その圧倒的な強さのレースぶりから『皇帝』とまで称されるウマ娘の中でも最上位の実力を持つ人物。

 キングヘイローがまだ幼かったころ。母から自分の年代についての忠告を受けたとき、『絶対者』という言葉を使っていた。それはまさに目の前の女性にこそ使われる言葉だろう。

 『レースに絶対はないが、ルドルフには絶対がある』――目指すべき頂があるとすれば、それは彼女と言っても過言ではない。

 

「日本中とは言っても地方のトレセン学園へ向かう者もいるがな。とはいえトゥインクルシリーズを勝利するために、虎視眈々と狙っている者も多いのは事実だ。……そうそう言い忘れていたが、入学者には一人一人面接してはいるんだがな。この時期は人が多いため、君は二週間遅れの面接になってしまった。済まないな」

 

 肩を竦めながら苦笑いするルドルフ。

 トレセン学園は通常の学園と違ってウマ娘たちが不定期に入学することが多い。

 本来なら一括で預かれればいいのだが、学園への入学は同時にレースへ出走することを意味する。

 高速で走ることができる彼女たちのレースは最悪、死亡事故がないわけではない。

 そうした事情からウマ娘の成長具合やレース適正なども審査しながら随時入学許可が降りる体制になっていた。

 キングヘイローも例に漏れず、5月の頭に入学している。

 そういった事情を知っていたので愛想笑いしながら気遣うように返した。

 

「いえ、お気になさらずに。興味深い施設も多いので一通りチェックしていました。むしろ学園に慣れるために丁度いいタイミングだったと思います」

「君も既に他者と切磋琢磨するために動き始めていると言ったところだな……まあ世間話はここまでにしておこうか。他の者にも聞いているが、学園などについて何か質問はあるかね。将来の不安などがあるなら、ある程度のアドバイスはできるが」

 

 トレセン学園にやってくるウマ娘は寮生活をすることが多い。

 近所なら家から通う少女もいるが、2000名以上のウマ娘が所属するマンモス校の府中トレセン学園はそれだけ人気が高い。

 それは同時に親元を離れてやってくる少女たちも非常に多いということで、新しい生活に不安を抱くウマ娘も少なくなかった。

 

 生徒会長であるシンボリルドルフはそういった少女たちのケアもしているのだろう。

 とはいえ元からレースに勝利するために来ているキングヘイローにそういった不安はない。

 むしろワクワクしているくらいだ。

 そのため彼女は元から用意していた質問をする。

 

「凱旋門賞について質問があります」

「…………凱旋門、か。世界に於いてもっとも権威あるレースのひとつ。国を超えた多種多様なウマ娘たちが、その栄光を掴まんと夢見る賞だな」

 

 何か思い入れがあるのか、あるいはさしもの皇帝も凱旋門への並々ならぬ拘りがあるのか、一呼吸おいたのちに反応した。

 それはキングヘイローにとっても他人事ではない。

 毎年、多くの世界屈指の実力と言われるウマ娘たちが集う祭典――凱旋門賞。

 ウマ娘に限らず、ホースマンなら一生に一度はそのレースでの優勝に関わりたいと願ってやまない偉大なレースだ。

 

 日本では誰一人そのレースで勝利した歴史はない。

 なればこそ手に入れたいと願うのは必然。

 アメリカで生まれ、イギリスを主戦場にしていた母、ダンシングブレーヴ。

 世界一尊敬してやまない彼女が勝利した凱旋門賞――その娘であるキングヘイローがその栄光を手に入れたいと望むのは当然の流れだった。

 

「このトレセン学園から凱旋門賞への挑戦はできるのか、それが聞きたいのです」

「できるかできないかで言えば、できる。しかしその条件は非常に厳しいぞ」

「分かっています――その条件とは?」

 

 キングヘイローが気持ち拳に力を入れつつ、シンボリルドルフを真剣な表情で見つめる。

 何がなんでも聞きたいという姿勢に相手はゆっくりと話し出す。

 

「細かい条件については長くなるので割愛するが、当然ながらまず実績だ。多くのレースで優勝しているか、少なくとも上位の着順についているのが最低条件。ただ絶対条件ではないのだが、通例としてGⅠウマ娘であることが暗黙の了解となっている。君が凱旋門賞に出場したいなら最低でもGⅠで1勝、できれば2、3勝はしておかないと厳しい。無論、勝てば勝つほど出走に有利なのは間違いない」

