GoGoがんばれ!ヘイローちゃん   作:竹林の春雨

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中途半端な時間ですがどうしても27日に投稿したかったのでギリギリ投稿


三人目のメンバーとキングヘイローの疑問

「――で、貴女がレヴァティの新規メンバー、と」

「いやあ、どもっすどもっす。まさかお姉さんも同じチームなんて、世間も狭いっすねえ」

 

 呆れた様子で腕を組んでいるキングヘイロー。

 目の前には昼休みに出会った少女。

 特徴的な青ゴーグルに、茶褐色の前髪がそれを覆い隠すようにしている。

 耳には白と緑の縞々ラインが入ったウマ娘用の耳カバーを付けていた。

 

 パッと見の姿は内気そうな出で立ちだが、それに反比例するかのような明るい口調。

 人懐っこい容姿そのまんまのマヤノトップガンとは明るい雰囲気という共通点はあっても、見た目は大きく異なっている。

 一風変わったウマ娘という様子だった。

 

 場所はチーム<レヴァティ>の拠点である貸しビルの一階。

 時間は本日の授業が終わって練習時間が始まるまで、まだ余裕があるといったところ。

 新入りが来るとあってキングヘイローは早めにビルへ訪れていたが、坂戸とマヤノトップガンはまだ来ていない。

 いつも通りの癖で、すぐ練習ができるように半袖とハーフパンツスタイルの体操着に着替え終えたところ、例の新入りが来てしまったという状況だった。

 

 昼に遭遇した生徒が、今日から入部する予定の生徒と同一人物など出来過ぎている。

 ただ偶然というのもおかしい気がしたキングヘイローが「もしかして」と声を漏らす。

 

「確かあのあたりの道はレヴァティへ行く道以外は、あまり利用しないと考えると……」

「あ、お姉さん察しいいっすね! 実は昼休み中にちょっと下見しようと思っていたんすよ。レヴァティってチームの活動場所が分かりづらいっすし」

 

 案の定というべきか。

 実際、当のキングヘイローもマヤノトップガンに誘導されなければ滅多に足を運ばない道。

 初めてレヴァティに来たときも困惑するくらいだった。

 

「……やはりね。ということは昼間に騒いでいたのも」

「たぶんお察しの通り。道中で例のゴールドのやべーやつに補足されたせいで、逃げ回ってたというオチっす」

 

 チーム<レヴァティ>への道はちゃんとした道はあるものの特徴的な施設があまりない。

 草木があるばかりなので、自然と使用するのは関係者に絞りやすかった。

 たまに業者が利用する場合はあるものの、昼に活動する企業の多くは昼食にあたる時間なため、時間帯的にもやはり利用するものは少ないだろう。

 

 そのことを知っていたキングヘイローが静かに読書をしていたところ、自分が入部する予定のチームを下見するために来ていた少女が、ステイゴールドに絡まれて騒ぎになったという図だ。

 種を明かせば偶然性が強いとはいえ、なるほど筋は通ると納得する。

 

 青ゴーグルの少女は首を傾けて顔面を覆っている前髪の隙間から、ニカッと笑顔を浮かべて握手を求めてくる。

 

「まあそんなわけで、今日からよろしくっす!」

「ええ、よろしくお願いしますわ――私はキングヘイローよ。長く感じたらヘイローと呼ぶといいわ。貴女の名前は?」

 

 それを握り返しながらキングヘイローは名前を名乗った。

 それに相手も応じる。

 

「うちの名前はツインターボっす! これからよろしくっ。でも怖いのは苦手なんで、ご指導ご鞭撻はほどほどでお願いするっす」

「それはトレーナーの領分だから直接お願いすることね」

 

 人差し指を口元に当てながら苦笑する。

 ツインターボと名乗った少女は相変わらずオーバーアクション気味にコツンと自分の頭を叩きながら、「あちゃ~それもそっすね!」と笑う。

 マヤノトップガンといい、目の前の少女といいやたら明るいウマ娘に縁があるようだった。

 

