「------!」
声なき悲鳴をあげ、骨の兵士が崩れ落ち、そしてそれが完全に崩れ落ちる前に隣にいる骨の兵士も頭を一閃され、本来の動かざる死体へと戻される。
「数が多いなぁもう!はあああああ!」
裂帛の気合いとともにナツミの持つ剣から蒼い奔流が溢れ出し振りぬいた先のスケルトン達をばらばらに吹き飛ばしていく。その勢いは防御の姿勢を見せたスケルトンをも抵抗なく押し潰しやがて魔力の奔流は勢いを衰えさせ、霧散していく。周囲には相も変わらず燃え盛る炎とそして自壊する建物の崩落音だけが辺りに響くだけになった。
「ふぅ」
(こっちの世界でも問題無く力は使えるみたいね)
愛用の剣、サモナイトソードを腰に戻し、ナツミは一息入れた。
「みんなどうしたの?」
ポカンとした様子でナツミを窺う少女3人にナツミはそう問うた。
「す、すごい」
「うん。すごいねマシュでも……」
マシュが素直に感動し立香がある事に気づく、そしてその立香が気づいたことに同じく気づいたオルガマリーがプルプルと肩を震わせていた。
「なんで接近戦なのよ!あなた召喚師なんでしょ!サモナーなんでしょ!?」
マシュ達から遅れること数秒、まるで込めていた力を開放するかのごとく叫び声をオルガマリーはあげた。
「え?いや、その通りだけど、なんで怒ってるの?」
ナツミの召喚後にその魔力に釣られて現れた動く骨兵ことスケルトンを鎧袖一触とばかりに屠ったはずなのに何故か怒鳴られナツミは思わず後ずさる。筋が通らない怒りをぶつけられている自覚はあるが、そのあまりの剣幕は幾度となく苦難を乗り越えたナツミをしても真正面から対峙したいとは思えぬそれだったのだ。
『あー会話の途中からだけどごめんね。ちょっと良いかな』
「え、あぁロマニさんですか」
「ちょっと!私がしゃべって……」
『はいはい、良いたいことは分かるからとりあえず静かにしてくれたまえ。話が進まないからね』
ヒートアップが止まらないオルガマリーの言葉はカルデアからのロマニとダヴィンチからの声によりなんとか中断された。
未だにそこらの廃墟からの熱波が止まぬ、現状においてオルガマリーのヒステリーはさすがに堪える。暴走を止めてくれた二人にナツミは心中で礼をした。
『えーと、とりあえずこちらとしては最初にナツミちゃんの戦闘スタイルを聞かなかったのが悪かった。召喚師と聞いていたからこちらとしては盾役であるマシュが前衛を務め、その間に召喚術を行使してもらおうかと考えていたんだ』
それは自己紹介の際にナツミは自分を召喚師だと言っていたのがそもそも齟齬の原因だった。だが、それも今後の方針を決められればその場で齟齬に気づけたのだが、不幸にも莫大な魔力をまき散らして現れたナツミに周囲の異形達が気づかないわけがない。
そして自己紹介もそこそこに始まった戦闘が阿吽で行われるわけがない。多人数を一人で操作するシュミレーションゲームじゃあるまいし、だれもが自身の意志を持つ中で相互の連携がすんなりと行くほど現実は甘くなかった。
戦闘が始まった瞬間、まず最初に動いたのはナツミだった。しかも全力で無数に蠢くスケルトンの集団に淡白く澄んだ剣を抜くや否や蒼い光をぶっぱなし先頭の集団をダイレクト散骨させると、返す刀で次から次へと骨片へと変えていく。その速度たるや四マス移動……ではなく目にも止まらぬとはまさに事のこと。
スケルトン達も反撃しようとするが、その抵抗は実ることない。まさに骨折り損である。
そしてマシュ達、カルデア一同はモニターをしている者たちも含め、その光景に目を奪われていた。
だが、一転して戦闘が終わり冷静になってみるとある疑問が彼らに浮かんだのだ。
あれ?召喚士って言ってなかったけ?