「当然ですわね。1920年から続く、長い歴史と伝統がある世界最高峰のレース。GⅠウマ娘でなくては出れないのは分かっています」

「そして、そこにトレーナーの問題が絡んでくるので注意が必要だ」

「なぜトレーナーが……?」

 

 それまで余裕の態度を見せていたキングヘイローが初めて動揺する。

 トレーナーがなぜ関わってくるのかという疑問だ。

 実績があるウマ娘なら誰だって凱旋門賞に送りたくなるものではないのか。そんな疑問が顔に出ていた。

 それを知ってか知らずか、シンボリルドルフは静かな様子で説明する。

 

「ウマ娘の管理、育成は資格を持ったトレーナーの責務だ。もし海外遠征をしたいと言ってもトレーナーが絶対拒否の構えをしたら従うしかない」

「ある程度、理解があるトレーナーの下に付け、ということですか……」

「その通りだ。私が所属しているチーム<リギル>などは、そこら辺に理解があるからまだやりやすいがな。君も興味があるなら入ってみるといい。定期的に試験を行っているので、それをクリアできれば入ることができるぞ」

「学園最強と呼ばれるリギルへの加入は、もちろん検討していますわ――それ以外に問題は?」

「あとはトレーナーの手練手管次第だな。……あまり公言したくない事実だが、腕利きのトレーナーは自身のチームのウマ娘を特定のレースに捻じ込むことが上手いらしい。大々的にマスコミへアピールを行うことで委縮した敵陣営の出走取消を狙ったり、根回しを巧み行う者がいたりと様々だ。当然、凱旋門賞ともなればそういった政治手腕とも言うべき、駆け引き上手のトレーナーなら出走権をもぎ取れる可能性も高くなる」

「なるほど……」

 

 若干、苦虫を噛み潰したように語るシンボリルドルフ。

 正道を往く彼女の美学としてはそういった小狡いやり方は好まないのかもしれない。

 ただキングヘイローの印象は少し違っていた。

 

(勝利するために万策を期す……当然ですわね。そういったトレーナーが見つかればいいのだけれど)

 

 勝利こそが頂点にあり、万策は尽くすべきだ。

 もちろん卑怯な真似を推奨しているわけではない。

 スポーツを題材にした物語の中には敵が闇討ちしてきたりなどするものもあるが、キングヘイローにとってそれは唾棄(だき)すべき行いだ。

 

 正々堂々と戦い、他者を圧倒するからこそ勝利という言葉に意味があると固く信じている。

 しかし人事尽くして天命を待つという言葉があるように、彼女は勝利するために全力を尽くしたい。そしてトレーナーも一緒に万難(ばんなん)を排しつつ、勝利に執着できる人が望ましい。

 そんな想いからキングヘイローは次の質問が口に出る。

 

「話を変えるようで申し訳ありませんが、トレーナーについて質問があります。ウマ娘のトレーニングは彼らがいないと基本的に行えないというのは事実でしょうか?」 

「事実ではあるが、事実でない部分もあるな。自動車並みの速度で走れる、我らウマ娘の監督や責任はトレーナーの資格を持つ者。そしてウマ娘たちのレースなどに関わるトレセン学園側にある。何かしら事故が起きてしまった場合、その責任はトレーナーと学園側が負う、ということだな。ゆえにウマ娘たちは基本的には彼らの指導方針に従う義務が生じる。彼らがウマ娘だけでも大丈夫と判断すれば、トレーナーがいなくても練習を行うことはできるといった具合だ」

「条件付きで自主練習は可能、と」

 

 権利を持つ者は、責任も生じるという話だ。

 責任の所在がハッキリしているからこそ、トレーナーにいくつかの権限が与えられているのだろう。

 そしてウマ娘も安心して、それに従うという構図だ。

 シンボリルドルフの話は続く。

 

「トレーナーはトレセン学園側にウマ娘の訓練計画を提出する必要がある。いつ、どのルートを走るか知らせることで、事件や事故あるいは不慮な出来事に対応するためだ。トレセン学園周辺には交通標識に『ウマ娘注意』の看板が立っていて、周辺住民に注意喚起を行っている。そのルートでの事故は歩行者にも責任が生じてくるといったところだ」