 

 

 トレーニングなどはどのみちトレーナーが来なくては始まらない。

 そして当の坂戸トレーナーは、他のスタッフと会議をした後でやってくる。

 普通ならそれまでは事前に渡されたメニューをこなしておけば良かったのだが、新しい子が来るという予定の関係で、今日は全員が集まったあとに細々とした連絡事項が渡される予定だった。

 

 もう一人のメンバーであるマヤノトップガンは当直とのことで、遅くなるという話も聞いている。

 しばらくはツインターボと一緒にのんびり待つしかなかった。

 現在はいつものビル一階フロアの隅っこにある休憩所にくつろいでいた。

 

「……そういえば、最初に会ったときから疑問があったのだけれど」

 

 無言で待っても仕方ない。

 しかしお互い何も知らないので話題も提供しにくい。

 そんな空気のなか、キングヘイローはちょっとした疑問があったので、この際だからと聞いてみることにした。

 

「? なんすか? 気になることは遠慮なくズババーっと言ってもらえると助かるっす」

「では遠慮なく言わせてもらうと――その『っす!』って口調は素なのかしら?」

 

 最初に出会った時から不思議だった。

 後輩っぽい口調といえばそれまでなのだが、日常でそこまで強調する人もいるかというと少ない。

 別に他人の口調をどうこう言える立場ではないのだが、やたらと『っすっす!』連呼されるのをキングヘイローは地味に気になっていた。

 その言葉にツインターボは両手を頭の後ろに組んだままあっけらかんとした様子で、

 

「あーそれはうちが後輩キャラをウリにしてるからっすね。つまりワザとっす! す!」

「キャラって……なんだかあっさりと白状しましたわね」

「別にそれほど隠しているわけじゃないっすけどね。ただまあお姉さんみたいに火の玉ストレートで聞く人も珍しいっすね。普通はそういうキャラなのかなーって流してくれるっすし」

 

 キャラ作りの一環であるとあっさり話すツインターボに、キングヘイローは呆れ気味だ。

 ただ気になるのは、なぜそんなことをしているのかということ。

 

「普通に話してもいいのではなくて? 同じチームだし、変に隠し事しなくても大丈夫よ」

「ん~……そういうのとも、ちょっと違うといいますか。ちょっと聞きたいんすけど、お姉さん的にうちの見てくれってどう思うっすか?」

「見てくれといいましても……」

 

 何が言いたいのかイマイチ要領を得ない。

 目の前の少女――ツインターボの特徴といえば、青いゴーグルと長い前髪でそれを覆うように伸ばしているロングヘアー。ただパッと見の素顔は純朴そうな少女だ。

 美人顔のキングヘイローと子供らしさと愛らしさが同居するマヤノトップガンと比較しても遜色ない美少女。

 口さえ開かなければ清楚なお嬢様としても通るものだろう。

 

 残りの特徴といえば、マヤノトップガン以上に低い――おそらく130cm台であろうかなり小柄な体格。小学生の高学年でも、ここまでの低身長はなかなかいない。

 観光地なら子供料金で通っても、間違いなく誰も文句を言えないレベルだ。

 ただ体格などはデリケート話題なので、分かりやすい方から聞いてみることにした。

 

「そうね、青いゴーグルとかかしら。日常的に着用する子は珍しいと思うけれど」

「おっとそっちにいったっすか。これに関してはレース用と普段使い用の両面っすね。一挙両得、一石二鳥、二兎を追う者は一兎をも得ずっす」

「言いたいことは分かるけど、最後の諺は間違いよ」

「あれまっす」

 

 立て板に水と言わんばかりにペラペラと喋るツインターボ。

 キングヘイローの指摘にも、気にした様子はなくおどけた調子でゴーグルをピンとはじく。

 ゴーグルは今現在もずっと着用中だ。

 「蒸れないのかな?」という疑問も沸いているが、そこら辺まで指摘しても仕方ない。

 とりあえずと続きを聞いてみる。

 