『召喚術ってこっち世界じゃ使えないとかじゃないよね?』
「……え?」
召喚士と言っておきながら召喚術を使わないナツミ対して皆が思い浮かべた疑問は当たり前すぎた。何事にも例外は確かに存在する。時計塔の魔術師だって接近戦を得意とする異端が少数だが存在する。だがそれだって接近戦様の魔術を開発しているからだ。
故に、異世界の理で構築された召喚術がこちらの世界では使えず、ナツミは仕方なく接近戦をしたのだと彼らは考えた。しかしながら、それも無理からぬ想像だろう。何処の世界に召喚士と名乗っておきながら召喚もせずに接近戦を仕掛けるものがいるというのだ。
「いや、普通に使えますけど……んーロックマテリアル、プチメテオ!」
その言葉とともにズンっ!と虚空から現れた数メートルは優にある岩が道路の真ん中に突き刺さる。
「使えるじゃない!どうして召喚術を使わないで接近戦するのよ!普通は召喚体に戦わせて、自身は後方支援が召喚士の戦闘スタイルでしょ!」
「そんな事は無いと思うけど?」
『リィンバウムではそれが当たり前なのか?』
『いや、彼女レベルの接近戦を後衛がするのが普通だったらとんでもない世界だよそれは』
小首を傾げるナツミを尻目にカルデアのサポート担当の二人ははるか遠い世界であるリィンバウムに思いを馳せ顔色を青ざめさせていた。
しかしながらリィンバウムは彼らが思うような修羅の国では断じてない。無論、召喚獣という名の幻獣やら鬼神やら破壊兵器やら神やら悪魔やらが跋扈しているだけだ。
リィンバウムでは召喚自体は程度の差こそあれ誰でもが可能な技術である。だが召喚獣と誓約できるのは召喚士だけなのだ。だから騎士であったり盗賊であっても召喚術を行使すること自体はなんらおかしいことではない。
しかし正規の召喚士の方が当然高レベルの召喚術を行使することができるのもまた事実である。故に専門に召喚術を学ぶ召喚士は極々稀な例外を除いて接近戦はあまり得意ではない。つまりロマニ達の認識は至って普通である。
ずばりナツミが異常なのだ。元からなのか、それともエルゴの王に選ばれた際に身体能力が向上したのかは定かではないが、上級の悪魔と普通に切り合えるのだから接近戦が不得手とは口が裂けても言えないだろう。
「何が有るか分からないし魔力は温存した方が良いでしょ?」
「う……せ、せめて接近戦が出来ることくらいは伝えてよね!見てのとおりこの子は盾持ち、明らかに前衛だから召喚士だっていうあなたを守るように動こうとしてたのよ」
「あぁ、それはえっと、ごめん」
いつも通りに戦闘したナツミだが、まわりと自分の環境の解離に気づくと素直に謝る。確かに後衛だと思っていた仲間がいきなり前衛に躍り出ればそれは困惑するだろうと納得したためだった。
「で、とりあえずどうすれば良いの?」
「だから……」
『話が進まないからそこまでだよ』
「う……ぐ、そうね」
絶妙なダヴィンチの合いの手に口ごもったオルガマリーだったが、若輩でも一機関の責任者という立場故の優秀さか、軽く咳をするとまるで別人にでもなったかのように冷静さを取り戻す。
「とりえあず、リンカー、ナツミの戦闘力は意図しないこととはいえ今の戦闘で分かりました。マシュの防御力はまだまだ未知数ですが、とりあえず当座は凌げると判断します」
「えっと、では」
「ええ、このまま特異点の原因の特定、可能ならばその原因の除去を行います。ドクター聞こえる?」
『え、ああ、聞こえてますよ所長』
「そちらで魔力サーチは出来そう?」
『可能です。まだ爆発の影響で機能に制限はありますが、ある程度時間をもらえれば問題ありません』
魔術師らしく思考を切り替えたオルガマリーはロマニとともに今後の方針を練り始めた。大枠は実際に運用するはずだった方針に沿うようだが、人数が足りない事も考慮し、原因の特定を目的に定めるというものだった。
「なんか難しい話だね」
「分からないことは聞いて下れば私が答えますね」
「ありがとマシュ」
ナツミと立香は最初から話に入れず、そんな二人を嬉しそうに介護するマシュ。とても周りが燃え盛る緊迫した状況と思えない空気が三人を包んでいた。
――――――
そんな空気の隙間を抜けるように、それは放たれた。
それが狙いを定めるは明るい髪をした朗らかな少女。銀髪の少女は魔力が高く佇まいからそれなりの魔術師と知れた。サーヴァントと思われる銀髪の少女は盾を持ち防御に秀でているだろう。やや茶色がかったショートヘアの少女は意味不明な程に魔力が高い。そして残る少女は一番隙が大きかった。彼女自体には脅威を感じないが、彼女はサーヴァントと契約しているマスターだ。サーヴァントの能力は知れないが、マスターを失い能力を十全に発揮できるサーヴァントなど居ない。