「正にウマ娘と人間たちが寄り添う街といった具合ですのね」

「そういうことだ。これからも未来永劫、人とウマ娘が手を取り合っていくためのな。……他に質問はあるかな?」

「聞きたいことは聞けましたから、これで……あ」

 

 これからどう動くべきかの指針は立てた。

 今すぐにでも行動しようか考えていたキングヘイローだったが、あと一つだけ頭に浮かんだ疑問があった。

 それは先日、喫茶店での出来事。トレセン学園の生徒らしい少女とした会話での疑問である。

 どうせなら聞いてしまおうと彼女は質問する。

 

「ウマ娘地域振興組合なる言葉を耳にしたのですが、どういう集まりなのか(うかが)っても大丈夫でしょうか?」

「珍しい質問だな。……時にキングヘイロー、君は自身の容姿についてどう思う」

「? 綺麗で美しいと思いますが」

 

 不可解な質問にきょとんとした様子で返す。

 ある意味、自信過剰ともナルシストとも言える返答だがシンボリルドルフは気にしていない。

 彼女に限らずそれは周知された事実でもあるからだ。

 

「そうだ、ウマ娘たちは総じて眉目秀麗(びもくしゅうれい)――少なくとも人間たちの価値観では容姿の平均レベルがかなり高いという評判らしい。そんな周囲の耳目を惹きつけてやまないウマ娘が店にいるとしたらどう思う」

「質問の意味が分かりかねますが……まあ、そこら辺の調度品よりもはるかに良いのではと」

「それが問題になってしまう場合もある。ウマ娘相手に過度のサービスを提供して店に来てもらう。するとそのウマ娘目当てに客がくる、いわば客寄せパンダならぬ客寄せウマ娘になってしまう。いち早くそうしたサービスを提供した店は当時、大いに賑わったそうだ。それを他所が真似し始めたせいで一時期問題が起きたんだ。過剰なサービス合戦の結果、地域経済がダメになりかけたという過去がな」

「しょ、商魂(たくま)しい話ですわね……」

「ああ、本当にな。最初に始めた店主の一人は純粋にウマ娘のファンだったらしく、彼女たちが喜ぶ姿を眺めたかったという理由だったらしいが……世の中どう転ぶか分からないものだ」

 

 賢いというべきか、商人魂が凄いというべきか。

 どういう顔をしていいか分からず、口元をひくひくさせた。

 まさか客であるはずのウマ娘を看板娘――悪い言い方をすれば釣り餌にして、人間のお客を釣るような真似を考える者がいるとは良く考えついたものである。

 

 喫茶店ティンカーベルだっただろうか。

 あそこのお店もそういった狙いがあったのかもしれない。

 実際、キングヘイローは気にしてなかったものの、終始視線を感じていたのは事実だった。

 

「そうした過剰競争を抑止するために、トレセン学園が旗振り役となって発足したのが『ウマ娘地域振興組合』という組織だ。これは地方のトレセン学園でも同様のものがある。内容はサービスを行う店の認定や提供するサービス額、ウマ娘への過度な接触行為の制限といったところだ。あとはさほど説明すべき点はないのだが、なにかあるかな」

「いえ大丈夫です。疑問が解消できてよかったですわ。ありがとうございます」

「何、気にしないでいい。生徒たちあっての生徒会長だからな」

 

 そう語るとシンボリルドルフは僅かに笑みを浮かべる。

 堂々とした姿。女性でありながら格好良さと美しさは普通のウマ娘ではなかなか出せない。正に三冠ウマ娘の貫禄と言えよう。

 そうした姿は同性であるキングヘイローでも一瞬引き込まれそうな魅力があった。

 しかし自身の容姿にも自信がある彼女。

 

(まあ私も負けていませんが)

 

 などと内心で思っていたりもしたが。

 そのあとは軽い挨拶の後に生徒会長室を退室する。知るべきことは知った。

 湧いてくる闘志を抑えるために、左手を軽く顎に当て思案する。

 一度目を閉じ、瞑目。落ち着けるように息を吐き、目を開く。彼女の瞳に迷いはなく、真っすぐ前を見据えていた。

 やるべきことはただ一つ。

 

「チーム選び、ですわね」

 