「とりあえずレースは分かるけど、普段もそのゴーグルって必要なのかしら?」

「う~んなんと言ったら良いっすかねえ……。不肖、このツインターボ――実はレースが大の苦手なんすよ」

「そうなの? 社交的だし、むしろ目立つことが好きなようにも見えるけど」

「ウイニングライブでわーきゃーするのは好きっすよ。観客もツインターボのことを見ながら笑ったり、笑顔で声援を送ってくれるので好きっす。……ただ、それ以外の要因がありましてねえ」

「要因?」

「試合前の他のウマ娘たちの視線っすよ。こう闘志メラメラで『殺ってやんぜ!』みたいな空気がちょー苦手なんす。針のムシロ状態で、あれだけはムーリーっす。しまいには普段のウマ娘の視線も気になってしまうんで、普段から前髪を伸ばしてゴーグルも付けて視界を狭めるようにしてるんすよ。ものもらいを防ぐ意味もあるっすけど」

 

 肩を両手で抱くような仕草をしながら身震いをする真似をしていた。

 レースを実際に体験していないキングヘイローにとってはあまりピンとこない。

 他人の視線は集めたい性分なので尚のことだった。

 マヤノトップガンとの併せトレーニングのような感覚だったら、むしろ闘志が湧いてくるだろう。

 

「その感覚は正直よく分からないけど、そういう方もいますのね…………ん?」

「どうしたんすか?」

「いえ、ふと疑問が……ちょっと待って。うん、少しだけ待って頂戴」

 

 頭に手を当て深く考える。

 何か大きな見落としがある――それも割とつい最近にも遭遇した出来事。

 最初は喉に小骨が刺さったような、何とも腑に落ちない違和感だった。

 当たり前のようにツインターボとレースの話をしているという事実に疑問が大きくなる。

 

 相手は小学生並みの小さい女の子。

 そんな相手が普通にレースについて語っているということは。

 

「あ、あのつかぬ事をお聞きしてよろしいですか?」

「どうしたんすかお姉さん。そんな震えた指でうちを指して」

「…………もしかしなくても先輩じゃありませんの」

「あれ? 分かってて接してたんじゃないっすか?」

「あぁ……またこのパターンですか……」

 

 ズーンという効果音が付きそうなテーブルに突っ伏してしまう。

 マヤノに続いて、またしても年下に見せかけた先輩の登場だ。

 ついでにお姉さん呼びも一緒。

 

 いや、違和感は確かにあったとキングヘイローは思い直す。

 問題があったならともかく普通に円満解決でのチームの移籍。入ってすぐ移動したい新入生なんて、あまりいないだろう。

 普通に考えればチームに入ってそれなりに経ってから移籍しようと考えるはずだ。

 そのことに思い至らず、何となく下級生に対して接するような態度で話していた事実に恥ずかしくなってくる。

 

「ど、どうしたっすか!? いきなりテーブルに突っ伏して平気っすか、体調大丈夫っすか!?」

「い、いえ別に。ただてっきり後輩か何かかなと思って接していたので……申し訳ありませんわ」

「あーそういうことっすか。別に良いというか、むしろ後輩キャラを前面に推しているんで先輩扱いされると違和感あるんすよねえ」

「しかし――」

「気にしない方がいいっす。というか、ツッコんで欲しかったのは、この低身長のことの方っすし」

 

 そう言いながらツインターボはぺしっと自分の頭を叩く。

 彼女からするとそういった関係はあまり気にしないのかもしれない。

 マヤノトップガンといいフレンドリーな先輩ばかりだった。

 ただキングヘイローからすると母親の教育もあり、上下関係はきちっとすべきという考えが念頭にあるのだが、どうにも先輩にあたる方々が軒並みそれを気にしない。

 

(どう対応するかは今後の課題にするしかありませんわね……)

 