明確な策を乗せた殺意の武器は瞬きすら許さず立香の喉元へと吸い込まれていく。
「危ない!」
「えっ?」
鋭い金属音が響き、立香を狙った武器がナツミに弾かれた。
そして弾かれたそれは、なんの因果かオルガマリーの脇の瓦礫に突き刺さる。それは彼女の手首ほどの太さを持つ杭だった。
突然の命の危機に思わずオルガマリーは年齢相応の少女の悲鳴を上げてしまう。
「きゃああああ!?」
「立香!大丈夫?」
「先輩っ!?」
何が起こったか分からずポカンとしている立香に対し、命の危機を明確に感じてへたり込むオルガマリー。そして立香を心配する二人。色々と状況はカオスだった。
「マシュ。二人をお願い!」
「えっ?」
言うが早いかナツミは攻撃が飛んできた方向へと跳ぶように駆けていく。
「―――――――っ!」
「逃がさないわよ!」
下手人と思われる相手は妖艶と言って差し支えない匂い立つ色香を体現したかのようなスタイルの女性だった。所謂ボディコンと呼ばれる服装を身に纏い戦いにとても向いているとは思えない。だが、それ以上に異質なところが彼女にはあった。
女性でも見とれるであろうその肢体は謎の黒い霧で覆われていたからだ。しかもその霧は悪魔を幾度とくなく見た彼女だからこそ察せられる悪意に満ちた禍々しいものであった。
「――――――」
「っとお!?考える暇なんてないか!」
鎖のついた一対の杭。そんな特異な武器はいつの間にか引いたのか、背後というナツミの死角から襲い掛かる。それを間一髪のところでナツミは躱す。
しかも手元に杭が戻るのを見た瞬間にそれに追いすがるように。
「――――――っ!?」
女は手元に戻りつつある武器の片割れを捕まえるのを咄嗟に諦めた。武器を掴んだ隙を許すような相手には見えなかったためだ。武器を捕まえようとした腕をそのままナツミの喉元に向け、足りないリーチを体ごと向かわせることで補った。
喉元に向けられた手にナツミは咄嗟に自身も手を出し喉を庇う。
「「!」」
力強くお互いの腕、ナツミの右手と女の左手が組み合った。
女は内心でほくそ笑む。目的の首ではないが、女はその出自故に怪力のスキルを保有している。余程の剛力で無ければ自分よりも力が上などとはあり得ない。それに少女は生身だ。サーヴァントですらないものの力などたかが知れている。容赦無く腕を折っ――――――。
「――――――――!???」
女の腕はまるで紙の様に拉げられそのまま近くの壁へと体ごと叩きつけられる。
痛みに呻く女はなんとかナツミを視界に入れようと首を持ち上げた。
「あ――――――――」
女が最後に見た光景、それは蒼い光を放つ剣を振り下ろすナツミの姿だった。
「……」
淡い粒子になり女は消えていく。その粒子も火の粉と煙に巻かれすぐに見えなくなった。
「あー疲れたぁ。ありがとうナックルキティ」
「気にするニャー」
労いの言葉とともにナツミの体からグローブを身につけたボクサー姿の猫が飛び出してくる。
「あ、あのナツミさん。その猫さんは?」
「ん?あぁ、これはナックルキティっていう召喚獣だよ」
「召喚……してたんですか?」
「うん。さっきの相手がどんな相手が分からなかったから、あらかじめ憑依させておいたんだ」
結構、筋力が上がるんだよね。とナツミはニコニコと笑っているが、笑っているのはナツミだけだ。立香とマシュはあまりナツミに近づかないようにしている。
「二人ともどうしたの?あ、所長さんは大丈夫だった」
「大丈夫じゃないわよ!少しでもズレてたら死んでたわよ!というかそれは召喚なの?降霊術なの?憑依術なの?」
うがあああああ!とオルガマリーは頭を抱えてうなり声をあげた。意図しないレイシフトに巻き込まれ、イレギュラーすぎるサーヴァントの異常すぎる能力に彼女の脳はパンク寸前だった。
続いてしまいました。
ロックマテリアル
初歩の召喚術、属性は無属性、岩を召喚する。
プチメテオとも。
ナックルキティ
中級の獣属性召喚術。
熱いファイティングスピリットを持ち、ありあまる元気を振りまいている。
本気でいくニャーで攻撃用召喚術に、ファイトだニャーで対象者に憑依し筋力を向上させる憑依召喚術となる。
ちなみに今回ナツミは筋力ステータスをサモナイトソードとナックルキティで上昇させ一時的にAランク相当に引き上げていました。