訓練開始から10秒も経たない内に、オールマイトは私の待つ踊り場へとやって来た。私は警戒を緩めずに話し掛ける。
「ほんっと馬鹿げたスピードね」
「私にとっては褒め言葉だ!」
瞬間私の右斜め後ろの階段の一部が、オールマイトの放った拳の風圧によって凹む。風圧で金属が凹むって意味が分かんないんだけれど…。っていうか
「今本気でやったでしょ!? 私がスレスレで避けてなかったら死んでたわよ」
「ちゃんと避けてたじゃないか!」
さも当然、のように言っているが私の本領は中距離。近距離戦闘は苦手分野だ。今だってギリギリ目で追えたから避けれたけれど…次は危ないかもしれない。そもそも学生に何本気でやってるんだ。
「今度はこっちからいくわよ」
私はお祓い棒からオールマイトに向けて赤色の弾幕を放って行く。ランダムでゆらゆら動く様になっているから、オールマイトでも中々抜けられないはず。オールマイトは避けるために少し後ろに下がった。今のタイミングでスペルカードを出してしまおう。
「夢符『二重結界』」
スペルカード、博麗 霊夢ら幻想郷の住人達のゲームで切り札として使われるお札であり、自らの得意技を発動するもの。
その一つが今私がカード宣言した『二重結界』
私がお祓い棒を振るうと、私を中心にオールマイトを囲む様になっている四角形の結界が形成される。これだけではただ囲んで行動を阻害することができる程度だろう。だが…主人公の弾幕はそう易々と突破できるものでは無いのだ。
突如として出現した結界に驚きながらも攻略法を探そうとしているオールマイトに、追い討ちをかけるように私は、別途袖からお札をばら撒く。ばら撒いたお札は霊力によって操られ、波打つ様に揺れながら私の周りを漂っていく。
「流石、といったところだね!」
「まだまだ避けてるじゃないの」
「いやぁ、もう三回も被弾してしまったよ!」
オールマイトの動体視力は異常な程高い。だが、ただ高いだけでは何にもならない。オールマイトの身体能力があるからこそ、彼は不得意な狭い屋内で更に結界によって大きな行動ができなくても、弾幕を避け続けているのだ。だが流石の彼も完全に避け切ることはできなかったようだ。最も…
「三回も当たってまだ意識あるのが異常よ。妖怪の類かしら?」
「私は真人間さ!寧ろそんな大量のお札を操りながら結界を張れる君こそ妖怪の類じゃないかい!?」
「あら失礼ね。私は只の巫女よ。博麗の、が付くけれど」
並の人間じゃ一回目の被弾で意識を失う。やっぱり最強と言われているだけはある。
だが…この勝負が屋内である、というのが勝負の分かれ目。私も本来はどちらかというと屋外、それも被害を考えなくていい何もないところの方が得意だが、このスペルカードは屋内向きだ。
何故か?
私から放たれた大量のお札は壁に跳ね返って返ってくるのだ。そろそろ第一陣の御到着。
「むっ!?これもしかしなくても跳ね返ってきた奴にも当たっちゃダメなのかい?」
「そりゃそうよ」
オールマイトはやっと気付いたらしい。後ろに警戒しているが、もう遅い。私はオールマイトの意識が背後から襲い来るお札に集中している間に、袖から出すお札の数を増やす。
「うわっ!ちょっとこの数を避け切るのはキツイかな?」
「じゃあとっとと降参するのを推奨す「まぁ大丈夫だけどね!!」
勝利を確信した次の瞬間、私は目を大きく見開く。オールマイトは…地面に拳を叩きつけて、その風圧でお札を全て弾き飛ばしていた。霊力で操っているから本来そんな事は不可能の筈なのだが…
「ほんっと常識外れね、貴方って」
「私は君に言いたいよ!ここまで追い詰められたのなんか人生で二回目さ!」
「余裕じゃないの」
「正直風圧でこのお札が弾き飛ばせるから確信なかったんだよね〜」
またお札を避ける様になったオールマイトは頭をかきながら笑っている。余裕たっぷりな様に私はため息をつく。恐らく今の私では六割を出さねば勝てないだろう。六割を出さなくても他にもスペルカードはあるから勝敗は五分五分だろうが…
「今日のところは降参よ」
「え?」
私は霊力を霧散させ、効力を失ったお札を自分のところに一気に集める。このお札は自家製なのだ。祝言的な何かが書かれたお札に霊力を込めているだけの代物だが、結構制作時間かかるので一々回収しないといけない。私は集めたお札を再び袖の内側にしまい込み、お祓い棒を地面に落としてから手を挙げる。
お祓い棒が私の手を離れると同時に、結界もまた消失する。
「その何だっけ…スペルカードだっけ? まだあるんじゃ無いのかい」
オールマイトは拍子抜け、といった感じで私に訊ねてくる。確かにまだスペルカードはある。しかしこの勝負においてスペルカードを二枚使うのは私の決めたルールに反してしまう。
「実戦じゃない限り、スペルカードを使うのは一枚まで。これが私のルール」
弾幕ごっこにおいてスペルカードは予め決めた枚数を使っても相手を倒せなければ敗北だ。私の戦闘は弾幕ごっこに則って行われる。ならばそこのルールも守るべきだろう。…流石に人の命がかかった実戦ではそんなこと無視するが。
「ふむふむ。だが折角の訓練だ。全力でやらないかい?」
「それは駄目。それをすると私が暇なだけだから。全力でやるのは…そうねオールマイトが四人に増えた時だけね」
「そいつは残念だ…」
ションボリするオールマイトは少し笑えた。四人に増える、といったのはとある吸血鬼が頭に浮かんだから言っただけであって本当とはいっていない。全力は無理でもオールマイトが現役引退する前には七割くらいで一度戦ってみたいものだ。
こうして私の戦闘訓練は終了した。因みにモニタールームでは怯えた視線を向けられた。普通に傷付いた。私のハートは割れやすいガラス製なのだ。…当然といったら当然か。オールマイト相手に善戦したんだから。
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