 言葉はもっともらしいが結局のところ問題の棚上げだ。

 しばらく接しながら臨機応変に対応するしかない。

 そう考えつつ、彼女が言った低身長について聞いてみる。

 

「それで、その……身長が低いことに何か問題があるんですか?」

「いやぁ~別にデリケートな話題ってわけでもないんで、気にしなくていいっすよ。ただこんなチビッ子ななりなんで、先輩や同年代からやたらとマスコット的な扱いをされるのがあって」

「ええ」

「それでうちも別に子供扱いするなーみたいな反発するキャラじゃない。なら後輩っぽい振る舞いした方が軋轢(あつれき)もないし、先のゴールドみたいな厄介事に巻き込まれても割と庇って貰えるわで、損が無いわけっす」

「ああ……なるほど、得心いきましたわ。確かにそれなら分かります」

 

 ツインターボなりの処世術ということなのだろう。

 納得いったようにキングヘイローは頷く。

 先輩ながら小柄な体格のマヤノトップガンも他のウマ娘たちやファンのウケが良いという。

 本人の社交性やプライドも関係するが、気にしない質なら反発しない方が楽というのも納得できる。

 

 また小学生みたいな姿の体格的に不利であろう少女が、精一杯頑張ってレースを駆け抜ける姿は、弱い者が努力するという王道ストーリーにもなっており悪くない。

 

(日頃からそういう後輩気質な態度を取っているなら、肩肘を張るような対応は苦手なのかもしれませんわね)

 

 やはり納得がいくのは良いものだ。

 心に変なしこりが残らなくていい。

 河原で丸太を埋め込むような理解できない行動をするタイプと違って、気兼ねなく接することができる。

 昼間の噂話を思い出しながら、うんうんと頷いているとツインターボが「それに」と話す。

 

「……同部屋の子も後輩言葉が可愛いって褒めてくれるっすからね。止める理由がないっす」

「? まあ同じ部屋の方もいいというなら、尚のことということですね。とりあえず普通に接するようにさせて貰いますわ」

「それでお願いするっす、ヘイローお姉さん」

「……頼みますから、その呼び方だけは止めてくださいまし」

「えー、お姉さんオーラぷんぷんなのにっす」

 

 若干引っ掛かるものがあったものの、お姉さん呼び阻止の方が重要だったのでキッチリ釘を差す。

 先輩から姉呼ばわりなど変な噂が立ったら溜まったものではない。

 マヤノトップガンといい、なぜそうまでして呼びたがるのか分からない。

 少し肩を下げながら溜息を吐いていると、入り口から底抜けに明るい声が響いてきた。

 

「やっと終わったよぉー当直。ヘイローちゃんいっるー……て、あれっ?」

「どうやらマヤノ先輩が来たようですわね」

「あっ、もしかして新しい子!?」

 

 正面玄関から入ってきたマヤノトップガンは目ざとく見慣れない来訪者を見つける。

 喜色を帯びた声を上げながら、いつもの俊敏な動きで一気にキングヘイローたちがいる休憩場所まで一息に詰め寄った。

 傍目からは黄褐色の栗毛の残像が左右に動いたと思ったら、すぐ目の前にニッコリ笑顔で立っている状態だ。

 

 彼女曰く「考えるよりも足が先に動く」らしく、興味が沸いたものにはダッシュで近づいてしまうらしい。

 もう見慣れてたものだが、彼女の動きに横にいたツインターボが「はや」と小さく声を漏らす。

 それを尻目にキングヘイローは落ち着いた様子で紹介する。

 

「ええ、ツインターボという方らしいですわ。小柄ですが私より先輩のようです」

「うわー、うわー! どうもマヤノはマヤノトップガンでっす! よろしくねぇー♪」

「どもっすどもっす。うちはツインターボっていうケチなウマ娘っす。ご指導ご鞭撻、ほどほどにお願いするっす」

 

 テンションの高いマヤノの自己紹介に、ツインターボも負けじと明るく返す。

 しかしそれを見たマヤノトップガンは人差し指を口に当てながら不思議そうな顔を浮かべる。

 

