「あははといっひょなはひひほほはへへるっへひっへはへぼ「流石に何言ってるか分かんないから飲み込んでからにして?」
口の中一杯に詰め込まれたまま話す私に、目の前に座る貧相な身なりの痩せた男が注意して来る。仕方がないじゃ無いか。皆んなが皆んなオールマイトみたいに稼いでるわけじゃないのだ。仕事振り次第で、国から金を貰えるヒーローの中でもトップヒーローのオールマイトは高級店の飯なんて食い慣れてるのだろうが、家の神社の家計は火の車なのだ。
「今失礼なこと考えたでしょ」
「歳をとるってやあね。被害妄想が激しくなるみたい」
口の中のローストビーフを無理矢理に飲み込んだ私は、真っ白なナプキンで口を拭いてから言葉を返す。これでもテーブルマナーは弁えている。…さっきは久し振りのローストビーフに興奮してがっついてしまっただけだ。
「にしてもオールマイトが態々こんな個室制の高級店に私を誘うなんて珍しいじゃないの」
「個室だからって堂々とオールマイトって言わないでくれよ」
今の会話から分かるように(誰が分かるのだ?)現在オールマイトは痩せこけた状態のトゥルーフォームだ。私がこの状態の彼と普通に会話しているのはこの世界の主人公達の記憶、所詮原作知識のお陰だ。彼と私の出会いについては割愛するが、私が最初からオールマイトのトゥルーフォームを知っていたのは個性のお陰ということになっている。巫女っぽいことは大抵できると伝えたら神託でも降りたのだと思ってくれたらしい。実際この世界に神がいるかどうかなど知らないが。
「気にしない、気にしない。で、用件は何?」
「…緑谷少年にワン・フォー・オールを渡した」
緑谷少年。オールマイトがそう呼ぶのはたった一人。緑谷 出久、彼だけだ。
興奮が抑えきれない。ローストビーフを眼前にした時よりも、だ。無個性でありながらトップヒーローに認められて個性を譲渡される。冴えない少年が最弱から平和の象徴へと成り上がる。なんとも少年漫画らしくて燃える展開だ。そんな主人公に会えると考えると喜びが抑えきれない。
しかも私は主人公達と一緒に実技科目を受けれるのだ。相澤先生が私以外の全員を除籍した所とか、去年二年生に見覚えのある三人組がいた時点で察していたが、私は主人公の一個上だった!
本当は同い年が良かったが…欲張っても仕方ない。今の所はそれで満足しよう。
「この間話してた緑谷 出久? 入学式で見なかったけれどまさか落ちたんじゃないでしょうね」
「相澤クンが担任だからね…入学式もガイダンスも無視で最下位除籍のテストをしてたよ」
「ほんっと相変わらずね」
「変わらないよねぇ、彼も。それでさ、緑谷少年まだ個性を使い熟せてなくて使うたびに怪我しちゃうんだよ。いやぁ、もう少しで除籍だったからヒヤヒヤしたよ」
「随分リスキーね。というか私を呼んだ要件その愚痴だけじゃないでしょうね」
知ってる情報を知らないフリするのは面倒臭い。
そんなことで呼び出されたのならたまったもんじゃない。私がギロリと睨むとオールマイトはあたふたし出す。…この姿週刊誌に売りつけたら結構売れそうだな。最もこの姿じゃ誰も信じてくれないだろうけど。
「そのだな…今度のヒーロー学の時間にこっちくるだろう?その時に緑谷少年にちょっと声を掛けてやって欲しいんだ」
どうやらオールマイトも緑谷 出久を心配しているらしい。師弟関係だから当然か。
正直その申し出は有難い。主人公と仲良くなって損はないだろう。だが、心配なのはこの世界における異分子である私が、主人公に関わって物語が変わってしまわないか、ということだ。蝶の羽ばたき一つで嵐すら起きるのだ。私の所為で物語が変貌してしまったら申し訳が無い。
なので今回は最低限度しか関わらないようにしよう。
「…考えとくわ。というか随分入れ込んでるみたいだけれど、教師としてどうなの。それは?」
「ぐぬぬ…ていうか君と相澤クン似てるね!?同じ事言ってるよ!」
「え…最悪。相澤先生と一緒とか本当に最悪」
「そこまで嫌われていると逆に彼がかわいそうに思えてきたよ……」
何故か相澤先生に同情しているオールマイトを尻目に、私は肉汁たっぷりのハンバーグを口に運んだ。