 不敵な笑みを浮かべて廊下を歩いていく。

 元々入学初日から各チームの下調べは付いていた。

 あとは実際に見学してトレーナーをじっくり選んでいけばいい。

 方針が定まった彼女は高鳴る期待感を胸に歩き始めた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 キングヘイローが去っていった部屋の一室。

 静かになった室内でシンボリルドルフが独り言ちる。

 

「キングヘイロー――ダンシングブレーヴの一人娘、か。……彼女とは、いつかレースをしてみたかったものだな」

 

 どこか遠くの景色を見るような目をしながらシンボリルドルフは静かに言葉をこぼす。

 昔、勝負できるかもしれない夢の対戦カードがあった。

 しかしその夢は叶わず流れてしまったレース。

 もしロンシャンのターフでぶつかればどちらが勝利できたのか。

 それは当人に限らず、多くの関係者やファンが激論を交わす永遠の議題でもあった。

 その娘が凱旋門について聞いてきたときは若干だが動揺してしまったものだ。

 「だが」と彼女は続ける。

 

「ダンシングブレーヴ――静寂にして大嵐というべき鬼才と他者を圧倒する雰囲気。だが親と違い子にそこまでの覇気は感じない。しかし三日会わざれば、という言葉もある。果たして彼女がどういう軌跡を描いていくのか……興味深いな」

 

 どこか懐かしげに、しかし寂しげに。

 シンボリルドルフは眼下に見える生徒たちの姿を眺めながら嘆息する。

 彼女の複雑な胸中が晴れることはなかった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 本日の授業が終わり、チームが決まったウマ娘たちが教室を出ていく。

 意気揚々と歩きだしたキングヘイローもチーム選びをしようと回っていた。

 しかし現在は食堂の片隅で、チームの一覧が書かれているパンフレットを眺めながら、眉間に(しわ)を寄せている。

 なぜそうなったのかと思えば、

 

「これ、というものがありませんわね」

 

 キングヘイローのお眼鏡に叶うチームがまったく見つからなかったのだ。

 各チームごとに練習場所がある程度決まっている。

 それを把握していたので予定していた順番にチームを見学していったのだが、ピンとくるチームが見つからない。

 既に10チーム。自分の中でのハードルが高いつもりはなかったのだが。

 

「チームメイト、トレーナー、チーム方針、設備、実績……全てが揃っているのがリギルしかない。でも試験日はまだ先だから入ることもできない。なにやら時間を無駄にした気がしますわ」

 

 指折り数えながら条件を精査する。

 もしやハードルが高すぎるのか――そんな考えもよぎる。

 しかし妥協はしたくない。

 一生に一度の大きな選択になるかもしれないのだ。

 チームに所属しなければトゥインクルシリーズに出れないと分かってはいるものの、真剣だからこそ決断は慎重に行わなければならない。

 パンフレットと睨めっこしていた彼女の横から声が掛かる。

 

「ふぅ~ん、随分悩んでいるようだねえキングヘイロー」

「何事も真剣に取り組むのは当然でしょう――セイウンスカイさん」

 

 おっとりと言うよりは、どこか雲のように掴みどころのないのんびりとした口調の少女がキングヘイローの左側から発せられた。

 白に近い芦毛(あしげ)に少しだけ青空の色を混ぜたような不思議な色合いの髪色。うなじが隠れる程度のセミショートだ。

 同じクラスの同級生。しかし密かにキングヘイローが警戒している人物だ。

 

 服装はキングヘイローと同じくトレセン学園の制服に身を包んでいる。ただキングヘイローと違って片手に体操服を入れた布袋を持参していた。

 それを目ざとく気付いたキングヘイローが問いかける。

 

「そういう貴女はチームを決めたんですの?」

「フィーリングが大事だからねえ。入学した次の日にはこれだー、と思ったチームに入ったよ~」

「入学した次の日!? つまり2日目には決めていたと」

「うん。だってチームに入らないと練習時間が限られちゃうし、どうせなら早く動いた方がいいでしょ。ほら先んじれば人を制すっていうし」

「ぐ、ぐぬぬ……」

 

 のんびりしながら即決した同級生に対し、密かにライバル心が沸く。

 

(人となりが掴みづらいですけど警戒すべき相手ね。テストで「勉強してないよー」とか言いながら高得点を挙げる手合いだわ)

 