「……ん? んん~~~?」

「どうかされたんですかマヤノ先輩」

「んーなんかねー、ちょっとねぇー」

「なんか気になることでもあるっすか?」

 

 そのままマヤノはグルっとツインターボの周りを一周しながら観察する。

 梅雨の匂いがくっついてきたのか、ふわりと草木の匂いが後を引いた。

 

 相手の不思議な行動にはさしものツインターボも困惑気味だ。

 そうして一周し終わった彼女は正面から、新しい入部者の顔を覗くと。

 

「わざと後輩っぽい振る舞いしてる? 演技?」

「ちょいと奥さん、この方いきなり見破ってきてるんすけど、どういうことっすか!?」

「だからなぜ奥さんなのかしら……」

 

 あっさりとツインターボの後輩キャラを見破ってくるマヤノトップガンに驚愕していた。

 ただ、どういうことと言われても説明しようがない。

 おそらく彼女の嗅覚が何かを察知したのだろう。

 あるいは天然キャラゆえに人工的な、演技臭さでも感じ取ったか。

 

「まあ、マヤノ先輩はマヤノ先輩だからとしか言えないわね」

「マジっすか。恐るべしマヤノ先輩っす」

「先輩ってツインターボちゃんの方が先輩さんだよね?」

「更に見抜かれてるっす!」

「ちょ、ちょっと待ってください。ツインターボ先輩ってマヤノ先輩の更に上なの?」

「うん。だってシニアクラスのレースで見たことあるし、マヤノたちはジュニアクラスだから確実に上だよぉー?」

「至って普通の理由だったっす、ガッデム!」

 

 マヤノのもっともらしい指摘にオーバーアクションで驚くツインターボ。

 キングヘイローはキングヘイローで、小学生染みた姿の新入りが自分たちより更に上の先輩であるという事実に少し引いていた。

 

 トレセン学園には大別して二つのクラス――ジュニアクラスとシニアクラスがある。

 ジュニアクラスは入学してからトレーニングを重ね、一番上の歳になると東京優駿こと日本ダービーや菊花賞などのレースに出走できる。

 年齢制限があるため、一生に一度しか挑戦できない重要なレースだ。

 

 対してシニアクラスは、そのジュニアクラスが行うクラシック戦線のあと、自動的に上がるクラス。

 ダービーなどのジュニアクラス限定戦でレースはできないが、天皇賞などの別の格式あるレースに出走できるようになる。

 

 ツインターボがシニアクラスということは、キングヘイローにとっては最低でも歳が2つ以上離れているということも意味していた。

 また教育課程も変わってくる。

 

「ということはツインターボ先輩は大学課程を履修中ということですか?」

 

 ジュニアクラスを終えれば高卒扱いとなる。

 そしてシニアクラスになれば大学生扱いとなり、それぞれ専門の分野を習うことができる。

 

 ただしキチンと単位を取らないと卒業はできず、また単位取得の難易度は比較的高い。

 入試さえ通れば楽と言われる日本の大学と異なり、入ってからが難しいと言われるアメリカの大学がモデルケースとされているのが大きかった。

 入学時期がバラバラだったり、長期間大学を離れることも良しとする気風も同様だ。

 

 そんなトレセン学園での大学課程。ツインターボは笑顔で答える。

 

「そっすよ。うちは医療学科を専攻してるっす。将来は見た目、小学生ロリ女医としてメスを振りまわすっすよ!」

「それを実際にやったら将来着る服は白衣じゃなくて、縞々の囚人服になりますわよ」

 

 まるで殺陣(たて)を行うかのように振り回す動作をするツインターボに突っ込みを入れる。

 それ以前にサイズが合う白衣があるのかすら疑問だ。

 特注すればいいだけだがキングヘイローの頭の中では、白衣を引きずりながら歩く姿が目に浮かぶ。

 入院しているお爺さん、お婆さんにから飴玉を貰っている光景が容易に想像できて苦笑する。

 

「その目は分かってるっすよー、お医者さんごっこでもするのかって言いたいんすね!」

「さすがにそこまで考えていませんわよ……そういえばマヤノ先輩は大学課程はどうされるんですか?」

「ん、マヤノのこと? どうしよっかなぁ」

「露骨に話題転換してくるっすねぇー……」

「はてさて勘繰りすぎだと思いますわね」

「じとーっす」

 

 ジト目のツインターボを余裕の表情で流しながらマヤノトップガンの方に話題を振る。

 女三人寄れば姦しいとはまさにこのことか。

 初対面ではあるが人懐っこい少女が2人に、話の舵を切るのが得意な1人とあって話に花が咲いていた。

 悩んだ素振りを見せたマヤノトップガンだったが。

 

「うーんやっぱりアイドル学科専攻かなぁー。歌って踊るの大好きだしっ♪」

「ウイニングライブ中心の課程っすね。トレセン学園やレース関連の学科と二分する人気課程っす。お姉さんはどうなんすか?」

「だからお姉さんは止めてくださいと……まったく。そう……そう、ですわね。私は――――」

 

 ツインターボから投げかけられた質問。

 すぐ答えることができるはずなのに。

 

 ――私は何を目指しているのだろうか?

 

 ふとした疑問が彼女の口の動きを止めていた。

 まるで死角から殴られたような錯覚を覚える。

 

 レースに勝利してキングヘイローの名を知らしめる――それは絶対条件。

 しかしその後は?

 

 何になりたいのか、何者になりたいのか。

 レースだけを見据えて生きてきたキングヘイロー。

 

(私は……私は?)

 

 自信を持って、胸を張って、言えるはずだ。

 何事にも全力で取り込んできたのだから、選択肢は多く持っている。

 ずっと努力し続けてきたのだから。

 しかし答えることができない。

 なぜか気安く答えを出してはいけない気がした。

 同時にハッキリとした答えは既にあった気がした。

 

 ――そうだ、あのときの。マヤノトップガンと走った光景にこそ意味がある。もう自分の行くべき道筋は知っているはず。

 

 突如として答えに詰まった彼女に相対する二人の少女は不思議そうな顔を浮かべる。

 その感情のままキングヘイローが口を開こうとしたとき、

 

「済まんのう、今来たぞー! 新入りさんは来ておるかのう」

「あ……」

「あ、はいっす! ツインターボ只今参上っす!」

「マヤノもいるよぉー!」

「…………全員いますわよ、トレーナー」

 

 遅れてやってきた坂戸の登場でそれも霧散してしまう。

 他の二人も元々雑談の延長だったのだろう、話はそこで終わった。

 

 キングヘイローもいつもの様子に戻り、頭を軽く振ったあとトレーナーの元へと歩いていく。

 胸に溜まるもどかしさを感じながらも、彼女は持ち前の強い意志で、はっきりとしない感情を有耶無耶にする。

 

『レースに勝利することこそ絶対』

 

 そう愚直に信じ続けてやまない理由。

 まるでしがみ付くような想いを内心に残したままだった。

 




祝!福永祐一騎手、19回目の挑戦で悲願の日本ダービー初制覇!

ダノンプレミアムは怪我の影響など不安があるし、2400mのレースにも勝ってるブラストワンピースあたりが来るかなあとぼんやり見てたら
まさか外からワグネリアンが差していくとは…
競馬に限ることではありませんが挑戦し続けた人が報われる光景を見るのはやっぱり貰い泣きします


【ツインターボについて】
オリジナルのウマ娘
大負けしてもそれも含めて本人なりに芸風にしているウマ娘
宴会なら進んで盛り上げ役を買って出るタイプ

個人的に好きな馬なので出しました
たぶん公式でも高確率で出そうな気がしますがキャラが違っててもご愛好ということでひとつよろしくお願いします



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