 少なくとも現時点では彼女が先を行っているのが現実だ。

 同時に慎重になりすぎてる自分を叱咤激励する。セイウンスカイの判断は実に合理的だ。

 見習うべきところがあるのも事実だった。

 でも悔しさからちょっぴり歯ぎしりするキングヘイローを他所に、彼女は時計を見ながら「練習の時間だ」と呟く。

 

「それじゃあ、練習の時間だから行くね~。ヘイローちゃんも頑張れー」

「分かってますわよ。あと私の名前はキングヘイローですわ」

 

 「もう、細かいなあ」と苦笑いしながらセイウンスカイは去っていった。

 テーブルに座ったままのキングヘイローは顎に手を当て、少し悩む。

 こうしている間にライバルたちはどんどんチームを決めていき、トレーナーたちから指導を受けていく。

 しかしトレーナーの質や性格が自分に合うものでなくては、指導された時間もロスになってしまう可能性もある。

 

 即決か、慎重か。

 悩んだ彼女が立ち上がり、まずは行動すべきと判断する。

 

「期日を決めましょう。今日明日は精査する時間――合うチームがあれば良し、無ければリギルを選ぶ方向で動く」

 

 選択としては中間といったところ。

 万全を期す選択が誤りだったとは思わない。

 他人は他人。自分は自分。

 柔軟に対応するのが良作と判断した。 

 そして早速動こうとした彼女だったのだが。

 

「あー! やぁっと見つけたー! おねーさん久しぶりぃ~っ!」

「あら、貴女は喫茶店の」

 

 底抜けに明るい口調の声が食堂の入口から発せられる。

 相も変わらずロングヘアーにツーサイドアップという出で立ちの少女。

 キングヘイローより頭一つ分くらい低い小柄な体格――喫茶店ティンカーベルで出会ったウマ娘だ。

 天真爛漫という言葉が似合う彼女はニコニコしながらキングヘイローへと駆け寄った。

 しかしその動きは俊敏。風を感じたかと思うと、あっという間に距離を詰めている。

 あちこちから「きゃあ!?」「うわ、なに!?」と驚く声が出ていた。

 

(速い!? やはりこの子も――)

 

 自分がいる場所と入口はそこそこ離れている。そしてその間には自分たち以外のウマ娘も歩いていた。

 しかし室内で他のウマ娘が驚いてるのを他所に、衝突することもなく変幻自在とも言うべき柔軟な動きで難なくキングヘイローの前までやってきていた。

 

 自分の予想が間違っていなかったことを確信する。

 セイウンスカイなどと違って意図的に実力を隠しているような素振りは見せないが、動きひとつとっても才能を感じさせるものがあった。

 そんなキングヘイローの内なる心を気にせず、相手は弾んだ声で話しかけてくる。

 

「お礼を言うのを忘れてたし、名前を聞くのも忘れてたから、ずぅーっともやもやしっぱなしだっだよぉー」

「わ、私も同感ですわ。せっかく恩を売ったのに、お返しを頂けないなんて損なだけですし」

 

 動揺した心を落ち着かせるように少し強気な発言で返す。

 右手の甲を腰に当て、左手は顎に軽く触れて偉そうなポーズを決める。

 話しながらふふんと悪戯っ子のような笑みを浮かべた。

 軽い冗談だ。

 相手もそれが分かっているらしく、笑顔は変わらない。

 

「ほんとおねーさんはおねーさんだねぇ。あっ! マヤノの名前はねっ、マヤノトップガン! おねーさんのお名前は?」

「……キングヘイローですわ。以後、お見知りおきを。それでどうしたんですの」

「あー、えっとね、うんっとね。おねーさんさえ良ければうちのチームに招待したいなぁ~って!」

「チーム、ですか」

「うんっ♪」

 

 マヤノトップガンと名乗った少女は太陽のように明るい笑顔を浮かべながら元気よく返事をする。

 キングヘイローの長い一日はまだ終わらない。

 




生徒会長の面接は世界観の説明やウマ娘がいたらこんな出来事があったんじゃないかという小ネタを入れるのに丁度良かったので会話多めのお話

シンボリルドルフの年齢いくつだよってツッコミがきそうですが
実際の競走馬と違ってみんな長く走れそうなのでベテラン対期待の若手(ルドルフ)みたいなカードがあったんじゃないかなという妄想でやっています

文字数が想定以上に増えたので冒頭のレースは次回へ
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